15回目の東京の春に
風は冷たいのに日差しはあたたかい。
そんな2月の昼下がりが一年でいちばんすき。
ふくらみはじめた桜のつぼみを見つけると
今年も春がやってくるのねとうれしくなって
イヤフォンからクラムボンと羊文学を流す。
書きたい気持ちはあるのに
文章を書かなくなったということは
生活の中で言葉を消化できている。
心を開いて話せる人たちに恵まれている。
つまり毎日がとっても充実している。
そんな自分にずっとなりたかったはずなのに
どうしてだろう。
大切な人とお別れをしたような気持ちになる。
会いたい、話したいと言われることは
うれしい。ほんとうにうれしい。
" 相手を傷つけないように "
" 相手に嫌われないように "
" 普通の人と思われるように "
頭の中がそればかりの『私』はとても優秀で
「疲れた、早く帰りたい」という心の声を
完ぺきに隠せるくらいは大人になった。
でもそんな大人に
『わたし』はなりたかったっけ。
ずっと楽しみにしていた
青森県立美術館での奈良美智展。
結婚記念日の自分へ贈った
だいすきな江國香織の川のある街。
ふらりと訪れたポレポレ東中野で
出会ってしまった雨降って、ジ・エンド。
聴きたい音楽も
佇んでしまう絵も
バッグに入っている本も
こころに残り続けだろう映画も
本質的に変わっていない自分に安心する。
たとえ独りぼっちでも
紙の上では素直でいられた自分がいつの間にか
『わたし』になっていたのかもしれない。
できるだけ『わたし』でいられるように。
ときどき『私』も楽しめたらいいね。
そんな大人になれたら素敵だね。
東京で迎える春も15回目。
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