3FacE
へんてこな旅人さんとの物語をまとめました。
3FacEの短編シリーズ第3弾。 今回のテーマは「空」。 同じテーマから生み出される三つ子それぞれの世界へ。
「CAKE」をテーマに紡がれた三つ子それぞれの短編です。
「煙」をテーマに紡がれた三つ子それぞれの短編です。
――これは、すべての迷える人に送る旅立ちのエールである。 僕にはどでかい夢がある。それはもう小さい頃から温めている夢だ。夢の内容はまだ誰にも言っていない。 僕…
2学期最後の授業。美術。美術は得意な方だと思う。小さい頃から絵画コンクールに出せば賞をもらっていたし、中学の時も学校でいちばん絵がうまいと言われていたし、僕も…
寒いなぁ。 ――お前は寒いだろうな。生憎お前に掛けてやる毛布を私は持っていない。 ハァーッ! 畜生! ここに女房がいたら強く俺を抱き締めて暖めてくれるんだろ…
言葉にならない感情を何にぶつけても許される年頃は、当の昔に過ぎた。だからといって、行き場のない感情を放出しないまま、何事もなかったかのように、ただいつもの日常…
暗めの紅い壁紙。しっとりとしたジャズ。渋めの木材の天板と黒のアイアン脚でできたテーブル。カウンター席には、テーブルと同じ椅子。他のテーブル席には、暗めの色のふ…
現在時刻、23時35分。 ふんわりと型の中で焼けていくスポンジケーキ。 オーブンの中でオレンジ色に照らされる生焼けのそれを、まだかまだかとじっと見つめる私。 なんでこ…
「女性と会う約束をしてしまいました」 「そうですか。楽しんできて下さい」 「でも、仕事が」 「何を言っているんですか。その方は、カードに想いを乗せたのでしょう?」 …
雲は出ているが、その後ろで月も負けじと光を放っていた。 デスクの上は整頓されており、右端に写真立てのなかで、夕日に照らされて僕と息子が笑い合っていた。補助輪…
――苦しい。 ――息ができない。 自分が望んだはずなのに、怖くて怖くて仕方がない。 ――あれ? こんなに恋しかったっけ? 地に足をつけるのが、こんなに…
じゅああああ・・・ トントントントン・・・ ぐつぐつぐつ・・・ カタッコンッ コンコンコン ガチャ 「お。今日、生姜焼き?」 それと豚汁。 くんくんと…
2021年11月20日 00:27
――これは、すべての迷える人に送る旅立ちのエールである。僕にはどでかい夢がある。それはもう小さい頃から温めている夢だ。夢の内容はまだ誰にも言っていない。僕の夢は、まだ誰も成し遂げていないことをすることなので、誰かに喋って先にやられたら、計画が水の泡になるからだ。兎に角、言えることは、僕にはどでかい夢があるということだ。***「俺、海外に行くんだ」いつもの、海辺。いつもの
2021年2月1日 21:02
2学期最後の授業。美術。美術は得意な方だと思う。小さい頃から絵画コンクールに出せば賞をもらっていたし、中学の時も学校でいちばん絵がうまいと言われていたし、僕もそう思っている。 だが、今回の課題はやばい。今日提出〆切なのに、なにも描けていない。絵がうまいと自負している僕が白紙。美術くらいしか得意科目がないのに。まずい。まずい。まずい。 よし。取り敢えず、仮病! ―――仮病がばれなかったのは
2021年2月1日 21:01
寒いなぁ。 ――お前は寒いだろうな。生憎お前に掛けてやる毛布を私は持っていない。 ハァーッ! 畜生! ここに女房がいたら強く俺を抱き締めて暖めてくれるんだろうなァ! ――お前に女房はいないはずだが? いねえよ、いねえけどよ。俺は貧乏な家に生まれてクソ親父の言うなりに盗みを働いていたが、本当はそんなことしたくなかったんだ。 金品を貰いに入った家に住んでる奴らみてえに、美人で優しい女房とち
2021年2月1日 21:00
言葉にならない感情を何にぶつけても許される年頃は、当の昔に過ぎた。だからといって、行き場のない感情を放出しないまま、何事もなかったかのように、ただいつもの日常を送れるほど器用でもない。 誰も解決してくれない。何も解決してくれない。 気付けば彼らは空を見上げていた。 今すぐにでも引き剝がしたい塊を抱え、不格好な階段を上り、殺風景な展望台にポツンと佇む二つのベンチに腰を落とし、そして、空を仰
2020年5月25日 18:02
暗めの紅い壁紙。しっとりとしたジャズ。渋めの木材の天板と黒のアイアン脚でできたテーブル。カウンター席には、テーブルと同じ椅子。他のテーブル席には、暗めの色のふかふかのソファ。席によっては、ふわふわのファーまで付いている。 日が顔を出している間は、日の光が優しく店内を漂い踊り、日も落ち切れば、灯りは天井にちらほらと吊り下げられたガラスとアイアンデザインのアンティークランプだけ。カウンターに置かれ
2019年12月1日 22:01
現在時刻、23時35分。ふんわりと型の中で焼けていくスポンジケーキ。オーブンの中でオレンジ色に照らされる生焼けのそれを、まだかまだかとじっと見つめる私。なんでこんな時間にケーキを焼いているのか。明日友達の誕生日だから。否。親の結婚記念日だから。否。彼氏に食べてもらうため?否。そもそも彼氏いないし。このケーキは全部私のモノだ。こんな時間にケーキなんてお肌に悪いよ~とか知らん。聞かん。誰
2019年12月1日 21:56
「女性と会う約束をしてしまいました」「そうですか。楽しんできて下さい」「でも、仕事が」「何を言っているんですか。その方は、カードに想いを乗せたのでしょう?」「・・・・・・」「むつかしいことは、考えないで。君の今の仕事は女性との約束を守ることです。レディをガッカリさせることがないように。これはワタシとの約束です」 ●●● 私の地元は、霧の町として有名だとい
2019年9月1日 21:27
雲は出ているが、その後ろで月も負けじと光を放っていた。 デスクの上は整頓されており、右端に写真立てのなかで、夕日に照らされて僕と息子が笑い合っていた。補助輪無しの自転車でやっと乗れるようになったときの写真だ。朝から練習を始め、何度も転んで泥だらけになり、汗と涙と鼻水で顔をぐちゃぐちゃにしながら、諦めずにペダルに足を掛けていた。僕は息子を見守り頼りなく声援を送ることしか出来なかったが、夕方になり
2019年9月1日 21:06
――苦しい。 ――息ができない。 自分が望んだはずなのに、怖くて怖くて仕方がない。 ――あれ? こんなに恋しかったっけ? 地に足をつけるのが、こんなにも今、恋しく思う。 でも、もう、それも叶うことはない。汚い音だけが、喉から漏れる。 もっと早く知りたかったなあ――。 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
2019年9月1日 21:00
じゅああああ・・・ トントントントン・・・ ぐつぐつぐつ・・・ カタッコンッ コンコンコン ガチャ 「お。今日、生姜焼き?」 それと豚汁。 くんくんと醤油と生姜の甘辛い匂いを辿り、薄くて頼りないクッションに腰を下ろす。もっとふわふわもっちもちのクッションもあるのだが、長身の彼には丁度いいのか、その頼りないクッションがお気に入りらしい。テーブルには二人分の生姜焼き。豚汁とご飯のお