如月悠帆

1985年9月9日生。日本大学藝術学部文芸学科卒。座右の銘は「たまに魔法を使う」。生業…

如月悠帆

1985年9月9日生。日本大学藝術学部文芸学科卒。座右の銘は「たまに魔法を使う」。生業は Web アプリケーションエンジニア。

マガジン

  • 二月のカイエ

    如月悠帆(二月)の雑記帳(カイエ・cahier)。我ながら安直なネーミングと思うけれども、エッセイめいた文章をまとめたものの呼称として、これほど相応しいものがあるだろうか。

  • 「百日紅夜話」のための小説集

    板橋のカフェ百日紅において「百日紅夜話」と題して二回催される朗読会のために書いた小説。 「紅日毬子朗読会 〜百日紅夜話 第一話〜」 https://reserva.be/hyakujitukou187/reserve?mode=service_staff&search_evt_no=5feJwzNDawNLAAAAQuATY 「川合瑞恵朗読会〜百日紅夜話 第二話〜」 https://reserva.be/hyakujitukou187/reserve?mode=service_staff&search_evt_no=6eeJwzNDawNLAEAAQvATc

  • キサラギセンセイのジョーク集

    箴言(アフォリズム)をまとめたもの。「キサラギセンセイ」を自称しているところも含めてジョークです。

  • 二月三十一日の世界

    あり得ない日々の出来事を綴った短編小説をまとめたもの。

記事一覧

固定された記事

不壊の鳥

 ジャン・コクトーの『山師トマ』を読み終えたところから話を始めよう。トマは無邪気な嘘つきだった。だから、背後から、銃で撃たれて斃れても、自分の死すら欺く気だった…

如月悠帆
4年前
3

うしなわれる春

 起床して、ふと春の匂いをかいだ気がして、思いついたことをつらつらとツイートしたのでまとめておく。エッセイの課題か何かのような文章だ。

如月悠帆
2年前
1

定型に関する覚え書き

 定型詩の定型に関してつらつらと呟いたツイートをまとめておく。  あとから読み返すかもしれないし、これらのツイートの存在を忘れて似たようなことをツイートするかも…

如月悠帆
2年前
1

あとがきのようなもの(「ウタノミタマ 第一宵」アフタートークのメモ)

※この文章は「ウタノミタマ 第一宵」のアフタートークのために用意したメモです。本編をご覧になったあと、お読みくだされば幸いです。 「定型幻視奇談」というタイトル…

如月悠帆
3年前
2

書物機関銃説(再装塡版)

 書物は読者の心を血まみれにする機会をいつも、いつでも、うかがっているのです。書架に並んだあれらの書物、実は全て機関銃です。弾帯のように言葉は連なって、お行儀よ…

如月悠帆
4年前
5

ブリキの満月について

 月が綺麗と喜ぶ気持ちは分かるけれども、あれは書き割りの空に吊られたブリキです。だから、あんなに綺麗なのです。大体、本物の月はあんなに光ったりしませんよ。本物は…

如月悠帆
6年前
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人に造られたヒトについて

 諸器官ごとに分解された人体を想像するとき、私は血潮滴る肉の断片よりも、機械部品のようなものを連想してしまう。解剖学の知見が乏しいのもあるけれど、人間の身体に血…

如月悠帆
6年前
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箴言と讒言は似ている

 愛は祈りで、小説も祈りであるなら、箴言はささやかなワガママ、欲求に対する批評である。 *  箴言に深味や含意を読み取るのは、あくまで意識だ。一つの情報から、…

如月悠帆
6年前
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海に沈んだ

 たった数行の手紙すら書き終えることができません。率直な気持ちを書き連ねても二言三言で止まってしまう。不特定多数に読まれるのであれば、このような気苦労もなく、気…

如月悠帆
6年前
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「逃走」の所在について

 レプリカントの所有者は人間である。この「所有者」という表現は暗喩ではない。レプリカントは遺伝子工学によって作られた人造人間である。すなわち、合法的に使い捨てる…

如月悠帆
6年前
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ラーメン戦記

 暖簾をくぐると店員に空っぽのドンブリを手渡される。何に使うか店員に問うてみれば、「頭に被ってください」という返答。何が何やら分からないまま、いわれるままに被っ…

如月悠帆
6年前
8

「キップル」考

 他の惑星で生活するような未来は、残念ながら私には想像できない。空を見上げたとて、この宇宙のどこかに存在するであろう生命に思いを馳せる機会もない。現在、我々は地…

如月悠帆
6年前
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不壊の鳥

 ジャン・コクトーの『山師トマ』を読み終えたところから話を始めよう。トマは無邪気な嘘つきだった。だから、背後から、銃で撃たれて斃れても、自分の死すら欺く気だった。塹壕の汚泥にまみれて突っ伏して、意識の失われていく中で彼は思う。

「死んだ真似をしなけりゃ殺られてしまうぞ」
(ジャン・コクトー『山師トマ』河盛 好蔵 訳、角川文庫)

 単なる山師の少年が、有名な将軍の甥と身分を偽り、戦争に身を投じた

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うしなわれる春

 起床して、ふと春の匂いをかいだ気がして、思いついたことをつらつらとツイートしたのでまとめておく。エッセイの課題か何かのような文章だ。

定型に関する覚え書き

 定型詩の定型に関してつらつらと呟いたツイートをまとめておく。

 あとから読み返すかもしれないし、これらのツイートの存在を忘れて似たようなことをツイートするかもしれない。

 ツイートは広く公開されるものであるから、自分のためのメモというわけではなく、他者に益することをいくらかは期待してツイートしているのだけれども、さてはて、どうであろう。

「詩としてデコードする/される」という概念の面白さか

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あとがきのようなもの(「ウタノミタマ 第一宵」アフタートークのメモ)

※この文章は「ウタノミタマ 第一宵」のアフタートークのために用意したメモです。本編をご覧になったあと、お読みくだされば幸いです。

「定型幻視奇談」というタイトルについて「定型幻視奇談」というタイトルは塚本邦雄の『定型幻視論』に由来する。これは名前だけ拝借したもので、内容との関連性はない。

『うたう百物語』との組み合わせを考慮するなら、ここは「定型幻視怪談」としたいところだが、あまり語呂がよくな

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書物機関銃説(再装塡版)

 書物は読者の心を血まみれにする機会をいつも、いつでも、うかがっているのです。書架に並んだあれらの書物、実は全て機関銃です。弾帯のように言葉は連なって、お行儀よく段落のなかに収まっていますが、一度ページを開けば制圧射撃の雨あられ、遮るものはありません。土嚢もなければ塹壕もない。逃げも隠れもできずに無数の言葉に撃ち抜かれ、無防備な心はすっかり穴だらけ。元の形を失ってしまうことでしょう。

 書物は待

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ブリキの満月について

ブリキの満月について

 月が綺麗と喜ぶ気持ちは分かるけれども、あれは書き割りの空に吊られたブリキです。だから、あんなに綺麗なのです。大体、本物の月はあんなに光ったりしませんよ。本物は光り輝く偽物の裏に隠れて、修繕作業の真っ最中です。

 月のアバタは酷いものです。偽物ですらあの有様ですから、本物はもっと傷んでいるのです。磁気嵐や太陽風は、お肌にとても悪いのです。その上、月はお年寄りです。満ちたり欠けたり、地上の人々を欺

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人に造られたヒトについて

人に造られたヒトについて

 諸器官ごとに分解された人体を想像するとき、私は血潮滴る肉の断片よりも、機械部品のようなものを連想してしまう。解剖学の知見が乏しいのもあるけれど、人間の身体に血肉が備わっているという実感もまた、私には乏しい。

 幼少期に特別なきっかけがあったようには思われない。田舎育ちなこともあり、幼少期は外で遊び回り、生傷の絶えない日々を送っていた。臆病で、痛みにも幾分か過敏なほうであったから、よく泣く子供で

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箴言と讒言は似ている

箴言と讒言は似ている

 愛は祈りで、小説も祈りであるなら、箴言はささやかなワガママ、欲求に対する批評である。



 箴言に深味や含意を読み取るのは、あくまで意識だ。一つの情報から、複数の意味を想定するのは、知能ではない。技術である。才能が必要であるとするならば、それはホラを吹く才能だろう。



「いいか、ここでサイコロを振ったとしよう。実はこの世に存在するサイコロの出目は、どんなものであっても二種類しかない

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海に沈んだ

海に沈んだ

 たった数行の手紙すら書き終えることができません。率直な気持ちを書き連ねても二言三言で止まってしまう。不特定多数に読まれるのであれば、このような気苦労もなく、気のきいた冗談でも思い浮かぶのでしょうが、素直な言葉をまとまった形にするのは気恥ずかしくもあり、なかなか上手くいかないものです。

 あの日は雪が降っていましたね。プラットホームに人影もなく、並んでベンチに座っていました。覚えていますか。とっ

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「逃走」の所在について

「逃走」の所在について

 レプリカントの所有者は人間である。この「所有者」という表現は暗喩ではない。レプリカントは遺伝子工学によって作られた人造人間である。すなわち、合法的に使い捨てることの許された、量産可能な工業製品である。

 レプリカントは道具であるか。成り立ちを考えれば、家電や工業ロボットに近いもののように思える。しかし、レプリカントは自然言語による対話が可能な知性と、人間よりも強靱な身体を備えている。単純な道具

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ラーメン戦記

ラーメン戦記

 暖簾をくぐると店員に空っぽのドンブリを手渡される。何に使うか店員に問うてみれば、「頭に被ってください」という返答。何が何やら分からないまま、いわれるままに被ってみると、案外、頭にフィットする。帽子ではなく陶器であるから、いささか重みはあるものの、安定感は抜群だ。

「三番射出口、スープ出ます!」

 威勢の良い声が響き渡り、熱帯雨林のスコールさながら、凄まじい勢いで頭上からスープが降り注ぐ。ずぶ

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「キップル」考

「キップル」考

 他の惑星で生活するような未来は、残念ながら私には想像できない。空を見上げたとて、この宇宙のどこかに存在するであろう生命に思いを馳せる機会もない。現在、我々は地球で暮らしている。そして、おそらく地球で死ぬだろう。いまのところ、他の選択肢はないように思われる。

 では、P・K・ディック『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』の舞台であったらどうだろう。この作品の地球は、人類の主たる生活の場としての役

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