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読後寸評

80
読んだ本で感じたことを綴っています。 好きな作家はラディゲですが、最近よく読むのはジェンダー論。A4用紙1枚程度で、800〜1000字程の感想文です。
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記事一覧

わかりやすさが差別を生み分断に拡大する図式を説明した本「わかりやすさの罪」

わかりやすさが差別を生み分断に拡大する図式を説明した本「わかりやすさの罪」

本(わかりやすさの罪)

様々なメディアに執筆する武田砂鉄著の本です。雑誌「一冊の本」に連載されたコラムを単行本にまとめ、さらに文庫本にしたものを読みました。

タイトルの「わかりやすさの罪」というのは、おわりに(あとがき)の中で、出版を依頼した朝日新聞出版の担当者が当初つけた仮タイトルであったと書いています。その担当者が危惧したのは以下の通りです。

「最近、日本語がどんどん「易しく」「わかりや

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60年以上の超ロングセラーは文章の書き方指南書「悪文」

60年以上の超ロングセラーは文章の書き方指南書「悪文」

本(悪文)

様々なジャンルの悪文(正しくない伝わらない文章)の具体例を挙げて、どこに欠陥があり、どのように正すべきかを解説した本です。筆者の岩淵悦太郎氏は国語学者で、いわば日本語の文章のプロの視点から、的確で鋭い指摘がなされています。

この本を知ったのは新聞の書評欄での売れてる本のコーナーでしたが、この本の初版本はなんと1960年発行ですから、60年以上の超ロングセラーとなります。

私も買お

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三島由紀夫が描いたスノビズムとデカダンスの長編「鏡子の家」

三島由紀夫が描いたスノビズムとデカダンスの長編「鏡子の家」

本(鏡子の家)(長文失礼します)

三島由紀夫の長編小説です。文庫本で620ページ程もあるので、なかなか読み進まず読了まで1カ月近くかかってしまいました。資産家の令嬢である鏡子の家に集まる4人の男性の変貌を描いたもので、物語は1954年から56年までの2年間がその舞台となります。

この作品の書評を読む限りでは、作品としては成功作といえず三島自身もそのことを気にしていたとのことですが、確かに私も読

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時代を超えて読み継がれる太宰治の自伝的小説「人間失格」

時代を超えて読み継がれる太宰治の自伝的小説「人間失格」

本(人間失格)

太宰治の自伝的小説と言われ、太宰の代表作とも評される作品です。ある資料によれば新潮文庫の歴代ベストセラーを夏目漱石の「こころ」と競っているとのことですが、それほどまでに近代日本文学では多くの読者に読み継がれている名作です。

正直私は太宰の愛読者ではなく、本書を読むきっかけになったのは、三島由紀夫の同様な自伝的小説である「仮面の告白」との対比で「人間失格」が登場したことであり、い

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恋愛とエゴイズムの葛藤を描いた文豪夏目漱石の名作「こころ」

恋愛とエゴイズムの葛藤を描いた文豪夏目漱石の名作「こころ」

本(こころ)

文豪夏目漱石の長編小説です。有名な小説であり、私も学生の頃、日本文学の教科書的意味合いで読んだと思いますが、恋愛とエゴイズムの葛藤といった漠然とした記憶しかありません。

今回再読しようと思ったのは、読書グループでの三島由紀夫の「仮面の告白」の感想文を読み、同様の自伝的作品に挙げられていたのが、太宰治の「人間失格」とこの本でした。「こころ」は正確には自伝的というよりは自己投入型の作

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三島由紀夫が描いた衝撃の結末!小説「愛の渇き」

三島由紀夫が描いた衝撃の結末!小説「愛の渇き」

本(愛の渇き)(敬称略)

三島由紀夫の小説で、「文豪ナビ 三島由紀夫」で作家の小池真理子が、印象に残った作品として「金閣寺」や「春の雪」を始めとする「豊饒の海」の他に、「獣の戯れ」と共にこの小説を挙げていました。

「獣の戯れ」はフランスの作家ラディゲを意識した心理小説でしたが、この作品も主人公・悦子の心の葛藤を描いています。病死した夫の義父の計らいで、義父家族が住む別荘兼農園に移り住みますが、

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不倫をテーマにした三島由紀夫の有名作品「美徳のよろめき」

不倫をテーマにした三島由紀夫の有名作品「美徳のよろめき」

本(美徳のよろめき)

1957年に「よろめき」という流行語まで生んだ三島由紀夫の小説です。有名な作品なので読まれた方も多いと思いますが、内容は上流社会で貞淑なはずの人妻の不倫をテーマにしたもので、そのスキャンダラスな内容で当時流行語にもなった次第だと思います。

不倫を扱った内容になると、もはや純文学よりも大衆文学の立ち位置になりそうですが、そこは三島らしい技巧が取り入れられて「不倫」というテー

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2024年上期芥川賞を読んで「東京都同情塔」

2024年上期芥川賞を読んで「東京都同情塔」

本(東京都同情塔)(ネタバレあり、長文失礼します)

2024年上期の芥川賞受賞作品です。今回の主人公は女性建築家で、従来の受賞作品の主人公と比較すると異色といっていいかもしれません。ニューヨークでの設計事務所のアシスタントを経て37歳で片仮名の設計事務所を主宰し、メディアの取材も受けながら秘書もいる、さらに国際的なコンペにも参加できる著名な建築家という設定です。

長年建築業界にいる私としては、

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自分で作る小さなメディア「野中モモの「ZINE」」

自分で作る小さなメディア「野中モモの「ZINE」」

本(野中モモの「ZINE」)

ミニコミ誌やフリーペーパーの新しい手法として注目されている「ZINE(ジン)」について書かれた本です。副題が「小さなわたしのメディアを作る」というもので、筆者の野中モモさんは長年ZINEを発行しており、その実践の記録と方法を紹介しています。ZINEとはマガジン(MAGAZINE)の語尾を取ったもので、筆者が定義すると以下のようになります。

・紙媒体 ・プリンターな

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三島由紀夫がラディゲに対抗した小説「獣の戯れ」

三島由紀夫がラディゲに対抗した小説「獣の戯れ」

本(獣の戯れ)

三島由紀夫の長編小説で、昭和36年6月から9月まで13回に渡って週刊新潮に連載され、その後単行本として出版されました。「文豪ナビ 三島由紀夫」ではこの小説を、フランスの小説家ラディゲに対抗した作品との解説があり、その影響を受けたとも書いてあります。

個人的にも大学生の頃、当時女子大生の間でラディゲブーム(多分)が起きており、私も読んでみましたが「ダイヤモンドのような硬質で華麗な

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建築を深読みできる入門書「教養としての建築入門」(^^)

建築を深読みできる入門書「教養としての建築入門」(^^)

本(教養としての建築入門)(長文失礼します)

そのタイトル通りの建築入門書ですが、「教養」と冒頭につくのが単なる入門書には留まらない内容となっています。私自身も大学の建築学科を卒業後、建築業界や不動産業界の建築部門に長く従事してきましたが、これまでの復習も兼ねて読んでみることにしました。

筆者の坂牛卓さんは現役の建築家で、内容は第一部・鑑賞論-建築の見方、第二部・設計論-建築の作り方、第三部・

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ドイツ人ではない画家志望だったヒトラーの実像に迫った本「ヒトラー」

ドイツ人ではない画家志望だったヒトラーの実像に迫った本「ヒトラー」

本(ヒトラー)(長文失礼します)

ヒトラー(1889~1945)の生い立ちから死後のヒトラー現象までを時系列的に分析し、ヒトラーの人物像の全体を考察した本です。筆者の芝健介さんは、長年ナチス・ドイツを研究してきた歴史学者です。
この本を読もうと思ったのは、話題の本「ナチスは「良いこと」もしたのか?」を読んだ後、関連本を読みたくなり、本屋さんで見つけて参考資料として読み始めた次第です。 

オース

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小室直樹氏による三島由紀夫評伝「三島由紀夫が復活する」

小室直樹氏による三島由紀夫評伝「三島由紀夫が復活する」

本(新版 三島由紀夫が復活する)(長文失礼します)(一部敬称略)

小室直樹氏による三島由紀夫の評伝です。帯に「三島文学の謎、「輪廻転生」に迫った野心作」と書いてあり、私も遺作「豊饒の海」の最終巻「天人五衰」の結末が、未だに謎なので買って読んでみました。 

実はこの本、5月に読み終えて一応感想文も書いたのですが、まだ資料不足ではと「英霊の聲」などを読みましたが、それでもまとめきれずに年末までにな

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平成と令和料理の三種の神器とは⁉️「おいしい食の流行史」

平成と令和料理の三種の神器とは⁉️「おいしい食の流行史」

本(おいしい食の流行史)

NHKラジオで放送された番組「食の流行から見る暮らしの近現代史」を書籍化した本です。筆者の阿古真理さんは作家で、生活史研究家でもあります。料理好きの私は、以前「小林カツ代と栗原はるみ」(ベタすぎる!タイトルですが)という筆者の著書を読んだことがあったので、今回も好きな食べ物の内容ということもあり、新聞の書評で見つけ読んでみることにしました。

この本はラジオ番組の書籍化

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