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自問には意味はあるが、そこで終わっては意味がない。『ここは未来のアーティストたちが眠る部屋となりえてきたか?』
本日(5/12)終幕。出品者の飯山由貴が、内覧会でイスラエルのガザ進攻に抗議し、美術館の支援企業を名指しで批判したことでも話題となった。
タイトルの『ここは未来のアーティストたちが眠る部屋となりえてきたか?』は、ドイツの作家ノヴァーリスが、18世紀末に書き記した以下のような文章に依拠している。
国立西洋美術館は、「現在」ではなく「過去」、「東洋(日本)」ではなく「西洋」の作品が集められている。
人間の営みは静謐である。『没後50年 木村伊兵衛 写真に生きる』
没後50年記念の回顧展。木村伊兵衛について、「日本のアンリ・カルティエ=ブレッソン」と称するのは、少し強引だがあながち間違いではない。1954年のヨーロッパ取材時、実際にパリでブレッソンと面会を果たし、親交を結んでいる。木村は、念願だった渡欧によってむしろ志向に迷いが生じてしまったそうだが、ブレッソンとの語らいによって、自己の進むべき方向をあらためて見出したという。その折に木村がブレッソンを撮った
もっとみる生気と色気に満ちた、夢のような3時間超──ラリー・ハード来日
13年ぶりに来日を果たしたディープ・ハウスのレジェンド。東京・青山のVENTにおけるラリー・ハード(Larry Heard)のDJセットは、まさに「一生もの」と呼ぶにふさわしい音楽体験だった。
シカゴ・ハウス~アシッド・ハウスのみならず、ガラージュ、ジャズ、アフロが渾然一体となった一大音絵巻。それはディープ・ハウスの多様性を詳らかにするものであり、総体としては、ブラック・ミュージック以外の何物で
【過去原稿】ブルーノートの名盤紹介──アート・ブレイキー&ザ・ジャズ・メッセンジャーズ『チュニジアの夜』レビュー(2004)
ブルーノートの名盤ガイドブックに寄稿したアルバム・レビューから、4枚目。
ひとつ問題提起をしてみよう。そもそもアート・ブレイキーのドラミングに、ハード・バップ~ファンキー・ジャズの器はふさわしいのだろうか? なにをバカな、と思われるかもしれない。だが、あの畳み掛けるロール奏法やニュアンスに富んだポリリズムを“祭祀のBGM”と捉えるならば、ビバップの刹那主義を乗り越えて確立されたハード・バップの構
【過去原稿】ブルーノートの名盤紹介──ルー・ドナルドソン『ブルース・ウォーク』レビュー(2004)
ブルーノートの名盤ガイドブックに寄稿したアルバム・レビューから、3枚目。
もしレア・グルーヴ/アシッド・ジャズのムーヴメントがなかったとしたら、いまでもルー・ドナルドソンは、“大衆音楽にセル・アウトしたアルト・サックス奏者”という不名誉な称号を戴いたままかもしれなかった。大ヒットした67年の『アリゲイター・ブーガルー』に当時の生真面目なジャズ・ファンが困惑したという話を、笑ってすませていいとは思
【過去原稿】ブルーノートの名盤紹介──ソニー・クラーク『ダイアル・S・フォー・ソニー』レビュー(2004)
ブルーノートの名盤ガイドブックに寄稿したアルバム・レビューから、2枚目。
鈍色(にびいろ)に輝く、というと形容矛盾なのだが、そうとしかいいようがない。初リーダー作にしてスペシャルな一枚。アルバム・タイトル曲のオープニングの構成・展開を聴いて、少しでも惹きつけられるところがなかったら、ジャズとは無縁の人生を生きるべきだ、と傲慢にいい放ちたくもなる。もう少し穏便にいい換えれば、惹きつけられない人もそ
【過去原稿】ブルーノートの名盤紹介──『マイルス・デイヴィス・オールスターズ Vol.1』レビュー(2004)
2000年代の前半の一時期、ジャズに関する原稿を書いていた。ほとんどは紙媒体に寄稿したものだから、ネットには当然、痕跡もなさそうだ。せっかくなので、個人的な記録としてここに残しておこうかと。いかにも若書きで、詰めも甘いのだが、ご容赦ください。書名、筆名は伏せておきます。
まず、ブルーノートの名盤ガイドブックに寄稿したアルバム・レビューがいくつかあった。今回はそこからまず1枚。
無数にあるマイル
外国人に『東京物語』は撮れるのか。『PERFECT DAYS』
現代の東京が舞台。役所広司が主人公の公衆トイレ清掃員・平山を演じた。カンヌでは男優賞のほか、エキュメニカル審査員賞を受賞したのは記憶に新しい。
監督のヴィム・ヴェンダースらしい音楽へのこだわりについてまず触れておきたい。『PERFECT DAYS』は、ルー・リードの名曲(こちらは単数形のDAY)にちなんだタイトルである。劇中で当曲が使われるほか、彼が在籍したヴェルヴェット・アンダーグラウンドから
“苦労しなくてもできる美しいもの”。『オラファー・エリアソン展──相互に繋がりあう瞬間が協和する周期』
話題の麻布台ヒルズに設けられたギャラリーの開館記念。オラファー・エリアソンの個展は、2020年の東京都現代美術館『ときに川は橋となる』以来だろうか。前回ほど大規模ではなく、新作のお披露目と過去20年ぐらいからのピックアップを織り交ぜた、コンパクトな展示となっている。
すべて日本初展示というが、どれも「ああ、エリアソンだ」と安心できるのが面白い。それはネガティブな既視感ではなく、作家としての軸が確