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忍冬 (すいかずら)

繰り返しくりかえし
彼は種を撒いた
毎日毎日
ただ光の抜ける先を願って

君の住む街の駅近く
雨の中を走る
白くて細い背中を見た
膝の上の植木鉢を
大事に抱えて
バスの窓から
邇くて遠い
明日を想う

根負けをして
振り返る
芽が出てすぐは
なにかぎこちない
遠慮がちな未来への打診は
瑞々しく翠を放つ
彼は惜しみなく
歴史の本を紐解き
ポツリぽつりと
話し始めた

彼が真っ直ぐに
君となるまでの道のり
いろいろな景色を見てきた
少しずつ
頼りない灯りを頼りに
道を進み
音が鳴れば色を生んで
果てしない森が広がる
いつしか水辺に辿り着き
途方もない海の前で
ただ立ちすくむ

種を撒き始めた理由を
彼はさらりと言ってのけ
大気はもうだいぶんと温まり
君は行く先に迷って
心細そうに
白いシャツの中で
睡魔と戦っている

少し曲がった細い茎
出続ける葉が重すぎるのか
光の方向に傾くからか
寄せ木をまだ立てられないまま
ただ見守っている
名をつけぬまま
ただ傍にいる
砂時計を横に倒して
風の吹くのを
ただ待っている

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