逆さまに撫でた猫の毛は 鳥の羽に少しだけ似ている 模様が似ただけなのであって 君はどうあがいたって飛べないのに 飛べるような気がしているのか サバトラ猫は木に登る …
花を持ってゆこう やわらかな日差しに揺れる秋桜が 私を見送った 花を持ってゆこう 風の音のある新しい住処 私は何も聞かないけれど 花を持ってゆこう 白いベルが鳴ってい…
見知らぬ景色の中に 見知ったものを探そうとする その探求の中で胸に浮かぶ感傷 きっとそれがノスタルジア 歩く道の端っこのたんぽぽ 疲れて見上げた木々の緑 どこまでも続…
今じゃあもう屑鉄のような もう終わっている物語。 こうり いつの間にか部屋の中に小川が流れていた。どこから来たのだろう、と首を傾げているうちに、横から伸ばされ…
回想に飛び込むと 日々を浪費するかわり 思い出は物語になる それから本に化けて 本棚にしまわれて それから… それから… それから? 本になった思い出は もう私のもので…
止まない雨はないと言う たしかに雲はいつかは流れて行ってしまうし 雨の後にはただ青空がある けれども雨は命を奪う あふれた水は簡単に人を殺す あっという間に 止まな…
時計台の短針に 猫の姿をした怪盗が乗っている 鐘が鳴った途端に それは人の顔で私を見 猫の手を唇に当てた それから狼の声で一つ吠えて カラスの羽を広げて去っていった …
藁半紙も 鮮やかな色紙も 全部破り捨てて 朝焼けのラピスラズリは 粉々に割って そうしたらその先に 空と宙の境目が 見えるでしょうか
小鳥が渦を巻いている 真っ黒い渦巻きは 気づけば散ってしまっていた 一瞬枯れ木の幻影を見る 小鳥も懐かしいのだろうか かつての巨木はもういない 彼らを守った老いぼれは…
あなたのやわらかな黒髪には 青色のワンピースがきっと似合うわ いつか行った美術館の絵画の青色 あの色のワンピースがあったら私、きっと買うわ 海にも空にも溶けてしまわ…
淡青にくゆる 森を知らずに拐かされる 本を手に取る 背表紙は焦げた ずっと前は赤かったでしょう? 今となっては白いのだ 背表紙ですか、これは本当に 金の題字はどこに行…
耳を当てて聞いたんだ、雨音を 雨粒はたしかに歌っていたよ 賛美歌ではなかったけれど 雨粒はたしかに歌っていたよ 単音を連ねて歌っていたよ 目をつむって聞いたんだ、雨…
花も葉も枯れた藤棚は 枝ばかりでやっぱり寂しい。 枝は命がないように見えるから、 見ていると少し恐くなる。 けれどたしかに生きているのだ。 花には死神がつきまとって…
時折 扇風機が死んでいるように見える 古いものなら尚更 あの網の金属的な輝きや 羽の冷ややかな光沢が 扇風機が人工物であることを はっきりと語っているというのに 命な…
しゃぼんがはじけた よるのまんなか すずをころがすわらいのうたげ わらべだけがおきている ひびくはおさないいのりのこえと きおくにしみこむわらべうた てまりをついたこ…
蝉が居ないことに今日気がついた しばらく涼しかったから 今はもう秋だとでも思っていたのだろうか いや、居ないとも限らないのかもしれない もしかしたら鳴いていないだけ…
高村砂子
2022年4月5日 17:39
逆さまに撫でた猫の毛は鳥の羽に少しだけ似ている模様が似ただけなのであって君はどうあがいたって飛べないのに飛べるような気がしているのかサバトラ猫は木に登る汚れた白猫がみゃあと鳴くいわく、「君は海の虎だろう、飛べるとしたらキジトラさ」無責任な白猫は事態を面倒にするだけして帰っていくキジトラは臆病なので気後れしてにゃは、と笑う随分と人間らしいキジトラいわく、「名前が同じなだ
2022年10月22日 18:25
花を持ってゆこうやわらかな日差しに揺れる秋桜が私を見送った花を持ってゆこう風の音のある新しい住処私は何も聞かないけれど花を持ってゆこう白いベルが鳴っているんだ本当はそれだけ聞いた花を持ってゆこう私の腕で抱えきれない花をこぼしながら会いにゆこう私は追憶する忙しく過ぎた日々たちは今だけは歩みをのろくして私の瞼の裏をただ穏やかに過ぎてゆく空は飛べないままだったから木
2022年10月18日 22:28
見知らぬ景色の中に見知ったものを探そうとするその探求の中で胸に浮かぶ感傷きっとそれがノスタルジア歩く道の端っこのたんぽぽ疲れて見上げた木々の緑どこまでも続きそうな堤防蔦の中花が覗く河原昨日の雨に飲み込まれた中洲薄汚れたコンクリートの橋それらすべてが記憶とつながり置いてきたものたちが一瞬で背に覆いかぶさる何一つ自分は捨てられぬのだと悟るきっとそれがノスタルジア誰が住むかも
2022年10月17日 18:39
今じゃあもう屑鉄のようなもう終わっている物語。こうり いつの間にか部屋の中に小川が流れていた。どこから来たのだろう、と首を傾げているうちに、横から伸ばされた手が川に差し込まれた。「これはこうりが溶けた水ですよ」美味しいんですよねえ、これ。嬉しそうにそう言うと、出し抜けにその手をぺろりと舐める。「汚いですよ」と咎めても、「この水はこうやって楽しむのが一番なんですよ」とからかうように言うばか
2022年10月1日 18:31
回想に飛び込むと日々を浪費するかわり思い出は物語になるそれから本に化けて本棚にしまわれてそれから…それから…それから?本になった思い出はもう私のものではなくなってかと言って他人のものでもなくてそれなら神のもの?きっと並行の僕のもの
2022年9月19日 18:52
止まない雨はないと言うたしかに雲はいつかは流れて行ってしまうし雨の後にはただ青空があるけれども雨は命を奪うあふれた水は簡単に人を殺すあっという間に止まない雨はないと言ういつか幸せが来るのだとそのいつかが来る日なんて誰にもわからないのに長い長い雨の中にいるときはそれが終わる日のことを考えることなんてできやしないそれは彼の人にとってはたしかに永遠なのだ止まない雨はない
2022年9月18日 14:43
時計台の短針に猫の姿をした怪盗が乗っている鐘が鳴った途端にそれは人の顔で私を見猫の手を唇に当てたそれから狼の声で一つ吠えてカラスの羽を広げて去っていった怪盗はおぞましい化け物に成り果てたかに思われたが不思議や不思議その姿はただの空に沈む太陽だったつまるところ怪盗は一介の人でありとうの昔に絶命していたのである(怪盗なんてものはいつの世も大衆の幻覚なのだ)
2022年9月17日 16:58
藁半紙も鮮やかな色紙も全部破り捨てて朝焼けのラピスラズリは粉々に割ってそうしたらその先に空と宙の境目が見えるでしょうか
2022年9月16日 21:01
小鳥が渦を巻いている真っ黒い渦巻きは気づけば散ってしまっていた一瞬枯れ木の幻影を見る小鳥も懐かしいのだろうかかつての巨木はもういない彼らを守った老いぼれはもう いない小鳥の見せた幻影は僕らのことを憎むだろうか
2022年9月15日 17:37
あなたのやわらかな黒髪には青色のワンピースがきっと似合うわいつか行った美術館の絵画の青色あの色のワンピースがあったら私、きっと買うわ海にも空にも溶けてしまわない青がいいあの絵画にだけ溶けられるような青がいいあなたはスカートをふわりと舞わせて飛び去るように行ってしまうのね海の中でも空の中でも私、必ずあなたを見つけるわそして地上に戻るのあなたとならどこまでも飛んでゆけるわ、私絵
2022年9月14日 22:20
淡青にくゆる森を知らずに拐かされる本を手に取る背表紙は焦げたずっと前は赤かったでしょう?今となっては白いのだ背表紙ですか、これは本当に金の題字はどこに行きました燃えたって、そんなはずはないでしょう今はそんなことはしてはいけない本だもの森の鳥が運ぶ蛙が見送るさらさらと流れ文字が流れもう二度と君は残留しない淡青にくゆる紫煙をいとう淡青は空気と誰が言う血に交わ
2022年8月29日 01:33
耳を当てて聞いたんだ、雨音を雨粒はたしかに歌っていたよ賛美歌ではなかったけれど雨粒はたしかに歌っていたよ単音を連ねて歌っていたよ目をつむって聞いたんだ、雨音を雨粒はたしかに笑っていたよ快活ではなかったけれど雨粒はたしかに笑っていたよ空気を抱いて笑っていたよ夢を旅して聞いたんだ、雨音を雨粒は見えなかったよけれど笑んで歌っていたよそんな声がした声だった、声だったんだ
2022年8月27日 01:33
花も葉も枯れた藤棚は枝ばかりでやっぱり寂しい。枝は命がないように見えるから、見ていると少し恐くなる。けれどたしかに生きているのだ。花には死神がつきまとっているから命が感じられるだけであって枝にもたしかに命はあるのだ。死神がほんの少し遠くでお茶をしているだけであって。
2022年8月24日 00:01
時折扇風機が死んでいるように見える古いものなら尚更あの網の金属的な輝きや羽の冷ややかな光沢が扇風機が人工物であることをはっきりと語っているというのに命などないことを耳元で教えられているというのにもともとは命があったんじゃないかと非現実な妄想をかき立てられる
2022年8月22日 00:26
しゃぼんがはじけたよるのまんなかすずをころがすわらいのうたげわらべだけがおきているひびくはおさないいのりのこえときおくにしみこむわらべうたてまりをついたこみちはくらくたきびのはいのあるばかりしゃぼんがはじけたあまよのすみっこじょうげんをかくしたくもをどかしてわらわだけがおきているとおくなったあまぐものくらやみちかづいてくるゆめがたりかごめとうたったゆうひはしずみまわ
2022年8月19日 01:51
蝉が居ないことに今日気がついたしばらく涼しかったから今はもう秋だとでも思っていたのだろうかいや、居ないとも限らないのかもしれないもしかしたら鳴いていないだけなのかもしれない居なくなった途端に恋しくなって、寂しくなって私は蝉を探そうとする様々な虫の音の奥に 車が駆けていく裏に朝焼けが部屋を照らすまで私は蝉を生かそうとするまだ夏は続いていると思い込もうとする私は夏を探そうとする