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読んだ本のこと

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子供の頃苦手だった「読書感想文」のリヴェンジです。
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記事一覧

飢えと純真

飢えと純真

 これまで一作も読んだことがない沢木耕太郎を読みたくなったのは、新作「天路の旅人」が話題になっていたからだ。しかし図書館では5人待ち。他の作品もほとんどが貸出中であったため、とりあえず借りてみたのが今回の「流星ひとつ」である。

 藤圭子という歌手については、宇多田ヒカルのお母さんであるということを除いては、どんなジャンルの歌手かも知らなければ、当然代表曲を口ずさんでみることもできないし、顔すら思

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世界で一番不思議な人、そして会いたい人

世界で一番不思議な人、そして会いたい人

 森達也著「千代田区1番1号のラビリンス」を読みました。「戦後日本の表現における臨界に挑む問題小説が…」などと帯に書かれていたのでドキドキしながらページを開きました。ところが全部読み終わってみると、特に「問題」はなかったように思いました。もしかすると私があまりに無知なので問題を問題と認識できなかったのかも知れません。それでもとにかく歴史あり、社会問題あり、恋愛あり、そして冒険ありで楽しく読める一冊

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風景で描かれる音楽

風景で描かれる音楽

 恩田陸著「蜜蜂と遠雷」の読書感想です。

 とある国際的なピアノコンクール。出場者は約100名。その中の4人にスポットライトをあて、彼らのそれまでの人生やコンクールでの演奏、そして音楽を通した出会いと成長が描かれる、と書いてしまうとどこかありがちなストーリーに見えてしまいます。ちなみにコンクールでは1~3次までの予選があり、それらを勝ち残った6人による本選で戦いは終了します。

 この作品に特徴

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心の中を、全て言葉にしてあいまいさを許さない厳しさ

心の中を、全て言葉にしてあいまいさを許さない厳しさ

 辻村深月著「朝が来る」をたった今読み終わり書き始めています。この作家に関しては見たことも聞いたこともなかったのですが、ひとことで言うとまっこと素晴らしい作品で、2015年に発行されておそらくたくさんの人が読んでいるに違いありません。十中八九書店で自分からは手に取らない類の本著を「おすすめ」として貸し出してくれる”本読み”の友人は貴重です。

 養子縁組で子供をもらい受けた40代の夫婦が登場します

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昭和生まれが気持ち良く読める原田マハ

昭和生まれが気持ち良く読める原田マハ

 久しぶりにマハさんに戻ってきました。今回は「たゆたえども沈まず」と「美しき愚かものたちのタブロー」の二作まとめて感じたことを書いてみます。

なぜ気持ちいいのか? この二作を読んでいる時、共通するある心地良さがあることに気付きました。それは、どちらも日本人がパリで、現地の人々と肩を並べて、時には尊敬を得ながら活躍するということがもたらす心地良さでした。なぜそれが心地いいのでしょう。

西欧への憧

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ミステリー初心者をスッキリさせてくれない、湊かなえ

ミステリー初心者をスッキリさせてくれない、湊かなえ

 湊かなえを読んでみようと思ったのは、NHKの「あさイチ」という番組に出演されているのを観たからです。売れっ子なんだそうです。知りませんでした。しかもこれから一年間の休筆を宣言されたばかりでした。「私もう空っぽなんです」と。そんなに書きまくってたんですね。知りませんでした。

 いつも図書館代わりに利用している母(80歳)の書棚には湊かなえはありませんでした。しかし本好きの友人はいるもので、「湊か

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30年ぶりに読んだナウシカに見た、支配、利他、リーダー

30年ぶりに読んだナウシカに見た、支配、利他、リーダー

 図書館に通って、漫画版「風の谷のナウシカ」を全巻読み直しました。先日読んだ「ポストコロナの生命哲学」という本にナウシカが非常に大きく取り扱われていて、久しぶりにまた読んでみたくなったからです。

ナウシカを知らない人へ

 宮崎駿作『風の谷のナウシカ』は劇場版と原作である漫画版では結末がまるで異なることは以前触れました。(その時の記事はこちら⬇️)

 ナウシカで描かれる時代は遠い未来です。簡単

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時に美しく、時に不都合な「自然」というやつ

時に美しく、時に不都合な「自然」というやつ

 例によって80歳の母の書棚から拝借してきたこの本は、いわゆるコロナ本ではありませんでした。私が(コロナ以前から)ずっと持ち続けていた「ある疑問」を整理してくれ、「解決せずにこれからも持ち続けてもいい」と言ってくれるような本でした。

ある疑問

 動物や植物は自然のルール(掟といってもよい)の中で本能にのみ従って生きていて一定の秩序が保たれています。一方人間は自然から切り離した自分達のテリトリー

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マハじゃない、美術ミステリー

マハじゃない、美術ミステリー

 実は原田マハ以外の美術ものも一作読んでいました。それがたいそう面白かったのです。ケリー・ジョーンズ著『七番目のユニコーン』(訳:松井みどり)です。原題もそのまま <The Seventh Unicorn> です。

6枚の「一角獣と貴婦人」 おそらく(特に中世の)美術に詳しい人なら、「七番目のユニコーン」という題名を見ただけで「はは~ん」と小説のテーマが読めてしまうんじゃないかと心配しました。そ

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読んではいけない

読んではいけない

 万が一、今この記事を読んでいて「私も原田マハ読んでみようかな~」と思っている「マハ未経験者」がいたら、いやもしいたらですよ、この「いちまいの絵~生きているうちに見るべき名画~」から読んではいけません。

ありがちな題名 昨今「生きてるうちに(または死ぬまでに)○○すべき○○」というタイトルが乱発されています。「見るべき絶景」「観るべき映画」「食べるべきピッツァ(?)」「入るべき温泉」等々なんでも

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楽園から地獄へ

楽園から地獄へ

「楽園のカンヴァス」に続いて「暗幕のゲルニカ」を読みました。美術の素人が原田マハにハマっています。

章の日付はちゃんと頭に入れて 「楽園のカンヴァス」と同様、過去と現在が交互に登場しながら物語が進行し、最後にはつながっていきます。そして過去と現在、その両方に生きて登場する人物が一人だけいるのも「楽園…」と同じです。(正確には「楽園…」の方は三つの時代で構成されています)

 主人公は今回も日本人

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美術のド素人が原田マハを読んだら #2

美術のド素人が原田マハを読んだら #2

 前回の続きです。「ジヴェルニーの食卓」第2話から最終第4話まで、感じたことをあれこれ書いていきます。数あるマハ本の中でもこの作品にこれほど感動したのはひょっとして珍しいことでしょうか?

星屑から輝く星へ 前章マティスの物語で南仏の光を浴び瞳孔が収縮しているところから一転、今度は湿っぽい地下室へ連れ込まれるような落差に参りました。一見華やかに見えるパリの底辺にある残酷な現実、それを作品に落とし込

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美術のド素人が原田マハを読んだら #1

美術のド素人が原田マハを読んだら #1

 学校時代「読書感想文」というものに苦しめられた人は多いのではないでしょうか?私もその一人です。note を始めて半年以上が経ち、これまでいくつか駄文を投稿してきましたが、最近原田マハさんの本を何冊が読む機会があり、子供時代のリヴェンジをできないか…と考えたのでした

タイトルについて 今回は「いかにも」なタイトルをつけました。ネット上のコンテンツ(YouTubeや note 等)ではこのようなタ

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いとしの Henri

いとしの Henri

 拙文「美術のド素人が原田マハを読んだら #1 #2 」に続き今回も原田マハ、「楽園のカンヴァス」を読んで感じたことを書いてみます。

燃えよキュレター ある人物が、過去の栄光やスキャンダラスな恋愛、そういったものに蓋をして、今は市井に紛れて静かに暮らしている。しかしひょんなことからその蓋が自分の意思とは関係なくこじ開けられ、その人物の正体を知って周りは驚き興奮する、そしてついには表舞台に引っ張り出

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