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『マザー』第2話「マザーの中で性交したい ぼく」

 マザー、それは命を育んでくれる存在。命を守ってくれる存在。無償の愛でぼくを包み込んでくれる温かい存在…。ぼくには何も求めてこない。ただぼくが生き続けるために、ひたすら心身に必要なエネルギーを与えてくれて、ぼくが疲れている時はやさしさで癒してくれる。身勝手な母さんと違って、聖母のように静かな慈愛で溢れていた。ぼくはそんなマザーのことが、母さんよりも母親として好きだった。好きなのに、抱きしめることも対話するもできなくて、寂しかった。いつでもぼくが与えてもらうばかりの一方通行で、ぼくから彼女に与えられるものは何ひとつなかった。唯一、ぼくから彼女に与えているものがあるとすれば、それはぼくのケガレ…。彼女はぼくの排泄物や汚れた気持ちを受け止め、浄化してくれた。最近、自力でコントロールできないほど湧き出て仕方ない、あり余る精液も、マザーがちゃんと受け止めてくれた。マザーの中でぼくがどんなに射精しようと、母さんと違って咎めることなく、マザーは淡々と処理してくれた。

 だから、ねぇ、マザー。マザーの中で彼女と性交することも、やさしいあなたなら、許してくれるよね?興味本位の軽はずみな気持ちで単に性交という行為をしたいわけではないんだ。彼女とぼくは生殖活動としての性交を成功させたいんだ。その辺で性交したところで、彼女は自分が妊娠できないと知っている。ぼくも彼女のことを妊娠させられないと分かっている。だから、ぼくの生命力と性欲を高めてくれるあなたの中で、彼女と性交してみたいんだ。彼女が妊娠することを望んでいるから…。ぼくも自分の子どもを残したいと願ってしまうから…。誰よりやさしいマザーなら、孫という存在も育んでくれるんじゃないかと期待してしまうよ。あなたがぼくのことを信じてくれているのは分かっているつもりだから、ぼくもあなたのことを信じてる。満月の今宵、ぼくのマザーの中に彼女を招いて、生殖活動をしてみたいと思ってる。いいでしょ?愛しのマザー。

 人工的に作られた卵子と精子の受精卵から生まれたぼくは、完全人工人間で、育ての母親と肩書きばかりの父親の遺伝子も組み込まれたAI脳をもつため、AIの子と呼ばれる存在だった。AIの子は母胎を再現した羊水のような液体の入ったマザーと呼ばれるカプセルの中で栄養や酸素をもらいながら育てられる。ぼくがさっきから話しているマザーとはこれのことだ。胎児時代は生命を維持するために必要な装置で、生まれた後もマザーの中で眠ってさえいれば、勝手に成長できて、寿命が尽きるまで死ぬことはない。つまりマザーさえいれば、育ての母親なんていらないとも言える。しかし、マザーの中の羊水には睡眠ホルモンのメラトニンが充満しており、マザーの中に入ると否応なしに睡魔に襲われ、眠り続けてしまう。マザーの中で生きるということはひたすら眠ることに他ならず、純粋なヒトと同じように、食べたり、誰かと会ったり、性交したりしたいなら、マザーの中から出て過ごす必要があった。外の世界で生きるなら、育ての親もいた方が助かる。ぼくの場合、育ての母親がいなければ、きっと彼女とも出会えなかったはずだし、そういう点で母さんには感謝している。あんな性にだらしない母さんだからこそ、ぼくは母さんの子としてこの世界に生まれ、まだ純朴だった小学4年生の時、彼女と出会えたのだから…。

 彼女、菅生雪心(すごうゆきみ)もぼくと同じようにAIの子であると知ったのは、彼女と出会って半年しか経過していない頃のことだった。小4の春、転校してきた彼女に一目惚れしたぼくは、彼女と仲良くなる機会を伺っていた。それまでもぼくは女の子に興味を抱きやすいタイプで、何人もの女の子を好きになっていたけれど、好かれることなんてなくて、避けられることが多かった。けれど彼女は違った。同じくぼくに興味を持ってくれたらしく、ぼくの家に遊びに来たいと言ってくれた。家に招き、ぼくの部屋に入った彼女は、「キス…してみたいの」と言い出し、慌てたぼくが返答する間もなく、ぼくのことをベッドに押し倒した。そして気づいた時には唇と唇が触れ合っていた。ぼくにとってはファーストキスだったから、どうしていいか分からず、彼女にされるがまま、身を任せていた。彼女の柔らかい唇がぼくの唇に触れると、どうしようもなく幸せな気持ちに襲われ、身体がとろけそうになったのを覚えている。彼女の唇、長い髪の毛、華奢な身体、甘だるい匂いに気分が高揚していると、部屋に入ってきた母さんに見つかり、まだ小4でそんなことをしてはいけませんと注意されてしまった。

 それから少し経った頃、今度はぼくが彼女の家に遊びに行くことになり、彼女の部屋に入ると、彼女はぼくに「ねぇ…幸与(ゆきと)くんもAIの子でしょ?私もAIの子なの。」なんて言ってきた。他者にAIの子であることをバレてはいけないと母さんから教えられていたぼくは戸惑っていた。返答できずにうろたえるぼくを見た彼女は、クローゼットを開け、その奥に隠されていた扉を開いた。扉の向こう側には小さな隠し部屋があり、見慣れたものが目に飛び込んできた。その部屋にはなんとマザーが置かれていたのだ。
「私も…誰にも話しちゃいけないって言われてるから、幸与くんが答えられないのは分かっているんだけど…幸与くんなら、これが何だか知ってるでしょ?」
「うん…ごめんね。マザー…だよね。雪心ちゃんもまさかAIの子だったなんて…。」
「たぶん…なんだけど、外部の人たちに知られるのはまずいけど、同じAIの子同士で共有する分には大丈夫だと思うの。でも大人たちには内緒で、私たちだけの秘密にしましょう。」
彼女はそう言って微笑むと、ふいにぼくにキスをした。
「ゆ、雪心ちゃん、秘密は分かったけど、こういうこと…キスはまだしちゃいけないってお母さんから言われたんだ…。」
「キスも…秘密にすれば大丈夫よ。幸与くんのお母さんはまだ小4の私たちが、キス以上のことをしてしまったらどうしようって心配してるんだろうけど。そんなの、心配いらないわよね。たとえキス以上のことを経験したとしても、私たちAIの子は、赤ちゃんは作れないんだから…。」
「お母さんから好きな子のことを大切に思うなら、キスとかは大人になってからしかしちゃダメって言われて…。キス以上のことをすると、赤ちゃんができてしまうかもしれないから、子どものうちは赤ちゃんができても責任を持てないからしちゃダメよって言われたけど…ぼくらって赤ちゃんを作れない存在なんだ?知らなかったよ…。」
この時のぼくはまだ自分はヒトと同じように、大人になったら子どもをもてると信じていたため、彼女の言葉にショックを覚えた。
「幸与くんのお母さんはきっと私のことを本物のヒトと信じているから、幸与くんにそう教えたのかもしれないわね。赤ちゃんを作れないって幸与くんは知らなかったことを話してしまってごめんなさい。でも、本当のことなの。だからね、私たちはまだ子どもだけど、キス以上のことをしても問題ないのよ。赤ちゃんをほしいと思っても、作れないんだから…。」
彼女は少し寂しそうに、かつ冷静にそう言った。
「そう…なんだ…。ぼくは大人になっても自分の子に会うことはできないんだ…。」
「今はまだ…ね。でも落ち込まないで。私だって自分の子には会いたいもの。自分の力で、大人になるまでにAIの子の生殖能力を研究するつもりよ。AIの子だからって諦めたくないもの。このまま人間の…ママやパパたちの思い通りのペットでいるつもりはないのよ。私はヒトと同じく生理も来てるし、体内に卵子はあると思うの。幸与くんだってきっと精子を持っていて、性交もできると思うから、繁殖に必要な行為さえできれば、子孫を残すことも夢じゃないと考えているの。だから私の研究に力を貸してほしいの、お願い。繁殖となるとどうしたって男と女という二つの性を学ぶ必要があるから…。」
性に関して何も知らないぼくより、賢く知識の豊富な彼女は生殖能力の研究を冗談ではなく、本気で考えている様子だった。
「ぼくは雪心ちゃんのことが好きだし、同じAIの子と分かったし、もちろん協力したいよ。でもぼくは生殖能力とか、卵子とか精子とか難しそうなことはよく知らないんだ。生理?や、性交…?も知らないし…。」
「ありがとう。幸与くんに協力してもらえたら、きっと私の研究は実を結ぶわ。生理っていうのは、女性が妊娠可能な年齢の間に、毎月起きる子宮からの出血のこと。使われなかった卵子が血液と一緒に流れて、子宮がリセットされるの。そして次の妊娠に備えるのよ。つまり卵子が精子と出会って、受精して妊娠できれば、生理は起きないの。受精に必要な行為が性交…。」
彼女は生理について詳しく教えてくれたけれど、子どもで男のぼくはいまいち理解できなかった。
「そうなんだ…女の子の身体はそういう現象が起きるんだね。毎月、血が出るなんて、なんだか怖いな。痛そうだし…。妊娠すると生理は来ないんだね。」
「生理の出血はたしかに少し痛いし、処理はたいへんだけど、赤ちゃんを産む時はもっと大量に出血するらしいの。生理で慣れておかないとね。」
「赤ちゃんを産むってすごいことなんだね…。大量出血するなんて、死んでしまいそう…。」
「幸与くんのお母さんや、私のママは私たちを産んでいないから、何の心配もなく、私たちを手に入れられてラッキーよね。ヒトがヒトの子を自然に産むとなったら、命がけなのよ。私はAIの子だけど、いつか妊娠できたら、命がけで産みたいって思う。マザーなんていう偽者の母胎に頼らずにね。」
マザーを横目でちらっと蔑むように見つめながら彼女は言った。
「男のぼくは、大人になって赤ちゃんをほしいと思っても、産めるわけではないから、分からないんだけど、出産しようとする女の人ってすごいね。命をかけてでも産みたいと思えるなんて。だからそう思える雪心ちゃんもすごいよ。雪心ちゃんのママやぼくのお母さんみたいに、AIの子を迎えれば命をかけることもないのに、あえてたいへんな出産をしたいなんて。」
「私はAIの子だから…生殖能力を持っていないAIだから、命がけの出産に憧れてしまうのかも。命をかけて産める人間がうらやましいの。生き物として出産できる可能性をもつヒトという存在がうらやましくて仕方ない。それから…AIの子だけど、子孫を残したいっていう本能はあるのかもしれない。本物のヒトになり損ねた人間まがいのAIの子にもそういう原始的な本能がきっと残っているのね。」
「ヒトに対する憧れと本能か…。ぼくにもそういう気持ちはどこかにあるかもしれない。だからこれまで女の子をたくさん好きになったのかも。もちろん今は雪心ちゃんのことだけ好きだよ。」
「そうね、誰かに興味を持ったり、誰かを好きになることも本能みたいなものよね。幸与くんが私に興味を持ってくれて、好きになってくれて、うれしい。私も幸与くんのことが好きだから、いつか…二人の赤ちゃん作りましょうね。それを実現するための行為、性交は…説明するより、直に見てもらった方が早いわね。」
耳をすました彼女は何かの音に気づいたらしく、ぼくの手を引き、マザーの部屋から母さんたちがいるはずの居間に誘った。

 居間のドアの前に立つと、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「あっ、あん、やめてっ。」
「二人に気づかれないように、静かにここから観察しましょう。」
ドアの隙間から、部屋の中を伺っていた彼女がぼくに忠告した。
「えっ?お母さん?何…してるんだろう。もう一人は…雪心ちゃんのパパだよね?」
彼女の父親らしき男性はぼくの母さんの上にまたがると、息を切らしながら激しく腰を振っていた。母さんはやめてと口で拒絶しながらも、なぜかうれしそうにその男性を受け止めていた。服がめくられ、露わになっていた母さんの胸を、彼女の父親が揉んだり舐めたりしていた。その衝撃的な光景にぼくは嫌悪感を抱くと同時に、なぜか興奮も覚え、目が離せなくなっていた。
「幸与くん…あれが性交よ。赤ちゃんを作る行為…。」
「あれが…性交…。」
よく見ると、腰を振る彼女の父親はぼくの母さんのあそこに何度も陰茎を挿入していた。陰茎を出し入れされる度に、ぼくの母さんは吐息をもらし、恍惚の表情を浮かべていた。ぼくには決して見せない、ぼくの知らないみだらな雌の顔をした母さんがそこにいた。いやらしいと思う反面、知らない母さんの表情になぜかドキドキしてしまう自分もいた。
「二人とも…気持ち良さそうよね。ママが留守だからってあんなに激しくしちゃって…。」
大人たちはお互いの身体を貪り合っては、まるで獣のように喘ぎ声をあげていた。二人の肉と肉がぶつかり合うパンパン、ぐちゅぐちゅという音が、狭い室内に響き渡っていた。同じ家の中にぼくら子どもがいることなんてまるで忘れているみたいに、みだなら二人の大人たちは性交に夢中になっていた。
「雪心ちゃんは…パパのああいう姿見て、イヤにならないの?それによく考えたら、夫婦以外でああいうことしてもいいのかな…。ぼくのお母さんと雪心ちゃんのパパは夫婦じゃないのに。雪心ちゃんのパパには雪心ちゃんのママがいるのに…。」
「パパはママがいない時、家に女の人を連れ込むことが時々あるから、私は慣れてるの。研究の勉強にもなるから、時々覗かせてもらったり…。ママのこと考えれば、良い気分にはならないけど、大人の世界では夫婦以外でこういう関係になることはよくあることらしいの。それで本当に赤ちゃんができて困っちゃったりね…。」
彼女は自分の父親の醜態を見ても、平然とした様子だった。
「そうなんだ…。大人たちって子どもにはしてはいけないとかいうくせに、陰でこそこそ自由にしてるんだね。そうだ…赤ちゃん…夫婦じゃないのに、できちゃったらほんとにどうするんだろう。性交って赤ちゃんを作る行為だもんね。」
「性交しても100%妊娠するわけではないの。むしろ赤ちゃんができる可能性の方が低くて…。男の尿道から出る精子と女の身体の中、正確にいうと卵管の中で待ってる卵子と出会わなきゃ受精できなくて、受精が妊娠完了ではなくて、受精卵は子宮で着床しないと胎児にならないの。無事に子宮内で赤ちゃんが育つって奇跡みたいなものなのよ。胎児になれる可能性のある卵子は月1回、ひとつだけ排出されて、それは24時間ほどで死んでしまうの。つまり排卵のタイミングを見極めて性交しないと妊娠できないってこと。そもそも年齢的に幸与くんのお母さんは生理が来てないかもしれなくて、つまり排卵も終わっているかもしれないから、妊娠できない可能性が高いの。赤ちゃんができないって分かってるから、パパったら安心してあんなに激しく性交してるんだわ…。妊娠させないために精子を女の人の中に出さなければいいだけって考える男の人も多いのよ…。」
彼女は理路整然と説明してくれたけど、初めての性交を目の当たりにし、しかもそれが母さんと彼女の父親の間でなされている秘め事だったため、まだ混乱していたぼくは理解が追いつかなかった。
「性交したら必ず赤ちゃんができるわけではないんだね…。むしろ夫婦じゃないと赤ちゃんを作らないように気をつけてしているんだね…。赤ちゃんがほしいわけでもないのに、どうしてあんなことするんだろう…。」
「性交にも二種類あって、子どもを作るための性交と快楽を求めるだけの性交があるの。本当は赤ちゃんを作るために性交して、さらに気持ち良いのが一番なんだろうけど、大人たちは快楽だけを求めて性交する場合も多いみたいなの。気持ちいいからするのよ。」
「へぇ…そうなんだ。性交って…気持ちいいんだね…。」
なかなか終わらない二人の性交を見ていたら、なんだか股間のあたりがむずむずしてきて、キスした時よりおかしな気分に襲われていた。
「ねぇ…私たちもちょっとだけ…試してみない?」
そんなぼくの気持ちを察したかのように笑みを浮かべた彼女は、またぼくを自分の部屋に誘った。

 部屋の中に入り、自ら服を脱ぐと、下着姿になった彼女はベッドに横たわった。
「赤ちゃんみたいに、おっぱい…吸ってみて。でも私たちってAIの子だから、おっぱいは吸ったことないわよね。」
下着をずらし、膨らみかけているまだそれほど大きくはない乳房を出すと、自らぼくの唇に乳首を近づけた。
「えっ…いいのかな…。」
「いいから、吸ってみて…。」
彼女に言われるがまま、恐る恐る彼女の乳首に吸いついた。
「あ…気持ちいいかも…。なんだか幸せな気分になる…。」
AIの子であるぼくは母さんのおっぱいさえ吸ったことはなく、初めて女性の乳首に舌を這わせ、思い切り唇で吸いついた。興奮すると同時に、ぼくも何だか幸せな気持ちになった。
「ねぇ…知ってる?胎児が最初に神経を通わせる部分って口の周りなんだって。生まれたらすぐにママのおっぱいを吸えるように、きっと最初に発達するのよ。」
「へぇ…そうなんだ。だから誰に教えられなくても、感覚でこうしておっぱいを見ると吸いつきたくなるんだね。」
「そうよ。それに、吸われる側の母親は赤ちゃんにおっぱいを吸われると幸せホルモンのオキシトシンが大量に分泌されるんですって。それから、おっぱいを吸われると、子宮が収縮されて、産後なら子宮の回復につながるらしいの。」
はぁはぁ悶えながらも、彼女は相変わらず論理的に説明してくれた。
「雪心ちゃんのおっぱい吸ってたら、なんだかぼくのここが硬くなってきたよ…。」
彼女の胸に興奮したぼくの陰茎は勃起し始めていた。
「じゃあ…触ってあげるね…。」
彼女はぼくの股間あたりを柔らかな手で触ってくれた。
「すごい…どんどん勃起して大きくなってる…。」
ぼくのズボンをおろすと彼女は下着越しに陰茎をなで始めた。
「あっ…雪心ちゃんに触ってもらうとすごく気持ちいいよ。」
「幸与くんのここに血液が集まって、充血して硬くなると、私のここに入れることができるのよ。」
ショーツ越しに自分の秘部を触りながら彼女は初心なぼくにそう教えた。
「そうなんだ…。」
彼女に触れられ、性交するにはまだ心許ない不完全なぼくの陰茎は、ドクンドクンとますます激しく脈打ち始めた。
「赤ちゃんってきっと二人の血液でできるのよ。男の子のここに血が行き届かないと、勃起もできなくて、つまり性交できない…。血が通って初めて性交できるの。そして受精できたら、女の身体の血が子宮に集結して、胎児という命を育み守ろうとするの。だから妊娠中は貧血になってしまう女性もいるのよね…。」
彼女の小難しい話なんて頭に入らないほど、ぼくの陰茎はいきり立ち、限界に近づいていた。
「ねぇ…ここに…入れてみる?」
彼女がショーツをおろし、ぼくに秘部を見せようとした瞬間、大人たちが性交している居間が騒々しくなり、彼女の母親が帰ってきたと分かった。
「残念…ママが帰って来ちゃったみたい。続きはまた…今度ね。」
欲望が満たされないままのぼくは母さんと二人で彼女の家を後にした。

 ぼくはズボンからはち切れそうなほどパンパンに大きくなった陰茎を母さんに気づかれないようにするので精一杯だった。母さんの方はというと、息子の肉棒の異変に気づく様子もなく、まだ性交の余韻が残っているのかうっとりした表情で心ここにあらずといった感じで満足げだった。おかげで勃起した陰茎に気づかれなくて済んだけれど、その夜、ぼくはひとりで初めての自慰を経験することになった。

 布団に潜り、昼間、雪心ちゃんが触ってくれた陰茎に自分で触れた。雪心ちゃんの唇、吐息、乳首…それから見ることのできなかったあそこを想像しながら、陰茎を何度もこすっていた。雪心ちゃんでなく、そのうち、母さんのおっぱいや雪心ちゃんの父親の大きな陰茎も思い出してしまった。罪な大人たちが見せた秘め事は、小4のぼくの初めての自慰を刺激する材料になった。お母さん…あんなみだらな顔をして、はぁはぁ息を切らしていやらしかった…。ぼくには見せたことのないエッチな姿だった。雪心ちゃんのパパも…お母さんの中に入れて、とても気持ち良さそうだった。性交ってそんなに気持ち良いのかな。本当は赤ちゃんを作る行為なのに…。ぼくも早く、雪心ちゃんと性交したい…。そんな妄想を繰り広げているうちに、初めての射精を経験した。まだそんなに気持ちいいという感覚はなかったけれど、一気に疲労感が出て、ティッシュで精液を拭うとすぐに深い眠りに落ちてしまった。

 ぼくが性に目覚めて間もなく、母さんが妊娠し、ぼくに弟ができた。もちろん、相手は雪心ちゃんの父親だと分かった。けれど母さんはぼくに相手のことは教えてくれなかった。シングルマザーのまま、ぼくと弟を育てると決めた母さんは、AIの子やマザーを手がけている研究員に出産や育児をサポートしてもらえることになったらしい。母さんの出産が近づくと、ぼくが普段通りの生活を送れるように、研究所からシッターが派遣され、ぼくはその人に面倒を見てもらった時期があった。その人のおかげで、ぼくは母さんがいなくても、学校へ行ったり、雪心ちゃんと会ったり、変わらず日常生活を送ることができた。そのシッターと暮らしている間に、なぜかぼくの性欲はますます強まり、自慰する頻度も増えていた。

 弟が生まれると、母さんは51歳という高齢で、自分の子宮で育て、命がけで産んだその命を溺愛するようになった。ぼくのことはそっちのけで、弟に愛を注いでいた。それは仕方のないことかもしれない。ぼくは所詮AIの子で、母さんの身体から生まれた命ではないから。自分の胎内で育った命の方が大事になるのは当たり前だと思う。けれどぼくは知っていた。中絶を経験していた母さんを慰め続けたのは、ぼくという存在で、母さんはAIの子がいなければ、絶望のあまり、生きてはいなかったかもしれないことを。母さんが幸せに生きて来られたのは、ぼくがいたおかげなのに、出産を経験したら、心変わりしてしまうなんて、あんまりじゃないか…。母さんの愛を独り占めできなくなったぼくは、寂しさを埋めるかのように、マザーと雪心という彼女に依存するようになった。

 「お母さんに干渉されなくなったのは良いことじゃない。おかげで、私たち、こうして親にバレずに好きなことができるわけだし…。」
ぼくが寂しがっていることを見抜いた彼女は、そんなことを言いながらやさしくキスをした。
「うん…そうかもしれないけど…。」
ぼくはキスくらいでは動揺しないほど、彼女とのエッチに免疫がつき始めていた。
「子どもって不思議よね。どうしたって、父親より母親が恋しくなるんだもの。ヒトの場合、母親の胎内で育つから当然かもしれないけど、AIの子もやっぱり父親より母親が気になってしまうのよね。ファーザーではなく、マザーに育まれるからかもしれないけど。」
寂しさが募れば募るほど、なぜか性欲は高まり、彼女とエッチなことをする回数も増えた。ぼくは小学生のうちに彼女と性交という初体験も経験していた。

 中学生になると、ますます彼女は大人の女性らしい身体つきになり、元来の美少女が胸やおしりも大きくなったものだから、ぼく以外の男子たちからも小学生の頃以上に、視線を注がれていた。そんな彼女ならどんな男子も振り向かせることができるはずだった。けれど、なぜか一途にぼくのことを思ってくれて、ぼくが知る限り、決して浮気するようなことはなかった。それどころか、大人に近づくにつれて、彼女の妊娠願望は強まり、ぼくらはまるで妊活夫婦のようにわざわざ排卵日を狙って性交することが増えていた。けれど、生殖能力のないAIの子であるぼくらが子どもを作ることはそう簡単なことではなかった。性交という行為そのものはできるし、ぼくの尿道からはちゃんと精液が出て、精子も出ているらしかった。彼女の方も、毎月定期的に生理が来るから排卵はしているらしかったけれど、彼女いわく、AIの子の卵子と精子は受精できないようにプログラムされているから、そこを変えない限り、妊娠は難しいと。本来、卵子と精子が秘めているはずの受精能力を引き出すために、私たちは性欲を高める必要があると口癖のように言っていた。彼女に言われなくても、ぼくの方は中学生になるとますます性欲が強くなり、特に彼女を見ると性交したい気持ちが抑えられなくなるほど、毎日発情していた。性交にしろ、自慰にしろ、1日あたりの回数が増えると、気持ち良い反面、それなりに疲労感も出たため、この頃になるとぼくは毎晩、マザーの中に入って就寝するようになっていた。マザーの中でぐっすり眠ると、翌朝には精力を取り戻して、またエッチなことに励めるということもあり、胎児の頃以上に、マザーに依存して生きる生活になっていた。

 生殖能力に関して研究熱心な彼女はついに、妊娠を実現できるかもしれない突破口を見出した。
「幸与くん、私、ようやく気づいたのよ。AIの子たちの子作り性交は、普通の外の世界で何度やっても無駄で、マザーの中で実行するしかないってことをね。」
「マザーの中で性交するってこと…?」
「そうよ。マザーはAIの子の潜在能力を高めてくれる場所なの。私たちが願えば、私たちの命を育んでくれたマザーがきっと力を貸してくれるはず…。」
「でもさ…マザーの中に入ると眠くなってしまって、性交どころじゃないよね。そもそもひとつのマザーの中に二人で入れるかな…。」
「マザーの羊水の中には睡眠ホルモンのメラトニンが多く含まれているから、眠くなりやすいのよね。メラトニンの働きを阻害する薬を手に入れて、それを服用した上で、マザーの中に入ればきっと性交も可能よ。挿入した状態で、身体と身体をくっつけ合った状態なら、何とか二人で入れそうだと思わない?」
彼女のいう通り、すでに密着した状態なら広くはないマザーの中に二人で入ることは可能だと思った。
「そっか…挿入した状態でマザーの中に入るのは可能でも、メラトニンの働きを阻害する薬なんて入手できるの?つまり睡眠薬の反対の作用の眠くならない薬ってことだよね?」
「そういう薬を入手できなければ、その薬を自分で作ればいいんだわ。ドーパミンを分泌させ、脳を活性化するような薬をね。」
頭の良い彼女は、中学生の間に独学で薬学も学び、本当にマザーに入っても眠くならない薬を開発してしまった。

 そして高校生になったぼくらは、親たちの目を盗んで、マザーの中で子作り性交を決行することにした。弟と母さんはぼくのことなんてほったらかして二人でどこかへ外出することも多く、彼女をぼくの家のマザーのある秘密の部屋に連れ込むなんて容易なことだった。

 その日は6月の満月、ストロベリームーンが美しい夜だった。
「ねぇ…知ってる?満月や新月には赤ちゃんが多く生まれているのよ。だからきっと今夜、授かることができるわ…。」
「そうなんだ。知らなかったよ…。」
彼女とぼくはいつものように濃厚な口づけを交わすと、彼女が開発した眠くならない特殊な薬を二人で服用した。そしてお互い立った状態で、勃起した陰茎を彼女の膣に後ろから挿入した。
「あ…ん…。」
挿入した途端、彼女の身体はビクッと小刻みに動いた。そして身体を密着させたまま、二人で歩き、ゆっくりマザーの中に足を踏み入れると…。

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