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【作品】ここだけのお話(だいたい無料)

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詩作品/エッセイ/書評ほか(note限定で公開、雑誌からの転載含む)
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#連載

終わりのない回遊魚たちへ

終わりのない回遊魚たちへ

 友人が会社を辞めてフリーランスになった。上昇志向の彼は、度々業界への不満をこぼしていたし、彼が「無能」呼ばわりする上司への愚痴を聞かなくて済むと思うと、異業種の私までホッとした。さっぱりした様子の横顔に「職場の人間関係しんどそうだったもんね」と話を振る。すると、「決定的な理由は実は違って。初めて仕事のストレスで体調を崩したから」と切り出された。退社までの数週間、胃炎で一時通院していたらしい。

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アウェイ上等、スルーしない覚悟のマイライフ

アウェイ上等、スルーしない覚悟のマイライフ

「その気持ち、シェアしよう」と呼びかけてくるFacebookのホーム画面に萎える。シェアできるお気持ち、ねーから。そういえば、某青春ドラマの「オメーの席ねーから!」という過激なセリフが流行ったのは二〇〇〇年代後半のことだった。通学バスの最後尾を陣取り「席ねーから!」「ねーから!」と爆笑する女子集団から逃れ、高校一年の私は二つ折りの携帯電話をお守りのように握りしめていた。

 当時何より恐れていたの

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名もなき時間を歩く

名もなき時間を歩く

 日記を書き続けている。「これを書いて何になるのか」という疑念はとうに尽き果てた。未整理な日々の記録がクラウドメモに積もっていく。考えてみて欲しい。二〇一〇年にスタートした『一〇年日記』のうち、二〇二〇年に無事たどり着いたものはいったい何冊だろうかと。日記の持ち主は、地震にもウィルスにも負けず、元気に三日坊主している。そう信じよう。

 オンライン会議中、仕事相手のこんな話が気になった。「緊急事態

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寝言に耳をかたむけて

寝言に耳をかたむけて

(*1回目の緊急事態宣言解除が発表された、2020年5月24日に執筆したエッセイです)

 今年、母校の大学は入学式の中止を発表した。当然のことのように受け流そうとしたけれど、この春上京した学生の心境が気がかりだ。十年前、二〇一〇年入学予定の私たちは、mixiで知り合い、入学式の朝に校門で待ち合わせた。それっきりの繋がりだった。今年の新入生もZOOMの画面越しに挨拶をして、やはり「それっきり」なの

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不安との付き合い方を考える

不安との付き合い方を考える

 二月某日、町のドラッグストアの前を通りかかると、入荷のトラックの横に客が並びはじめた。行列は瞬く間に隣の二店舗まで侵食していく。見慣れない光景に動揺しながら駅に向かえば、改札手前で力尽きたのか、大量の荷物をおろしてへたりこむ女子高生の集団に遭遇。突然の休校に、まだ呆然としているようだ。箱ティッシュを手に提げて電車に乗る学生たちの姿も目撃した。

 新型コロナウィルス流行の影響で、紙製品や一部食料

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「孤立」についての覚え書き

「孤立」についての覚え書き

年に一回だけ、同じ占い師さんに仕事のことを占ってもらっている。
その人は客を励ましたり褒めたり一切しない。良いことも悪いことも淡々と伝える方なので、行ったところで悩みが晴れたり、安心したりすることはない。むしろ盛大にモヤモヤさせられる。そういうところが唯一気に入っている。

今月、1年ぶりに占いに行ったら、話の文脈は伏せるけど、「このまま流されていると、来年の夏に孤立してる」「誰にも見られていない

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「わたしの現代詩ノート」は、独りよがりな実験である。

「わたしの現代詩ノート」は、独りよがりな実験である。

詩から孤立しないように、詩について何か書いておきたいと思ったのでした。

孤立の中に詩があるというのに脆弱な、という意見もあるだろうけどね。
おまえが孤立してるのは○○(世間、とか業界的な何か)からだろ! という突っ込みも脇に置いておくよね。

○「わたしの現代詩ノート」について
「わたしの現代詩ノート」と名づけて、詩について書くマガジンをはじめてみることにした。
穂村弘さんの『ぼくの短歌ノート』

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認めなければ、はじまらない ―2016年の終わりに

認めなければ、はじまらない ―2016年の終わりに

おかげさまで、2016年は2冊新刊を出すことができました。
初めてのエッセイ集『洗礼ダイアリー』と、3年ぶりの新詩集『わたしたちの猫』。どちらも、これまでの人生25年間に感じ取ったことを総括するような、大切な1冊となりました。
力を尽くしてくださったポプラ社、ナナロク社の編集者の方、
そして読者の皆さんの存在なしには、出来上がらなかった本です。

11月に入ったとき「やっとここまで来た…」と、布団

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【番外編vol.2】私は詩人じゃなかったら「娼婦」になっていたのか?裏話

【番外編vol.2】私は詩人じゃなかったら「娼婦」になっていたのか?裏話

 このnoteは、cakes掲載のエッセイ「私は詩人じゃなかったら「娼婦」になっていたのか?」の番外編vol.2です。

 なお、cakesのエッセイは、無料公開を1週間に延ばして頂きました! 8/31(水)午前10時まで無料で読めます。それ以降も、1週間無料のお試し購読か、有料会員に登録すると、最後まで読めます。

▶︎第9回 私は詩人じゃなかったら「娼婦」になっていたのか?
※8/31(水)午

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【番外編vol.1】私は詩人じゃなかったら「娼婦」になっていたのか?裏話

【番外編vol.1】私は詩人じゃなかったら「娼婦」になっていたのか?裏話

教授は「ふづきさんにいくつか質問をします」を告げるなり、こう尋ねた。

「cakesの連載で『詩を書いていなかったら、キラキラした女子になれたのでは?』と編集者に言われた、とあるね。でも、果たしてそうなのか。逆のパターンもありえたんじゃないか。『女子大生風俗嬢』という本も話題になっていてね。詩人と娼婦は似た部分があると思うんだ。
 もしかしたら、ふづきさんも詩を書いていなかったら、風俗嬢になっ

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【連載・番外編】不敵な女優と、臆病な詩人のボクシング体験

【連載・番外編】不敵な女優と、臆病な詩人のボクシング体験

 cakesにて連載中の〈臆病な詩人、街へ出る。〉。こちらnoteでは、連載の番外編を写真と共にお届けします! 本編と合わせてお楽しみください◎

▶︎第8回 鏡の向こうにストレートを一発 ※6/16(木)まで無料
https://cakes.mu/posts/13199

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 恋愛音痴( https://cakes.mu/po

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【連載・番外編】あなたの告白をエッセイに書きます、と伝えてみたら

【連載・番外編】あなたの告白をエッセイに書きます、と伝えてみたら

cakesにて連載中の〈臆病な詩人、街へ出る。〉先週から続けて2本更新されました! こちらnoteでは、連載の番外編をお届けします。

最新回「恋愛音痴の受難」は……
立て続けに2人の男性から告白されて、大混乱…!?
告白から返事までのやり取り、私の恋愛音痴ぶりをまっすぐに綴っています。

「自分と結ぶ一番星を見つけなさい」と恋の神さまは命じる。
▶︎第6回 恋愛音痴の受難〈前篇〉※5/13(金)

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【連載・番外編】女磨きの迷宮へ

【連載・番外編】女磨きの迷宮へ

cakesで連載中の〈臆病な詩人、街へ出る。〉第5回「ガラスの靴を探して」の番外編を、写真と共にお届けします。
本編第5回の無料公開は3/22(火)まで。この記事とセットでご覧ください。
https://cakes.mu/posts/12476

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 美容記念日に寄せて書き下ろした詩「うつくしい生活」。この詩の朗読をラジオで聴か

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【雑記】cakesで連載を始めた話/新年会に潜入!の巻

【雑記】cakesで連載を始めた話/新年会に潜入!の巻

ご無沙汰しております、文月悠光です。本年もよろしくお願いします。
最近も変わらず、ひたすら書いて、ときどき朗読して、散歩の犬に怯え、
「一人だなあ」と思いながら本を読み…という毎日を過ごしています。

そんな私、cakesで連載を始めることになりました!

連載〈臆病な詩人、街へ出る。〉は、
世間知らずで、夢見がちで、冴えない私(24)が
未経験の事柄に飛び込んでいく体験型のエッセイです。
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