マリヲ(細谷淳)

1985年大阪府生まれ。ラッパー。✳︎著作『世の人』(百万年書房)✴︎カセットテープ『シャ…

マリヲ(細谷淳)

1985年大阪府生まれ。ラッパー。✳︎著作『世の人』(百万年書房)✴︎カセットテープ『シャインのこと』(中田粥との共作/タラウマラ)発売中です。

記事一覧

カラスは沢山居ます

  「おっさんの言語に振り回されない」とサファリで検索したのは、彼はいまおっさんの言語に振り回されているのかもしれない、と自分で思っているからで、けして悪いこと…

臭い愛は

 日曜日の商店街はガラガラでどこも閉まっていたけどチャチャだけは開いてあった。細いキャメルを吸ってボートか競輪の予想をしてるおじいと、奥にはバナナとトーストを交…

ぶつかり稽古・気配

 人の気配には薄い濃いがあって、例えば関西スーパーの惣菜は食べられないけどコンビニの弁当は食べられるという人が居る。人の気配の少し薄いのは冷凍の宅食やスーパー玉…

とりとめ

 次に何喋ろう、と思ってる。次に何喋るかは、そのときそのときその相手との距離を測って話すことが勝手に出てくるならそれで良いけれど、彼はそうでないのでこう考える、…

真っ直ぐ分散した

 金がないときこそ格好の良い金の使い方をしたいなあ、とぼんやり思って地下鉄に乗っていると、ざわざわと乗客が騒ぎだし、ひとりの着座した男性の周りを避けるようにして…

二人して

 語尾矮小型というか、語尾になるにつれて音量が小さくなっていくのは自分達に気を使ってのことかも知れない、バタやんは優しいからなあ、と彼は思った。それか全然嘘を言…

仙台四郎

 にっこり笑った仙台四郎が球の中で黄金で、動かすと粉と一緒に舞う小さいスノードームみたいなマグネットがあって、それを仙台で買った。仙台四郎はものが話せないがわか…

一昨年も五時も

 桃谷でも玉造でも鶴橋でも良かったけれど歩いたのは、なんか違うなあと思ったからだった。電車も自転車もなんか違うし、イヤホンでラジオからの歌もなんか違うかった、結…

銭っ子ファルストーナメント

「わたし、友達がアッパラパアなっていくの、みててん。隣で。そんときな、うちな、うちもそんなん捕まりたないからな、気狂ったふりしててん、気狂ったふりゆうても可愛い…

ねじ

 嶋丸について思い出したのはトラックの荷台に嶋の字を丸で囲んだペイントを見たからだった。引越作業員の同僚として嶋丸とは会って、会った初日に三千円を借りた。嶋丸は…

どぶみたいなプライド

 ウィーザーがトトのアフリカをカバーしていたのをラジオで聞いた。その最初のドラムスがすごいかっこよかったので、YouTubeでムービーを見た。そうすると最終的に全員が…

鈍い待ち合わせ

 批判的な目はいやだなあ、と思う。自分に帰ってくるから。ピロティホールの談春の独演会の(文七元結だった)帰りに病み上がりのKちゃんと会って、「感染るから」とコンビ…

かもめのジョナサン

 キモトは彼の勤務する清掃会社の事務所の二階に住んでいて、会議室の隅が寝床だった、その会社の社長の友人だから融通が効くけれど、ある意味で居心地の悪い毎日だった。…

クワズイモ

 すれ違ったひとからその人の家の匂いがする。赤ちゃんのような匂いのするおじいなど居て、ユウキさんの言ってた「人間は年がいくと幼児にどんどん戻っていく」という言葉…

時間になった

 紅雀さんは家族で初詣に行き、今年から籤が二百円になっていたことを奥さんに「どない思う」と聞かれた。 「この場合ね、女性はね、男性にどない思う、と聞かんといてほ…

ジャストフレンド

 調子の悪いときに調子の良いことを言おうとすると空回りするなあ、この場合、酔って攻撃的な事を言わないようにするには黙ることだ、酔ってるのに? 酔ってるならそのか…

カラスは沢山居ます

カラスは沢山居ます

 

「おっさんの言語に振り回されない」とサファリで検索したのは、彼はいまおっさんの言語に振り回されているのかもしれない、と自分で思っているからで、けして悪いことでない。出てきたのはやっぱり他人の言葉に振り回されない方法、とか、他人に振り回されやすい人の三つの特徴、とか、「マジで」や「無茶苦茶」はもうおっさんの言語になってきています、というような記事でなんだかなあ。おっさんは自分のことをおっさんと

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臭い愛は

臭い愛は

 日曜日の商店街はガラガラでどこも閉まっていたけどチャチャだけは開いてあった。細いキャメルを吸ってボートか競輪の予想をしてるおじいと、奥にはバナナとトーストを交互に食べている仕事帰りの女性が居て、窓は少しだけ開いてる。ママはモーニングを彼とおじいの分を用意して、鶏肉をビニールに入れて仕込みをしてる、今日は日曜日で十一時までの営業と書いてあった。ママはその仕込みが終わった後、手の平を組んで中空を見て

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ぶつかり稽古・気配

ぶつかり稽古・気配

 人の気配には薄い濃いがあって、例えば関西スーパーの惣菜は食べられないけどコンビニの弁当は食べられるという人が居る。人の気配の少し薄いのは冷凍の宅食やスーパー玉出の惣菜に代表されていて、濃いものは弁当屋の弁当とかパン屋のパンだと思う。全然ないのがコンビニの弁当で、先のその人はちょっとだけ人の気配があるのが食べられないものなのだと思う。彼は人の気配が濃く残っているものが好きだと思ってしまう。この人の

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とりとめ

とりとめ

 次に何喋ろう、と思ってる。次に何喋るかは、そのときそのときその相手との距離を測って話すことが勝手に出てくるならそれで良いけれど、彼はそうでないのでこう考える、盲目の人が電車で握り拳を作っていた、向かいのサラリーマンのエラから髭が三本飛び出ていた、酔った女性が鼻だけ赤くなかった、花を見てかがんだ二人のおばあがたいそう可愛らしかった。頭にこれらを立てておいて、方向目がけて出せるようにする、言葉を選ん

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真っ直ぐ分散した

真っ直ぐ分散した

 金がないときこそ格好の良い金の使い方をしたいなあ、とぼんやり思って地下鉄に乗っていると、ざわざわと乗客が騒ぎだし、ひとりの着座した男性の周りを避けるようにして皆移動しはじめた。ちょっとしたパニックというかんじなのだけど、当の男性というと放けたように笑っている。笑っているし、なにか気持ちよさそうにしてる。作業着で、鉢巻の上にニットキャップで、不精髭だけど酒の缶や瓶は持ってない、それで恍惚としている

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二人して

二人して

 語尾矮小型というか、語尾になるにつれて音量が小さくなっていくのは自分達に気を使ってのことかも知れない、バタやんは優しいからなあ、と彼は思った。それか全然嘘を言っているかもしれないし、自信がない事柄なのかも知れない。なんというか自己顕示というか、そんなようなときにも語尾がちっちゃくなる、例えば昔はフォグランプええのつけとったんやでわし、とか、昔はちょっと呑んだくらいが運転うまなったんやとか、小林と

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仙台四郎

仙台四郎

 にっこり笑った仙台四郎が球の中で黄金で、動かすと粉と一緒に舞う小さいスノードームみたいなマグネットがあって、それを仙台で買った。仙台四郎はものが話せないがわかっていて、四郎が居る店は繁盛する、四郎は農家の四男で、それでも口べらしをせずに大事にした、という全体的な仙台四郎にまつわる逸話に彼はとても感動したからだった。良く見ると古い仙台の店にはだいたい仙台四郎の絵や人形が飾ってあった。あとこけしの絵

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一昨年も五時も

一昨年も五時も

 桃谷でも玉造でも鶴橋でも良かったけれど歩いたのは、なんか違うなあと思ったからだった。電車も自転車もなんか違うし、イヤホンでラジオからの歌もなんか違うかった、結局歩いてもなんか違うため、靴がなんか違うからじゃないだろうかと思う。中古で買った三足はどれも合わない、底が剥がれたりする。ラジオはまたもうひとつ大きくずれた歌に差し掛かって、同じ形でもうひとつ大きく彼はずれて、そのずれた形のままイプソンとい

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銭っ子ファルストーナメント

銭っ子ファルストーナメント

「わたし、友達がアッパラパアなっていくの、みててん。隣で。そんときな、うちな、うちもそんなん捕まりたないからな、気狂ったふりしててん、気狂ったふりゆうても可愛いで、服で固まりつくって猫にしてそれに話しかけたりして。あまあま、とかうまうま、ゆうてんの友達もうちとおんなじでな、狂ったふりしてるもんやと思てて、ほんでうちも友達守りたいやんか、ほんでふたりしてうまうま、ゆうてそういうの、ふたりでやったらほ

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ねじ

ねじ

 嶋丸について思い出したのはトラックの荷台に嶋の字を丸で囲んだペイントを見たからだった。引越作業員の同僚として嶋丸とは会って、会った初日に三千円を借りた。嶋丸は白髪混じりの少し長い髪をひとつくくりにして帽子の後ろの穴から出していて、コロンの良い匂いがした。普段なにをしているのかと彼は聞き、嶋丸はブラジルの店をやっていると言った、派遣社員の嶋丸はでもよく働きよく喋った。
 日本人であることを誇りに思

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どぶみたいなプライド

どぶみたいなプライド

 ウィーザーがトトのアフリカをカバーしていたのをラジオで聞いた。その最初のドラムスがすごいかっこよかったので、YouTubeでムービーを見た。そうすると最終的に全員がむちゃくちゃふざけていて最高にかっこよかったのでそのことを自宅に帰って彼女に言うと爆笑した後やっぱりかっこいいなぁ、ウィーザーはと言う話になって形は整った。それから彼女はトトはアメリカではダサイとされていると言うことを言った。彼はダサ

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鈍い待ち合わせ

鈍い待ち合わせ

 批判的な目はいやだなあ、と思う。自分に帰ってくるから。ピロティホールの談春の独演会の(文七元結だった)帰りに病み上がりのKちゃんと会って、「感染るから」とコンビニで四本、ビールを呑んだけど足りず、どうしてもお湯割りが呑みたいと言って彼とKちゃんは店に入った、鳥貴族は安くて二人で千八百円だった、「また来てくださいね」と若い女性店員が言うのを天使みたいだと思った。
 翌日の仕事中も彼はずっとKちゃん

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かもめのジョナサン

かもめのジョナサン

 キモトは彼の勤務する清掃会社の事務所の二階に住んでいて、会議室の隅が寝床だった、その会社の社長の友人だから融通が効くけれど、ある意味で居心地の悪い毎日だった。おっさんなんで小指ないの、おっさん家賃ないねから奢ってくれなど五月蝿い新人も居るし、怒ってはいけないし、あれらはLの身体に2Lの服を着ているからダボダボやし。彼らの人間性みたいでちょっとなあ、と思っていた、キモトは絶対いつもLだった。
 「

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クワズイモ

クワズイモ

 すれ違ったひとからその人の家の匂いがする。赤ちゃんのような匂いのするおじいなど居て、ユウキさんの言ってた「人間は年がいくと幼児にどんどん戻っていく」という言葉に納得する。
 夏、仕事の最中にユウキさんとは会って、そのときユウキさんは植木を手入れしたり、使わなくなったベビーカーを外に出すなどしていた、そのベビーカーや、ビデオデッキ、タンスなど、ユウキさんの息子の家から運び出す仕事でその日は一万二千

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時間になった

時間になった

 紅雀さんは家族で初詣に行き、今年から籤が二百円になっていたことを奥さんに「どない思う」と聞かれた。
「この場合ね、女性はね、男性にどない思う、と聞かんといてほしですわ、だいたい男はなんにも思てません。せやけどどない思う、ゆて聞くもんやから、わたしもね、なんにも思てないなりにね、いやそらお寺さんも紙代や電気代や光熱費がかかってはんねやろ、ゆうたらね鬼みたいな顔してね、あんなもんなんにもかかってへん

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ジャストフレンド

ジャストフレンド

 調子の悪いときに調子の良いことを言おうとすると空回りするなあ、この場合、酔って攻撃的な事を言わないようにするには黙ることだ、酔ってるのに? 酔ってるならそのかわり、なるたけ快活なことを……という思いで彼は現在タコスの生地を丸めている。タコスの生地はひとつ十五グラムで、丸めたあとはGさんが丸く平たく伸ばしてから一度焼く。「手を洗うとき、洗剤のきつい匂いがしない方がいい。でもなるたけ。生地をファブリ

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