記事一覧
その青は、かくも遠く美しく
※ワンライで書いたssを書き直した作品です。
「先輩、これ何ですか?」
私は足を止め、そのショーケースを指さす。そこには黒と白の、恐らく何らかの生物をかたどった二対の陶器が展示されていた。質問を受けて振り返った先輩の、咎めるような目が私を射抜く。閉館間際の文化資料館に人の姿はまばらだったものの、私の声はちょっと響き過ぎたらしい。
「これ、何ですか?」
わざとらしく一段声を落とし、もう一度尋ね
モラトリアムが明けた暁には
※ワンライで書いたssに、大幅に加筆修正したものです。1時間でここまで書けるように精進していきたい。
わたしは夜が嫌いだ。
暗闇は怖いし、昼間のように友達と遊ぶこともできない。それにお母さんは夜、わたしがこっそり外に出ようとするとものすごく怒るのだ。本当に夜ってなんにも良いことがない。憎らしいったらありゃしない! そういってわたしがベッドの中であまりにも不貞腐れるものだから、お姉ちゃんは仕
【お知らせ】2/23 文学フリマ広島に出店します
人生で初めて本を作りました!
『おだいじに』というタイトルの作品集です。収録作品のほとんどはnoteに以前投稿した作品に手を加えたものになります。とはいえ、大幅に書き方を変えた作品もあれば書き下ろしもあるので、既に私の作品を読んだことがあるという方にも楽しんでいただけるのではないかと思います。
不穏で寂しくめちゃくちゃな、とにかく可愛い女たちがたくさん出てくる良い本です。
感染症の影響が懸念されま
「記念日に花束って憧れるな」
脳天にホームランボールがヒットしてからというもの記憶力の低下が著しい。他人の顔と名前はちっとも一致しないし朝食べたものを昼に忘れているなんてことはざらだ。最近など自分の家の場所を思い出せなかったのだからやりきれない。
そんな私は当然のようにキリちゃんと恋人になった記念日も忘れてしまう。落ち込む私にキリちゃんは君が忘れても私が覚えてるから大丈夫だよとケーキの箱を取り出す。え、今日? と私が驚くと
目玉焼きに粉チーズかける君はチェーホフなんて読まなかった
キリちゃんが七人に分裂してしまった。混乱を避けるため、彼女たちは週に一日にずつ交代で外出することにしたらしい。
当初七人が演じるひとりの「キリちゃん」は端から見れば完璧に、つまり分裂前と何一つ変わらないように見えた。けれど不思議なもので彼女たちの間には時間が経過するにつれて徐々に個体差が生じるようになった。例えば月曜日の彼女は目玉焼きに醤油をかけるけど火曜日の彼女は決まってケチャップをかける。
To be continued!
キリちゃんはいつだって私のピンチに駆けつけてくれる。例えば私は階段から足を滑らせた後にやって来るはずの衝撃からも、脳天に直撃していたはずの植木鉢からも、心臓を撃ち抜く筈だった弾丸からも、全身をめちゃくちゃにするはずだった脇見運転の大型トラックからも、キリちゃんの手により間一髪で救われる。絶妙なタイミングで颯爽と現れて私を救い出すキリちゃんはどんなフィクションのヒーローよりも格好良い。ただこれは最近
もっとみる