彗星読書倶楽部

人と人を書物でつなぐためのサイト&プロジェクト『彗星読書倶楽部』。 毎週日曜、オンライ…

彗星読書倶楽部

人と人を書物でつなぐためのサイト&プロジェクト『彗星読書倶楽部』。 毎週日曜、オンライン読書会を開催しています。 講座イベント『彗星教室』、音声配信など、本に関する企画を今後もたくさん発表します。 https://suiseibookclub.com/

記事一覧

【1日1読】レモネードで洗礼を受ける テネシー・ウィリアムズ『ガラスの動物園』

アマンダ 今夜は若返ったの! だってあなたのおかげで特別楽しい夜だから!  彼女は上を向いてどっと笑い出す。レモネードをこぼす。 アラララ! 洗礼を受けてしまっ…

【1日1読】白っぽい星はどんな味がするのか 稲垣足穂「星を食べた話」

 ある晩露台に白ッぽいものが落ちていた 口へ入れると 冷たくてカルシュームみたいな味がした  何だろうと考えていると だしぬけに街上へ突き落とされた とたん 口…

【1日1読】 石と血と鉄とで、 きみと僕は作られている エリティスほか『現代ギリシャ詩選』より

石と血と鉄とで きみと僕は作られている。 (……) いっしょに行こう。勝手に石を投げさせよう。 「頭は雲の中さ」と言わせて置こう。 奴らは感づいていないさ、 友よ、我…

【1日1読】破滅に抗うために、友と爪先立ちで支えるのなら 吉本隆明「落日の歌」

わたしたちは街々の建物のうしろがはに落ちてゆく赤い夕日にむかつて しだいにずり堕ちてゐる わたしたちの構成したすべての建築は刻々と破滅しそうである いまこそ爪立つ…

【1日1読】幼児はわたしにうなずいてくれる 吉本隆明「詩への贈答」

けふの夕日が構成してゐる色のうち 緋色からひわいろにいたるまでの複合色彩を分離し 眠りかかつてゐる幼児にそれをゆび指してやる いちいちうなづくように頸を動かす幼児…

【1日1読】世界は彼によって燃されるために在る 中島敦「悟浄歎異」

悟空は確かに天才だ。これは疑いない。それははじめてこの猿を見た瞬間にすぐ感じ取られたことである。…… この男の中には常に火が燃えている。豊かな、激しい火が。その…

【1日1読】空を飛ぶ野鴨を見上げたアヒルは自分も飛ぼうと試みる サン=テグジュペリ『人間の土地』

野鴨が移住の時季に空を渡ると、彼らが見おろす地上に、不思議な現象が起る。それは家鴨(あひる)たちが、空の大きな三角形の飛翔に誘われるもののように、不器用に飛び上…

【1日1読】私が眼で見なければ世界は止まっているのか? リルケ『時禱集』

私が眼にとめるまで何ひとつ完成されてはいなかった すべての生成がとまっていた 私の眼ざしは熟れている そして花嫁のように どの一瞥にもその欲する事物(もの)がやっ…

【1日1読】 流星が降り注ぐ音はどんな音か 日野啓三「星の流れが聞こえるとき」

「うんと……小さなものも入れて……何百万個が……毎日……毎晩……わたしたちの上に……降ってる……」 若者はびっくりした。地球もそんなに危険なのか。 「どんな音がす…

【1日1読】暑熱に白いめくるめく夏の日々のなかに ブルーノ・シュルツ『肉桂色の店』「八月」

七月、父は決まって湯治場へ出かけていき、私と母と兄とは暑熱に白いめくるめく夏の日々のなかに置き去られた。光に放心した私たちは休暇というあの大きな書物を一枚ずつ見…

ポール・ヴァレリーの評論「精神の危機」を解説します【彗星読書夜話】

彗星読書夜話は、古今東西の、真に価値ある文学作品を解説する音声プログラムです。 ここでは、そのダイジェストをまとめて文章にしてあります。 取り上げる作品を読んだこ…

サン=テグジュペリの小説『人間の土地』を解説します【彗星読書夜話】

【彗星読書夜話ダイジェスト】 彗星読書夜話は、古今東西の、真に価値ある文学作品を解説する音声プログラムです。 ここでは、そのダイジェストをまとめて文章にしてありま…

梶井基次郎の小説「檸檬」を解説します【彗星読書夜話】

【彗星読書夜話ダイジェスト】 彗星読書夜話は、古今東西の、真に価値ある文学作品を解説する音声プログラムです。 ここでは、そのダイジェストをまとめて文章にしてありま…

【1日1読】レモネードで洗礼を受ける テネシー・ウィリアムズ『ガラスの動物園』

【1日1読】レモネードで洗礼を受ける テネシー・ウィリアムズ『ガラスの動物園』

アマンダ 今夜は若返ったの! だってあなたのおかげで特別楽しい夜だから!

 彼女は上を向いてどっと笑い出す。レモネードをこぼす。

アラララ! 洗礼を受けてしまったわ!

こんな話を、どこで読んだのだったか。
アメリカ人の家に、日本人僧侶が招かれた。暑い夏のことだった。
家主はうっかり、テーブルの上に水をこぼした。気まずい雰囲気が流れた……と思ったら、僧侶はサッと手を水の上にのせ、「ああ、冷たい

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【1日1読】白っぽい星はどんな味がするのか 稲垣足穂「星を食べた話」

【1日1読】白っぽい星はどんな味がするのか 稲垣足穂「星を食べた話」

 ある晩露台に白ッぽいものが落ちていた 口へ入れると 冷たくてカルシュームみたいな味がした
 何だろうと考えていると だしぬけに街上へ突き落とされた とたん 口の中から星のようなものがとび出して 尾をひいて屋根のむこうへ見えなくなってしまった
 自分が敷石の上に起きた時 黄いろい窓が月下にカラカラとあざ笑っていた

稲垣足穂『一千一秒物語』「星を食べた話」

梅雨の気候を嫌う人は多いですが、私は好

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【1日1読】
              
            石と血と鉄とで、
きみと僕は作られている エリティスほか『現代ギリシャ詩選』より

【1日1読】 石と血と鉄とで、 きみと僕は作られている エリティスほか『現代ギリシャ詩選』より

石と血と鉄とで
きみと僕は作られている。
(……)
いっしょに行こう。勝手に石を投げさせよう。
「頭は雲の中さ」と言わせて置こう。
奴らは感づいていないさ、
友よ、我等がどんな鉄と石と血と火とで
ものを建て、夢を見、歌を歌うかを。

オジッセアス・エリティス「石と血と鉄とで……」『現代ギリシャ詩選』

人はどうして、喩え(例え・譬え)を作り出すのでしょうか?
もちろん理由はいろいろあるに違いない。

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【1日1読】破滅に抗うために、友と爪先立ちで支えるのなら 吉本隆明「落日の歌」

【1日1読】破滅に抗うために、友と爪先立ちで支えるのなら 吉本隆明「落日の歌」

わたしたちは街々の建物のうしろがはに落ちてゆく赤い夕日にむかつて
しだいにずり堕ちてゐる
わたしたちの構成したすべての建築は刻々と破滅しそうである
いまこそ爪立つて支へねばならぬ
もしそれが出来るのなら
友よ!

吉本隆明「落日の歌」

何かが、悪い意味で、終わろうとしている時。
まったく良くない意味での貧しさが、この私を襲っていると気付いた時。
そんな時、私たちはなぜか、つい黙ってしまいます。

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【1日1読】幼児はわたしにうなずいてくれる 吉本隆明「詩への贈答」

【1日1読】幼児はわたしにうなずいてくれる 吉本隆明「詩への贈答」

けふの夕日が構成してゐる色のうち
緋色からひわいろにいたるまでの複合色彩を分離し
眠りかかつてゐる幼児にそれをゆび指してやる
いちいちうなづくように頸を動かす幼児は
わたしへの共鳴者だ

吉本隆明『日時計篇』「詩への贈答」より

これまた随分とカタい単語が見られますね。
その中に登場する幼児は、年齢まではわかりませんが、もし新生児だとすると、でたらめ運動(新生児が脈絡もなく頭や手足を動かすあの動作

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【1日1読】世界は彼によって燃されるために在る 中島敦「悟浄歎異」

【1日1読】世界は彼によって燃されるために在る 中島敦「悟浄歎異」

悟空は確かに天才だ。これは疑いない。それははじめてこの猿を見た瞬間にすぐ感じ取られたことである。……
この男の中には常に火が燃えている。豊かな、激しい火が。その火はすぐにかたわらにいる者に移る。彼の言葉を聞いているうちに、自然にこちらも彼の信ずるとおりに信じないではいられなくなってくる。……彼は火種。世界は彼のために用意された薪。世界は彼によって燃されるために在る。

中島敦「悟浄歎異」より

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【1日1読】空を飛ぶ野鴨を見上げたアヒルは自分も飛ぼうと試みる サン=テグジュペリ『人間の土地』

【1日1読】空を飛ぶ野鴨を見上げたアヒルは自分も飛ぼうと試みる サン=テグジュペリ『人間の土地』

野鴨が移住の時季に空を渡ると、彼らが見おろす地上に、不思議な現象が起る。それは家鴨(あひる)たちが、空の大きな三角形の飛翔に誘われるもののように、不器用に飛び上がろうと試みることだ。

サン=テグジュペリ『人間の土地』

『星の王子様(小さな王子)』という小説で有名になってしまっているフランスの小説家サン=テグジュペリ『人間の土地』の最終章に記されているこのエピソードは、ほんとかどうかはわかりませ

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【1日1読】私が眼で見なければ世界は止まっているのか? リルケ『時禱集』

【1日1読】私が眼で見なければ世界は止まっているのか? リルケ『時禱集』

私が眼にとめるまで何ひとつ完成されてはいなかった
すべての生成がとまっていた
私の眼ざしは熟れている そして花嫁のように
どの一瞥にもその欲する事物(もの)がやってくる
リルケ『時禱集』より

私たちは物を見る時、暗黙のうちに、その物が自分自身とは独立していて、それを自分の視覚で捉えている、と信じて疑いません。
しかし、実はこの世界では物事に「完成」をほどこす主権が自分にあり、この眼球で捉えた時に

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【1日1読】
流星が降り注ぐ音はどんな音か 日野啓三「星の流れが聞こえるとき」

【1日1読】 流星が降り注ぐ音はどんな音か 日野啓三「星の流れが聞こえるとき」

「うんと……小さなものも入れて……何百万個が……毎日……毎晩……わたしたちの上に……降ってる……」
若者はびっくりした。地球もそんなに危険なのか。
「どんな音がするんだ」
日野啓三「星の流れが聞こえるとき」

何かに追われるような焦燥感を抱え、その日暮らしをしながら東京を彷徨う青年が、裏道で出会った、全身に包帯を巻いている女の子。彼女は出会うたびに視力を失っていくが、聴覚が敏感になり、草の伸びる音

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【1日1読】暑熱に白いめくるめく夏の日々のなかに ブルーノ・シュルツ『肉桂色の店』「八月」

【1日1読】暑熱に白いめくるめく夏の日々のなかに ブルーノ・シュルツ『肉桂色の店』「八月」

七月、父は決まって湯治場へ出かけていき、私と母と兄とは暑熱に白いめくるめく夏の日々のなかに置き去られた。光に放心した私たちは休暇というあの大きな書物を一枚ずつ見披(ひら)いていくのであったが、どのページもちらちらと燃え、その底には黄金色の洋梨の実の気も遠くなるほどの甘みがあった。
ブルーノ・シュルツ『肉桂色の店』「八月」

夏という季節を描写するには、どんな言葉を使えばいいでしょうか。
夏をテーマ

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ポール・ヴァレリーの評論「精神の危機」を解説します【彗星読書夜話】

ポール・ヴァレリーの評論「精神の危機」を解説します【彗星読書夜話】

彗星読書夜話は、古今東西の、真に価値ある文学作品を解説する音声プログラムです。
ここでは、そのダイジェストをまとめて文章にしてあります。
取り上げる作品を読んだことがない人も、存分にお楽しみいただけますので、最後までお付き合いください。

文学作品は、「役に立たない」と言われることがありますが、これは初歩的な誤解です。
「役に立たせる読み方」があることを、多くの人が知らないでいるだけです。
彗星読

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サン=テグジュペリの小説『人間の土地』を解説します【彗星読書夜話】

サン=テグジュペリの小説『人間の土地』を解説します【彗星読書夜話】

【彗星読書夜話ダイジェスト】
彗星読書夜話は、古今東西の、真に価値ある文学作品を解説する音声プログラムです。
ここでは、そのダイジェストをまとめて文章にしてあります。
本来40分ほどの音声版の内容を、10分ほどで読むことができます。

取り上げる作品を読んだことがない人、「名前だけは聞いたことあるなあ」という人でも、お楽しみいただけるようになっています。

彗星読書夜話とは?
文学作品は、「役に立

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梶井基次郎の小説「檸檬」を解説します【彗星読書夜話】

梶井基次郎の小説「檸檬」を解説します【彗星読書夜話】

【彗星読書夜話ダイジェスト】
彗星読書夜話は、古今東西の、真に価値ある文学作品を解説する音声プログラムです。
ここでは、そのダイジェストをまとめて文章にしてあります。
本来40分ほどの音声版の内容を、10分ほどで読むことができます。

取り上げる作品を読んだことがない人、「名前だけは聞いたことあるなあ」という人でも、お楽しみいただけるようになっています。

彗星読書夜話とは?これまで、文学作品を扱

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