たみやま

|短い小説 もしくは エッセイを掲載してます|投稿ペースは不定期|鬱病で現在は療養生活…

たみやま

|短い小説 もしくは エッセイを掲載してます|投稿ペースは不定期|鬱病で現在は療養生活中|身体障害者|

マガジン

  • 📗エッセイ

    思った・感じたことを文章にしてみたものです。

  • 📙ショートストーリー

    400字詰め原稿用紙で数えると 5~30枚程度の短編が揃っています。

最近の記事

読書日記 ①

李 琴峰 『五つ数えれば三日月が』  片思いが叶わない、というか叶えない事を選んだ百合小説。 2つの国や文化や言語をまたいだ物語ではあるけれど、読んでいる内にそのことは些細な添え物みたいに思えてくる。  いい意味でありふれた恋物語というのが読後の印象かな。 金原 ひとみ 『マザーズ』  読み終えた後、ああ、金原 ひとみさんの書いた小説だったなあという感じがすごくする長編。 悪酔い一歩手前のいい感じに落ちてく陶酔感があるから、この人の小説は止められない。  母親たちの、と

    • オール・アイ・トーチ [9]

      【4・①】 「明璃ちゃんの今のその髪色って―」  10年振りくらいに見た彼女の髪はもう金髪じゃなくて、青味がかった薄い灰色をしていた。 韓国の女性アイドルがしそうなやつだ。「ああ。これ、そのまんまでブルーシルバーっていう色。そっか。あんた、ほんとに言ってた通りこっちには全然戻って来なかったから、私の髪色は金のイメージで止まってるのか」「うん、そうだね。高校の途中からあの色キープしてたし、 お気に入りなんだと思ってた」「ま、私も出来るならずっとあれ、プラチナブロンドでいたかった

      • オール・アイ・トーチ [8]

        【3・➇】  明璃ちゃんは、今もお姉さんたちとは仲良くしている。彼女たちは卒業するタイミングで工場の正職員に昇格したりどこかの会社の事務員さんに転職したりしていた。そんなだったから、正直、うちら2人が何もしてない事はよく思ってもらえないかと不安だった。だけど、『あんたららしいわ』とかって感じで大目に見てもらえているみたい。ま、そもそも彼女たちとの間で何かあったとして私が心配するのは違うよね。お互いにいい加減、 自分のことは自分でどうにかしていかなきゃ。  ここ最近、私たちが

        • オール・アイ・トーチ [7]

          【3・➂】  私は、これから何をしに明璃ちゃんの部屋に行くんだろうか。仲直り? 今朝のは一方的にイライラして『もういいッ‼』、って通話を切った向こうが悪いのに、なんで? ねえ、なんで?  私の中に色んな悪いイメージが浮かんでくる。あんな子もうどうでもいい。ていうか邪魔。消えろ。このあとあたしは江藤家の玄関で明璃ちゃんを包丁で何度も何度も刺して仕留める。はい、エンドロールどうぞ。  ぜーんぶあたしのくだらない妄想。だから私はいつも通りのメールを打つ。『今から行くね』、『どうぞ

        読書日記 ①

        マガジン

        • 📗エッセイ
          1本
        • 📙ショートストーリー
          14本

        記事

          オール・アイ・トーチ [6]

          【3・➀】  午前5時20分、朱莉は目を覚ました。  机の上には大学入試用の問題集が数冊置きっ放しになっている。勉強することだらけで、この壊れた頭の容量はもういっぱいになってるだろう。そのくせ、ここのところ朱莉の気持ちはすっとしていた。彼女はいつの頃からか心配も不安も『そんなもんでしょ』、と割り切って考えられるようになっていた。そりゃあ病院でもらう薬も減るよね。自分の事をすっかり元気なんていう風には思わない。ODする回数はかなり減ってるし、引き出しの中に常備してるクスリの在

          オール・アイ・トーチ [6]

          オール・アイ・トーチ [5]

          【2・➆】  あの挑戦以来行くようになった明璃ちゃんの部屋は、自分のとこが大分ましに思えちゃうくらい荒んでいた。ほんと、メンヘラかくあるべし、なんていう表現がぴったりの散らかり具合で。きっと、『これでも週1でゴミ出して掃除機かけてるんだよ』っていうのが彼女なりの意地なんだろう。実際、カビた食べ物が落ちてたり体臭が充満してたりすることはない。とにかく、なんだかんだ居心地はいいんだ。私はもともとの綺麗好きが災いして、自分の部屋をしっちゃかめっちゃかにする勇気が持てずにいた。それも

          オール・アイ・トーチ [5]

          オール・アイ・トーチ [4]

          【2・➃】  あれから朱莉と明璃は毎日沢山のメールで話すようになった。 2人揃って調子がいいと、それぞれの部屋の窓を開け互いの顔を見ながら通話で話すこともある。今日は生憎、明璃が嫌がったのでメールの日だ。もっとも、朱莉だってまともに会話できる状態じゃあなかったからおあいこだ。 『4日分のクスリ一気に飲んじゃったー。アタマぐちゃぐちゃとぐるぐるでヤバいー』  朱莉には大きな変化があった。目を閉じたまま玄関を出て父親の車まで誘導してもらう方法で家から出られるようになったのだ。それ

          オール・アイ・トーチ [4]

          オール・アイ・トーチ [3]

          【2・➂】  朱莉は閉め切ったカーテン越しで窓ガラスに右頬をつけ、ぼんやりしていた。ちゃんと冷たい。それはどうでもいい感覚だった。だって私はもう、どこにも連れていってもらえないままこの部屋で朽ちて干上がっていくんだからさ。冷たいとか痛いとか苦しいとか、 あと嬉しいとか、どれもこれも関係ないよね。  そんな空想を膨らませながら、私は、笑い泣きしたせいで赤くなっちゃってるだろう目で世界を眺めていた。カアッ。カアッ。窓のすぐ外をまたカラスの声が飛んでいった。行ってらっしゃい、それ

          オール・アイ・トーチ [3]

          オール・アイ・トーチ [2]

          【2・➀】  午前4時57分。 朱莉は時刻を確認すると時計から目を離し、小さくため息を吐いた。 はぁ。  カーテンの隙間から見えるのは、黄色がかって幾重にも重なった分厚い雲。そして、その下を何の疑問も持たないで飛んでく沢山のカラスたち。嫌だな。嘘っぽくて、息が詰まる景色の朝だな。朱莉は目を閉じた。眠ったふり。安らかに旅立ってったふり。そうしているのにうんざりしてくると、私は、また目を開く。  あーあ。ぜーんぶ眼の前から消えていいのにな。眠剤の効きが切れて目を覚ます毎度の明

          オール・アイ・トーチ [2]

          オール・アイ・トーチ [1]

           まっ暗だ。まっ暗だね。  どうしたらいいの。どうしようもないよ。  そうだね。どうしようもないね。  そうだよね。わかっていたよね。 【1・➀】 「ひさしぶり。ただいま」 「うん、ひさしぶり。おかえり」  駅の正面口で江藤明璃と待ち合わせた須坂朱莉は、駅前中央通りのほうへと向き直った。彼女の視界に、生まれ育った街が映る。朱莉はそこで両目を閉じ、静かに深呼吸を始めた。すうぅぅ。はあぁぁ。すうぅぅ。はあぁぁ。何度かそれを繰り返し、朱莉は目を開いた。目の前には明璃がいた。明璃

          オール・アイ・トーチ [1]

          📙熱をさます

          【1】  これは、私が先週出会った子猫についてのお話。 三日前の土曜日に半同棲をお終いにしてこの部屋にあったささやかな荷物と一緒にいなくなった男についての話じゃあない。 【2】  仕事をしている間は、責任感とかいう得体の知れない重石が感情の蓋を動かないようにしてくれている。 自分と向き合うなんてまっぴらだ。 今日みたいな日は、特にそう。  だけど今、あいつの傘や普段使い用のスニーカーなんかの失せた小さな玄関が、私にすっと現実を突き付けてくる。 こんなのおかしい。 一方的にあ

          📙熱をさます

          📙予報どおり

          【1】  電車の窓から見える夕暮れ刻の空が、みるみるうちに黒い雲に覆われていく。 私はその様を冷めた顔で眺める。 どうやらこの電車に乗ってるひと達のほとんどは、傘なんか持っていないみたいだ。  隣に立っている会社員さんの口から、心底うんざりといった具合のため息が吐いて出た。取引きに失敗した帰り? それともうんざりする様な類の無駄な会議に出席してきた帰り?どうでもいいけどご愁傷さまでした。 せいぜい貴方の隣に立ってる女子大生と同じように、ずぶ濡れになりながら家へお帰りください。

          📙予報どおり

          📙ギフテッド

          ベッド脇の小さな窓から弱々しい陽の光が差し込み、私は目を覚ました。         遂に、この日がやって来てくれた。 あと数時間もすれば、私は私の夢を叶えることができる。それも、最高の晴れ舞台で最高のドレスに身を包んで、数え切れない人々の願いを成就させるための素晴らしい代償として、私は夢を叶えられるんだ。 これ以上のことなんてこの世界にあるわけがない。 私ははっきりそう言い切れる。 もっと 奇跡のような素晴らしいことが用意されているとしても、私がそれ等に出会うことはもう、

          📙ギフテッド

          📙ミスエデュケーション

          「お、お願い、壊さないで。 私、なんでもするから。 駄目、来ちゃ駄目、来るなぁッ!!!」…そこで私は目を覚ました。                                   どんな内容の夢だったかなんて、ひとつも覚えていない。                ともかく、私は強烈なイライラに急かされ目を覚ました。 外はまだ暗い。 枕元のスマホをのぞいてみると、午前3時58分。        畜生、こんなどっち付かずな時間にひとの事起こしやがって、何様のつもりだ。 私は

          📙ミスエデュケーション

          📙ランウェイ

          わたしの負け わたしを生んだ世界の負け  どうでもいっか もうぜんぶ うんざり 【1】「おまたせ。 ゴメンね、下駄箱のなか片付けるのに時間掛けちゃって」 そう言いながらあなたが見せてくれたコンビニのビニール袋には、結構な量の画鋲や錆びた釘が入っていた。  「ううん、全然いいよ。 おかげで5限の途中からすっごい聴きたい聴きたいってなってた曲、3回もリピートできちゃったし」 「え、あの8分くらいあるやつ?」 「そう、それ。 だから別にいいよ。 今日、5限上がりで時間もいっぱい

          📙ランウェイ

          📙ベストピクチャー

          【0】「わたしがあなたと同じなもんか」「あなたがわたしと同じなもんか」さて、問題です。 どの人物がどの人物に対して言っているのでしょうか? ● 今は平日の午後2時半過ぎ。 それでも、新幹線が到着すると駅の構内には少しだけ賑わいがやって来る。              横を歩く母親が、片足を引きずりながら歩く私を支えようと、手を伸ばしてきた。 だけど私はその手を掴もうとはしない。        私たちはもう、そんなことする関係じゃないんだよ。 もう、無理して戻ろうとなんかし

          📙ベストピクチャー