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文章リハビリ

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記事一覧

神奈川近代文学館「帰って来た橋本治展」

 泣き腫らした目を冷ましながら、降りそうで降らない雨雲を避けるようにしてみなとみらい線に乗りこんだ。一人で扱わなくていいことですと先生は言うから、カウンセリング…

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2週間前
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37

 昼ごはんを買いに出かける。自分の部屋で鳴っている音楽が外まで漏れているのに気づいて、戻ったらボリュームを下げないといけないと思う。そこに隣の家から伯父が出てき…

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3週間前
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夜明け前

 2度目の新型コロナウイルスに罹って、仕事も1週間休みになって、昼も夜も寝ていたから睡眠薬を飲む必要がなくなった。特に初日は症状がひどかったから咳き込むたびに目が…

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4週間前
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友人に就いて 2

 俺がタワーレコードアリオ川口店で働いていたのが今からちょうど10年まえのことだ。毎週毎週アイドルのCDが発売されて、その付録であるイベント参加券のおかげでかろうじ…

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2か月前
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友人に就いて

 友人は多い方だと思う。一人でいるのも苦痛じゃないし、時間ならいくらあっても使い道には困らない。だけどなんだかんだで友人と会う予定を入れてしまうのはただの寂しが…

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2か月前
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PERFECT DAYS 試論

東京画  俺はヴィム・ヴェンダースのことをよく知らなくて、小津安二郎好きの外国人映画監督としてしか認識できていない。唯一観たことのある監督作品は『東京画(Tokyo-G…

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2か月前
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2024年2月19日

 涙を乾かす時間もないまま、俺は午前の路上に放り出された。霧雨が降り始めていて、傘で顔を隠すにはちょうどよかったかもしれない。だけどお墓参りをするにはあいにくの…

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2か月前
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西村賢太考

 その名前は芥川賞を受賞したときに知ってはいたのだ。2011年の受賞だから俺が24歳のとき。その風体とやさぐれた態度も印象に残っているが、当時の俺にとっては関心ごとか…

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3か月前
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2月の春

 今日から2月。まるで春が来たかのように暖かい日だ。気温は15℃を超え、桜が咲く頃の陽気だと天気予報士が伝えている。思い出すのは大学一年の終わり頃、ちょうど似たよ…

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3か月前
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マインドフルネス5

2週間ぶりのカウンセリングを、俺は決して前向きな気持ちで迎えることができなかった。先生が前回の内容をざっとおさらいし始めたが、その話を聞いているだけで涙がこぼれ…

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1年前
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芝刈りの日々

植本一子『愛は時間がかかる』を読み終えた。一気に最後まで読めてしまうくらいのボリュームだったが、あえて数日かけてじっくり読んだ。それはこの本の中に流れる時間感覚…

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1年前
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松任谷由実の思い出2

2019年に松任谷由実を観たときと、2023年と、何が一番変わったかって言ったら姉が亡くなったことだろう。横浜アリーナで『海を見ていた午後』を聴いてから3ヶ月が過ぎた頃…

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1年前
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松任谷由実の思い出

子どもの頃はいつも21時には眠っていたからドラマなんてまったく観たこともなかったんだけど、おやすみなさいって言ってリビングを離れるときにTVから流れていた『Hello, m…

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1年前
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中村江里『戦争とトラウマ 不可視化された日本兵の戦争神経症』 (と塚本晋也『野火』)

横浜にある「シネマリン」という小さな映画館では、毎年8月になるとひとつの映画が再上映される。塚本晋也監督『野火』である。これはもはや風物詩のようなもので、上映の…

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1年前
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調布の思い出

2023年4月16日。 この日は朝からカウンセリングだった。3週間、待ち遠しいくらい楽しみにしていた。それは、この過程を乗り越えれば楽になれるという期待感からなのか、こ…

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1年前
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神奈川近代文学館「小津安二郎展」

2023年4月15日。 雨。目が覚めたときから降っていて、眠るときまで降り続けてくれるならいっそあきらめがつくというものだ。完璧な雨の日。濡れても大丈夫な靴を履いて、ビ…

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1年前
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神奈川近代文学館「帰って来た橋本治展」

神奈川近代文学館「帰って来た橋本治展」

 泣き腫らした目を冷ましながら、降りそうで降らない雨雲を避けるようにしてみなとみらい線に乗りこんだ。一人で扱わなくていいことですと先生は言うから、カウンセリングルームを出たらさっきまでの話は振り返らないようにしている。そこで得られた感覚は確かに残っているはずで、下手に考えてこねくり回すより身体になじむのを静かに待つ方がきっといい。元町・中華街駅で降りると、まだ新しくて広々としたその壁には、開港当時

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37

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 昼ごはんを買いに出かける。自分の部屋で鳴っている音楽が外まで漏れているのに気づいて、戻ったらボリュームを下げないといけないと思う。そこに隣の家から伯父が出てきたので挨拶する。祖父母と従姉妹がお好み焼きを作っていて、ちょうどいいから持って帰れと言う。ふと気づくとそこに兄もいて、一緒にお好み焼きを持って帰ることにした。
 実家に戻った俺は、一番奥の部屋を、両親の寝室を恐る恐る覗いたがそこには誰もいな

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夜明け前

夜明け前

 2度目の新型コロナウイルスに罹って、仕事も1週間休みになって、昼も夜も寝ていたから睡眠薬を飲む必要がなくなった。特に初日は症状がひどかったから咳き込むたびに目が覚めていたし、そこで睡眠薬が下手に効き過ぎたら痰を吐き出せなくて窒息死してしまうと思って一人でビビっていた。
 いつかは睡眠薬を辞められたらと思ってはいたのだ。眠れるに越したことはないけど飲まないに越したこともない。あれは感染症のパンデミ

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友人に就いて 2

友人に就いて 2

 俺がタワーレコードアリオ川口店で働いていたのが今からちょうど10年まえのことだ。毎週毎週アイドルのCDが発売されて、その付録であるイベント参加券のおかげでかろうじて日々の売り上げがまかなえていた。仮面ライダーカードとポテトチップスの関係のように、音楽もまた捨てられているような気がした。自分だったら買わないであろう何かを売り物にしている。そんな漠然とした居心地の悪さを感じてからそう長くは続かなかっ

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友人に就いて

友人に就いて

 友人は多い方だと思う。一人でいるのも苦痛じゃないし、時間ならいくらあっても使い道には困らない。だけどなんだかんだで友人と会う予定を入れてしまうのはただの寂しがりだろうか。

 友人と会うことに何かメリットがあるのかといえばこれははっきりとある。一番はやはり”煮詰まらない”ということだろう。部屋の換気をするようなものだ。他人に向けて言葉を選ぶことでまず考えが整理されるし、具体的なアドバイスをもらわ

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PERFECT DAYS 試論

PERFECT DAYS 試論

東京画

 俺はヴィム・ヴェンダースのことをよく知らなくて、小津安二郎好きの外国人映画監督としてしか認識できていない。唯一観たことのある監督作品は『東京画(Tokyo-Ga)』だけだ。だから自ずとそれを拠り所として考えてしまうのを避けられないし、あながち検討外れでもないように思う。
 まず1953年に小津安二郎『東京物語』があって、それから30年後、1983年の東京を映画にしたのがヴィム・ヴェンダ

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2024年2月19日

2024年2月19日

 涙を乾かす時間もないまま、俺は午前の路上に放り出された。霧雨が降り始めていて、傘で顔を隠すにはちょうどよかったかもしれない。だけどお墓参りをするにはあいにくの天気だ。それでも、週末は雪の予報も出ているからいまのうちに済ませておくのが吉だろうと思って、俺はそのまま地下鉄に乗って霊園に向かった。
 いつもの石屋で花と線香を買い終えた頃には、少しだけ晴れ間が見えていた。いまのうちに掃苔を済ませてしまえ

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西村賢太考

西村賢太考

 その名前は芥川賞を受賞したときに知ってはいたのだ。2011年の受賞だから俺が24歳のとき。その風体とやさぐれた態度も印象に残っているが、当時の俺にとっては関心ごとから外れていて、その後もバラエティ番組などでその活躍が視界に入っていたはずだが自分とは無縁のものだとなぜか決めつけていた。ひとつは『苦役列車』という実写映画がつまらなかったせいかもしれない。チケットを買って観ることもしていないのだが、宣

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2月の春

2月の春

 今日から2月。まるで春が来たかのように暖かい日だ。気温は15℃を超え、桜が咲く頃の陽気だと天気予報士が伝えている。思い出すのは大学一年の終わり頃、ちょうど似たような2月の春の日のことだ。

 大学一年の初めに鬱になった俺は、鎌倉の心療内科に通って向精神薬を飲みながら生活していた。いくつかの授業を諦めただけで、案外単位を落とすことなく前期を修了することができたのはこれもまた鬱になるほどの真面目さゆ

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マインドフルネス5

マインドフルネス5

2週間ぶりのカウンセリングを、俺は決して前向きな気持ちで迎えることができなかった。先生が前回の内容をざっとおさらいし始めたが、その話を聞いているだけで涙がこぼれそうになってくる。まだ本題に入ってすらいないのに、それを目的としてここにやってきたのに。「という話でしたよね」と先生が投げかけるが、俺は返事をすることができなかった。
治療の意義を見失ったわけではなかった。だけど、これまで失ってきた可能性の

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芝刈りの日々

芝刈りの日々

植本一子『愛は時間がかかる』を読み終えた。一気に最後まで読めてしまうくらいのボリュームだったが、あえて数日かけてじっくり読んだ。それはこの本の中に流れる時間感覚を共有するためでもあったし、もっと単純に、自分が置かれている状況とのシンクロが強すぎて体力的に持たなかったということもある。トラウマ治療について書かれたものだということは読む前から知っていたし、自分にとってもカウンセリングの予習復習になれば

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松任谷由実の思い出2

松任谷由実の思い出2

2019年に松任谷由実を観たときと、2023年と、何が一番変わったかって言ったら姉が亡くなったことだろう。横浜アリーナで『海を見ていた午後』を聴いてから3ヶ月が過ぎた頃だった。
そのあと感染症の脅威で市民生活はすっかり変わり果てたけれど、俺たち家族にとっては何が重大で何がそうでないかはわからないままだった。他人との距離が遠ざかった世界は、喪に服する気持ちに寄り添ってくれたのかもしれないし、忘れるこ

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松任谷由実の思い出

松任谷由実の思い出

子どもの頃はいつも21時には眠っていたからドラマなんてまったく観たこともなかったんだけど、おやすみなさいって言ってリビングを離れるときにTVから流れていた『Hello, my friend』はなんだか切なくて良い曲だなって思った。それがなんのドラマだったかも知らないし、大人が恋愛している姿なんてまだ見てはいけないもののように感じていて、逃げるようにして布団にもぐったけれど。

小学6年生のとき、俺

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中村江里『戦争とトラウマ 不可視化された日本兵の戦争神経症』 (と塚本晋也『野火』)

中村江里『戦争とトラウマ 不可視化された日本兵の戦争神経症』 (と塚本晋也『野火』)

横浜にある「シネマリン」という小さな映画館では、毎年8月になるとひとつの映画が再上映される。塚本晋也監督『野火』である。これはもはや風物詩のようなもので、上映の知らせが届くたびに日本の夏がやってきたことを感じる。好きな映画なのでなるべく予定を合わせて観に行くようにしているが、それはやはり娯楽としてだけではなく、戦争の記憶を風化させないためのアクションに参加しているのだと認識している。
『野火』はも

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調布の思い出

調布の思い出

2023年4月16日。
この日は朝からカウンセリングだった。3週間、待ち遠しいくらい楽しみにしていた。それは、この過程を乗り越えれば楽になれるという期待感からなのか、この過程自体が自分の興味関心そのものだからなのか。苦しめば苦しむほど楽になっていく感じがするのはその苦しさが元々あったものだからだろう。苦しかったことに気づくだけの連続で、それは深海の地面にタッチして戻ってくるような作業だ。
カウンセ

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神奈川近代文学館「小津安二郎展」

神奈川近代文学館「小津安二郎展」

2023年4月15日。
雨。目が覚めたときから降っていて、眠るときまで降り続けてくれるならいっそあきらめがつくというものだ。完璧な雨の日。濡れても大丈夫な靴を履いて、ビニール傘を持って出かける。桜はとっくに散ったけれど街は新緑の季節。深まっていく緑色のすきまを埋めるように白やピンクの花々が咲いている。俺はそのほとんどの名前もわからないまま36歳になった。

小津安二郎展、というのは2020年に鎌倉

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