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創作

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形を問わず、フィクションをあつめています。
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記事一覧

ivory(小説)

ivory(小説)

ファミレスのどこかぬるっとしたテカテカのグランドメニューと睨めっこしている目の前の男を、直感で「情けない」と池田紗奈(いけださな)は思った。

中高生が来るようなレストランである。しかし、食べ物に強いこだわりがあるから男に愛想を尽かしそうになっている、というわけではない。

絵に描いたような優柔不断っぷりが腹立たしいのだ。

目の前の男、笹田拓実(ささだたくみ)と紗奈は、早い話がセフレで、普段は夜

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僕の目から見たあなたは(小説)

僕の目から見たあなたは(小説)

「あのう、写真撮ってもいいですか?」

振り返ると、大きなカメラを持った女がじっとこちらを見つめていた。

◇◇◇

犬というのはつくづく散歩に人生(犬生?)を懸けている動物だな、と洸希は思った。それまでぐでんと横になっていても「散歩行くか?」と声をかけるだけで飛び起きて洸希をぐいぐい玄関へと引っ張る。

今日は散歩は少しだるいな、と思っていたのだが、犬の1日の楽しみを奪うのは気が引けた。

「散

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ワッフルとサバの味噌煮(小説)

ワッフルとサバの味噌煮(小説)

1年前、合コンで知り合った彼と、その日のうちに寝てしまった。人生って楽しければいいと思っていたけれど、こういう恋愛を素直に楽しめる年齢ではなくなってきているとも感じる。

そのまま、ずるずると彼と行動を共にすることが増えた。晩ご飯を食べて、そのまま彼の家に泊まる。そしてそこからダイレクトに出勤する。

「私たち付き合ってるのかな?」

なんてもう怖くて訊けない。実際のところ、きっとセのつくそういう

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チョコからの手紙(小説)

チョコからの手紙(小説)

「久しぶり!この度、ケーキ屋さんをOPENすることになったよ!!私のこと覚えてるかな?よかったら食べに来てね」

意外な人から通知が来ていた。小学5年生のころ同じクラスだった女の子だ。その子は中学受験をして別々の中学に行ったけど、成人式で再会して連絡先を交換した。なんてことのないただの同級生だ。

ケーキ屋さんか。俺たちは今年で28になる。歳をとったとは思うものの、それでも自分のお店を持つにしては

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たまねぎ(小説)

たまねぎ(小説)

智也の気配を後ろに感じながら、たまねぎを切っていた。私がつくるカレーにはいつも大量にたまねぎを入れる。

「大量のたまねぎがとろとろに溶けてるカレーがいい」

彼のリクエストに答える形で不本意だが、何を隠そう私もそういうカレーが好みだった。私たちの性格は正反対だけど、味覚だけはよく似ている。

私は在宅のイラストレーターの仕事をしている。これだけじゃ食べていけないから、同棲中の智也と家賃を分け合

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空を泳ぐ(小説)

空を泳ぐ(小説)

※完全なフィクションです。以前書いた「秘密のプール」という小説の、別人物視点からの物語となっております。

こちらも読んでいただけると嬉しいです。





今年の夏はなにかが違う。予感は確信へと変わっていた。

1.

わたしの学校ではどういうわけか、毎年水泳大会がおこなわれる。学年ごとに25メートルを指定の泳法で泳がされるのだ。

中3の今年は、去年と一昨年とは大きな違いがあった。

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シンヤベーカリー(小説)

シンヤベーカリー(小説)

コンテスト「ここで飲むしあわせ」にエッセイで応募しようと思ったのですが、お酒にまつわる体験談があまりなかったので、フィクションで参加させていただきました。「こんなお店があったらいいなあ」という妄想ですが、お付き合いいただけると嬉しいです。





1.

スマホの明かりが顔を青白く照らしていた。バイトでも始めようと思い、ベッドで横になりながら求人のアプリ画面をひたすらスクロールしている。

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どんぐりパンはいかが?(創作)

どんぐりパンはいかが?(創作)

「どんぐりパンはいかが?」

やわらかいパンにどんぐりをしきつめて、少しこげめがつくくらいまで焼いたのが、どんぐりパンです。

パンやの店長はりすです。まいにち工房をはしりまわって、パンを焼きます。どんぐりパンはいちばん人気のメニューで、これをもとめてお客さんはやってくるのです。

「いらっしゃいませー。どんぐりパンが焼きたてです」

お会計をするのは、うさぎです。しゃべってばかりいるのでレジにた

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来世では私を鳥にしてください(ショートショート)

来世では私を鳥にしてください(ショートショート)

※フィクションです。



「自分の体で飛ぶのが夢だった」と男は言った。

死後の世界。絵空事だとばかり思っていたが、そんなものがまことにあったのだ。

何者かが目の前にいた。神なのか、仏なのか、はたまた閻魔大王なのか。ひとつ言えることは、そんな生前の常識ではかれるようなスケールのものではないということだ。きわめて超越的な、なにか。

それがおもむろに口を開き、質問を投げかけた。

「来世はなに

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秋風にさらわれる(小説)

秋風にさらわれる(小説)

とおくで電車の音がする。仕事終わりの人間の疲労感とか、冷房の臭い風があの鉄の塊に閉じ込められて高速移動しているのだと思うと何だか面白い。

夏が終わって、秋が顔を覗かせていた。夜は風がつめたくて気持ちがいい。エアコンなんて要らない。ありのままの風がいちばん好きだ。

コンビニで200円のプリンを買った。表面の薄皮みたいな部分が好きで、最初にスプーンで剥がしとって食べてしまう癖がわたしにはあった。

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秘密のプール(小説)

秘密のプール(小説)

※完全なフィクションです。





今年の夏はなにかが違う。そんな予感がした。

それは、高校受験をひかえた中学最後の夏だからかもしれない。

1.

ぼくの通う中学は山のてっぺんにあって、毎日ひいひい言いながら登校している。都会のおしゃれな私立中学とかに憧れたりはするけど、立地以外はまあ悪くないところだと思っている。

はじめての中3の夏。心なしか、まわりの空気も去年とは違う。

受験

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