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夕暮短編

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隻眼の天才

隻眼の天才

 大手新聞社で社会部の記者をやっている悠美は、上司のデスクの指示でとある企業の社長にインタビューに行くことになった。その企業は、ユニバーサルデザイン、つまり障碍者にも使いやすいモノのデザインをしていて、その使い勝手の良さが評判になり、創業8年、今や年商10億円の会社なのだという。
 社長は、大学生の時にいくつかのユニバーサルデザインを思いつき、商品化しネット通販を開始。その後、デザイナーとして、ま

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正月という名の終焉

正月という名の終焉

 クリスマスが終わり、また正月がやってきた。年を重ねるほど、正月がやってくるのがとても早く感じるようになってきた。今年も変わらず、例年決まったルーティーンで今年も正月を過ごす。
 元日の今日、初詣に行くと高校の頃の友人である松下に会った。高校卒業以来の再会であるが、高校在学時は割と仲良くしていた友人である。松下は他の人には感じない魅力というものも持っていた。確か彼は地方の旧帝大に行ったと記憶してい

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正義のヒーローなんていない。いても、正義の味方だけだ。

正義のヒーローなんていない。いても、正義の味方だけだ。

タンスの中を探っていると、12年前、21歳の自分が書いた殴り書きが出てきた。

『自分の突き進んでいることが人のためになっている、正義を執り行っている、と思ったら、その人間は危なくてしょうがない。どんな思いでも、「人のために」執り行っていると思い込んでいるものはすべて自分の自己満足のために行っていると思わないと危なくなる。
 人ってものは誰一人完璧でない。自分が正義だと思って突き進んでいるときに、

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人生ゲーム

人生ゲーム

“Life is just a game. Otherwise, you cannot explain what life is.”

 大学の授業のことなんて大人になればほとんど忘れてしまうのだが、なぜかイギリス出身の英語教師が授業中に言い放ったこの言葉を俺は今でも憶えている。「人生はただのゲームである。そうでなければ、人生とは何かを説明することはできない。」俺はこの意味がずっと分からないでい

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きっと君の近くに

きっと君の近くに

©Sterling

 何気ない日常の風景でも意識して眺めてみると、それが意外と美しいものだったりすることがある。30歳を越えてから、そんなことに気がつくようになった。今までは、自分の周りにあった景色なんかに美しいものがあるなんて微塵も思ってなかった。

 そんな話を友人や同僚にすると、こいつ30歳を越えておかしなことを言い出した、と思われているのか、苦笑いをされる。または、今更そんなことに気が付

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幸せの定義

幸せの定義

 私は大学生になって2年目の21歳です。一年浪人してやっと志望大学に入学できました。大学生になって1年目、特に騒がしいサークルに入ることもなく、浪人時代に大学に入ったらやりたいと思っていたビリヤード部に入って、穏やかな生活をしていました。
 大学生といえば、飲んだり騒いだり、若い青春を男女で会話を楽しんだり、羽目を外すこともよくあると思っていました。ただ、普通に生活しているだけではそういう状況に身

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織姫との夏の日

織姫との夏の日

「あ、夏の大三角が見えるよ。」

君が満天の星空の中、特に光る3つの星を指さして、そう言ったのを今でも鮮明に憶えている。

あれは小学校2年生の夏だった。

妹を妊娠していた母親と共に岐阜にある母方の実家で夏休みの殆どを過ごした。

東京でしか生活したことがない僕にとって、群馬の山奥にあるこの田舎は経験したことのない未知の世界で、異次元に自分がいるかのようだった。

そんな中、祖母が母の実家の隣に

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繋ぐ命と空色の想い

繋ぐ命と空色の想い

 俺の父親は所謂「武士」ってやつだったらしい。俺が幼い頃に亡くなっているので俺は職どころか顔を全く憶えていない。小さな藩の身分の低い武士だったそうだ。
 そいつは明治に代わりたての頃に病で死んだ。それを知った時は愕然とした。あの時代に生きていた奴が明治維新を指を咥えて黙って眺めて死んでいったのか。死ぬんだったら赤穂浪士にでも吉村寅太郎でも、いっそ人斬りになり嫌われて死んでいった岡田以蔵にでもなって

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