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ビジョンの話

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私が私であると認められるような「価値を感じる脳内映像」をまとめました。
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【短編SF小説】発掘戦艦

【短編SF小説】発掘戦艦

From : クララ・ジェノバ 上級研究員
To : 防衛局 装備研究所 技術戦略部 マックス・ブックマン 部長
件名 : 先日の構造物調査の件

中心街からしばらく離れた入り江、そしてひときわ目を引く大爆発でもあったかの様に大きくぐられた砂浜。

もう何度もこの写真と状況を見聞きしたかと思うが、私はそこに「世紀の発見」を見たはずだったのだ。

しかし悲しくもバケーションを終えて調査団を率いてきた

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「神様は私の心の中に」の話

「神様は私の心の中に」の話

神は人間であること、男であること、父親である事をやめ、様々な現象の背後にある統一原理の象徴となり、人間の内にある種子から育つであろう花を象徴するものになった。

だから神は名前を持つことができない。
なぜなら、名前というのはつねに物とか人間とか、何か限定されたものを示す。
神は人間でも物でもないのだから、名前を持てるはずがあろうか。

ー エーリッヒ・フロム

「超越者はその多様性・統一性・網羅性

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"深淵と同じ色の真っ白"の話

"深淵と同じ色の真っ白"の話

そこに争いはなくて、私と、その他の干渉できない大勢がいるのみ

私が振りかざした手の先の絶対に後悔、羨望、悲しみ、解放を抱く大勢をよそに膨張を加速させる。

深淵と同じ色の真っ白がいよいよ大勢を包んだ時に訪れる目の前が真っ白と言う以外に「何ともない」という違和感が大勢の恐怖を煽る。

溶ける人々に地球も揺れて、月も太陽さえも冥王星すら白に返す。

その全てが混ざった太陽系はすぐにお互いが理解できた

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【短編小説】AIの落とし子

【短編小説】AIの落とし子

「サツイヲ…モッテ…」

ノイズの入った単調な低音で呟かれた声の主がその角から姿を表す…

切っ先から刀身中腹までがあったであろう「錆々の欠け刃の剣」を握り締める手の人工筋肉は所々で断裂してほぼフレームで持っている状態、そして同様に全身にわたって損傷が激しい骨董品のセキュリティガードだった。

「サツイヲ…サツイヲモッテ…」

そう繰り返しながら通路を進んでいくロボットの行く道には綺麗に二列だけ埃

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「私の物語」の話

「私の物語」の話

なんといってもこれは、私の物語。

そこにあなたは立ってて、私は底なしに隔てられた向こう側の崖に立ってる。

風は強くて声は届かないけど、眼球にぶち当たる強風に朧に映されたあなたの表情は「もう戻らないで」と言いた気。

エマージェンシーイエローの夕日を食む手元の本は、それでも私であった。

これは訣別の歌。

そうよそうよと言わされ続けて眉間の皺は濃くなる一方、胸の空く様な爽快感は永劫の過去にとっ

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【短編小説】5月のさくらいろの季節

【短編小説】5月のさくらいろの季節

ワンマン列車に乗って、遠くにそびえるまだ雪の残った山脈や田んぼや畑に交じって見えてきた、土地に不似合いな開発が進んで生えてきたいくつかの新築物件が、ストーブから漏れる煙で燻された車内の臭いと共に帰郷を実感させる。

両親の仕事の関係で遠く都会の方へ居を移し、酸いも甘いも含めて少年時代を彩ったかの地を離れ、大人になってだいぶ時間がたってから旅行がてら帰郷を計画し、まさに今その地へつながる単線に乗って

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【短編小説】beginning of blink - ブリンクの前日譚

【短編小説】beginning of blink - ブリンクの前日譚

燃えるような西日が山肌で遮られ始め、その日も過酷だった赤熱に森が寝静まろうとする頃、木々の間、幹や枝を伝って一陣の風のような身軽さで走る、いや跳躍する影が一つ、一直線でどこかへ向かう。

目的地はそこからしばらく離れたところに見えた、一等星が見え始めた空に不自然な、徐々に大きくなる「歪な雲の落下点」。

耳を澄まし、足音は5… 7人分。

山の尾根を迂回してまっすぐ目的地に向かう足取りのようだ。

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死ねない男が羨む死んだ女の赤い血の話

死ねない男が羨む死んだ女の赤い血の話

聖永の刹那、有為の奥山抱えし麓の賽の河原で石を積む。

川は流れど終着はなく、追えば気づいて積まれた石。

歩けど届かぬ最果てに、憂えて自死さえよぎるけど、そんな勇気はありゃしない。

ふと現れた人型に、人肌恋しさの心の小躍り沸かせるも、既に事切れて目は魚。

彩乏しき白と黒の世界に、滴る赤のあなたの生命の残滓が美しくて、しかし終わりを選べたことが羨ましくも妬ましく。

かくて現れた赤色は、余計に

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朝の匂いの話

朝の匂いの話

朝の匂いには色々ある。
でもほとんどは行動を億劫にさせる。

起き抜けの鼻に通る冷えた部屋の匂い、昨日干した布団のいい匂い、コーヒーとトーストの匂い、まだ起きたくなくてうつ伏せになった時の枕から香るシャンプーの匂い。

放射冷却で冷えた外気が鼻を冷やして肺いっぱいにおはようを告げる。

身震いして、バラの芳香剤の匂い。

程よい酸味のケチャップと、トロフワ半熟オムレツのよだれをそそる匂い。

歯磨

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私が「文明の終末」に憧れる理由の話

私が「文明の終末」に憧れる理由の話

今や世界中に文明を滅ぼすに足る脅威が蔓延っている。
核はもちろん、今日では感染症、サイバーテロ、軍のクーデター、量子コンピュータ、環境破壊兵器、遂には魔術やオカルトに由来するものや「エイリアン襲来」までもが囁かれる次第だ。

普通なら、日々の当たり前の生活が取り上げられてしまうことを恐れて近くの者に共有し、身を寄せ合って各々が持論を展開して根拠がないにもかかわらず最悪が発生しない事を保証しあったり

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【短編小説】Fleeting Escape Cafe Diner

【短編小説】Fleeting Escape Cafe Diner

天井を見上げる。
パソコンのモニターが路地の街灯の明かりと共に部屋を照らす。
ここ二日、何度こうしていただろうか。
仕事は進まず、altキーとF4キー、enterキー以外には埃すら積もってきている。
タバコの吸い殻だけが増え続け、今日にいたっては1本吸っては灰皿をキレイにしに行っていた。
焦る気持ちとは裏腹に何も生み出しやしない頭はただモニターの前に座るよう脅迫するだけで、食う・寝る・トイレ以外は

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些細な復讐者の話

些細な復讐者の話

「クソッ。だから言ったんだ。あいつは味方なんかじゃなかったんだ...」

息の切れたノース伍長がヘルメットを地面に叩きつける。
明らかな戦力さが見て取れるほどの凄惨さがあたりを血に染め、活気だっていたキャンプに、室外機が風で空回りしている音のみを与える。

90人中20人が死亡、5人娘がさらわれたらしい。ご丁寧にキャンプの入り口に死者たちと、娘たちの靴が並べられていたのだ。
残ったほとんどは兵站に

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寂しさの人の話

寂しさの人の話

War is over。
ピースマークが描かれた旗を振って何も生み出さない争いに疲れた人々は喜びを分かち合う。
残った戦死者は判別がつかず、各国から参加していた前線の兵士は、ゼログラウンドの中心の一点に吸い込まれ、遺品も痕跡も、地面ごと球形に、軒並み呑まれてしまった。過去に例を見ないMIAの数だ。

今なお滞空しているゼログラウンドの「点」。今はまだ帰らない人を弔い、終結した争いに安堵の睡眠を与え

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墜落者の話

墜落者の話

「あぁ...あぁ...」言葉にならない空気が喉を伝って力なく出ていく。
冷めない興奮が頭を混乱させていく。膝をつき耳元をなでる妻の虫の息。
自分が?そんな...みぞおちが痛い。
堰が切られた涙腺は止めどなく大粒の涙を流し、ぼやける視界を拭う手が追い付かない。
そして男はなけなしの正気で現状を納得させようと試みる…

とても長い、ありきたりな幸せ。
平和ボケしてバスルームの鏡一枚に会話を弾ませるほど

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