星野維人

原稿用紙5枚ほどの掌編小説や詩を書いています。投稿は不定期ですが、読んでいただければ幸…

星野維人

原稿用紙5枚ほどの掌編小説や詩を書いています。投稿は不定期ですが、読んでいただければ幸いです。

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  • 掌編小説

    原稿用紙5枚の掌編小説

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    自分で撮った写真と自作の詩のコラボです。

記事一覧

掌編小説「大きくなったら」

 病院の待合室で、何気なく目の合った小さな男の子がトコトコと私の傍らに来ると、私の顔を見上げて言った。 「ぼく、おおきくなったらおいしゃさんになるんだよ」  こ…

星野維人
2日前
31

写真詩「空白の隙間」

会話が途切れ 無言の時間が 僕と君の間を流れる 僕は僕に没頭し 君は君に夢中だ 言葉はなくても お互いの存在を感じ 過剰な気配りなどせずとも 心は通じ合っている この…

星野維人
6日前
34

写真詩「言葉の花束」

あやうく忘れるところだった 今日は母の日だったよね 読書好きだったあなたに 毎年本を贈ってきたけれど 今年は何を贈ればいいのかな とりあえず感謝をこめて 言葉の花束…

星野維人
9日前
50

写真詩「ときめき」

本当は気になって仕方ないくせに 声をかけることも 名前を呼ぶことすらできなくて ただ妄想ばかり働かせて 悶々といていたあの頃 振り返ると 切なくて 微笑ましい日々 そ…

星野維人
2週間前
58

写真詩「遠い輝き」

それはかつて 確かにこの手の中にあったのに 今は失われてしまったもの それはかつて この手で掴もうとしたけれど 果たせなかったもの それはかつて 追いかけることすら…

星野維人
3週間前
60

写真詩「予感」

朝から降り始めた雨が 昼には止んだ 雲間から陽が差して 街はモノクロームから 色彩の世界へと変わる 新しい詩が生まれる予感に 僕は心の扉を開放して待つが 言葉は芽生え…

星野維人
1か月前
55

写真詩「手紙」

木枯らしが吹く寒い日に 遥かなるあなたに向けて 僕は手紙を送った 言葉の代わりに 思いだけを託して 「あなたに会いたい」 郵便ポストは空のまま 季節は知らん顔で 僕…

星野維人
1か月前
56

写真詩「今を生きる」

ご無沙汰してます 今年もまた会えましたね あなたたちの姿を愛でることが この季節の楽しみのひとつです 僕ですか? 思い通りにはいかないけれど なんとかこの一年を乗り…

星野維人
1か月前
80

写真詩「ひそやかな訪れ」

忘れ物はまだ見つからないのに 新しい季節は足早に巡ってくる 何かに追い立てられるようで 息苦しささえ感じた僕は ひそやかな季節の訪れに耳を澄ます 春の風に乗って 懐…

星野維人
1か月前
60

紙の本を出版しました

このたび紙の本を出版しました。 原稿用紙5枚の掌編小説を12編まとめた作品集です。 タイトルは「十二の掌編小説 もういちど」 令和4年の上毛新聞の上毛文芸最優秀賞に選…

星野維人
1か月前
45

詩「悲しみの心に」         

肩を震わせて泣いている あの子を目の前にして 君は何もできず ただ涙を流すだけだった あのときの幼かった君は そうするしかなかった けれど大好きだったあの子の 悲しむ…

星野維人
2か月前
44

詩「小さな声で」

小さな声で 語るもの 言葉少なに 語るもの ひそやかに ささやかに それでいて 確信に満ちた声 なにも押しつけず なにも決めつけず 答えではなく問いかける声 そんな言葉…

星野維人
2か月前
44

詩「なぜ」

伝えられなかった言葉が 忘れた頃に目を覚ます なぜあのとき言えなかったのだろう なぜあのとき思いつかなかったのだろう なぜ伝える勇気がなかったのだろう 時の列車は…

星野維人
2か月前
60

詩「日々」

日々の細やかな一瞬が 詩となり 物語となって 昇華してゆく たわいなく ありふれた出来事も わたしにとって かけがえのないもの 喜びだけでなく悲しみさえも 誰にも分け…

星野維人
2か月前
43

詩「置き土産」

春一番が吹き荒れ ようやく静寂が訪れようとする午後 読みかけの本をそのままに うたた寝をしている窓辺を トントンと叩く音がした 顔を上げて見ても誰もいない 風の悪戯…

星野維人
2か月前
66

詩「ありふれた今」

明日を思い煩うあまり 無駄にしてしまった今日という日が いったいどれだけあっただろう 時間のゴミ箱に捨てられた かけがえのない日々は もう二度と取り戻せない もう無…

星野維人
3か月前
60
掌編小説「大きくなったら」

掌編小説「大きくなったら」

 病院の待合室で、何気なく目の合った小さな男の子がトコトコと私の傍らに来ると、私の顔を見上げて言った。

「ぼく、おおきくなったらおいしゃさんになるんだよ」

 この子は私を誰かと間違えているのだろうか。それとも単なる思いつきなのか。その唐突さに私が戸惑っていると、若い母親が慌ててやって来て、「すいません」と言って男の子を連れて行った。

 順番を待つ患者たちの目が私たちに集まっている。私がどんな

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写真詩「空白の隙間」

写真詩「空白の隙間」

会話が途切れ
無言の時間が
僕と君の間を流れる

僕は僕に没頭し
君は君に夢中だ

言葉はなくても
お互いの存在を感じ
過剰な気配りなどせずとも
心は通じ合っている

この空白の隙間を
無理に埋める必要のない
まったりしたひと時が
僕は好きだ

やがてどちらからともなく
声をかける
ーーお茶でも飲もうか

ふたつの時間が
ふたたびひとつになる

写真詩「言葉の花束」

写真詩「言葉の花束」

あやうく忘れるところだった
今日は母の日だったよね

読書好きだったあなたに
毎年本を贈ってきたけれど
今年は何を贈ればいいのかな

とりあえず感謝をこめて
言葉の花束を贈ります

「ありがとう」
「元気でやってます」

路傍の花が
応えるように揺れていた

写真詩「ときめき」

写真詩「ときめき」

本当は気になって仕方ないくせに
声をかけることも
名前を呼ぶことすらできなくて
ただ妄想ばかり働かせて
悶々といていたあの頃

振り返ると
切なくて
微笑ましい日々

そんな胸のときめきも
はるか遠い昔のこと
あの子は今
どうしているだろう

会ってみたい気もすれけれど
やっぱり会わないほうがいい
あの時のときめきが
消えてしまわぬために

写真詩「遠い輝き」

写真詩「遠い輝き」

それはかつて
確かにこの手の中にあったのに
今は失われてしまったもの

それはかつて
この手で掴もうとしたけれど
果たせなかったもの

それはかつて
追いかけることすらしなかった
かけがえのない何か

その何かは今
手を伸ばしても届かぬほど
遠い彼方へ消えてしまった

思い出にすらできなかった
あの輝き

取り戻せない時間の前で
呆然と立ち尽くす

写真詩「予感」

写真詩「予感」

朝から降り始めた雨が
昼には止んだ
雲間から陽が差して
街はモノクロームから
色彩の世界へと変わる

新しい詩が生まれる予感に
僕は心の扉を開放して待つが
言葉は芽生えもせず
舞い降りもせず
一日の終わりとともに
扉は閉じられる

苛立ちと落胆と
わずかな明日への希望を抱き
僕は眠りにつく
まるで開店休業の詩人のように

写真詩「手紙」

写真詩「手紙」

木枯らしが吹く寒い日に
遥かなるあなたに向けて
僕は手紙を送った

言葉の代わりに
思いだけを託して

「あなたに会いたい」

郵便ポストは空のまま
季節は知らん顔で
僕の前を流れて行った

けれど僕は知っている
路傍に咲く可憐な花が
あなたからの返信であることを

写真詩「今を生きる」

写真詩「今を生きる」

ご無沙汰してます
今年もまた会えましたね
あなたたちの姿を愛でることが
この季節の楽しみのひとつです

僕ですか?
思い通りにはいかないけれど
なんとかこの一年を乗り切りました

その間に失ったものと得たもの
どちらが多いのか分かりません

ひとつ言えることは
余分なものならもういらない
と言うこと

今を愛おしく思えれば
それで十分だと言うこと

僕はまさに今を見つめ
今に耳を澄ませ
今を生きた

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写真詩「ひそやかな訪れ」

写真詩「ひそやかな訪れ」

忘れ物はまだ見つからないのに
新しい季節は足早に巡ってくる

何かに追い立てられるようで
息苦しささえ感じた僕は
ひそやかな季節の訪れに耳を澄ます

春の風に乗って
懐かしい声が聞こえた

紙の本を出版しました

紙の本を出版しました

このたび紙の本を出版しました。
原稿用紙5枚の掌編小説を12編まとめた作品集です。
タイトルは「十二の掌編小説 もういちど」
令和4年の上毛新聞の上毛文芸最優秀賞に選ばれた作品「もう一度」をはじめとして、その前後に入選した作品をすべて掲載してあります。
何本かの作品はすでnoteに発表してありますが、出版化に当たり一部加筆したものもあります。
母親や友達、見知らぬ人、そしてペット・・・自分にとって

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詩「悲しみの心に」         

詩「悲しみの心に」         

肩を震わせて泣いている
あの子を目の前にして
君は何もできず
ただ涙を流すだけだった

あのときの幼かった君は
そうするしかなかった
けれど大好きだったあの子の
悲しむ姿を忘れることはなかったね

誰かのそんな姿を
君はこれから何度も目にするだろう
いつかその震える肩に
そっと手を添える人になれたらいいね

悲しみの心に寄り添える人に
なれたらいいね
労わりの言葉を言える
優しい人になれたらいいね

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詩「小さな声で」

詩「小さな声で」

小さな声で
語るもの
言葉少なに
語るもの

ひそやかに
ささやかに
それでいて
確信に満ちた声

なにも押しつけず
なにも決めつけず
答えではなく問いかける声

そんな言葉を聴きたい
そんな言葉で語りたい
いまこの瞬間を

詩「なぜ」

詩「なぜ」

伝えられなかった言葉が
忘れた頃に目を覚ます

なぜあのとき言えなかったのだろう
なぜあのとき思いつかなかったのだろう

なぜ伝える勇気がなかったのだろう
時の列車は出て行ってしまった

僕の言葉は遅刻の常習犯

詩「日々」

詩「日々」

日々の細やかな一瞬が
詩となり
物語となって
昇華してゆく

たわいなく
ありふれた出来事も
わたしにとって
かけがえのないもの

喜びだけでなく悲しみさえも
誰にも分け与えたくない
それがわたしの生きた証なのだから

そう思いながら
日々の重さを
持て余しているわたしがいる

詩「置き土産」

詩「置き土産」

春一番が吹き荒れ
ようやく静寂が訪れようとする午後
読みかけの本をそのままに
うたた寝をしている窓辺を
トントンと叩く音がした

顔を上げて見ても誰もいない
風の悪戯だろうか
ただ木漏れ日が映し出す
光と影がベランダで揺れている

窓を開けると
梅の花びらがひとひら
そしてまたひとひら
舞い込んできた

きっと春の嵐の名残の風が
お騒がせしましたとばかり
挨拶に来たのだろう
春の香りを置き土産に

詩「ありふれた今」

詩「ありふれた今」

明日を思い煩うあまり
無駄にしてしまった今日という日が
いったいどれだけあっただろう

時間のゴミ箱に捨てられた
かけがえのない日々は
もう二度と取り戻せない

もう無益なことはやめよう
僕自身のために

昨日でもなく明日でもない
今この瞬間をときめきたい

喜びも悲しみも憎しさえも
愛おしく思える今があったなら

それがどれほどありふれた今だとしても