市川司幸 Tsukasa Ichikawa

勝手に自由に歌詞を考察

市川司幸 Tsukasa Ichikawa

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記事一覧

【歌詞考察】郷ひろみ・樹木希林「林檎殺人事件」―隠された事件の行方、そこにあったものとは?

はじめに 音楽のみならず、文学や絵画など文化芸術全般において「くだもの」はしばしば大きな役割を果たします。たとえば、レモン。あるときは愛する人を喪った哀しみを…

【歌詞考察】金延幸子「青い魚」―この手からすり抜けていく思い出たちよ

はじめに 「永いあいだ、私は自分が生まれたときの光景を見たことがあると言い張っていた」。これは三島由紀夫の小説『仮面の告白』の冒頭です。さすがに生まれたときの…

【歌詞考察】井上陽水「ワカンナイ」―賢治サン、あなたはこんな日本を望んだかい?(後編)

前回のおさらい さて、前回の記事では井上陽水「ワカンナイ」の歌詞を、なるべく素直に読み解いてきました。忘れちゃったよ!という方は下のリンクに飛んでみてください…

【歌詞考察】井上陽水「ワカンナイ」―賢治サン、あなたはこんな日本を望んだかい?(前編)

はじめに 「雨ニモマケズ/風ニモマケズ/雪ニモ夏ノ暑サニモマケヌ/丈夫ナカラダヲモチ……」  1931年(昭和6年)11月3日、岩手県は花巻のとある家の2階で、ひとりの…

【歌詞考察】岡林信康「私たちの望むものは」ーリソウがハメツに変わるとき

はじめに ありったけの~夢を~かき集め~♪ いよいよ物語も終盤に入った海賊漫画『ワンピース』。私も大好きで読んでいるのですが、そんな『ワンピース』の物語を奥深…

【歌詞考察】たま「電車かもしれない」ーぼくらはいったいナニモノなのサ

はじめに こんにちは、「今日のごはん」のお時間です。本日ご紹介するのはニンゲンの作り方。まずは以下の材料を用意してください。水35リットル、炭素20キログラム、…

【歌詞考察】リーガルリリー「リッケンバッカー」ーおんがくよ、もう一度きみを生かせ

はじめに 音楽。  音楽を因数分解すれば、それは単なる音符の連続であり、人間がそれに声をのせたり、ちゃちな言葉をつけたりしているだけでしょう。でも、音楽は人間の…

【歌詞考察】東京事変「透明人間」-透き通る気持ちで生きてみる

はじめに 体を透明にできる超人、透明人間。もしもあなたが透明人間になれたら、何をしますか? 気になるあの人がどんな生活をしているのか覗いてみますか? それとも…

【この歌詞がイイ!】『いつも何度でも』より「こなごなに砕かれた鏡の上にも新しい景色が映される」

 うちのめされるほどの挫折を味わうことは人生でもそう多くはないでしょう。もう二度と立ち上がれない。このまま歩き続けるのは不可能かもしれない。何もしたくない。  …

【この歌詞がイイ!】『結婚しようよ』より「もうすぐ春がペンキを肩にお花畑の中を散歩にくるよ」

 「幸せ」。この二文字を表現するとしたら、あなたはどんな言葉を使いますか? 音楽の歌詞においても、アーティストごとに実にさまざまな「幸せ」の言葉がありますが、今…

【この歌詞がイイ!】『好-じょし-』より「君がいなくなったってご飯はおいしい ちゃんと味もする」

 この世には数え切れないほどのラブソングがあります。お相手と出会ったときの歌、付き合い始めた頃の歌、すれ違いをうたった歌、別れをうたった歌。ロマンチックでセンチ…

【この歌詞がイイ!】『中央フリーウェイ』より「愛してるって言ってもきこえない 風が強くて」

 自動車や道路が歌詞に出てくる曲は名曲ばかり、という偏見があるのですが、そんな「ドライブもの」の代表格と言えば、中央自動車道を舞台にした荒井由実(松任谷由実)の楽…

【この歌詞がイイ!】『チノカテ』より「ずっと叶えたかった夢が貴方を縛っていないだろうか?」

 「あなたの夢は何ですか?」「若いんだから夢持っておこうよ」「将来の夢とかないの?」 私たちは様々な場面で「夢」を持つことを求められます。そして様々な曲の中でも…

【この歌詞がイイ!】『スマイル』より「人間なんかそれ程キレイじゃないからすぐスマイルするべきだ」

 今回紹介するのはホフ・ディランの代表曲「スマイル」! 森七菜のカバーがヒットしたことによって若者にも知られるようになったこの曲。その中で私がいちばん好きなのは…

【この歌詞がイイ!】『電車かもしれない』より「ぼくらは生まれつき体のない子どもたち」

時々無性に聴きたくなるバンド、「たま」。正気か狂気かわからないキミョーな世界観に、J-POPではなかなか耳にしない独特のサウンドが私たちの心を掴みます。今回はたまの…

【この歌詞がイイ!】『デイ・ドリーム・ビリーバー』より「ずっと夢を見て いまもみてる」

 日本一有名なコンビニのCM曲、と言っても過言ではない名曲「デイ・ドリーム・ビリーバー」。忌野清志郎に「似ている」ロックンローラー ZERRY(本当は忌野清志郎ご本人)率…

【歌詞考察】郷ひろみ・樹木希林「林檎殺人事件」―隠された事件の行方、そこにあったものとは?

【歌詞考察】郷ひろみ・樹木希林「林檎殺人事件」―隠された事件の行方、そこにあったものとは?


はじめに 音楽のみならず、文学や絵画など文化芸術全般において「くだもの」はしばしば大きな役割を果たします。たとえば、レモン。あるときは愛する人を喪った哀しみをうたう曲(米津玄師「Lemon」)になり、あるときは暗い心境を吹き飛ばす爆弾になり(梶井基次郎「檸檬」)、あるときはカゴに詰められて静物画(ゴッホ「レモンの籠と瓶」)になりました。
 さて、今回はくだものの中から「リンゴ」にまつわる一曲をセ

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【歌詞考察】金延幸子「青い魚」―この手からすり抜けていく思い出たちよ

【歌詞考察】金延幸子「青い魚」―この手からすり抜けていく思い出たちよ


はじめに 「永いあいだ、私は自分が生まれたときの光景を見たことがあると言い張っていた」。これは三島由紀夫の小説『仮面の告白』の冒頭です。さすがに生まれたときの記憶なんて忘れちゃったよ、なんて人も、幼い日に見た風景の記憶や思い出をいくつか覚えていて、ふとした瞬間に取り出してみては懐かしんでみることがあると思います。時にそういった思い出はきらきらと輝きをもって見えるものです。
 今回考察していくのは

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【歌詞考察】井上陽水「ワカンナイ」―賢治サン、あなたはこんな日本を望んだかい?(後編)

【歌詞考察】井上陽水「ワカンナイ」―賢治サン、あなたはこんな日本を望んだかい?(後編)


前回のおさらい さて、前回の記事では井上陽水「ワカンナイ」の歌詞を、なるべく素直に読み解いてきました。忘れちゃったよ!という方は下のリンクに飛んでみてください。

 念のため、簡単に前回の内容をまとめておきましょう。「ワカンナイ」は宮沢賢治「雨ニモマケズ」を踏まえており、詩の中で書かれているように粗末な生活を送りながらも他人を助けるために働こうとするのは、現代においては不可能だ、宮沢賢治の願いは

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【歌詞考察】井上陽水「ワカンナイ」―賢治サン、あなたはこんな日本を望んだかい?(前編)

【歌詞考察】井上陽水「ワカンナイ」―賢治サン、あなたはこんな日本を望んだかい?(前編)


はじめに 「雨ニモマケズ/風ニモマケズ/雪ニモ夏ノ暑サニモマケヌ/丈夫ナカラダヲモチ……」
 1931年(昭和6年)11月3日、岩手県は花巻のとある家の2階で、ひとりの男が手帳に短い文章を書きつけました。男の名前は宮沢賢治。質屋の長男として生まれながら農業と宗教に関心を持ち、仕事の傍らで詩や小説を執筆したこの無名の青年は結核に侵され、1933年に37歳で亡くなります。没後彼が手帳に書いた文章は「

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【歌詞考察】岡林信康「私たちの望むものは」ーリソウがハメツに変わるとき

【歌詞考察】岡林信康「私たちの望むものは」ーリソウがハメツに変わるとき


はじめに ありったけの~夢を~かき集め~♪ いよいよ物語も終盤に入った海賊漫画『ワンピース』。私も大好きで読んでいるのですが、そんな『ワンピース』の物語を奥深いものにしているのが「海軍」の存在です。海軍は「正義」をモットーに海賊の脅威から市民を守ることを任務としていますが、その正義が時に暴走し、逆に市民を傷つけてしまうことも多々あります。正義が悪に変わるのは『ワンピース』に限らず現実の世界でも起

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【歌詞考察】たま「電車かもしれない」ーぼくらはいったいナニモノなのサ

【歌詞考察】たま「電車かもしれない」ーぼくらはいったいナニモノなのサ


はじめに こんにちは、「今日のごはん」のお時間です。本日ご紹介するのはニンゲンの作り方。まずは以下の材料を用意してください。水35リットル、炭素20キログラム、石灰1.5キログラム、リン800グラム、塩分250グラム、硝石100グラム。それでは調理方法です――
 以上の原料から人間は構成されているというのはホントのことらしいですが、そう言われても何だか釈然としませんよね。よく人間が死ぬと魂の重さ

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【歌詞考察】リーガルリリー「リッケンバッカー」ーおんがくよ、もう一度きみを生かせ


はじめに 音楽。
 音楽を因数分解すれば、それは単なる音符の連続であり、人間がそれに声をのせたり、ちゃちな言葉をつけたりしているだけでしょう。でも、音楽は人間の心を掴み、揺さぶり、ときには叩きつける奇妙な力を秘めています。魔力と言ってもいいかもしれません。
 今回考察するのは、炭酸のような爽やかさと、喉元をえぐる残酷さを同居させるロックバンド、リーガルリリー最大のヒット作「リッケンバッカー」! 

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【歌詞考察】東京事変「透明人間」-透き通る気持ちで生きてみる


はじめに 体を透明にできる超人、透明人間。もしもあなたが透明人間になれたら、何をしますか? 気になるあの人がどんな生活をしているのか覗いてみますか? それとも人のいる大通りで堂々とダンスをしてみますか? もしかして不埒なことを……?
 いちおう、透明人間が透けさせることができるのは自分の身体だけということになっています。では、もしも心まで透明にすることができたら、一体それはどんな心になるのでしょ

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【この歌詞がイイ!】『いつも何度でも』より「こなごなに砕かれた鏡の上にも新しい景色が映される」

 うちのめされるほどの挫折を味わうことは人生でもそう多くはないでしょう。もう二度と立ち上がれない。このまま歩き続けるのは不可能かもしれない。何もしたくない。
 そんなときに音楽を聴くとしたら? 「元気元気!」な応援ソングは今はヤダ。クラシックは豪華すぎる。激しいロックやヒップホップもちょっと合わない。となると、やっぱりしっとりと沁みるような曲が良いですよね。
 今回紹介するのは、木村弓の「いつも何

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【この歌詞がイイ!】『結婚しようよ』より「もうすぐ春がペンキを肩にお花畑の中を散歩にくるよ」

 「幸せ」。この二文字を表現するとしたら、あなたはどんな言葉を使いますか? 音楽の歌詞においても、アーティストごとに実にさまざまな「幸せ」の言葉がありますが、今回は私のお気に入りの「幸せ」の歌詞をご紹介いたします!

 今回ご紹介するのは吉田拓郎が1971年に発表した、元祖結婚ソング「結婚しようよ」です。当時は体制批判や社会の暗部の告発をテーマとする「プロテストソング」が主流だったフォークソング界

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【この歌詞がイイ!】『好-じょし-』より「君がいなくなったってご飯はおいしい ちゃんと味もする」

 この世には数え切れないほどのラブソングがあります。お相手と出会ったときの歌、付き合い始めた頃の歌、すれ違いをうたった歌、別れをうたった歌。ロマンチックでセンチメンタルな恋模様が展開されますが、それはあくまでも歌詞の世界の話。実際に恋をしてみたら、思ったよりもドラマチックじゃなかった、なんてこともあるかもしれません。

 坂口有望の楽曲『好-じょし-』は失恋を扱う曲ですが、その別れ方はなんともリア

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【この歌詞がイイ!】『中央フリーウェイ』より「愛してるって言ってもきこえない 風が強くて」

 自動車や道路が歌詞に出てくる曲は名曲ばかり、という偏見があるのですが、そんな「ドライブもの」の代表格と言えば、中央自動車道を舞台にした荒井由実(松任谷由実)の楽曲「中央フリーウェイ」! 
夫の松任谷正隆に車で送ってもらった思い出をもとに書いたといわれるこの曲。しかし歌詞の語り手(女性?)は、一緒にいる時間が積もっていくにしたがって態度がそっけなくなる相手に物足りなさを感じている様子。そんな二人の

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【この歌詞がイイ!】『チノカテ』より「ずっと叶えたかった夢が貴方を縛っていないだろうか?」

 「あなたの夢は何ですか?」「若いんだから夢持っておこうよ」「将来の夢とかないの?」 私たちは様々な場面で「夢」を持つことを求められます。そして様々な曲の中でも、「夢を叶えよう!」「夢を諦めないで」という内容の歌詞がよく見つかります。
 もちろん、夢を持つことはいい事です。でも、ただやみくもに夢を追い続けるだけ、というのは本当に正しいのでしょうか?
 ヨルシカの楽曲「チノカテ」は、フランスの作家

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【この歌詞がイイ!】『スマイル』より「人間なんかそれ程キレイじゃないからすぐスマイルするべきだ」

 今回紹介するのはホフ・ディランの代表曲「スマイル」! 森七菜のカバーがヒットしたことによって若者にも知られるようになったこの曲。その中で私がいちばん好きなのは、ここ!

人間なんかそれ程キレイじゃないから すぐスマイルするべきだ

 「スマイル」と聞くと、自分はけっこう小さい子どもや嬉しそうな若い男の子/女の子の顔を思い浮かべるのですが、みなさんはどうでしょうか。「スマイル」という言葉は純粋無垢

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【この歌詞がイイ!】『電車かもしれない』より「ぼくらは生まれつき体のない子どもたち」

時々無性に聴きたくなるバンド、「たま」。正気か狂気かわからないキミョーな世界観に、J-POPではなかなか耳にしない独特のサウンドが私たちの心を掴みます。今回はたまの曲の中から「電車かもしれない」をチョイス。

↑このMVもまた素晴らしい! 
この歌詞も例に漏れず「たま」節全開で難解ですが、どうも歌詞全体に漂っているのは「存在するってどういうこと?」という問いかけです。「ここに今ぼくがいないこと誰も

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【この歌詞がイイ!】『デイ・ドリーム・ビリーバー』より「ずっと夢を見て いまもみてる」

 日本一有名なコンビニのCM曲、と言っても過言ではない名曲「デイ・ドリーム・ビリーバー」。忌野清志郎に「似ている」ロックンローラー ZERRY(本当は忌野清志郎ご本人)率いる過激なロックバンドの、温かいナンバーです。

 この曲はもともと、「ザ・モンキーズ」というアメリカのバンドのナンバーで、寝坊助の主人公と美人の彼女とのラブソング。それを忌野がカバーしたのですが、彼はただ歌詞を和訳するのではなく

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