Step Across the Border

表象批評。映画、音楽、美術、デザインあたりを横断的に。「境界」を見つめていたい。AIに…

Step Across the Border

表象批評。映画、音楽、美術、デザインあたりを横断的に。「境界」を見つめていたい。AIには書けないことを書くのが裏テーマ。

記事一覧

自問には意味はあるが、そこで終わっては意味がない。『ここは未来のアーティストたちが眠る部屋となりえてきたか?』

本日(5/12)終幕。出品者の飯山由貴が、内覧会でイスラエルのガザ進攻に抗議し、美術館の支援企業を名指しで批判したことでも話題となった。 タイトルの『ここは未来のア…

人間の営みは静謐である。『没後50年 木村伊兵衛 写真に生きる』

没後50年記念の回顧展。木村伊兵衛について、「日本のアンリ・カルティエ=ブレッソン」と称するのは、少し強引だがあながち間違いではない。1954年のヨーロッパ取材時、実…

やっぱり応挙にやられた。『皇室のみやび―受け継ぐ美―』第3期:近世の御所を飾った品々

2023年11月にリニューアルした三の丸尚蔵館。2024年6月まで、4期に分けて記念展『皇室のみやび―受け継ぐ美―』が開催されている。当館に収蔵された名品を順次紹介するコレ…

生気と色気に満ちた、夢のような3時間超──ラリー・ハード来日

13年ぶりに来日を果たしたディープ・ハウスのレジェンド。東京・青山のVENTにおけるラリー・ハード(Larry Heard)のDJセットは、まさに「一生もの」と呼ぶにふさわしい音…

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【過去原稿】コルトレーン特集への寄稿──コルトレーンはロックだった!? COLTRANE’S INFLUENCES ON ROCK(2006)

『PLAYBOY』日本版(2008年休刊)は、ときどき硬派なジャズの特集をやっていた。2006年3月号のコルトレーン特集に寄せた原稿をここに再掲する。編集部からのお題を受けて、…

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『夜明けのすべて』は贈与の映画である。

藤沢(上白石萌音)はPMS(月経前症候群)、山添(松村北斗)はパニック障害を患い、それぞれ生きづらさを抱えている。ああ、そっち系? その種のドラマは正直あまり好み…

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【過去原稿】ブルーノートの名盤紹介──アート・ブレイキー&ザ・ジャズ・メッセンジャーズ『チュニジアの夜』レビュー(2004)

ブルーノートの名盤ガイドブックに寄稿したアルバム・レビューから、4枚目。 ひとつ問題提起をしてみよう。そもそもアート・ブレイキーのドラミングに、ハード・バップ~…

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【過去原稿】ブルーノートの名盤紹介──ルー・ドナルドソン『ブルース・ウォーク』レビュー(2004)

ブルーノートの名盤ガイドブックに寄稿したアルバム・レビューから、3枚目。 もしレア・グルーヴ/アシッド・ジャズのムーヴメントがなかったとしたら、いまでもルー・ド…

映画=人生には始まりがある。では終わりは?『瞳をとじて』

ビクトル・エリセの久方ぶりの長編。プロモーションのコピーには「31年ぶり」とあるが、それはドキュメンタリーの『マルメロの陽光』からであって、純然たるフィクション作…

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【過去原稿】ブルーノートの名盤紹介──ソニー・クラーク『ダイアル・S・フォー・ソニー』レビュー(2004)

ブルーノートの名盤ガイドブックに寄稿したアルバム・レビューから、2枚目。 鈍色(にびいろ)に輝く、というと形容矛盾なのだが、そうとしかいいようがない。初リーダー…

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【過去原稿】ブルーノートの名盤紹介──『マイルス・デイヴィス・オールスターズ Vol.1』レビュー(2004)

2000年代の前半の一時期、ジャズに関する原稿を書いていた。ほとんどは紙媒体に寄稿したものだから、ネットには当然、痕跡もなさそうだ。せっかくなので、個人的な記録とし…

外国人に『東京物語』は撮れるのか。『PERFECT DAYS』

現代の東京が舞台。役所広司が主人公の公衆トイレ清掃員・平山を演じた。カンヌでは男優賞のほか、エキュメニカル審査員賞を受賞したのは記憶に新しい。 監督のヴィム・ヴ…

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「考えるマシーン」としてのマウリツィオ・ポリーニ

マウリツィオ・ポリーニ逝去。享年82。やはり一つの時代の終わりを感じさせる。 彼の登場以降、世間がピアニストに期待する技巧のレベルは、格段に上がった。「ミスタッチ…

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“苦労しなくてもできる美しいもの”。『オラファー・エリアソン展──相互に繋がりあう瞬間が協和する周期』

話題の麻布台ヒルズに設けられたギャラリーの開館記念。オラファー・エリアソンの個展は、2020年の東京都現代美術館『ときに川は橋となる』以来だろうか。前回ほど大規模で…

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本当に純日本的?『生誕300年記念 池大雅──陽光の山水』

出光美術館の『生誕300年記念 池大雅──陽光の山水』は、明日(3/24)マデ。まだの人もぜひ駆け込んでみてほしい。おすすめです。 中国の文人画の影響を受けて、日本ら…

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「目利き」のリプレゼンテーション。『本阿弥光悦の大宇宙』

すでに終了してしまったが、トーハクで開催された『本阿弥光悦の大宇宙』が、視野を広げてくれる興味深いキュレーションだった。彼の一族が信仰した日蓮法華宗との関連を浮…

自問には意味はあるが、そこで終わっては意味がない。『ここは未来のアーティストたちが眠る部屋となりえてきたか?』

自問には意味はあるが、そこで終わっては意味がない。『ここは未来のアーティストたちが眠る部屋となりえてきたか?』

本日(5/12)終幕。出品者の飯山由貴が、内覧会でイスラエルのガザ進攻に抗議し、美術館の支援企業を名指しで批判したことでも話題となった。

タイトルの『ここは未来のアーティストたちが眠る部屋となりえてきたか?』は、ドイツの作家ノヴァーリスが、18世紀末に書き記した以下のような文章に依拠している。

国立西洋美術館は、「現在」ではなく「過去」、「東洋(日本)」ではなく「西洋」の作品が集められている。

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人間の営みは静謐である。『没後50年 木村伊兵衛 写真に生きる』

人間の営みは静謐である。『没後50年 木村伊兵衛 写真に生きる』

没後50年記念の回顧展。木村伊兵衛について、「日本のアンリ・カルティエ=ブレッソン」と称するのは、少し強引だがあながち間違いではない。1954年のヨーロッパ取材時、実際にパリでブレッソンと面会を果たし、親交を結んでいる。木村は、念願だった渡欧によってむしろ志向に迷いが生じてしまったそうだが、ブレッソンとの語らいによって、自己の進むべき方向をあらためて見出したという。その折に木村がブレッソンを撮った

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やっぱり応挙にやられた。『皇室のみやび―受け継ぐ美―』第3期:近世の御所を飾った品々

やっぱり応挙にやられた。『皇室のみやび―受け継ぐ美―』第3期:近世の御所を飾った品々

2023年11月にリニューアルした三の丸尚蔵館。2024年6月まで、4期に分けて記念展『皇室のみやび―受け継ぐ美―』が開催されている。当館に収蔵された名品を順次紹介するコレクション展シリーズであり、再出発にあたって、まずは景気付けといったところか。

ずっと行きたいと思いつつ、なかなか足を運ぶことができていなかったが、ようやく第3期(5/12マデ)に駆け込むことができた。

”近世の御所を飾った品

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生気と色気に満ちた、夢のような3時間超──ラリー・ハード来日

生気と色気に満ちた、夢のような3時間超──ラリー・ハード来日

13年ぶりに来日を果たしたディープ・ハウスのレジェンド。東京・青山のVENTにおけるラリー・ハード(Larry Heard)のDJセットは、まさに「一生もの」と呼ぶにふさわしい音楽体験だった。

シカゴ・ハウス~アシッド・ハウスのみならず、ガラージュ、ジャズ、アフロが渾然一体となった一大音絵巻。それはディープ・ハウスの多様性を詳らかにするものであり、総体としては、ブラック・ミュージック以外の何物で

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【過去原稿】コルトレーン特集への寄稿──コルトレーンはロックだった!? COLTRANE’S INFLUENCES ON ROCK(2006)

【過去原稿】コルトレーン特集への寄稿──コルトレーンはロックだった!? COLTRANE’S INFLUENCES ON ROCK(2006)

『PLAYBOY』日本版(2008年休刊)は、ときどき硬派なジャズの特集をやっていた。2006年3月号のコルトレーン特集に寄せた原稿をここに再掲する。編集部からのお題を受けて、ジャンルを超えたコルトレーンの影響力を考察したものだ。

今、読み返すと、内容がいささか古くなってしまっているのは否めない。とはいえ、取り上げたアーティストはかなり広範に及び、手前味噌ながらけっこうレアな論考になっていると思

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『夜明けのすべて』は贈与の映画である。

『夜明けのすべて』は贈与の映画である。

藤沢(上白石萌音)はPMS(月経前症候群)、山添(松村北斗)はパニック障害を患い、それぞれ生きづらさを抱えている。ああ、そっち系? その種のドラマは正直あまり好みではない。序盤、藤沢のナレーションが延々と流れ、なんだか説明的だな、とさらに警戒を強めたほどだ。監督の三宅唱がインタビューで明かしているとおり、彼の過去作ほど各ショットは作り込まれておらず、自然なフローが意識されているためか、とっつきやす

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【過去原稿】ブルーノートの名盤紹介──アート・ブレイキー&ザ・ジャズ・メッセンジャーズ『チュニジアの夜』レビュー(2004)

【過去原稿】ブルーノートの名盤紹介──アート・ブレイキー&ザ・ジャズ・メッセンジャーズ『チュニジアの夜』レビュー(2004)

ブルーノートの名盤ガイドブックに寄稿したアルバム・レビューから、4枚目。

ひとつ問題提起をしてみよう。そもそもアート・ブレイキーのドラミングに、ハード・バップ~ファンキー・ジャズの器はふさわしいのだろうか? なにをバカな、と思われるかもしれない。だが、あの畳み掛けるロール奏法やニュアンスに富んだポリリズムを“祭祀のBGM”と捉えるならば、ビバップの刹那主義を乗り越えて確立されたハード・バップの構

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【過去原稿】ブルーノートの名盤紹介──ルー・ドナルドソン『ブルース・ウォーク』レビュー(2004)

【過去原稿】ブルーノートの名盤紹介──ルー・ドナルドソン『ブルース・ウォーク』レビュー(2004)

ブルーノートの名盤ガイドブックに寄稿したアルバム・レビューから、3枚目。

もしレア・グルーヴ/アシッド・ジャズのムーヴメントがなかったとしたら、いまでもルー・ドナルドソンは、“大衆音楽にセル・アウトしたアルト・サックス奏者”という不名誉な称号を戴いたままかもしれなかった。大ヒットした67年の『アリゲイター・ブーガルー』に当時の生真面目なジャズ・ファンが困惑したという話を、笑ってすませていいとは思

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映画=人生には始まりがある。では終わりは?『瞳をとじて』

映画=人生には始まりがある。では終わりは?『瞳をとじて』

ビクトル・エリセの久方ぶりの長編。プロモーションのコピーには「31年ぶり」とあるが、それはドキュメンタリーの『マルメロの陽光』からであって、純然たるフィクション作品としては、『エル・スール』から41年ぶりとなる。変化の激しい現代において、まさに異例のインターバルだ。この間、実際のところ製作上のさまざまな苦難もあったようだが、この時間の経過はエリセにとって無駄ではなかった。本作を観れば、それが容易に

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【過去原稿】ブルーノートの名盤紹介──ソニー・クラーク『ダイアル・S・フォー・ソニー』レビュー(2004)

【過去原稿】ブルーノートの名盤紹介──ソニー・クラーク『ダイアル・S・フォー・ソニー』レビュー(2004)

ブルーノートの名盤ガイドブックに寄稿したアルバム・レビューから、2枚目。

鈍色(にびいろ)に輝く、というと形容矛盾なのだが、そうとしかいいようがない。初リーダー作にしてスペシャルな一枚。アルバム・タイトル曲のオープニングの構成・展開を聴いて、少しでも惹きつけられるところがなかったら、ジャズとは無縁の人生を生きるべきだ、と傲慢にいい放ちたくもなる。もう少し穏便にいい換えれば、惹きつけられない人もそ

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【過去原稿】ブルーノートの名盤紹介──『マイルス・デイヴィス・オールスターズ Vol.1』レビュー(2004)

【過去原稿】ブルーノートの名盤紹介──『マイルス・デイヴィス・オールスターズ Vol.1』レビュー(2004)

2000年代の前半の一時期、ジャズに関する原稿を書いていた。ほとんどは紙媒体に寄稿したものだから、ネットには当然、痕跡もなさそうだ。せっかくなので、個人的な記録としてここに残しておこうかと。いかにも若書きで、詰めも甘いのだが、ご容赦ください。書名、筆名は伏せておきます。

まず、ブルーノートの名盤ガイドブックに寄稿したアルバム・レビューがいくつかあった。今回はそこからまず1枚。

無数にあるマイル

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外国人に『東京物語』は撮れるのか。『PERFECT DAYS』

外国人に『東京物語』は撮れるのか。『PERFECT DAYS』

現代の東京が舞台。役所広司が主人公の公衆トイレ清掃員・平山を演じた。カンヌでは男優賞のほか、エキュメニカル審査員賞を受賞したのは記憶に新しい。

監督のヴィム・ヴェンダースらしい音楽へのこだわりについてまず触れておきたい。『PERFECT DAYS』は、ルー・リードの名曲(こちらは単数形のDAY)にちなんだタイトルである。劇中で当曲が使われるほか、彼が在籍したヴェルヴェット・アンダーグラウンドから

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「考えるマシーン」としてのマウリツィオ・ポリーニ

「考えるマシーン」としてのマウリツィオ・ポリーニ

マウリツィオ・ポリーニ逝去。享年82。やはり一つの時代の終わりを感じさせる。

彼の登場以降、世間がピアニストに期待する技巧のレベルは、格段に上がった。「ミスタッチを含め、味わいで聴かせる」という在り方が前時代的なものになった。

個人的には、初期の名盤であるショパンの練習曲集の頃から追っかけてこられたわけでない。リアルタイムでは、同じショパンのピアノ・ソナタ第2・3番の音盤で初めてポリーニに接し

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“苦労しなくてもできる美しいもの”。『オラファー・エリアソン展──相互に繋がりあう瞬間が協和する周期』

“苦労しなくてもできる美しいもの”。『オラファー・エリアソン展──相互に繋がりあう瞬間が協和する周期』

話題の麻布台ヒルズに設けられたギャラリーの開館記念。オラファー・エリアソンの個展は、2020年の東京都現代美術館『ときに川は橋となる』以来だろうか。前回ほど大規模ではなく、新作のお披露目と過去20年ぐらいからのピックアップを織り交ぜた、コンパクトな展示となっている。

すべて日本初展示というが、どれも「ああ、エリアソンだ」と安心できるのが面白い。それはネガティブな既視感ではなく、作家としての軸が確

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本当に純日本的?『生誕300年記念 池大雅──陽光の山水』

本当に純日本的?『生誕300年記念 池大雅──陽光の山水』

出光美術館の『生誕300年記念 池大雅──陽光の山水』は、明日(3/24)マデ。まだの人もぜひ駆け込んでみてほしい。おすすめです。

中国の文人画の影響を受けて、日本らしい「南画」のスタイルを確立した池大雅のパースペクティブが、簡潔にまとまっている。

展覧会のサブタイトルに「陽光」とある通り、おおらかで明るい、そんな陽性の世界が心地よい。大雅は、気持ちが盛り上がるといきなり旅に出るような人で、周

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「目利き」のリプレゼンテーション。『本阿弥光悦の大宇宙』

「目利き」のリプレゼンテーション。『本阿弥光悦の大宇宙』

すでに終了してしまったが、トーハクで開催された『本阿弥光悦の大宇宙』が、視野を広げてくれる興味深いキュレーションだった。彼の一族が信仰した日蓮法華宗との関連を浮き彫りにしているところは勉強になった。そのあたりを深掘りするのはちょっと難しいけれど、せっかくなので鑑賞メモを残しておきます。

刀剣鑑定を行う名門・本阿弥家に生まれたことが、光悦の諸芸の根幹を成している。要するに、光悦の品々は、「目利き」

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