アマンダ 今夜は若返ったの! だってあなたのおかげで特別楽しい夜だから! 彼女は上を向いてどっと笑い出す。レモネードをこぼす。 アラララ! 洗礼を受けてしまっ…
ある晩露台に白ッぽいものが落ちていた 口へ入れると 冷たくてカルシュームみたいな味がした 何だろうと考えていると だしぬけに街上へ突き落とされた とたん 口…
石と血と鉄とで きみと僕は作られている。 (……) いっしょに行こう。勝手に石を投げさせよう。 「頭は雲の中さ」と言わせて置こう。 奴らは感づいていないさ、 友よ、我…
わたしたちは街々の建物のうしろがはに落ちてゆく赤い夕日にむかつて しだいにずり堕ちてゐる わたしたちの構成したすべての建築は刻々と破滅しそうである いまこそ爪立つ…
けふの夕日が構成してゐる色のうち 緋色からひわいろにいたるまでの複合色彩を分離し 眠りかかつてゐる幼児にそれをゆび指してやる いちいちうなづくように頸を動かす幼児…
悟空は確かに天才だ。これは疑いない。それははじめてこの猿を見た瞬間にすぐ感じ取られたことである。…… この男の中には常に火が燃えている。豊かな、激しい火が。その…
野鴨が移住の時季に空を渡ると、彼らが見おろす地上に、不思議な現象が起る。それは家鴨(あひる)たちが、空の大きな三角形の飛翔に誘われるもののように、不器用に飛び上…
私が眼にとめるまで何ひとつ完成されてはいなかった すべての生成がとまっていた 私の眼ざしは熟れている そして花嫁のように どの一瞥にもその欲する事物(もの)がやっ…
「うんと……小さなものも入れて……何百万個が……毎日……毎晩……わたしたちの上に……降ってる……」 若者はびっくりした。地球もそんなに危険なのか。 「どんな音がす…
七月、父は決まって湯治場へ出かけていき、私と母と兄とは暑熱に白いめくるめく夏の日々のなかに置き去られた。光に放心した私たちは休暇というあの大きな書物を一枚ずつ見…
彗星読書夜話は、古今東西の、真に価値ある文学作品を解説する音声プログラムです。 ここでは、そのダイジェストをまとめて文章にしてあります。 取り上げる作品を読んだこ…
【彗星読書夜話ダイジェスト】 彗星読書夜話は、古今東西の、真に価値ある文学作品を解説する音声プログラムです。 ここでは、そのダイジェストをまとめて文章にしてありま…
彗星読書倶楽部
2020年7月29日 06:37
アマンダ 今夜は若返ったの! だってあなたのおかげで特別楽しい夜だから! 彼女は上を向いてどっと笑い出す。レモネードをこぼす。アラララ! 洗礼を受けてしまったわ!こんな話を、どこで読んだのだったか。アメリカ人の家に、日本人僧侶が招かれた。暑い夏のことだった。家主はうっかり、テーブルの上に水をこぼした。気まずい雰囲気が流れた……と思ったら、僧侶はサッと手を水の上にのせ、「ああ、冷たい
2020年7月1日 11:54
ある晩露台に白ッぽいものが落ちていた 口へ入れると 冷たくてカルシュームみたいな味がした 何だろうと考えていると だしぬけに街上へ突き落とされた とたん 口の中から星のようなものがとび出して 尾をひいて屋根のむこうへ見えなくなってしまった 自分が敷石の上に起きた時 黄いろい窓が月下にカラカラとあざ笑っていた稲垣足穂『一千一秒物語』「星を食べた話」梅雨の気候を嫌う人は多いですが、私は好
2020年6月27日 06:57
石と血と鉄とできみと僕は作られている。(……)いっしょに行こう。勝手に石を投げさせよう。「頭は雲の中さ」と言わせて置こう。奴らは感づいていないさ、友よ、我等がどんな鉄と石と血と火とでものを建て、夢を見、歌を歌うかを。オジッセアス・エリティス「石と血と鉄とで……」『現代ギリシャ詩選』人はどうして、喩え(例え・譬え)を作り出すのでしょうか?もちろん理由はいろいろあるに違いない。
2020年6月26日 07:22
わたしたちは街々の建物のうしろがはに落ちてゆく赤い夕日にむかつてしだいにずり堕ちてゐるわたしたちの構成したすべての建築は刻々と破滅しそうであるいまこそ爪立つて支へねばならぬもしそれが出来るのなら友よ!吉本隆明「落日の歌」何かが、悪い意味で、終わろうとしている時。まったく良くない意味での貧しさが、この私を襲っていると気付いた時。そんな時、私たちはなぜか、つい黙ってしまいます。
2020年6月24日 05:56
けふの夕日が構成してゐる色のうち緋色からひわいろにいたるまでの複合色彩を分離し眠りかかつてゐる幼児にそれをゆび指してやるいちいちうなづくように頸を動かす幼児はわたしへの共鳴者だ吉本隆明『日時計篇』「詩への贈答」よりこれまた随分とカタい単語が見られますね。その中に登場する幼児は、年齢まではわかりませんが、もし新生児だとすると、でたらめ運動(新生児が脈絡もなく頭や手足を動かすあの動作
2020年6月23日 07:30
悟空は確かに天才だ。これは疑いない。それははじめてこの猿を見た瞬間にすぐ感じ取られたことである。……この男の中には常に火が燃えている。豊かな、激しい火が。その火はすぐにかたわらにいる者に移る。彼の言葉を聞いているうちに、自然にこちらも彼の信ずるとおりに信じないではいられなくなってくる。……彼は火種。世界は彼のために用意された薪。世界は彼によって燃されるために在る。中島敦「悟浄歎異」より天
2020年6月22日 12:41
野鴨が移住の時季に空を渡ると、彼らが見おろす地上に、不思議な現象が起る。それは家鴨(あひる)たちが、空の大きな三角形の飛翔に誘われるもののように、不器用に飛び上がろうと試みることだ。サン=テグジュペリ『人間の土地』『星の王子様(小さな王子)』という小説で有名になってしまっているフランスの小説家サン=テグジュペリ『人間の土地』の最終章に記されているこのエピソードは、ほんとかどうかはわかりませ
2020年6月21日 05:40
私が眼にとめるまで何ひとつ完成されてはいなかったすべての生成がとまっていた私の眼ざしは熟れている そして花嫁のようにどの一瞥にもその欲する事物(もの)がやってくるリルケ『時禱集』より私たちは物を見る時、暗黙のうちに、その物が自分自身とは独立していて、それを自分の視覚で捉えている、と信じて疑いません。しかし、実はこの世界では物事に「完成」をほどこす主権が自分にあり、この眼球で捉えた時に
2020年6月20日 06:09
「うんと……小さなものも入れて……何百万個が……毎日……毎晩……わたしたちの上に……降ってる……」若者はびっくりした。地球もそんなに危険なのか。「どんな音がするんだ」日野啓三「星の流れが聞こえるとき」何かに追われるような焦燥感を抱え、その日暮らしをしながら東京を彷徨う青年が、裏道で出会った、全身に包帯を巻いている女の子。彼女は出会うたびに視力を失っていくが、聴覚が敏感になり、草の伸びる音
2020年6月19日 08:26
七月、父は決まって湯治場へ出かけていき、私と母と兄とは暑熱に白いめくるめく夏の日々のなかに置き去られた。光に放心した私たちは休暇というあの大きな書物を一枚ずつ見披(ひら)いていくのであったが、どのページもちらちらと燃え、その底には黄金色の洋梨の実の気も遠くなるほどの甘みがあった。ブルーノ・シュルツ『肉桂色の店』「八月」夏という季節を描写するには、どんな言葉を使えばいいでしょうか。夏をテーマ
2020年5月16日 20:19
彗星読書夜話は、古今東西の、真に価値ある文学作品を解説する音声プログラムです。ここでは、そのダイジェストをまとめて文章にしてあります。取り上げる作品を読んだことがない人も、存分にお楽しみいただけますので、最後までお付き合いください。文学作品は、「役に立たない」と言われることがありますが、これは初歩的な誤解です。「役に立たせる読み方」があることを、多くの人が知らないでいるだけです。彗星読
2020年5月11日 23:30
【彗星読書夜話ダイジェスト】彗星読書夜話は、古今東西の、真に価値ある文学作品を解説する音声プログラムです。ここでは、そのダイジェストをまとめて文章にしてあります。本来40分ほどの音声版の内容を、10分ほどで読むことができます。取り上げる作品を読んだことがない人、「名前だけは聞いたことあるなあ」という人でも、お楽しみいただけるようになっています。彗星読書夜話とは?文学作品は、「役に立
2020年5月2日 22:14
【彗星読書夜話ダイジェスト】彗星読書夜話は、古今東西の、真に価値ある文学作品を解説する音声プログラムです。ここでは、そのダイジェストをまとめて文章にしてあります。本来40分ほどの音声版の内容を、10分ほどで読むことができます。取り上げる作品を読んだことがない人、「名前だけは聞いたことあるなあ」という人でも、お楽しみいただけるようになっています。彗星読書夜話とは?これまで、文学作品を扱