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病室で目覚めるように初春の洗ったばかりの布団のなかで/奥村鼓太郎「橘の花」(『夕星パフェ』第14号)
布団を洗う、というのはささやかだけど割合にインパクトのあるイベントだと思う。行為の手間、天気との兼ね合い、結果の豊かさ、それはささやかな大仕事という感じだ。
「洗ったばかり」の〈洗う〉という動作には、もちろん〈干す〉という動作も含まれていて、主体はふかふかの布団の中にいるのだろう。布団を干したのだから、春らしい暖かくて天気のよい日が想起される。寒い冬から暖かい春への季節の切り替わりと、布団を洗うと
書き継ぎてゆくうちに詩が書かしむる一行がある 書きたし/上川涼子「底力」(『現代短歌』2024年1月号)
まず前提として、「詩が書かしむる一行」を自作の詩に書かさせられた経験が存在している。その上で、「詩が書かしむる」という経験の得難さやその瞬間の喜びが一首にはにじむ。詩歌に携わる人間にとっては、納得感のある感慨が読み込まれているように思う。
「書き継ぎてゆくうちに」という切り出しがまず秀逸だ。
掲出歌は50首連作のうちの一首として発表され、その連作中49首目に配されている。その中で掲出歌を読むので
ぬばたまの黒田博樹よああ是は曼珠沙華いちめんの花野だ/牛隆佑『鳥の跡、洞の音』私家版,2023年
色彩鮮やかな印象を受ける一首。
黒いものを導く枕詞である「ぬばたまの」から黒田博樹が導き出される。初句のイメージは暗く、それに導かれた黒田博樹の色調もどこか仄暗い。ただ、そのイメージは三句目で転調する。黒田博樹を知っている読者は「ぬばたまの」がもたらすイメージと黒田博樹のイメージとの間に齟齬を感じるような気がするが、三句目でそのイメージを塗り替える助走がなされる。
下句では一転して明るい色調に切
「未来」2021年10月号
世界で一番好きなラーメン屋が閉店するとひとづてに聞いた。
間引かれず残れる椅子に腰掛けてビールでええかと問はれてゐたり
とりあへずたのむビールと唐揚げとボブ・マーリーのこゑを聞きつつ
死にたいと思ひし日々のかたはらに角煮ラーメンと唐揚げありき
ラーメンにのりたる角煮のやはらかく夢なく生きて生はしづけし
こんなにもやはらかくなる豚の死を舌にほどきて我はほころぶ
店の終はりを僕らに告げるさつきま
持続可能な料理のために
ごはんを作るのは楽しい。
美味しくできたら嬉しいし、微妙だったら改善点を考える。
日々のことやけど、飽きない。
これからもごはんは作るし、Twitterにもアップするし、より美味しいごはんを作るための努力もする。
ただ、このあたりで、ひとつ線を引こうと思う。
塩にこだわるわたし。
鰹節を削ろうとするわたし。
ナンプラーとニョクマムを常備するわたし。
スパイスの小瓶を並べるわたし。
主菜副菜汁物
出汁をとらずにつくる味噌汁
味噌汁を作るとき、出汁をとらねばならないと思っていた。
ずっと思っていた。
鰹節で、さもなくば昆布か煮干しで出汁をとらないと味噌汁は成立しない、そんな風にずっと考えて生きていたのだ。
もちろん、顆粒だしを使う方法もあるが、それは自分で戒めていた。そんな楽はしてはならぬと、それはよき味噌汁ではないと、自分でハードルを上げていた。
結果的に、味噌汁はハードルの高い料理になってしまった。
出汁をとる必要
プロフィールのようなもの
門脇篤史
1986年島根県生。高校までを島根県の山奥で過ごす。
島根県立矢上高校卒
同志社大学社会学部社会学科卒
未来短歌会所属
too late・西瓜同人
2013.9 短歌をつくりはじめる
2014.6 うたの日への投稿をはじめる
2015.9 短歌研究新人賞最終選考通
2015.11 未来短歌会入会
2016.9 短歌研究新人賞候補作
2017.1 2016年度未来賞受
20190913-0919
9.13(金)
ばきばきに残業する。職場の先輩が新婚旅行に旅立ったので、受け持っていたイベントが私の所に来る。まあ、仕方がないやつや。
弟から電話があり、地元県に帰ると言う。弟、5歳離れているけど、ヤツの方が大人だなぁ。京都を離れるまでにまた飲もう。
9.14(土)
いくばくか仕事を。
『あしたの孵化』批評会で何を話すかを考える。これ、読みやすいが、論じようとすると手強いやつや…
ボロネーゼを作
みずつき7の好きな歌
みずつき7から好きな歌を何首か引きます。
ひとゆびづつ剥がしてゐたるみづいろに揮発してゆくこころを思ふ
ふかぶかと谷折りされたわたくしをゆつくりお湯に戻してゐたり
/有村桔梗「海抜」
一首目、除光液でマニキュアを落としてゆく場面でしょうか。みづいろを落とす感覚がどんな感覚なのかは、やったことがないのでうまく理解できませんが、そこには1日を終えて揮発する様々な感情が乗っかっているのでしょう。二首目