バイクの事故で23年の命を終えた息子。誰かの心に触れるものがあればと思い、親族と友人たちに送った手紙をここに。 タミームを心に留めてくださった人たちへ。 8月6日…
長いこと使っていたラジオクロックを捨てた。20年以上、ベッドのわきに置いていたものだ。毎日、何度もそれを眺めては時間を確認し、ラジオ番組を聞き、音楽を聴き、目覚ま…
小さな島がありました。 小川が流れておりました。 やさしい風がフーっと吹いて、明るい午後が始まりました。 小さなお姉ちゃんを追いかけて、小さなわたしは走ります。 …
起きがけに 強い朝日を背に受けて 壁にうつった影と出会う 伸びた髪と 細った肩 ちょっとかしげた頭は動かず 体温すら持たない影が 小さなため息で呼吸をし 絞れば涙の一…
雨つぶが 空の上から旅をして 私のもとへ落ちてきた 自分を生んだその雲に 抱きかかえられる事もなく ポツリポツリと生まれては 見知らぬ大地にただ向かい 望まれもせず …
「こっちの道をいく?それともこっちがいい?」 ダーちゃんと一緒に、彼の小さな幼稚園への道を歩く。他の三歳児が歩かないと思われる距離を、ダーちゃんは駄々をこねる事…
「ガオー!ぼくはトラだぞー」 私をこわがらせる為にすっかりトラになりきっている三歳のダーちゃんが、玄関のドアを開けた私に開口一番、低い声をあげて、我が家に入って…
小鳥は今日も 木から木へ 大好きな 木の実を さがしゆく しげった 葉の下を くぐりぬけ たわわに実る 赤い実 「みつけた!」 細くて 高い木の てっぺんにも 大き…
トッポちゃんはね、オレンジ色した、くまのぬいぐるみ。 ぽわぽわした毛は明るくて、すきとおったオレンジの目が、ちょっとおどけて見えるんだ。 ベッドタイムの前にね、…
日本を紹介するようなイベントに出かけた。例年、見物するだけだったけれど、今回は書道の筆を持ち、墨を使って、来たお客さんたちの名前をカタカナで書いてあげるというサ…
西の空に顔を向け 一人散歩する 今日という日を照らしきった太陽が なごりを惜しんだぬくもりで 私を包む 抱きしめ返すことはできないけれど 残り火のようなその色に …
わっさわっさと葉をゆらし その木は空に伸びている 圧倒的な高さを持って わっさわっさとゆれるのを 楽しむように伸びている 飛びゆく鳥がよけるか休むか 風の多いこの…
神は私を創られた 羽ばたくように創られた 閉じた翼を引きずって それを広げる空を見た 胸の鼓動がトクントクンと 飛ぶべきこの身を告げていた 目を閉じても広がる空が …
ばたばたと翼を動かし ぐるぐる戸惑い続けた一羽が 差しこむ一瞬の光のすき間に 静寂と飛び散る無数の羽を残し 広い空にとび出した 羽ばたく音も 鳴き声も すべてを空は包…
落とさぬように 消えぬようにと つままれる 思い出の中の ひとつぶ
小鳥は空を見るのが好き いつもいつも広い空 飛んでるような気持ちになる 草地を歩き 空を見る 木によじ登り 空を見る 岩に腰かけ 空を見る 小鳥は飛んだことがない …
空の下のマサコ
2023年8月7日 22:18
バイクの事故で23年の命を終えた息子。誰かの心に触れるものがあればと思い、親族と友人たちに送った手紙をここに。タミームを心に留めてくださった人たちへ。8月6日(2022年)、土曜日の夜11時頃、警察が悲しい知らせを伝えに来ました。タミームがバイクで事故にあい、亡くなったと、静かにもはっきりと伝えられました。車との接触事故でした。タミームは正しい車線を走っていたということ。免許の履歴から
2020年8月15日 21:18
長いこと使っていたラジオクロックを捨てた。20年以上、ベッドのわきに置いていたものだ。毎日、何度もそれを眺めては時間を確認し、ラジオ番組を聞き、音楽を聴き、目覚ましとしても使っていた。シュルルーと音を出してCDがまわるのが面白いのか、たいていの子供は、これを前にすると、あらゆるボタンを押して操作するのを楽しんだ。アイルランドは夏時間と冬時間が一時間変わる日がある。その日もボタン一つで時間が変更さ
2020年7月17日 21:43
小さな島がありました。小川が流れておりました。やさしい風がフーっと吹いて、明るい午後が始まりました。小さなお姉ちゃんを追いかけて、小さなわたしは走ります。「川で遊ぼう」小石をなでて流れる水が、ところどころでチョロチョロと、すきとおった音をたてました。流れに足を突っこんで、バシャ バシャ バシャ。足踏みするのはお姉ちゃん。水しぶきをたっぷり上げて、にごった水といっしょになって、こ
2020年5月4日 19:13
起きがけに強い朝日を背に受けて壁にうつった影と出会う伸びた髪と細った肩ちょっとかしげた頭は動かず体温すら持たない影が小さなため息で呼吸をし絞れば涙の一粒くらい出そうな姿でそこにいた見つめられるために影はあるのでなく照らす光の強さを表すためにあるようで私は影を背にして朝日の方に向き直る光が真正面から私を迎えた
2020年4月28日 18:53
雨つぶが空の上から旅をして私のもとへ落ちてきた自分を生んだその雲に抱きかかえられる事もなくポツリポツリと生まれては見知らぬ大地にただ向かい望まれもせず喜ばれもせずただひたすらうるおすためにしっかりしろと雨つぶが私の頬を濡らした
2020年4月19日 19:28
「こっちの道をいく?それともこっちがいい?」ダーちゃんと一緒に、彼の小さな幼稚園への道を歩く。他の三歳児が歩かないと思われる距離を、ダーちゃんは駄々をこねる事もなく、いつも気持ちよく歩く。お弁当を入れた彼のバッグは、私の肩にかかっているから、彼は身軽だ。外に出る時はしっかり防寒具なりに身を包むのが習慣として固定しているダーちゃんは、軽くてあたたかいジャケットに、動きやすいスポーツシューズ、お気
2020年4月19日 09:15
「ガオー!ぼくはトラだぞー」私をこわがらせる為にすっかりトラになりきっている三歳のダーちゃんが、玄関のドアを開けた私に開口一番、低い声をあげて、我が家に入ってくる。彼はいつも、何かしら私に見せる物や、話すことを持ち合わせて我が家に現れる。ドアを開ける私の挨拶が終わらないうちに、待っていましたとばかりに新しいおもちゃを見せながら、夢中でそれを説明する日もある。大好きなサッカーチームのジャージーを
2020年4月6日 21:31
小鳥は今日も 木から木へ大好きな 木の実を さがしゆくしげった 葉の下を くぐりぬけたわわに実る 赤い実「みつけた!」細くて 高い木の てっぺんにも大きくて つやつやの実「あっ! みつけた!」風に吹かれて 荒くれたった 古いみきにも最後の ひとつぶ「み、つ、け、た!」時には だれかが落としたずいぶん変わった形の木の実が頭の上に ボトン目の前に ポトン「みーつけ
2020年3月27日 23:36
トッポちゃんはね、オレンジ色した、くまのぬいぐるみ。ぽわぽわした毛は明るくて、すきとおったオレンジの目が、ちょっとおどけて見えるんだ。ベッドタイムの前にね、トッポちゃんをまくらの横において、ふとんをかけてあげるの。歯みがきをして「おやすみ」って言ってから、トッポちゃんの横で寝るんだよ。昼間のトッポちゃんはね、楽しい所にいるのが好きだよ。みんながご飯を食べるのを、ゆかに寝そべって見てた
2020年3月21日 22:26
日本を紹介するようなイベントに出かけた。例年、見物するだけだったけれど、今回は書道の筆を持ち、墨を使って、来たお客さんたちの名前をカタカナで書いてあげるというサービスのお手伝いだ。事前の練習も指導もない。三十年間、筆を触っていない私の手は、思うようには動かず、少しは感じよく書けるはずだと思ったのは、私の思い込みに過ぎなかった。「ハロー。私の名前はジャックです」「ジャックね」目の前に現れるお
2020年3月20日 08:09
西の空に顔を向け 一人散歩する今日という日を照らしきった太陽がなごりを惜しんだぬくもりで私を包む抱きしめ返すことはできないけれど残り火のようなその色に私は染まって歩き続けるありがとうそのぬくもりをありがとう
2020年3月17日 21:19
わっさわっさと葉をゆらしその木は空に伸びている圧倒的な高さを持ってわっさわっさとゆれるのを楽しむように伸びている飛びゆく鳥がよけるか休むか風の多いこの土地で折れる事もなく山ほどの葉をかかえこうべを垂れつつ空に向かう優しい風にさわさわとゆれ激しい風にしなりつつその木はそこに立ってきたわっさわっさと葉をゆらしその木は今日も伸びている羽を休める小鳥が一羽その木
2020年3月16日 23:54
神は私を創られた羽ばたくように創られた閉じた翼を引きずってそれを広げる空を見た胸の鼓動がトクントクンと飛ぶべきこの身を告げていた目を閉じても広がる空が私を待っていた神は空を創られた私が羽ばたく大きな空を神は私に創られた
2019年5月20日 21:02
ばたばたと翼を動かしぐるぐる戸惑い続けた一羽が差しこむ一瞬の光のすき間に静寂と飛び散る無数の羽を残し広い空にとび出した羽ばたく音も鳴き声もすべてを空は包み上げ限りなき高みに憩う喜びをその翼に与えられる
2019年5月20日 07:23
落とさぬように消えぬようにとつままれる思い出の中のひとつぶ
2019年5月17日 18:46
小鳥は空を見るのが好きいつもいつも広い空飛んでるような気持ちになる草地を歩き 空を見る木によじ登り 空を見る岩に腰かけ 空を見る小鳥は飛んだことがないちょっと折れた小さな羽は広げたこともないある日気になる丘の上に登ってみると、ほら穴があって、ちょっとのぞいてみたら、ケイブマンがいた!「ハロー ミスターケイブマン!」飛べない小鳥を手のひらにのせてケイブマンはゆ