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読書のあしあと🐾

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日下野由季『句集 馥郁』(ふらんす堂・平成30年)

日下野由季『句集 馥郁』(ふらんす堂・平成30年)

みなさま、こんにちは。
今日は『句集 馥郁』という本を見ていきましょう。

本書は日下野由季さんの第二句集で、第42回俳人協会新人賞を受賞されました。俳誌「海」の編集長をなさっています。

俳人の大木あまりさんが栞文を寄せています。大木さんの「どのページをめくっても、透明な句に出会うことができる」という一節が本書を象徴していると思います。とても素敵な句集です。こういう本はめったに出会うことができな

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熊野御前(ゆやごぜん)―なれしあづまの花やちるらむ―

熊野御前(ゆやごぜん)―なれしあづまの花やちるらむ―

みなさま、こんにちは。
好きな花の香りは?と聞かれたときに、みなさまは何を挙げるでしょうか。
私がまずに頭に浮かぶのが「藤の花」です。郁々たる藤波は晩春の象徴だと思います。

さて、私のふるさと、豊田町(現磐田市)に行興寺という古寺があります。
かつて豊田町池田の地は、旅人の行き交う東海道の宿場町であり、天竜川の渡し場がありました。
なお、天竜川とは、水源の諏訪湖(長野県)から愛知県、静岡県を経て

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アーリング・カッゲ『静寂とは』(辰巳出版・平成31年)

アーリング・カッゲ『静寂とは』(辰巳出版・平成31年)

みなさま、こんにちは。
今日は珍しく海外の方の書籍です。

著者Erling Kagge(アーリング・カッゲ)氏は、世界で初めて三極点(南極点、北極点、エベレスト山頂)に到達した世界的に有名なノルウェーの冒険家とのことです。1963年生まれ。
なお、本書の原タイトルは『SILENCE IN THE AGE OF NOISE』です。

本書は、この命題の答えを見出すための”33の試み”が綴られたエッ

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由季 調『歌集 互に』(ながらみ書房・平成18年)

由季 調『歌集 互に』(ながらみ書房・平成18年)

みなさま、こんにちは。
今日は、由季 調さんの『互に』という歌集を取り上げたいと思います。

この歌集の特色のひとつとして、ひらがなが多用されている点が挙げられます。ひらがなを用いた歌人としては、会津八一が有名ですね。会津八一は総ひらがなの万葉調の歌を遺しています。
それでは、由季さんの歌の世界へ。

ひらながの歌は一首を読むときの滞在時間が長くなります。
「あゐいろ」は「藍色」よりも深い色合いを

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落合直文『御代のほまれ 巻の三』(大倉書店・明治28年)

落合直文『御代のほまれ 巻の三』(大倉書店・明治28年)

みなさま、こんにちは。

学生時代、古本まつりがあるとよく出かけて行って古書を漁っておりました。今日はいつかの古本まつりで買った落合直文著『御代のほまれ 巻の三』(大倉書店、明治二十八年)について、その序文を紹介したいと思います。

みなさまは落合直文(文久元年~明治36年)という人物をご存じでしょうか。歌人・国語学者として知られており、皇典講究所(國學院大學)には晩年まで在職されていたそうです。

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白畑よし・志村ふくみ『心葉:平安の美を語る』(人文書院・平成9年)

白畑よし・志村ふくみ『心葉:平安の美を語る』(人文書院・平成9年)

みなさま、こんにちは。
本年もどうぞよろしくお願いいたします。
今日は白畑さんと志村さんの対談集を取り上げてみます。

私自身、志村さんの御著書はよく拝読するのですが、白畑さんは今回が初めてでした。お二人については下記をどうぞ…。

●白畑よし(明治39年10月29日ー平成18年6月2日)
大和絵研究者であり、女性美術史家の草分け的存在。
詳細は東文研アーカイブズデータベースをご覧ください。
ht

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星野晃一編『改訂版 室生犀星句集』(紅書房・令和五年)

星野晃一編『改訂版 室生犀星句集』(紅書房・令和五年)

みなさま、こんにちは。
作家 室生犀星と聞いて何の作品を思い浮かべますか?
私が犀星の名前を知ったのは、父の本棚にあった『杏っ子』という小説でした。

私は犀星の『蜜のあはれ』に惹かれます。たしか二十歳くらいの少女(しかし金魚でもある)と老作家の軽妙洒脱な対話が見どころの作品です。
「おじさまはどうして、そんなに年じゅう女おんなって、女がお好きなの」
「あたい、せいぜい美しい眼をして見せ、おじさま

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『尾崎左永子 八十八歌』(沖積舎・平成27年)

『尾崎左永子 八十八歌』(沖積舎・平成27年)

みなさま、こんにちは。
本書は少し変わった歌集です。と言うのも、尾崎さんの自筆・自選歌集だからです。一頁に色紙一枚(一首)を掲載しています。

私たちは活字に慣れすぎており、筆跡という美のかたちを半ば忘れているのではないでしょうか。筆跡も含めて一首を愉しみたいと思うのは私だけではないはずです(そう思いたい)。

日本の生んだ美しい文化の一つが、連綿体のかな文字であると思います。文字とは、単に情報を

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長井亜紀『句集 すみれ』(青磁社・令和4年)

長井亜紀『句集 すみれ』(青磁社・令和4年)

みなさま、こんにちは。
今日は句集にしてみました。

本書は、2022年5月に甲状腺がんで亡くなった「古志」同人 長井亜紀さんの遺句集です。
今となってはどこで本書を知ったのか記憶が定かではありませんが、すぐに青磁社の永田淳さんに連絡して送っていただいたものです。
永田さん、その節はありがとうございました。

著者の長井さんについて、私は多くを知りません。ごく限られた情報です。
巻末の文章によると

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