抽斗の釘

小説、散文、文章、短編、いぬ /30代 /退職し小説を書いています。//掌編小説を掲載…

抽斗の釘

小説、散文、文章、短編、いぬ /30代 /退職し小説を書いています。//掌編小説を掲載/公募に向け中編小説を制作//fav.📖川端康成、織田作之助、芥川龍之介//🎧スーパーカー、サカナクション、Spangle call Lilli line………

マガジン

  • 駄文 | 抽斗の綿

    散文をまとめていきます。

  • 短編小説 | 銀河

    「ピピツピ。応答せよ。応答求む。ピピツピ。応答せよ」

  • 短編小説 | 水鳥

    「そんなこと(も分からないのか。子供の落書きじゃないんだ。リアリティとイメージが交錯して作品が出来上がる。それが分からないなら、お前が口を出す資格なんて)、ないよ」

  • 短編小説 | 閾

    夜な夜な山羊の声で遠吠えを繰り返す狂った犬がいるなら、まさしく赤子はその様だった。

  • 短編小説 | 浮気者

    「呼んでもええけど、あんたみたいな燃えへんゴミは専門外どす。月曜日にお迎え来るで」

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短編小説 | 水鳥 #1

 夕暮れの鉄橋を電車が走り抜けていく。  落陽は西空から車両の脇腹を照らし、銀の車体や薄緑の橋の支柱、そして河川の水面なども所々白く瞬いていた。  その斜光は車窓からも入り、乗客の顔や胸を一様に杏色へと変えていた。ただ、年末のことであるから車内の様子は普段と異なり、学生などのにぎやかな声はない。座席に沈む人々は木々に休む鳥のように皆並んでくつろぎ、たそがれの安らかなひと時を思い思いに過ごしている。  コートの毛くずをひろう人、マフラーを口元に上げる人、髪先のほつれを直す

    • 駄文 #31 秘かな便り、あまりにも

      こんにちは、抽斗の釘です。 4月に入りました。新しい生活がスタートする季節です。 新しい場所、新しい環境に、期待で胸を膨らませる方も多いのではないでしょうか。 かくいう私は便秘です。 胸など膨れず、大腸ばかりが膨らんでいます。 快便が唯一の長所と言ってもいいような私でした。 しかし不摂生か年齢のためか、ここに来て便秘という壁にぶち当たることに。(壁にぶち当たっているのは便もそうですが、今は心の話です) 気配はあるのに出てこない。いざ座れば遠のいていく。 なんなんでしょう

      • 駄文#30 きみは過去か私が未来か

        こんにちは、抽斗の釘です。 自分の子供の顔を眺めていると、私自身が重なることがよくあります。 写真で見た自分の幼い頃の姿とそっくりなのでなおさらですが、よく泣くところなどを見ていると、昔の自分の心が思い起こされる感じがします。 何かにつけて、悲しかった。 初めから、心がやわだったのでしょうか。 嬉しさや楽しさももちろん覚えている気がしますが、ひときわ強く思い起こされるのが悲しさです。 それはもしかしたら記憶ではなく、子供の泣き顔から、勝手に共感を起こされているに過ぎないの

        • 駄文#29 三番の歯

          こんにちは、抽斗の釘です。 虫歯ってしつこくないですか。 やっと治療を終えて、通院も治療費もオサラバだって安心していたら、また翌年にひどい虫歯が見つかったり。 本当はコンスタントな検診が必要なのでしょうけれど、なかなか、痛くなければ歯医者って忘れてしまうものです。 このたび、奥歯が全滅の運びとなりました。 これで奥歯4本すべてが銀歯です。 唯一無傷であった右下の奥歯、頬の肉に隠れるところに虫歯が見つかったのです。 年が明け、治療を開始、歯の半分ほどが削られてしまいました

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        短編小説 | 水鳥 #1

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        • 駄文 | 抽斗の綿
          27本
        • 短編小説 | 銀河
          4本
        • 短編小説 | 水鳥
          4本
        • 短編小説 | 閾
          4本
        • 短編小説 | 浮気者
          4本
        • 短編小説 | 月か花
          4本

        記事

          短編小説 | 雷(いかづち)の信者 (下)

          「殺したい?」 蓼彦は少なからず驚いた。田子なら、相談する前にもう手が出ている。手伝うということは、彼女らしくない計画性、慎重さを思わせる。 「私はもう、こうやってここに来ないかもしれないから」 蓼彦は田子の横顔を見た。変わらず美しい目であった。その目に惹起され、蓼彦は未だここにいる。そうすれば蓼彦もひとりの信者に違いないのだが、唯一、田子から去らない人として、彼女は少なからず蓼彦に親しみを覚えたのかもしれない。蓼彦にとっては横にいるだけで最良なのだが、協力を仰がれたと

          短編小説 | 雷(いかづち)の信者 (下)

          短編小説 | 雷(いかづち)の信者 (上)

           野焼きの煙が市街まで流れ込んだ。駅前には焦げ臭い香りが漂う。空は雪曇りだった。  街路樹の間には、一組の男女が立っていた。女は水色のフェルト帽を被り、同色のコート、丈の短いスカートに黒いブーツを履いている。そして長身、帽子の分、並ぶ男より高く見える。男の方は茶色のハンチング帽に同色の革ジャン、下はチェック柄のスラックスにマーチンのブーツだった。季節がら、これからウィンターソングでも披露しそうな雰囲気だったが、周囲に楽器の類はみられない。代わりに、二人の間には背の高いブッ

          短編小説 | 雷(いかづち)の信者 (上)

          駄文#28 やさしいおじさんこども

          こんにちは、抽斗の釘です。 寒くなってきました。気候もいよいよ暦に追いついてきた感じです。外出には冬物のコートとマフラーが必要になってきました。 しかしそんな寒風の中でも、犬と子供は元気なもので。 犬の散歩のときにはいつも公園を通るのですが、半袖で野球やおにごっこをする子供たちを見かけると、彼らの生命力の強さに感心してしまいます。 子供が元気にグラウンドを走る光景は公園だけではなく、保育園の園庭でも見られました。 保育園を数件回ってみると、聞いていた通りどうやらどこも混み

          駄文#28 やさしいおじさんこども

          短編小説 | 柿

           夕飯の支度が済み、夫の帰りを待つ間にリンゴを切っておこうと思った。  包丁を入れ実を割ると、種と芯の部分に白い綿のようなものが生えていた。黴である。しかし今からスーパーに戻って交換を頼む気にもなれない。包んでいたビニール袋に手早く戻し、口をきつくしばって、ゴミ箱へ放り込んだ。  程なくして、夫が帰った。手には大きなビニール袋がある。暖色の無数の影が房となるのがうっすらと見えた。 「なあに、それ」 「柿。貰ったよ」 「……なんで?」 「なんでって」 聞けば、上司

          短編小説 | 柿

          駄文#27 キャンプ道具のある暮らし

          こんにちは、抽斗の釘です。 3か月かそれ以上、中編の制作に集中しておりました。それが10月末に済み、しばらく惰眠を貪っておりました。 さて、かれこれ趣味というものを持ち合わせていなかった私ですが、今年の夏からキャンプを始めてみました。といってもテントで宿泊、とまではいかず、もっぱらピクニック程度のデイキャンプです。 流行も少し落ち目がち、ということらしく、またきっかけというものはほとんどありませんが、癒しを求めてブッシュクラフトの動画を漁るうちにキャンプ動画に出会い、見て

          駄文#27 キャンプ道具のある暮らし

          駄文#26 熱にうなされて

          こんにちは、抽斗の釘です。 インフルエンザに罹り、ここ数日寝ておりました。 今年は流行、とは聞いていたものの、季節はまだまだ秋口。 予防接種の予定すら立てていない無防備な状態。完全に油断しておりました。 ここ数年のコロナ禍もあって、インフルエンザに罹るのはもう5、6年ぶりのことです。 まず思うことは加齢によって年々風邪の類がしんどくなるということ。 10代20代ではむしろ学校を休めてラッキーだったり、仕事休めて助かったという気持ちが強かったのですが、しかし30代の風邪は

          駄文#26 熱にうなされて

          駄文#25 ズキズキでビリビリ

          こんにちは、抽斗の釘です。 日常生活を行っていると、定期的に起こる出来事、というものがいくつかはあるものです。 私にとってその一つが寝違え。 ひどい寝違えを起こしてしまい、先日から近所の整骨院にお世話になり始めました。 冒頭申し上げたように寝違えは私にとって珍しいことではなく、数か月から半年の間隔で起こります。 だいたいは、ある角度に首を曲げると痛む、それが2、3日続いて治る、といった具合です。その角度さえ厳守すれば問題はありません。 しかし今回は朝の目覚めとともに

          駄文#25 ズキズキでビリビリ

          駄文#24 半分こせねばならぬとき

          こんにちは、抽斗の釘です。 海の日と聞くと山を思います。 なぜなら海の日にまつわる山の思い出があるから、 というわけでもなく、自然と海とくれば山を連想してしまいます。 これはなんというか単純なあまのじゃくの連想、といった感じでしょうか。 とにかく私は海の日に山での思い出に耽るのです。 毎年1年に一度、ある山へ初詣に登るのがここ数年のゆるい習慣になっています。 標高900メートルぐらいの、登山界では初級~中級ぐらいとされるそれほど高くない山で、登りに3時間、下りに1時間半

          駄文#24 半分こせねばならぬとき

          短編小説 | 歌声 #4

           雨脚が強くなり、霧雨は本降りとなった。  内海は帰るなりソファに座るとブランケットを肩まで被り冷えた体を包んだ。夏だというのにずいぶん寒い思いをしている。衰えた体はなかなか温まらなかった。  見回せど、家の中は内海独りである。変わったことといえば新しくテーブルに置かれた食事ぐらいのものだった。宅食の配達員には合鍵を渡してある。内海の帰りが遅い日はそうやって置いて行ってくれる。が、冷えた食事には手を付けられそうになかった。  今日出会った人々の影が、内海の頭のなかでぐる

          短編小説 | 歌声 #4

          短編小説 | 歌声 #3

           内海の車は図書館の駐車場に停まった。恐れは落ち着いたがまだ不気味さは拭えなかった。霧雨は続いている。どうかすればまた軒や木陰に袈裟の影を見出せそうだった。エンジンを停めた車のガラスには静かな雨音が聞こえた。車の中は孤独であった。内海の心は整然とした場所と、若い者の活動を求めすがろうとしていた。  図書館はそんな内海の心持によく合っていた。近年リノベーションを果たしたその公共図書館は建物が大きく天井も高い。カフェスペースなども増設され、平日でも若者や親子連れが出入りした。

          短編小説 | 歌声 #3

          短編小説 | 歌声 #2

           内海老人は喫茶店で過ごすことを日課としていた。とはいえ、そこに仕事や用事があるわけではない。持て余した余生を雑誌や新聞の記事の講読に使うのである。が、ゴシップや世事に余生を彩る力はない。それはむしろ口実だった。  通う喫茶店は郊外にあるチェーン店の新店である。旧市街に自宅を構える内海は毎日のように峠道を越え、その開発中の土地に向かった。開発地には真新しい住宅が並び、それでもさらに山は削られ平らな茶色い景色がまだあちこちに広がっている。新生の地に美しい家を建てるのは若い夫婦

          短編小説 | 歌声 #2

          短編小説 | 歌声 #1

           霧雨の向こうから水銀のひと塊が音もなくすり抜けてくる。  山間の車道をなめらかになぞりながら、それはやがて新緑の下へと滑り込んだ。そのさい梢が傘となって霧雨が途切れ、水銀は正体をあらわした。旧型のマーチボレロである。  ボレロは濡れて光るアスファルトの上を油のように滑り曲がると、再び新緑と霧雨とが混じる水彩の中へ静かに溶け込んでいった。  運転席には蝋のような老人の顔があった。  古いバケットハットに額を隠し、つばの陰からは厚い瞼の目が覗く。それは光なく、焦燥の瞳だ

          短編小説 | 歌声 #1