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慢性の痛み

痛みには、急性の痛み(以下、急性痛といいます)と慢性の痛み(以下、慢性痛といいます)があります。

一般的には、組織が傷ついて生体の警告信号として知らせている急性痛は、しっかりと対処すれば長引く痛みではなく、さほど問題ではありません。

しかし、組織が治ったにもかかわらず痛みがあったり、あるいは原因がわからなく痛みが3ヵ月以上長く続く痛みがあります。

これが痛みで問題となる慢性痛で、日本では5人に1人が慢性痛に悩んでいるといわれています。

今回は、慢性痛について解説させて頂きます。


1.慢性痛の分類


慢性痛診療ガイドラインでは、3つに分類されています。

  1.  急性痛を繰り返す慢性痛

  2.  急性痛が長引く慢性痛

  3.  治りにくい慢性痛(難治性の慢性痛)


この3つの分類は、精神症状(うつ傾向、不安、破局的思考)を伴うことが多くあるのですが、同じような精神症状を訴えることがあるため、実際の施術現場でこの3つに分けることは非常に困難です。

慢性痛のメカニズム(仕組み)は、この3つの分類の中で各自で説明するのはとても不可能です。

したがって、慢性痛のメカニズムは神経系の様々なものが複雑に絡み合って起きていることが考えられていて、現在でも研究中で今でもわかっていないことも多くあります。

近年の医学では、慢性痛には脳(中枢神経性)が注目されており、テレビやメディアなどでも報じられているほどです。

それだけ慢性痛で困っている人が多いということがいえます。

現在、慢性痛のメカニズムでわかっていることについて解説させて頂きます。


2.慢性痛のメカニズム


慢性痛のメカニズムは以下が代表的で、これらのメカニズムが1つで起きているわけでなく、複雑に絡み合っていることが現在考えられています。


① 痛みの悪循環


痛みが生じると、まず交感神経(自律神経)が緊張し、血管の収縮(血管が閉じる)などの体内で緊急反応が起こり、痛みを身構えるようにして筋肉の緊張が起こります。

そのため、血管の収縮と筋肉の緊張によって、痛みを起こしている部位の血流が悪くなり、組織が酸素不足になり痛み物質(発痛物質)が放出され、痛みが生じます(急性痛)。

痛みが生じると、再び交感神経の緊張や筋肉の緊張が起こり、血流が悪くなることによって、痛み物質が放出されて痛みが生じるという痛みの悪循環になっていまいます。

さらに、痛みに伴う情動的なストレスや不安などの心理的要因が重なってしまうと、痛みが強く感じたり、弱く感じたりの増幅や痛みが長引くことになります。

痛みの悪循環は、急性痛が強く激しかったり、施術がうまくいかない、急性痛を我慢して放置したりなどの要因が考えられます。


② 神経の変化(ワインドアップ現象)


痛みは、電気信号が感覚神経というケーブルを通って、最終的には脳で感じます。

神経には大きく中枢神経と末梢神経に分かれ、中枢神経は脳と脊髄、末梢神経は脊髄から出る体性神経(感覚神経、運動神経、自律神経)、脳幹(中脳、橋、延髄)から出る脳神経(副交感神経も含む)に分かれます。

まずこれが基本となります。

痛みという刺激を繰り返し受けるうち、あるいは痛みのために動かさないでいるうちに、神経に誤作動が起きて性質をかえてしまうことがあります。

そうなることによって、神経が過敏化(可塑化)かして、何も異常がなくても痛みを感じ続けてしまうというワインドアップ現象というものが起こると考えられています。

例えば、骨折でギプスなどで固定をして、骨がくっつくと固定を外しますが、固定を外しても痛みが残るという経験をした人がいるかと思います。

これは、長期間の固定のために動かしていないことが、このようなメカニズムが関わっていることがあります。

【 感作とは 】
簡単にいうと、感覚神経の感受性が高まっている状態

また、神経の誤作動により、プラスタグランジンという痛み物質を過剰に分泌してしまい、痛みを強くしてしまうことがいわれています。


③ 痛みの抑制系システムの異常(下行性疼痛抑制系システムの異常)


私たちの脳には、痛みが出たら痛みを抑えるシステムがいくつか備わっており、正常であればそれが働くことで痛みが軽減されます(下行性疼痛抑制系)。

ところが、慢性痛では心理社会的ストレス、痛みでのストレスなどの情動により、このシステムに異常が生じることがあります。

近年の研究で慢性痛やうつ病の人は、脳の側坐核(そくざかく)という部分の働きが低下していることがわかっています。

言い換えると、慢性痛で悩んでいる人はうつ病になる可能性があるということがいえます。

【 脳の側坐核 】

大脳辺縁系に位置しており、報酬系(脳内で快感や達成感を司る)といわれる脳のネットワークシステムの働きをしている部分。
神経伝達物質であるドーパミンの働きに関与している部分と考えられており、ドーパミンは脳内のモルヒネ(鎮痛物質)の放出を促す働きがある。
例)ランナーズハイ(走ると気持ちが爽快感になる)
また、ドーパミンの放出を受けて、脊髄でセロトニン(幸せホルモン)ノルアドレナリン(ストレスホルモン)も放出され、下行性疼痛抑制系が働き痛みをブロックする。


その他は、脳の前頭前野(PFC)の血流低下、現在研究中ではありますがその他の脳内での下行性疼痛抑制系ネットワークに異常があるのかが考えられています。

今後の研究に期待ですね。


3.慢性痛が良くならない人の考え方


慢性痛と脳には密接の関係があり、慢性痛で悩んでいる方は、痛みの影響で考え方がマイナス思考になっていることが多いです。

以下は、慢性痛がなかなか良くならない、または痛みに対しての考え方ですのでご注意ください。

  • 痛みが完全になくなってほしい(痛みをゼロにしたい)

  • 痛みの原因をはっきりさせたい

  • とにかく痛みがないことには、何もする気になれない

  • 痛みのせいで、自分はダメな人間になってしまった

  • こんな思いをしているのは自分だけだ


このような考え方は、破局的思考ともいいます。

破局的思考が強いと難治性の慢性痛の原因となり、最悪の場合は大きな病院の痛み専門の外来に通院を考えなければなりません。

とくに多い考え方は、「痛みが完全になくなってほしい(痛みをゼロににしたい)」ということだと思います。

誰でも思うことなのですが、急性痛の場合、一般的には日に日に痛みが良くなりゼロになることが多いのですが、慢性痛の場合、痛みをゼロにしたいという考え方は、思えば思うほど逆に痛みへの執着が生まれ、完璧に治ることばかり考えて理想を高く掲げ過ぎてしまい、希望も達成感も得られず、かえって治りにくくなってしまうことが医学的にわかってきています。

そうすると痛みが取れないために、ドクターショッピング、整(接)骨院ショッピングなどで余計な経済的な負担がかかってしまいます。

参考)破局的思考になっている人の特徴

慢性痛で破局的思考になりやすい人、なりにくい人というのが私の経験ではいると思っています。
それは簡単にいえば「性格」で、性格は育ってきた環境にもよると思いますが、どのような性格が慢性痛になりやすいかというと、いわゆる「超A型タイプ」の方が多いと思っていて、また、うつ病にもなりやすいとも考えています。
A型タイプというのは、いわゆる血液型のA型での性格の特徴(一致するとは全然思っていませんが)を確認して頂き、そこに「超」がつくとどうなるのでしょうか❓ご想像にお任せします(笑)
また、施術前のカウンセリングで破局的思考に陥っている方は人にもよると思いますが、痛みに対してもの凄くナーバスになっているため、施術者の意見やアドバイス、考えを聞き入れてくれないことがあります。
当院での慢性痛で破局的思考に陥っている人の場合、「色々な施術を受けたが、この施術法なら痛みが楽になるはず(ホームぺージを拝見)」、「この施術法に期待をしている」、「この施術をすれば痛みが楽になるはず」などと思って期待して来院する人が多くいます。
気持ちはわかりますが、正直思い込んでしまっているため、慢性痛で破局的思考になっている人は特別の施術法をしたからといって、すぐに痛みが取れることはほとんどありません(患者様にはもちろん説明します)。


まずは、慢性痛の知識を理解して、考え方を変えていくことが重要と考えます。


4.慢性痛の対処法


慢性痛の施術方針の最終目標は、慢性痛の状態にもよりますが、痛みをゼロにすることは難しく、痛みの軽減は慢性痛の施術の最終目標ではありますが、第1目標ではありません!

ここを理解してください。

すなわち第1目標は、患者様の生活の質や日常生活動作を向上させることが施術の目的となります。

そこで、慢性痛に対する対処法をご紹介させて頂き、施術法(治療法)については簡単に解説させて頂きます。


① 痛みの仕組みを理解し行動する


慢性痛の多くの方は、様々な情動により精神的に苦痛になっていることがほとんどで、とくに難治性の慢性痛は、破局的思考が強い傾向にあります。

そういった意味で、慢性痛には心理的なアプローチが効果が高いといわれています。

基本的には、「心理的アプローチ = 痛みの脳内ネットワークの活性化」を目指します。

まずは、痛みの仕組みを理解することで、痛みが理解できたら次は行動をすることです。

行動に関しては、最も一般的なところとして、自宅にばかり防がらず外出して歩くです。

ちなみに慢性痛の場合、痛くてもスポーツ、旅行などは大いに行ってください!

ただ、慢性痛がひどい人の場合、考えることや行動することが苦になっているため、なかなか痛みを理解したり、行動することができない人も多くいるのも事実です。

身近な周りの人の協力も必要だと考えます。

痛みの専門とする病院では、慢性痛に効果があるといわれている心理的アプローチの認知行動療法というリハビリをしています。

認知行動療法は様々な方法があるので、ここでは紹介しませんが、主に集学的の行うことが多いです。

参考程度に名前だけ知って頂ければと思います。

【 認知行動療法 】
現在生じている問題を具体的にし、考え方や行動などの変えやすい部分から少しづつ変えていくことで、問題解決を目指す心理療法


② 運 動


慢性痛に運動は効果が高いということは医学的にもわかっています。

こちらも基本的に「運動 = 痛みの脳内ネットワークの活性化」になります。

しかし、どのような運動法が効果があるのかというと、どの運動法にもこれといった差はありません。

つまり、どの運動法でも継続して行うことが大事となります。

ただし、急激に負荷の強い運動を行ってしまうと、急性痛になってしまいますのでご注意ください。

一般的な運動法は以下になります。

  • ウォーキング

  • ジョギング

  • 自転車(エアロバイク)

  • 自重による筋トレ、マシンを使う筋トレ

  • ヨガ

  • ピラティス

  • 太極拳

  • エアロビクス など


運動で有酸素運動が一般的ですが、有酸素運動の中で気軽にできる代表的なものは「ウォーキング」です。

まずは、そこから始めるのがいいと思います。

慢性痛の効果にどの運動、どの頻度で行ったらいいのか❓というのが疑問になると思いますが、これにははっきりとした根拠は存在しません。

ですが、慢性痛の人にもよりますが、効果があったものが存在しますので、以下をご紹介します。

・ 有酸素運動を毎日20分以上で約8週間(約2ヶ月)継続
・ 週2回以上の筋力トレーニング
・ 1週間の間で150分の有酸素運動、週2回の筋力トレーニング


これはあくまで参考程度で、最初は個人の体力により運動量も変わってきます。

例えば、体力がない人の場合、最初は20分以上の有酸素運動ではなく、10~15分ぐらいから始めたり、週2回の筋トレを週1回の筋トレに、あるいは筋トレの回数を基本は10~15回ですが、5回から始めるようにするのがいいと思います。

そして、まずは運動が苦痛でない程度から始めてください!
なぜなら、長続きしないからです。

運動で大事なことは継続です!!

生活習慣に運動グセをつけることから一番最初にやらなければならないことです!

そうしないと、3日坊主となり運動継続には至りません。


慢性痛でお悩みの方でセルフケアできることは、痛みに対しての知識を学び日常生活で痛みがあっても行動することと、運動することです。

医学的に慢性痛に効果が高いのは、この2つと言われています。

是非、参考にしてして頂ければと思います。



まとめとポイント

  • 難治性の慢性痛は、痛みがゼロになること可能性は低い

  • 慢性痛は、心理・社会的ストレスや痛みに対してのストレスがきっかけになり、ひどくなることもある

  • 慢性痛の主なメカニズムは、痛みの悪循環、神経の変化、脳からの痛みの抑制システムの異常が考えられている

  • 慢性痛の対処法で効果が高いのは、心理的なアプローチと運動である



参考文献

  • いつまでも消えない痛みの正体(青春出版社)

  • いたみの教科書(医学書院)

  • オールカラー 痛み・鎮痛のしくみ(マイナビ)

  • 慢性疼痛診療ガイドライン(新興交易医書出版部)



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