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2024年3月に観た舞台①
世田谷パブリックシアター『う蝕』 @シアタートラム
「脚本の横山拓也、脂が乗ってる」と、まず感じた。
大きな災禍が起きた直後の小さな島らしき場所に、主に仕事で集まった男性6人の会話劇で、登場人物の約半分がすでに死んでいるんだけど、それが明かされるまでのせりふの軽さが絶妙だった。絶妙というのは、死んでいるとわかってから思い返すと、切なさや悲惨さや優しさや無常感など、いくつもの解釈が乱反射するよ
歌舞伎座八月公演『新・水滸伝』で思い出した大事な縛り
始まってしばらくすると、不意に胸が締め付けられるような感覚を覚えた。かつて何度も感じたことのあるこの空気、これは一体何だろうと辿っていくと、「ああそうか、二十一世紀歌舞伎組だ」と思い出した。『新・水滸伝』は、2008年に横内謙介が二十一世紀歌舞伎組のために書き下ろしたものなので当たり前と言えば当たり前なのだけれど、この作品の奥に広がっていて、ずいぶん長いこと忘れていた“ある感じ”がリアルに立ち上が
もっとみるこれはローラの物語。新国立劇場イヴォ・ヴァン・ホーヴェの『ガラスの動物園』
終わってみれば完全にローラの物語だった。
前半、物語は早送りのように進む。まさかイヴォ・ヴァン・ホーヴェが、スピーディに話を運ぶことがアップデートという浅薄な考えを持ってはいないだろうと思いはしたものの、それにしてもスピード以外に引っかかる演出が見当たらないのだ。
いや、美術には明確な主張がある。色調は全体に茶色、空間の設えは地下に掘られた穴ぐら、巣を思わせるもので、正面下手(しもて)側にキッ
舞台に吹く旋風(つむじかぜ)の正体は……。明後日プロデュース『青空は後悔の証し』
久々に、頬がしびれるほどの疾風に打たれる感覚を持った。理解しようと足に力を入れ、必死に目を凝らすが、突き放すように強い風が絶えず吹いてきて、点が見えてもなかなか線にならない。
戦争や災禍など、大きな社会問題を作品の中心に置き、現代との接続をわかりやすく見せた、ここ数年の岩松了はここにはいない。
ひたすら個人の心にフォーカスし、それも、心の闇に分け入って謎を解くのでなく、奥を覗けば闇しか出てこないの
ぐうたららばい『海底歩行者』 ──夫婦を海底に引き付けたものは。
10月18日、こまばアゴラ劇場で、ぐうたららばい『海底歩行者』を観た。深い深い暗さとその肯定が埋め込まれた作品で、おそらくこれこそ、作・演出の糸井幸之介が本来抱えているであろう嗜好と志向だと思う。
ぐうたららばいは、劇団FUKAI PRODUCE羽衣の座付き作・演出家・作詞作曲家であり、近年は木ノ下歌舞伎の『心中天の網島』の演出でも注目を集めた糸井が、「羽衣とはちょっと違う、ビターな音楽劇をやり
ニナガワの子供達をイワマツの養子にという夢は叶わないですか? さいたまネクスト・シアター『雨花のけもの』
故・蜷川幸雄が2008年末に立ち上げたさいたまネクスト・シアターが、この公演を最後に解散する。
蜷川は、芸術監督を務めていた彩の国さいたま芸術劇場で、演劇経験を問わない高齢者を集めたさいたまゴールド・シアターと、プロの俳優を目指す若者を集めたネクスト、2つの俳優集団の育成に取り組み、晩年は双方を混ぜて海外の複数の劇場から招聘される作品づくりに至った。けれどもその死から5年、どちらの集団も継続が難