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【掌編・短編】『ゲーマーズ・ハイ』(#2000字のホラー)

 ズドドド!!
 バーン!!

 You Win!! You are the CHAMPION!!

 けたたましい機械音声とともに、PC画面上にビカビカと勝利の文字がポップアップされた。
 ああ、この瞬間のために、生きている――!!
 脳汁が止まらない。アドレナリンが全身を駆け巡る。ランナーズ・ハイならぬ、ゲーマーズ・ハイの状態だ。
 エナジードリンクを一気に飲み、糖分とカフェインを補給する。味と香りに独特のクセがあるが、この薬品臭さにこそ効能があるような気がした。
「やったな! チャンピオンだ!」ゲーム仲間のケイから、SNS通話で賛辞が飛んできた。
 大人気ゲーム“ウォー・グラウンド”にのめり込んで、はや数ヶ月。
 このゲームは、各プレイヤーが兵士となり戦場で対戦するFPSゲーム(一人称視点で移動、銃撃し敵を倒すゲーム)だ。オンラインで全世界の人がプレイしていて、世界的にブームになっている。
「トップに上り詰めたし、このゲームももういいかな」
 俺は空のエナジードリンクの缶を投げ、華麗にゴミ箱に入れた。世界一流行するゲームで、チャンピオン。その響きに酔いしれた。
「それならさ」
 ケイが言う。
「ここだけの話、知り合いのゲーム会社が未発表のゲームのテストプレイヤーを募ってるんだけど、やってみない?」
「へえ、どんなの?」
「戦争FPSゲームだね」
 興奮が冷めない俺は、すぐに返事した。
「ぜひプレイさせてくれよ」

 数分後、ケイからチャットでリンクが送られてきた。そのリンクに飛ぶと、画面にはタイトルもメニューも出ずに、いきなり戦場――荒廃した市街地が表示された。
 チュートリアルすらないので、適当にコントローラーを動かしてみる。
 前後左右、ジャンプ、一発の射撃。
 ”ウォー・グラウンド”と同じ操作方法だった。
 操作方法が分かったところで、さっそく銃声のする方へ移動することにした。
 銃声の中の喧騒で敵の声が聞こえたが、相手の言語がわからない。英語ではなさそうだし、このゲームはマイナーな外国製なのかもしれない。しかし、未発表の最新作なだけあって、既存のゲームとは比べ物にならないほどグラフィックが綺麗だった。
 何はともあれ、早速敵に遭遇するや否や、チャンピオンの実力を見せつけ射撃する――!
「――!!」
 撃たれた敵は、悲鳴を上げて倒れていった。こうなったら俺の独壇場だ。次々に見つかる敵を撃っていく――徐々に脳汁が出て、ゲーマーズ・ハイになっていく。敵が倒れるたびに上がる悲鳴が、それを加速させた。
 しかし、プレイしていくにつれ、このゲームの粗も出てきた。
 まず、敵が弱めだ。普通のFPSゲームは数発銃弾が当たった程度では倒れないが、このゲームでは一発で敵は倒れてしまう。一方、自分は一発程度撃たれても倒れない。
 それに、移動速度がやたらと自分だけが速く、敵は遅い。敵が遅いというよりは、自分が速すぎる。
 極めつけは、敵のなかに、ずっと体を丸めていたり、銃を持たずにふらふら射線に出てくる者がいることだ。バグなのだろうが、俺は呆れて撃っていった。
 そうしてゲーマーズ・ハイの状態で無我夢中で無双していたが、最終的には、至近距離の敵が唐突に爆発するという出鱈目なバグで俺は敗れた。
 上々な戦績に満足していると、画面には砕けた散った自分の姿が初めて映った。
 倒れた自分の姿は、ロボットだった。

「ケイ、なんだよこのゲーム」
 ゲームを閉じた後、ケイに通話を繋いで俺は言った。
「お、どうだった?」
 期待するケイの声とは裏腹に、俺はため息をついて言った。
「全然ダメだ。俺はもっと本格的な、リアル志向の戦争ゲームが好きなんだよ」
「あのゲーム、リアルじゃなかった?」
「だって、動きが早くて耐久力もあるロボット対人間なんて、SFじゃないか。それに敵が変な挙動してるバグもあったぞ……まあ、グラフィックはリアル並みに凄かったな」
「ははっ、なるほど、SFに、バグ、グラフィック、か」
 ケイは一呼吸置いた。
「そうだな。友人にも伝えておくよ。テストプレイありがとう」
 そしてケイとの通話は切れた。

 数日後、俺は、とあるネットニュースを目にした。
 埋め込まれた動画を再生すると、一体のロボットが尋常ではない速度で動き回り、残虐に人を射殺していた。人々が上げる、聞くに耐えない悲痛な絶叫は何語かわからない。遠い国の戦争のようだ。
「技術の進歩は目覚ましく、自動運転車やドローン等の平和的な利用がある一方で、軍事利用も本格化したようです」コメンテーターが、アナウンサーに言う。
「ロボットが人を殺す。遠い未来の話のようでしたが、この動画を見るに、その未来はすでに到来しているようですね」
「それにしても、桁外れの判断力と行動力ですね」
「まさにロボットにしかできない、倫理観のない動きです。人なら、こんな機械的に人殺しはできないでしょうし、ましてや、武器を手放して降服する兵士を躊躇なく撃ったりできないでしょう」アナウンサーは顔を強張らせて言った。
「最終的に、このロボットは兵士による決死の特攻自爆で破壊されました。ここで、ロボットが起動する瞬間を捉えた映像もありますので、ご覧ください」
 そこには、荒廃した市街地に佇むロボットが急に動き出し、前後左右、ジャンプ、一発の射撃をして、戦闘へ向かっていく姿が映っていた。



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