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[短編]運ちゃん:(ホラー)

[短編]運ちゃん:(ホラー)

排気ガスが空気を覆った。夜の東京の町で大人は居酒屋に向かい、若者は仲間とふざけあっている。今日も東京の営みは激しい。
俺は心底疲れきっていた。バカ校に行ったり、そうかと思えばレベルの高い塾に行かされたり。でも、他の塾の奴らはもっと忙しそうにしている。だからこそ、自分に焦燥感が立ち込めてしまう。
でも、もっと恐ろしいのはこの自分であった。俺はここで殺人の念があることを自負する。
この

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[小説]心のきっぷ

[小説]心のきっぷ

主人公の広陽(高校一年生)は一人で18きっぷの旅をしていた。
18きっぷとは一日中、新幹線や有料特急等を除く全ての電車に乗り放題と言うものである。悪く言えば疲れるがよく言えば目的地を最安値で行けたりできる夢のある切符である。

18きっぷで僕はとにかく旅に出たかった。一人で旅をするのが小さい夢だった。いつも、18きっぷで旅行するときは親と一緒だったからだ。
東京を出て大阪や名古屋に泊まっても差

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[小説]惹き付けるもの

[小説]惹き付けるもの

僕が小学生の頃、まだ女子にあまり抵抗がなくボディタッチなどをしていた時の話だ。席替えがあって隣の席が明子になった。明子は普通の顔立ちと言うのがその時の僕のイメージだった。
席替えしてお互いが色々喋れるようになった頃に明子は、僕の机の汚さを指摘した。特に机の引出しである。昼休みや五分休みになると毎回僕を止めては机の整理整頓をする。僕は、そんな状況に苛立っていた。仲のいい友達から、からかわれる

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[短編]幸運の架け橋

[短編]幸運の架け橋

「毎日15分外に出る」

私はこれを忠実に守っている。

それは何故か。

それは、単に幸運になりたいからに過ぎない。

受験勉強の英文で読んだ根拠もないその情報ではあったが、

一日中外に出ないと、その英文に呪われたように反芻してしまうのだ。

出歩く場所は決まっていた。

そう「幸運の架け橋」だ。

その橋は、「幸運の架け橋」という名前には似つかわしくないほど、古く廃れている歩道橋だった。

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[観察日記]specimen 下

[観察日記]specimen 下

僕は痛みを堪えながら、挟まれた指のもう片方の手で、スマホを抱えてクワガタに挟まれたときの対処法を調べた

すると、木に捕まらせる、とか離してくれるのを待つなどのことが書いてあった

その中で、水道の水をかけるという方法があった

もう躊躇は無かった

痛みが、僕を突き動かした

水をかけると、最初は力を入れているのだが、段々と弱まり、やがて解放された

しかし、皮膚に穴が空いていた

充血はしなか

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[観察日記]specimen上

[観察日記]specimen上

まず始めに言っておきたい

題名にも書いてあるが、この話はノンフィクションである

なぜ断っておくかというと、ある生き物に敬意を表したいからである

事実でなければ、この話の意味すらもなくなってしまう

僕は、昆虫が好きだ

小さいフォルムから漂う哀愁や、時に素直な生物に

高校生の頃

クワガタやカブトムシのような昆虫が大好きであった

授業時間、暇な時間を見つけては

クワガタの値段を見て、面

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[小噺]中学校時代、一番怒られたこと

[小噺]中学校時代、一番怒られたこと

中学校の頃、僕はとにかく先生に怒られた。
怒られすぎてもはや、どれが一番怒られたのか分からなくなっている。
だけど、恐らくこれが一番ではないかと思うものがある。
今回は、そんな話をしたいと思う。

中学二年生の頃
国語の授業は、振替授業などがたくさんあり
他のクラスよりも、大きく進度が取れていた

あまりにも、早く進んでいたらしいので
どうやら次のテスト後に控えている書道の練習をさせることで
他の

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[短編]仏の顔

[短編]仏の顔

僕の旧友に秀哉(仮名)がいた。この男と仲良くなったのは小学生の時だ。僕の友達が彼を紹介した。
秀哉は別の学校だったので何をやっているのかがまるで分からなかったが仲良しだった。

秀哉と僕は習い事の書道で仲良くなった。習い事に一緒に行ったり帰ったりしているうちに懇意になった。
秀哉を紹介してくれた友達とは遊ばずに僕と秀哉だけで遊ぶ日も多かった。

遊ぶときは、大体僕の家だった。
外で遊ぼ

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[短編]アゲイン

[短編]アゲイン

 久しぶりに昔の自分の動画を見た。

まだ幼稚園の頃でかわいくてコロコロしている時だ。

そんな幼稚園の思い出の中で、放課後の体育スクールというのがあった。

内容は、鉄棒、跳び箱、縄跳びなどの運動を軽く一時間程度することだった。

僕は三年間続けた。

その証拠に盾が家に飾ってある。

本当にその頃は、楽しかった。

怖いものなんて全くなかったし、すぐに笑うこともできた。

ただ、楽しいことばか

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[小説]野球少年

[小説]野球少年

河川敷を歩いていたら一人でバットを持って素振りをしている少年を見つけた。

「おい、君。誰かと練習しないのかい」

おじさんながらに勇気を出して話しかけてみた。

しかし、彼はそんなに怯えてもいなかった。

「うん。一人で想像しながら打つのが楽しいんだ」

「打ってもないじゃないか」

少し冗談交じりに言ったが、少年は悲しそうな顔をして

「だって、打てないんだもん」

と呟いた。

俺は返す言葉

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