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本や映画、ドラマの感想つれづれ

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『THIS IS US』が描く弱さと豊かさ

『THIS IS US』が描く弱さと豊かさ

ついにドラマ『THIS IS US』が終わってしまい、放心状態である。

このドラマがアメリカで始まったのは2016年9月で、私はちょうどその頃アメリカに渡った。最初はテレビなど見る余裕も設備もなかったため、実際にシーズン1をNBCの配信で一気に見たのはその約1年後、ちょうど私が主人公たちの設定年齢の36歳になったばかりの頃である。シーズン2からは毎週火曜にリアルタイムで見ていたが、2019年にシ

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『愛という名の支配』

『愛という名の支配』

ドイツの精神学者エーリッヒ・フロムによると、愛とは「愛する者の生命と成長を積極的に気にかけること」であり、その要素は「配慮、責任、尊重、知」だという。しかし本書のタイトルにある「愛」とは、それとはまったく別物の、なんとなく幻想として漂っている概念としての「愛」である。

それは抑圧者にとっては都合のよい隠れ蓑になり、被抑圧者にとってはその立場で満足するための言い訳になり、両者にとって他人または自分

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アメリカ人が描く在日のストーリー『PACHINKO』

アメリカ人が描く在日のストーリー『PACHINKO』

2017年にアメリカでベストセラーになったこの本を手に取ったきっかけは、2019年の秋にコリアンアメリカンの友人から勧められたことだった。それまで学校の課題以外で英語の長編小説を1冊読んだことはなかったのだが、植民地時代の朝鮮半島から日本に移住した家族4世代の話という、内容があまりにも身近であったことから興味を持ち、英語で読み始めたのが2020年の頭である。夏には日本語版も発売されたので、日本語で

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『愛の不時着』の女性に見る脱ジェンダーステレオタイプ

『愛の不時着』の女性に見る脱ジェンダーステレオタイプ

普段私がよく見るのは主にアメリカのドラマだ。それも、現実にありそうな話ばかりを好む(ちなみに大好きなのは『This Is Us』)。そんな私が初めて韓国のドラマ、それも現実にありえなさそうな設定のストーリーを見て、ハマった。その理由の1つが、女性の描かれ方が新しかったことだ。

(ちなみにこれから書く内容は個人的な感想である。「こんな見方をする人もいるのか」という観点で読んでいただけると幸いだ。ま

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差別をふんわり覆ってしまう残念な「映画の邦題」

差別をふんわり覆ってしまう残念な「映画の邦題」

今、改めてアメリカの人種問題が注目されている。

私たちが生きる社会には、色んな不平等があり、色んな差別や偏見が根濃く残っている。日本も例外ではない。これは残念ながら否定しようもない事実だ。けれど、日本では「なるべくその事実を見たくない」「差別なんかない」「まあまあ、落ち着いて」という風潮が強いように思う。どうも、差別や社会問題を前にしたときの居心地の悪さや他人事感が風潮としてあるような気がするの

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「善人」による無理解が見事に描かれた映画『82年生まれ、キム・ジヨン』

「善人」による無理解が見事に描かれた映画『82年生まれ、キム・ジヨン』

81年生まれの私が原作本を読んだのは去年の春のことだ。韓国語教室を開いている母が教材として使っていたことで、勧められたのがきっかけだった。

カルテという形式で書かれているこの本には、韓国で生きる女性が遭遇するあらゆる不条理や差別、マイクロアグレッションが淡々と描かれている。その多くは、日本に生きる女性も経験する内容だ。韓国の価値観が残る家庭でジヨン同様姉と弟に挟まれて育った私には特に共感できる部

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『The Bold Type』が描く、身近な人間関係における多様性の摩擦

『The Bold Type』が描く、身近な人間関係における多様性の摩擦

最近の欧米の映画やドラマを見ていると、多様性への配慮がありありとわかる。その一方で、時間的制約からか、あるいはストーリーの本筋との兼ね合いなのか、その多様性が日常レベルで起こす摩擦については描かれていないことが多い。

たとえばNetflix映画『好きだった君へのラブレター』の主人公はアジア系だ。母親が韓国系という設定で、韓国の文化を継承していることはアクセサリー的に描かれているのだが、オレゴン州

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『ノマドランド』から気づいた安定への未練と執着

『ノマドランド』から気づいた安定への未練と執着

3月半ばから1か月半ほど、少し精神的に不安定だなと感じる日々が続いた。とはいえきちんと仕事はしたし、ジムにも週2回のペースで通っていた。3食自炊していたし、夜もちゃんと寝ていた。しかし常に不安感があった。逆に言えばそうして生活を保っていることで、自分なりにバランスを取っていたのかもしれない。十分大人になった私はそのあたりの対処法も自動装備していたのだろう。

そんななか1本の映画を見た。アカデミー

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