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現代短歌

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現代短歌、はじめました。まだまだ初心者です。
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#日記

海に近いあの街は、夏の匂いがした。

海に近いあの街は、夏の匂いがした。

江の島にほど近いあの街の、夏の夜の匂いを、よく覚えている。

惰性で深夜アニメを流しつつ横になった、部屋の床の匂い。

東京の暑さに慣れなくて、上京して初めて夏バテになった。ぐったりと凭れた頬に伝わるフローリングのつめたさと、開け放した窓から流れ込む夜風の涼しさから、夏の匂いがした。

ディスコ・キッドの前奏に乗せて流れてくる、汗と風の匂い。

はじめての大学の学祭。私たちは浴衣を着て、夜のステー

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割れたiPhoneとかすり傷の話

割れたiPhoneとかすり傷の話

やばい、って思った瞬間、胸がつまって泣きそうになった。

「好きになっちゃいけないって思い始めたらそれはもう好きだし、好きでいなきゃいけないって思い始めたらそれはもう気持ちが冷めてる」なんてことばを、その時ふいに思い出した。

・・・

とてつもなくやさしい人だった。大切な人のために、自分を犠牲にしてしまうような。

それは彼も同じだった。傷つきやすい私は、自分を守るためにはなからやさしい人を選ん

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どうか元気で。

どうか元気で。



しあわせになってほしいって思うよ
泣けちゃうくらい優しいきみに
人知れずつながれた手は私からそっと離すね
どうか元気で。

・・・

ほんのひとつき前まで世間を賑わせていた不倫騒動も、出会うタイミングが違っていたら相手は違っていたかもしれなくて
なんなら不倫関係にはならなかった可能性もあるわけで

そう考えるとどこかのバンドが「君に出会えた奇跡に感謝」みたいなクサい歌詞で歌っちゃう気持ちも

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あいうえおnote【す】

あいうえおnote【す】

混ざる。落ちる。
飲み込んだ理不尽や、引っ込めた涙が、排水溝へ流れる水のようにぐるぐると渦巻きながら、私の中を流れ落ちていく。喉元から、胃、お腹の下の方を通って、つま先へ。
流れ着いた先が行き止まりだったら、そのもやもやは身体に蓄積されていくのだろうか。

スクランブル交差点を何も感じずに渡りきることができるようになった時、私たちは世の中の不条理をひとつ受け入れて「東京の人波」を構成する要素のひと

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忘れたくない失恋の話

忘れたくない失恋の話

中学、高校の6年間を懸けて、好きになった人がいる。

同じクラスの男の子。クラスでは何度か席替えがあって、毎回くじで決めるのだけれど、なぜか5回も6回も彼と隣同士が続いた。それで気づいたら、好きになっていた。

今はもう別の恋人がいるし、彼とは連絡も取っていない。だけどもしも中高時代をやり直すことがあるなら、きっと私はまた彼に恋をすると思う。

・・・

シャイだった私と彼の距離を縮めたのは、メー

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601号室の陽だまり。

601号室の陽だまり。

大好きで大切な同期の辞職が発表されたのは、4日前のこと。

突然のことに衝撃を受けたけれど、さほど驚いていない自分がいた。それはもともとこんな技術職の業界に身を置きながら、同期の半分は文系だったからかもしれない。

半分が女性。半分が文系。多くが未経験者。

その異端さは、私達とこの会社のあいだになんとなく消えない違和感を生み、そして同期の絆を想像以上に強固なものにした。

・・・

彼女は、陽だ

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うまく伝えられないけど、笑って生きてほしい。

うまく伝えられないけど、笑って生きてほしい。

※震災の話をします。苦手な人はお気をつけください。
※短歌のあとに文章があるので、読んでくださる方はぜひ最後までお目通しください。

・・・

短歌7首
テーマ:震災(ノンフィクション)

信号が全部止まった夜のこと 星が綺麗に見えた日のこと

一枚の毛布の中でくだらないジョークに笑って夜を明かした

「おかえり」を言ってもらえる幸せと罪悪感で世界が揺らぐ

4年後の成人式まで私たち健康体でいれる

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人生の門出を迎えたあなたへ

人生の門出を迎えたあなたへ

大切な友人の結婚式に、行けなかった。

私にとって初めての「友達の結婚式」で、その友達は本当に大好きで大切な人で、だから絶対に行きたかったのに、行けなかった。
その日は何十年に一度クラスの台風が関東を直撃した日で、朝からテレビで繰り返し告げられる電車の運休情報や、窓ガラスに激しく打ちつける雨粒に、私はなす術なく家を出ることを断念した。

それはしょうがないよ、と言ってくれた人も何人かいたけれど、友

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あいうえおnote【け】

あいうえおnote【け】


消す

気づいてる?消したまちがいの数だけ小さくなった消しゴムのこと

痕跡を消さずに「またね」が言いたいよ 君のほんとの彼女になりたい

さよならも告げずに君は消えたのに たばこの香りが消えてくれない

あの日々をなかったことにしたくなくて わざと二重線で消したの

携帯が知らせる君の誕生日 キャンセルするのを忘れていたよ

消しゴムをこするみたいに君のこと 撫でたとこから忘れさせてよ

君と

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