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Deutschland

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帰還せよ。
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#エッセイ

団子三兄弟みたいな雪だるま作りやすいのもわかる

不登校の生徒が学期最終日に通知表を受け取るために仕方なしに登校してくるようなテンションで、輝ない瞳の太陽がちらりと顔を出した。着飾ってるのでもいい、若干の春のおとずれ、うっれしいなあ、なんて能天気な自称ムードメーカーの顔で、三十分以上かかるいつもはバスで通る道を、ひょんひょこ徒歩でいった私がバカだったんだろうか。あっという間に雪景色。

今日は不幸にも一着しかない寝間着のスウェットに純アメリカンな

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余命一年

腕時計に目をくれる余裕もなく、私は彼女の延命措置に急いていた。人々は田舎の足取りで歩く。談笑する。カプチーノを飲んでいる。

日本らしい正月のとぼけた焦燥などなく、新年から日常を取り戻しているドイツにいてさえ、私の中で時が止まってしまった。私は彼女の心臓部を再稼働させる医者を求めていたのだ。これは、一刻を争う。

しかしながら、運命は抗えない。焦りは募るが、冷静にならなければならない。私は

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何歳まで生きたい?

一年前のクリスマスどうしていた?と問われても手帳を手繰らなければ思い出せないほど、それは過去になった。

独りで吉祥寺にいた。東京のことだからきっとイルミネーションが綺麗で、カップルが飽和していたに違いない。カレー屋をハシゴした。カレーが好きだよと言ったら、当時好きだった人が店をオススメしてくれたから。

好きな人の好きな街、好きな店、好きな空気。好きなメニューまで教えてくれた。好きな人の

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4711

4711

「ドイツに行ったら、香水を試したいと思ってる」

空港まで来てくれた友人に、最後そう言った。その友人はいい匂いだと思う香水を、無知な私に丁寧に教えてくれた。

それからドイツに旅立って、判明したのは、残念な事実だった。私は鼻が悪いらしい。

むしろ香水のような人工的な〝いい匂い〟には抵抗が芽生える。無臭がいい。本当にいい匂いがしていたとしても、私にはよくわからない。

だからずっと

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Schokoladenfestival @Tübingen

Schokoladenfestival @Tübingen

子どもはサンタクロース(ニコラウス)に願って眠りについた。
Ein Kind ist unter vom Nikolaus träumend
eingeschlafen.

〝目が覚めたら、大きなチョコのクマがクリスマスツリーの側に置いてありますように!〟
Wenn ich länger wach wäre, würde man einen Schokoladenbär neben den W

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『ニノチカ』

広場でパンをもらった。コンクリート顔負けの、ずっしり重い、黒パンを。冬眠にも至れないメンヘラの心情を具現化したらこんなかもしれないけれども、それにしてはあまりに素朴に廃れている。おまけに、消費期限切れで廃棄処分される運命だったのをフードシェア団体に救われただけあって、傷ひとつない。無愛想なそのパンが可愛くなってきた。私は袋を持っていなかったので、ドイツらしい無骨な黒パンを裸のままリュックサックに放

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ドイツのパンは固い!

ドイツのパンは固い!

「フランス行ったときびっくりしたよーパンがふかふかでさードイツのパンって固くて美味しくないんだもん」

ドイツ留学していたらふらりとパリへ行きたくなるものではあるけど、そうか、そんなにパンが違ったか。確かにクロワッサン、ふわんと柔らかかったような。

お国柄を表象するような特性がパンにまで染み込んでいるとは面白い。いやむしろ食が先で、その影響が人の特性にまで及ぶのかも。

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温泉 兼 前宙訓練所

選択肢は二つあった。ジムか、プール。

留学生は暇である。日本の大学生が忙しがる二大要因はサークルとバイトだが、私はドイツに来てからどちらもやっていない。それで長い冬に鬱になるのを免れるためにも、運動したくなるのは道理だ。といって外でランニングもサイクリングも出来やしない。天気はぐずつき、路面は凍結しかかっている。まだ11月だというのにこれである。周りの留学生は、ジムに通い出す人が多かった。

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ブラジル美女の口説き方

ユニクロがこんなに似合う人はいない。

同郷の友と、隠れることなく日本語でそんな感想を交わし合う。

前を歩くのは、映画から飛び出たような美人。脚はすらりと長く、漆黒の髪が煌めく。

しなやかな肉体美を包み込むのは、確かにユニクロの服であるらしい。モデル以上の着こなしだ。彼女が着こなせない服など、そもそも服として存在し得ないに違いない。それほど全てが、彼女のためにあるようだ。

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エスプレッソで眠れない

覚醒しちゃって、いい朝だねおはようと体が叫び回っている。体は正直者らしい。こちらは深夜で、また知らない人とキスして、ぐらぐら泣いて会いたくて、6色のレインボーフラッグは君と行った新宿二丁目を思い出しました、会いたいな。

通じたWi-Fi、会いたいとだけ打って送ってしまうところだったのに、そんなときに限って君からどうでもいいやさしい一言が届いていたから、よかったです。情けない姿で泣きつくのは会

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あまりに人間的な

初講義だった。というと盛り過ぎではあるけれど、単位に参入されるかもしれない語学以外の一般の授業では、初出陣だったわけだ。

先週取る予定はないが試しに行ってみたアリストテレスの講義は、教授のドイツ語の発音がよろしいので、時々潜ってもいいかなと思ったものだった。打って変わって、今日のは速かった。教授が設ける質問タイムに手が挙げられないのは、そもそも何も理解していないからだ。

それでも面白か

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短すぎる近況報告

音楽を流しながら昼寝をしていたら知らぬ間に耳が池と化していて、頬は小川のように滴っていました。そんな放流が始まったのは、さよなら大好きな人がちょうど流れたタイミングだと思います、近頃はSpitz以外のさよなら大好きな人も耳にします、あなたが私の渡した本をキッカケにクラシックに興味を持ってくれたのと同じように私も色々な音楽を聴いているのです。雑多に埋まったマイミュージックの一覧は以前は自身の無知を埋

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生活人

目標を、立てました。単なる自己分析に留まるかもしれないのは、お許しください。

私は、もしも日本かドイツか、この世界のどこかで生活していこうとするならば、ただ、ある人と共に暮らしていきたいと思うのです。

自惚れた希望を口に出せる身じゃないのは重々承知ですが、こうやって夢見て生きていくのが私の本分であるようで、背反する間抜けっぷりをさっそく見せつけて仕方ないけれども、あの人となら、生活って

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天井が高い。

天井が高い。

ドイツに着いて二週間が経とうとしている。

明日は大切な人に3通目の手紙を出す予定だ。

映画などで傍観者でいるとき、例えば戦争で離れ離れになった恋人に手紙を書くとか、夏休みに田舎に帰省した子どもが母親に手紙を書くとか、そういうのはやり過ぎだと感じていた。いちいち手紙を送るなんて、鬱陶しいなと。一言でいうと、重い。

自分がそんな状況になった今、鶏がフクロウに変身したようだ。書かずには

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