マガジンのカバー画像

学生の想い出

100
健やかに絶望する。
運営しているクリエイター

記事一覧

こんな変な再会あるものか。

その日も私は塩おにぎりみたいな平静な顔でいつものバイト先へ行った。通っていた大学の隣に位置するため、バイト全体も一個のサークルの雰囲気がある。店長は若い時さぞヤンチャしてただろうなあと思わせる元気なおばさんで、鍛えられた腕一本で大鍋に潜むカレーをかき回す。そこでバイトし始めてから世間でいうところの味覚障害だったに違いない私は、そのスパイスいっぱいのマグマ色に煮えたカレーを美味しいと思っていた。

もっとみる

二年半前の自分を慰めに行きたい。あのとき、大好きになった光景をずっと独りで見ていて、ああ死ぬんだなと思った。何もなかった。苦しかった。孤独はずっと続くよ。でも今幸せだ。大切な人が、あのとき見ていた光景を、ドイツまで、飛んできてくれるって。今度こそ一緒にいれるよ。

それまで君はずっと淋しいよ。初めて同性を好きだと自認して、一年間現実に向き合えずにいて、それでも色々な場所へ体当たりして、踠い

もっとみる

変化

今日は5℃もあるって、あったかいね〜と言いながら、真っ白な雪景色を踏みしめています。クリスマスと年末年始は潔く店が閉まりまくるので、大好きな部屋に引きこもるしかありません。

そこで2017年の大反省会を行い、2018年の目標を100個決めました。深海魚と宇宙飛行士が見る景色ほど、世界が変わったことを発見しました。

一生忘れられないと思った、(良くない方の意味の)言葉を、すっかり忘れていまし

もっとみる

「小説を書かないでほしい」

彼の夢は見たことがない。すっかり、会いたいと思わなくなっているからなのは知っている。けれどもその理由がないのは不可解だ。

彼氏?と勘違いされるレベルで四六時中一緒にいた友人がいたのだけど、離れてからは彼の存在もきれいに消えている。普通は寂しくなるようなものだろうに。

どれくらい側にいたかというと、お互いの誕生日、クリスマス、夏祭りも一緒に行くかもしれなかったし、最後に空港に見送りにも来

もっとみる

52Hzの鯨

魚になれば誰の目も憚らずに泣けるかと思った。そうなりたかった。独りでもひとりではなかった。焦ったい瘡蓋のようだ、といえばまだかわいい。私は女だった。日本人だった。若かった。すべて邪魔だった。

ドイツのクラブで孤立し、飲んでもいないのにテーブルにぐったり腕を置いて、重たい頭をさすった。唯一ついて来てくれた友人は、このノリは無理だと告げて先に帰った。日本人の中でも一番クラブやシーシャに縁のなさそ

もっとみる

JK時代

紙パックのリプトンは女子高生の兵器、と綴る友人は、大学入ってコンビニバイト始めるまでそんな紅茶の存在を知らなかった、と言い返すこともできない私とは、やはり対極にいるのだった。

図書室の隅の、ボロボロになったソファ席で知らない著者の本を漁ってみる時間が、一番尊かったのかもしれない。
私には集団競技の楽しさがUMA以上に異常にミステリーだった。バレーやろうよ、に反応する人がクラスのカースト上位半

もっとみる

エントリー以前

ある晩、OB・OGがご馳走してくれた。
あちこちに散らばるライトが清楚なおもちゃ箱のようで綺麗な店だった。開けたテラス席からの夜風が心地よいし、気兼ねなく煙草が吸える。飲み放題のカクテルメニューも不足はない。

けれど、退屈を持て余している私がいた。

私は別に彼らが務めている記者という仕事には興味ないのだとわかった。

後輩の方が熱心だった。大学二年生時から就活のために動かなきゃ、って

もっとみる

酔う前に〜レッドアイ〜

自分では飲めないだろうと思うカクテルがある。注文時に名前を出すのも罪深い。未だに想い出を、飲み干せない。

そのうちの一つがレッドアイだ。
ビールとトマトジュースを半々注いだ、アルコールの弱いビールカクテル。真っ赤だ。それはまさに鮮血。それに赤は、私が好きな緑の補色だ。

私に初めて煙草を勧めた人は、レッドアイが好きだと言った。弱いからこれくらいで誤魔化すのが丁度いいのだと。本当に酔

もっとみる
一度やると言ったこと

一度やると言ったこと

夏だったか秋だったか忘れたが、まだ歩いて新宿へ向かっても肌寒さを感じずに済んだ頃、ゲイバーへ行った。

急遽友人に誘われたのだ。
友人というのは男だ。ゲイバーは男性メインなので、女体の私と女友達で行くということはまずあり得ない、それならレズビアンバーかミックスバーに優先して行くから。だからゲイバーは久しぶりだった。

ゲイバーとレズビアンバーは何がどう違うか、と聞かれたら、雰囲気が違うの

もっとみる

『勇気も愛もないなんて』

いつかこの、電車内の椅子の端っこで、純水過多の水彩画ほどぼやけて映る手すりを、あるいはその先の、東京から神奈川へ下る中途半端な高層ビルを、思い出すのかもしれない。

小さなウエストポーチ一個の中に、煙草もコンタクトも本もイヤホンも学生証も潜ませて呑みに出かけた昨夜の自分は偉い。友人へ貸したタクシー代で、財布は空っぽになった。

早朝の電車ではさすがに本を読む元気がない。胃にミサイルを突っ込

もっとみる

禁煙のような喫煙の日々

新宿歌舞伎町のゴールデン街でひとり。赤色のカクテルください、と厄介な注文をした。

カクテルの色に小宇宙を見出せる気になって、それで自分の隣が空席であることの慰めになるわけでもないけれど、私は遠くへ行けると信じていた。

店内の中年サラリーマンは役者らしく、同じく小さめの劇場で仕事をしているらしいバーテンダーと話をしていた。込み入った話はさっぱりわからなかった。
手持ち無沙汰な私も舞台のチラ

もっとみる
『夜は短し歩けよ乙女』

『夜は短し歩けよ乙女』

京大NFに行ったりムーンウォークで電気ブランを飲んだりした晩秋を思い出しました。黒髪の乙女の突き抜けっぷりは本でも映画でも惚れ惚れします。

館内にいた高校生たちがわけわからなかった難しいーと感想を漏らしていましたが、それが正常な反応でよろしいのではないかな、とか自分の一観客である立場を放棄して思いました。風邪の妄想シーンが大分イっちゃってましたし。

そもそもなぜ『夜は短し歩けよ乙女』に興味

もっとみる
散る前に

散る前に

釈然としない爆弾を抱えたまま、講堂前で一缶だけ飲んで帰ろうと思い立った。
五限終わりなので、サークルの新歓に向かう新入生と上級生が溢れている。トレンチコートに包まれた新入生はどうしたって眩しい。今が暗くてよかったと思いつつリキュールで暖まる。

見上げると、星か衛星かわからない光が浮かんでいる。あれが星だと信じることで慰められた気分になる私は、とことん人間嫌いなのかもしれなかった。

どうせ

もっとみる
新歓期

新歓期

咲きかけの桜並木の中、木々を見上げる余裕もないほど、キャンパスには人も思いも溢れていた。
アロハシャツに学ランという突飛な格好で通用する、新歓期特有の狂ったお祭り気分が、一年前私の中にあった。心の中全面に、とは決して言えないけれど、確かにあったのだ。

今、サークルを去り所属を無くした私には、新入生に配り散らすビラもなければ押し付ける勇気もない。
夜分遅く酔っ払った新入生に乱暴される友人

もっとみる