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もう食べられないもの(幸福について)

小学生の頃、水泳教室に通っていた。毎週日曜の昼時、公営のプールで開かれるその教室では、何かを特に教えるというわけでもなく、ひたすら先生の指示で泳ぎ続けるだけ。足…

谷口尚久
12日前
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どこまでが音楽なのか問題

音楽とは「音」だ。 普段の生活で聴く音楽はスピーカーから鳴っているものがほとんど。 時には楽器の生演奏だったりもする。 それが音楽だ、というのは当たり前。 今日聴…

谷口尚久
3週間前
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連想3

この夏は向日葵を植えた。 20粒余りのロシア産の種を買い求め、等間隔に土に埋めると、一週間もすれば一斉に発芽する。しかしここからが、彼らの個性が発揮されるところ。…

谷口尚久
6か月前
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連想2

駐車場を箒で掃く。箒の毛先の密度が薄い部分が、砂の筋になって残る。もう一度掃くと筋は無くなる。 頭に浮かぶのは、歯を磨く時に口の中で起こっていること。同じことが…

谷口尚久
10か月前
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連想

万葉集は全部で20巻あるが、16巻目が面白いという話を聞いた。 ナンセンスやゲテモノなど問題作満載で充実した内容なのだと。 …さもありなん。 面白いから歌集に入れてお…

谷口尚久
10か月前

過去のレコ評(2020-2)

(2020年「SOUND DESIGNER」誌に寄稿) 「CEREMONY」King Gnu 東京芸術大学出身という匂いが薄れてきたことを、今は褒め言葉として使いたい。ライブ会場が大きくなり、遠く…

谷口尚久
1年前
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過去のレコ評(2020-1)

(2020年「SOUND DESIGNER」誌に寄稿) 「to the MOON e.p.」Yogee New Waves 一聴して、こういう音のバンドだったっけ?と不思議に思い、過去の音も聴いてみた。明らかに…

谷口尚久
1年前
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過去のレコ評(2019-6)

(2019年「SOUND DESIGNER」誌に寄稿) 「2ND GALAXY」Nulbarich 確かに新境地だ。新しいステージに踏み出したという手応えを感じる。昨今のネオソウル・ギターというムー…

谷口尚久
1年前

新しいもの

新しいものが好きだ。新しい技術によって可能になる新しいことにはワクワクする。 音楽も、リリースされたばかりの新譜をチェックするのが好きだ。サブスクでCDが売れなく…

谷口尚久
1年前
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過去のレコ評(2019-5)

(2019年「SOUND DESIGNER」誌に寄稿) 「Our Secret Spot」the HIATUS 1曲目、JUSTICE「Water of Nazareth」を思わせるような暴力的な歪みがトラックを支配する。エレキギ…

谷口尚久
1年前
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過去のレコ評(2019-4)

(2019年「SOUND DESIGNER」誌に寄稿) 「NO SLEEP TILL TOKYO」Miyavi 世界市場を主眼に作られたアルバムだ。奇を衒わない楽曲構築。世界の中での”TOKYO”というエキゾテ…

谷口尚久
1年前

過去のレコ評(2019-3)

(2019年「SOUND DESIGNER」誌に寄稿) 「STORY」never young beach のっけからスティールパンで緩い空気を醸し出すニューアルバム。はっぴいえんどの後継者とも言われる彼…

谷口尚久
1年前

過去のレコ評(2019-2)

(2019年「SOUND DESIGNER」誌に寄稿) 「瞬間的シックスセンス」あいみょん 圧倒的な支持率の高さ。その理由が知りたいと以前から思っていた。1曲目のコードはA♭/E♭/B♭…

谷口尚久
1年前

過去のレコ評(2019-1)

(2019年「SOUND DESIGNER」誌に寄稿) 「Suspiria (Music for the Luca Guadagnino Film)」トム・ヨーク 重苦しくも美しいトムヨークの新作アルバムは、ホラー映画のサウ…

谷口尚久
1年前

過去のレコ評(2018-11)

(2018年「SOUND DESIGNER」誌に寄稿) 「Sleepless in Brooklyn」[Alexandros] 今更「バンドという形態の定義とは?」などと持ち出すのもナンセンスだが、もはや「数人で…

谷口尚久
1年前

過去のレコ評(2018-10)

(2018年「SOUND DESIGNER」誌に寄稿) 「HOME」ジョン・バトラー・トリオ P-VINE RECORDS PCD-18843 ジョン・バトラーといえば、乾いたアコースティックギターを巧みに鳴…

谷口尚久
1年前
もう食べられないもの(幸福について)

もう食べられないもの(幸福について)

小学生の頃、水泳教室に通っていた。毎週日曜の昼時、公営のプールで開かれるその教室では、何かを特に教えるというわけでもなく、ひたすら先生の指示で泳ぎ続けるだけ。足を複雑骨折した後、体力をつけるために運動をさせたいという親の願いで通い始めた。自分は3人兄弟の真ん中。きっと公営の教室だから安価だったのだろう。「水泳は全身運動だから」というのが母親の口癖だった。

その日も、いつものように自転車で30分以

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どこまでが音楽なのか問題

どこまでが音楽なのか問題

音楽とは「音」だ。
普段の生活で聴く音楽はスピーカーから鳴っているものがほとんど。
時には楽器の生演奏だったりもする。
それが音楽だ、というのは当たり前。

今日聴いた音楽は何でしたか?と訊かれると、大抵の人はアーティスト名を答える。
そのアーティストは、かなりの確率で歌手だ。
ということは、歌詞がある。
つまり、音楽を聴くと言葉が一緒に頭に入ってくる。
さらには、そのアーティストのイメージも頭に

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連想3

連想3

この夏は向日葵を植えた。

20粒余りのロシア産の種を買い求め、等間隔に土に埋めると、一週間もすれば一斉に発芽する。しかしここからが、彼らの個性が発揮されるところ。面白いほどに太く真っ直ぐ育つ芽もあれば、ひょろひょろと曲がる芽もある。種の個体差、プラス植えられた場所の環境。それによって彼らの運命は決まる。運命を受け入れて彼らはベストを尽くす。植物は動物と同じくらいアクティブにトライアンドエラーを繰

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連想2

連想2

駐車場を箒で掃く。箒の毛先の密度が薄い部分が、砂の筋になって残る。もう一度掃くと筋は無くなる。

頭に浮かぶのは、歯を磨く時に口の中で起こっていること。同じことが歯ブラシでも起こっているはず。何度も歯ブラシを動かすと磨き残しは無くなる。しかし、駐車場よりも自由が効かない口の中では、いつもブラシが当たらない場所があるはず。そんな時は歯ブラシを変えてみるといいのだろう。もしくは、利き手とは反対の手で磨

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連想

連想

万葉集は全部で20巻あるが、16巻目が面白いという話を聞いた。
ナンセンスやゲテモノなど問題作満載で充実した内容なのだと。
…さもありなん。

面白いから歌集に入れておきたいけど、これは第一巻目には無理だな。
前半の巻ってのもなあ。
もちろん締めの巻に入れるのも違うし。
16巻目くらいだったらいいかもな。
というのが、想像できる選者のモノローグ。

アルバムが10曲入りだとしたら、7曲目に隠れた名

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過去のレコ評(2020-2)

過去のレコ評(2020-2)

(2020年「SOUND DESIGNER」誌に寄稿)

「CEREMONY」King Gnu

東京芸術大学出身という匂いが薄れてきたことを、今は褒め言葉として使いたい。ライブ会場が大きくなり、遠くまでエモーションを届けるためには、コードもリズムもシンプルな音楽が必要だ。そして音色は歪んだ倍音の多いものが必要。何より歌のエモーショナルさが直球で届く。これは、クラシック音楽の歴史においてもワーグナ

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過去のレコ評(2020-1)

過去のレコ評(2020-1)

(2020年「SOUND DESIGNER」誌に寄稿)

「to the MOON e.p.」Yogee New Waves

一聴して、こういう音のバンドだったっけ?と不思議に思い、過去の音も聴いてみた。明らかにこれまでと違う。音の画面が大きくなっている。高い周波数の成分も増えている。以前はもっと中域に寄っていたのだが、明らかに今の時代の「良い」音になっていて、それでも彼ら特有のノスタルジックさ

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過去のレコ評(2019-6)

過去のレコ評(2019-6)

(2019年「SOUND DESIGNER」誌に寄稿)

「2ND GALAXY」Nulbarich

確かに新境地だ。新しいステージに踏み出したという手応えを感じる。昨今のネオソウル・ギターというムーブメントが、ようやく彼らに追いついた感じもある。1トラック目のイントロが唐突に終わり、キャッチーな2曲目へ。ツーコードでこんなに気持ちよくなれるんだという見本である。毎回ミックスの良さに驚かされるが

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新しいもの

新しいもの

新しいものが好きだ。新しい技術によって可能になる新しいことにはワクワクする。

音楽も、リリースされたばかりの新譜をチェックするのが好きだ。サブスクでCDが売れなくなったのは残念だが、それ以上に恩恵を受けているとも思う。
恩恵といえば、DeepL という新しい翻訳ツール の精度が高くて驚いた。文書のチェックや作詞など色んな場面で使ってみたが、語学習得の考え方がまるっきり変わるだろうという気がした。

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過去のレコ評(2019-5)

過去のレコ評(2019-5)

(2019年「SOUND DESIGNER」誌に寄稿)

「Our Secret Spot」the HIATUS

1曲目、JUSTICE「Water of
Nazareth」を思わせるような暴力的な歪みがトラックを支配する。エレキギターをドライブさせフェイザーをかけたもののようだが、その定位が快く耳を刺激すると同時にテンションノートとして機能していて気持ちいい。Bメロは鍵盤のみになるが、1番では

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過去のレコ評(2019-4)

過去のレコ評(2019-4)

(2019年「SOUND DESIGNER」誌に寄稿)

「NO SLEEP TILL TOKYO」Miyavi

世界市場を主眼に作られたアルバムだ。奇を衒わない楽曲構築。世界の中での”TOKYO”というエキゾティズム。アクロバティックなギターテクニックの披露。これら3つは、簡単に言えば「わかりやすさ」だ。世界的なポップスの潮流に耳覚えがあり、かつ初めて彼を知る人が、すんなりと興味を持ち楽しめる

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過去のレコ評(2019-3)

過去のレコ評(2019-3)

(2019年「SOUND DESIGNER」誌に寄稿)

「STORY」never young beach

のっけからスティールパンで緩い空気を醸し出すニューアルバム。はっぴいえんどの後継者とも言われる彼らの曲タイトルは「うつらない」「いつも雨」など、丸いひらがなが多く「春」という単語が2つも使われ、はっぴいえんどを彷彿とさせる。歌詞には「風」という言葉も散見され、確かに松本隆っぽい。音もヨナ抜

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過去のレコ評(2019-2)

過去のレコ評(2019-2)

(2019年「SOUND DESIGNER」誌に寄稿)

「瞬間的シックスセンス」あいみょん

圧倒的な支持率の高さ。その理由が知りたいと以前から思っていた。1曲目のコードはA♭/E♭/B♭/Fm/Cmで構成されている。お互いがE♭スケールの中で、5度離れた関係にある。このシンプルさは最近の世界的傾向。そこにGmではなく、スケールアウトしたGが入ることで一気に日本的な湿度が加わる。2曲目はベースが

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過去のレコ評(2019-1)

過去のレコ評(2019-1)

(2019年「SOUND DESIGNER」誌に寄稿)

「Suspiria (Music for the Luca Guadagnino Film)」トム・ヨーク

重苦しくも美しいトムヨークの新作アルバムは、ホラー映画のサウンドトラック。同じレディオヘッドの中では、ギタリストのジョニーグリーンウッドが着々と映画音楽作家としてのキャリアを積んでいる。ジョニーはポールトーマスアンダーソンのような大

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過去のレコ評(2018-11)

過去のレコ評(2018-11)

(2018年「SOUND DESIGNER」誌に寄稿)

「Sleepless in Brooklyn」[Alexandros]

今更「バンドという形態の定義とは?」などと持ち出すのもナンセンスだが、もはや「数人で生演奏すること」などというのは狭義過ぎる。簡単に言えば「チーム」であること。では、チームであるというのはどういうことか。それは、長い時間軸で互いを必要とすること。そう感じたのは4曲目を

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過去のレコ評(2018-10)

過去のレコ評(2018-10)

(2018年「SOUND DESIGNER」誌に寄稿)

「HOME」ジョン・バトラー・トリオ
P-VINE RECORDS
PCD-18843

ジョン・バトラーといえば、乾いたアコースティックギターを巧みに鳴らした、巻き毛・長髪のイメージ。それはヒッピーやサーファーのように、親しい友人たちと楽しむ音楽。しかし、今回は少し違う。長いリバーブが多い。それは広い場所を意味する。そしてアンプを通したギ

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