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記事一覧

いつもの居酒屋、いつもの飲み会(ショートストーリー)

いつもの居酒屋、いつもの飲み会(ショートストーリー)

「おつかれー。まだ2人か、みんな忙しいんかな。あれ、ミカちゃん髪染めた!?緑やん!」
「あ、ばれました?毛先だけなんだけどなあ」
「えっそうなん、緑?俺は気づかんかったわぁ」

いつもの居酒屋。いつもの座敷。相変わらず集まりは悪い。

「じゃ、ビール3つで」

空席が12席もある中、飲み放題を始めて良いものかと困惑する店員さんに、山田くんが「気にしないで。すぐくるんで」と慣れた様子で説明する。

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荒唐無稽な物語(ショートショート)

荒唐無稽な物語(ショートショート)

1月4日、午前7時正月休みも終わり、今日から仕事始め。
とはいっても、ここ最近の感染拡大のためにぼくは自宅勤務だ。

今日は10時からZOOMで、社長の念頭訓示の予定があるぐらいで、あとは自分のペースで仕事ができそうで助かる。

そもそも、職場に出ていたって、初日はそれなりにしか仕事をしないのだから、今日はパソコンの前でのんびりと過ごそう。

そんなことを思いながら、朝食を終えたぼくは、自宅の書斎

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働くことについて思うこと(小説-その1/2)

働くことについて思うこと(小説-その1/2)

働くことについて、自分の考えを書こうとしたのですが、うまくまとめられなくて、自分や周りの人の経験を小説にしてみました。ちょっと長いですが、お付き合いいただけると嬉しいです。

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ピュアサポートケア 本社C会議室

「すごくいいシステムだとは思いますが、多分、これを運営するのは、カスタマーサービス課のほうがいいんじゃないかなと思います。課長には聞いてみますが、サポートするにも、ちょっ

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働くことについて思うこと(小説-その2/2)

働くことについて思うこと(小説-その2/2)

働くことについて、自分の考えを書こうとしたのですが、うまくまとめられなくて、自分や周りの人の経験を小説にしてみました。ちょっと長いですが、お付き合いいただけると嬉しいです。

※「小説-その1/2」から読んでいただければと思います。

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「ぼくはさ、新入社員の時にいい経験をさせてもらったんだよ。いい経験っていうか、最高の経験をね」

「最高の経験、ですか」

「ぼくの先輩は、すごく仕

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色節 葵の御守(ショートストーリー)

色節 葵の御守(ショートストーリー)

京都に来て10年と少し。人の良さそうな顔のせいか、とにかく道を聞かれることが多い。

今日も御池通を職場に向かっていると、修学旅行生6人組に声をかけられた。一番真面目そうな男子生徒が話しかけ、少し離れたところに他の男子、女子は遠くから眺めている。言葉のなまりからすぐに同郷だとわかる。

下鴨神社に行きたいというので、河原町三条のバス停まで案内をしながらその理由を尋ねると「昔、葵の御守を買った生徒が

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ショートショート「ルームシェア」

ショートショート「ルームシェア」

「それでさぁ」

さくらがパソコン越しに話を続ける。

「12時20分くらいになったんだよ、そのせいで。それで、いつものカレー屋さんに行ったら、一人前で席がいっぱいになって。でも、どーしても食べたくってさ。それで、一回職場帰ってもう一度行って、そしたら入れたんだけど、いつものサラダがなくて」

「でもよかったじゃん。食べられて」

向かいに座る雄太が、パソコンをタイピングしながら答える。

「いや

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ショートショート「マスクジェネレーション」

ショートショート「マスクジェネレーション」

「あー、やっぱり最初はビールに限る」

部長の長い挨拶のあと、待ちに待った乾杯とともに空けたジョッキをテーブルに勢いよく返した原口が、マスクを口に戻しながら唸った。

「なんだ、もう一人前の社会人だな」

クリアパネル越しに座る先輩の平尾も、枝豆を放り込んだ口を、忘れず律儀にマスクで蓋をしながら冷やかした。

「いや、今週やばかったっすよ。おれまじで1年目なんすけど、あれだけよく売りましたよ」

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ショートストーリー「赤坂の理髪店(4)」

ショートストーリー「赤坂の理髪店(4)」

総理の重責「最後だと思う」という総理の言葉に、村田には込み上げてくるものがあった。

これまでもたくさんの人のカットをしてきたが、普通、散髪の期間のたった数ヶ月で、その人が年老いていることを感じることはまずない。だが、特定の職業においては違う。そう、まさにこの総理という仕事についている人だけは、明らかにカットのたびに、「老い」を感じてしまうのだ。

それは、わかりやすいところで言えば白髪が増え、シ

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ショートストーリー「赤坂の理髪店(3)」

ショートストーリー「赤坂の理髪店(3)」

村田の緊張これまでも何人もの総理をカットしてきた。もちろん、10年以上前に初めて、時の総理をカットしたときは少し手が震えていたが、長年続けていると、もはや総理のカットも日常である。

ただ、実は、今回のカットは少し緊張していた。なぜなら、村田にとって「総理を辞める」と決めた総理のカットをするのは初めてだったのだ。

これまで、村田の理髪店に来る総理は、警備の事情で仕方なくきていた。だから、辞任して

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ショートストーリー「赤坂の理髪店(2)」

ショートストーリー「赤坂の理髪店(2)」

定刻通り予約キャンセルの電話がスムーズに終わり、時間が少し空いたので、伝票の整理をしていると、ちょうど1時間前にスーツ姿のSPが2人やってきた。

座ってもらう席やカットする流れを、いつも通り説明し、使用する器具を全て見せる。ハサミは先の尖っていないもの、剃刀はワイヤーがセットされた長手方向には切れにくい特別のものを用意しているのだ。

何度も来ているSPだったこともあり、チェックはすぐに終わった

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ショートストーリー「赤坂の理髪店(1)」

ショートストーリー「赤坂の理髪店(1)」

予約変更村田は、店のレジカウンターに置かれたコードレスフォンを手に取り、毎月4日に予約を入れてくれている常連客に電話をかけた。

「すみません、今日の予約、どうしても無理になってしまって」

「え?なんで。えらい急だね。体調不良かい」

「いえ、ちょっと、急なお客さんで、その。。。」

「ああ、そういうことか。わかった。じゃあ来週でいいよ」

「すみません。同じ曜日、時間で取っておきます。ご迷惑を

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