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人間番付70億位

人間番付70億位

 2022年現在、世界人口は79億を超え、今年度中には80億に達する勢いで増え続けているという。もしも世界中の人間の価値をランキング形式で序列化するとしたら……。洗面台で手を洗いながら空想する。おそらく俺は70億位あたりに入るんじゃないか。

 人間の価値には高低がある。いかに綺麗ごとを言って取り繕おうが、これは厳然とした事実だ。世を見渡せば、何の罪もない者を無差別に襲う殺人鬼、自国民を奴隷のごと

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国際ヒューマン

国際ヒューマン

「先生、あたし第一志望変えることにしました」

「そうか。前回の三者面談の時は国際人間文化大学って聞いてたけど?」

「はい、国際人間文化大学のグローバルヒューマンリレーションシップ学部異文化コミュニケーション学科が第1志望だったんですけど、やっぱり平成国際福祉大学のグローバル福祉ヒューマンヘルス学部国際ヒューマンウェルフェア学科にしようかなって思って」

「ちょっと、そんな話お母さん聞いてない」

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愛の大艦巨砲主義

愛の大艦巨砲主義

「俺、もう、もう、我慢できないよ2等海士!」

「ダメだってば海士長! 護衛艦の中でこんなことしてるのがバレたら、私たち!」

「そんなこと言ったって、俺のトマホークミサイルはもう、こんなに固くなってるんだ」

「わあ、なんて大きいの! まるでタイコンデロガ級ミサイル巡洋艦……」

「きみのイージスシステムだってもう、ぐちょぐちょになってるじゃないか」

「ダメ! やめて!」

「口では嫌がってい

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清楚系ビッチの倫理と耽美主義の精神

清楚系ビッチの倫理と耽美主義の精神

 コンビニで買ってきたサラミをかじりながら、デスクの脇にある小型冷蔵庫から2本目のビールを取り出す。缶を開けた瞬間のぷしゅっという音が心地良い。今日で試験は終わった。これから膨大な量の答案を採点しなければならないのだが、その作業は明日研究室でやるとして、とりあえず息抜きをしなくては身がもたん。ぷはあ。やれやれ。

 上層部が学生受けを狙って導入した教員評価制度のおかげで、私の月給はあろうことか、以

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ブラサイズ別性格診断

ブラサイズ別性格診断

【A・Bカップ】
Aカップ、Bカップの女性は几帳面で完璧主義者。
自分に課された仕事は基本的に最後までやり遂げるが、完璧を求めるあまりストレスがたまり、ときおり何もかもを放り出してしまうこともある。
他人には親切だが、意外と打算的な一面も持ち合わせる。

【C・Dカップ】
Cカップ、Dカップの女性は細かいことを気にせず、後輩の面倒見がいい姉御肌。
サバサバ系でやや男っぽい性格をしている。
口では「

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ジェンダーフリーなんかこわくない

ジェンダーフリーなんかこわくない

 そろそろ潮時だな。ため息をつき、ソファの向かいの棚に目をやる。窓から夕日が差し込み、キラキラと輝いている。ここには俺が赴任してからの約10年で指導してきた生徒たちの獲ったトロフィーやメダル、盾などが陳列してあるのだ。教え子と俺の輝かしい実績の象徴をながめてもう一度ため息をついてから、体育教員室に置いてある私物の整理を始めた。

 近年、欧米を中心にいわゆるLGBTQに配慮したジェンダーフリー化が

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もしも神様がラジオ番組のパーソナリティだったら

もしも神様がラジオ番組のパーソナリティだったら

 はい、てなわけでね、今週も始まりました神回RADIOですけども。まあね、やっぱ今は自粛自粛でね、俺もこの番組の収録以外は家に引きこもって、ずーっと懐かしのアニメを観直してるっていう(笑)。最近のお気に入りは「涼宮ハルヒの憂鬱」なんだけど、もうね、とにかく長門がめっちゃかわいい(笑)。見たことないリスナーは絶対観たほうがいいよ。マジでね、神アニメですよ、これは(一同爆笑)。

 じゃまあ、今週もま

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童貞昇天

童貞昇天

 このままでは凍死してしまう。けれど、この娘と一緒ならそれでもかまわない。

 激しい吹雪で道に迷い、運良く見つけた洞穴の中、綾(あや)と俺は今、手を伸ばせば届く距離で向き合って座っている。うちのサークルのアイドルであり、学内のミスコンでファイナリストにまで選ばれた、あの北島(きたじま)綾とだ。彼女と密室でふたりきりになるという、夢にまで見た、夢精までしたシチュエーションが、まさか現実のものになろ

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今夜もそばで

今夜もそばで

 なんだかお腹の調子が悪い。オフィスの冷房は弱めに設定されているけど、それでも私の体は冬眠中のヘビみたいに冷たくなっている。

「はあ、終わったあ」

 アメリカからの帰国子女みたいなオーバーアクションで伸びをしながら、後輩の芽菜(めいな)が終業ベル代わりの声を上げた。

 課長の席の上の掛け時計を見上げると、5時をちょっと過ぎていた。大きなあくびが出てしまった。左手で口をおおいつつ、右手のマウス

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青少年のための正しい性教育

 6時間目の授業を終えると、ため息が漏れた。歩くたびに胃のきしむような音が鳴る体育館の床を踏みしめながら、重い足取りで体育教員室へと向かう。

 明日はいよいよあの授業を行わなければならない。しかし講義計画は遅々として進まず、いまだにほぼ白紙のままだ。昨夜は参考資料として、インターネットの動画サイトでポルノグラフィをダウンロードした。けれども教師とはいえ27歳、心身ともに健全な成人男性である俺に

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男に生まれた罰

男に生まれた罰

 一糸まとわぬ姿の女がゴルフクラブで襲いかかってくる。すんでのところで身をかわした俺もすっぱだか。全身に冷や汗をかきながらよく見ると、女の顔に見覚えがある。元カノの恵美里だ。

「恵美里? なんで?」

 彼女は生白い肌を紅潮させて怒鳴る。

「許さない!」

 こんな無茶なことが現実で起こってたまるか。これは夢だ。間違いない。だってここは真昼間のキャンパスなのに、俺たち以外は人ひとり見当た

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日本魔物連合会

日本魔物連合会

 都内一等地に位置する高級ホテルに、日本全国津々浦々から魔物たちが集結した。史上初の試みとなる日本魔物連合会の結成を祝うパーティーのためだ。祝宴は高層階のイベントホールを貸し切って盛大に催された。ふだんは孤独で殺伐とした日々を過ごす魔物たちも、この日ばかりは上機嫌で騒いでいた。

「えー、本日、残念ながら病魔さんは体調不良のためご欠席とのことですが、えー、その他の魔物の皆様にはご参加いただきまして

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学園祭でつかまえて

学園祭でつかまえて

 見わたす限りつづく人混みの片隅に、ひときわ目を引くふたり組の美少女がいる。紺のセーターにスカートという地味な服装が、秋晴れの太陽に照らされたまっ昼間のキャンパスではかえって目立つ。

 ひとりは身長160センチくらい。一見すると華奢な体型だが、よくよく見ると細い体に不釣合いなほど豊かな胸でセーターがふくらんでいる。髪はまっ黒で艶やかに輝くショートボブ。スカートは膝丈よりやや短いくらいで、膝までし

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ご休憩【後編】

ご休憩【後編】

前編はこちら

 付き合って1ヶ月。待ちに待った初セックスまであと一歩だ。せっかく美沙がその気になっているのだから、このまま何もしないで帰すわけにはいかない。なんとしても手頃なホテルを見つけなければ。

「ねえ、12時までに帰れるかなあ?」

 そう言って彼女が不安げに俺の顔を見上げる。

 スマートフォンで確認すると、現在時刻は午後10時22分。彼女の門限は当初から計算に入れていたし、だか

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