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【備忘録SS】それは「優しい」ハンドオーヴァー
「引継書……ですか?」
「ああ、そうなんだ」
四条畷紗季は、目の前で頭を抱えている彼女の上司、寝屋川慎司副部長に問い掛けた。
「さすがに、全く無いというのは。見間違いではないでしょうか?」
「ボクもそう思ったのだけれど、これが事実なんだよ」
先月末、とある業務を委託していた外部の会社が倒産。
急遽彼女達の部署でその業務を巻き取ることになったのだが、問題が発覚。
それは、当該業務の主担当
【備忘録SS】それは「かつての」キャラクター
「おはよう、四条畷さん」
「……あ、お早うございます……」
肩越しに掛けられた言葉に自動的に反応した紗季は、キーボードから手を離して大きく伸びをした。
「んーっ、だいぶ進んだなぁ」
本社における業務ルーティンにようやく慣れてきた彼女は、持ち前の能力を発揮しつつあった。
手元にあったマグカップを引き寄せて、すっかり冷めてしまったカフェラテに口を付ける。
(……はて?)
ここで彼女は、
【備忘録SS】それは「無敵の」マリアージュ
「はい、お疲れ様でしたー」
ディレクターの声が耳に入った紗季は、ようやく肩の力を抜いた。
リハーサルを入れて1時間ほどだったが、テレビスタジオ独特の雰囲気もあって、ずっと緊張感が抜けなかったのだ。
「あら、もう終わりですか?」
本番に強いタイプの市川春香は、前髪をクルクルさせながら紙パック飲料をストローで飲んでいる。
「お……終わった」
黙っていると可愛イケメンである本八幡ハジメは、デ
【備忘録SS】それは「巧みな」ストラテジー
「テレビ……ですか?」
先ほど受け取った書類にざっと目を通した四条畷紗季は、やや乗り気ではない表情を浮かべて尋ねた。
「そんな嫌な顔しないでよぉ」
彼女の上司に当たるマーケティング部副部長、寝屋川慎司は「まあ分からないでもないけど」と言いながら話を続ける。
「今度出す新しいコマーシャルの関連で、代理店から打診があったんだよ。ぜひ御社のマーケティング部門の女性を取材したいってね」
「はあ……それ
【備忘録SS】それは「見事な」回避術。
●●(長い名前)株式会社の本社が入っている複合オフィスビルは、強固なセキュリティが入居者に対して売りの1つとなっている。
入館時は「専用のICカード」をリーダーにかざし、鉄道の自動改札機みたいなゲートを通過しなければならない。
「うげっ!」
朝一番のミーティング時間が迫っていたため、早足でゲートを通過しようとした四条畷紗季は、読み取りエラー音を聞くとともに、開かなかったバーに思い切りお
【備忘録SS】それは「優しい」リマインド。
ガタンッ!
電車がホームに停止した振動で、うとうとしていた紗季は最寄駅に到着したことを自覚した。
シートから立ち上がり、乗降扉へと足を向ける。
(ついつい寝ちゃったなぁ……)
業務過多のため、ここのところ残業が続いている。おそらく紗季の知らないところで身体に疲労が蓄積しているのだろう。
(これから買い物して……ご飯を作る気分にならないなぁ)
かと言って外食は胃への負担が気になるし、と思っていた彼
【備忘録SS】それは「強固な」コミュニティ。
「検見川さんは、先ほど経理部の女帝に注意された案件を分解して、このホワイトボードに箇条書きしていってください」
テーブルの上でノート型のホワイトボードを1枚広げた紗季は、テキパキと指示を出していく。
「その隣に、私が第三者目線でポイントを書いて行きます。そのあと両者を突き合わせて話し合いましょう」
「はい、でも、これで何を……」
「【真の原因】を浮き上がらせるのです」
強炭酸水のペットボトル
【備忘録SS】それは「不要な」ハウエヴァー。
「でもでもばっかり言ってるんじゃないわよっ!」
フロア中に、金属を引っ掻くような女性の怒鳴り声が響き渡った。
「えっ……でも」
「知ってる?逆接語は相手の気分を萎えさせるのよ。もうこれ以上あなたと話したくないわ!」
書類をテーブルに投げ付けた女性は、憤懣やる方ない様子で打合せテーブルから出て行った。
残された若い女性は、ずり落ちた眼鏡を掛け直すこともなく、俯いたまま動こうとしない。
そんな彼女
【備忘録SS】それは「無用な」匹夫の勇。
「四条畷さん、今度食事でもどうかな?」
経営企画部との合同ミーティング終了後、四条畷紗季は経営企画部の西船橋タケルに声を掛けられた。
見た目も中身もチャラさ全開の彼だったが、紗季と2歳ほどしか違わない中で本社中枢部署のリーダーを任されているため、相応の能力を持っていることは伺えた。
「いいですね。是非みんなで行きましょうか」
作り笑いを浮かべて、紗季は言葉を返していく。
初対面で手を握られて口
【備忘録SS】それは「寡黙な」協力者。
「この時期は、どうしてもタスクが積み上がるからなぁ……」
部内会議の最後に、寝屋川慎司副部長が口を開いた。
「皆んな、1人で抱えずにチームでタスクを熟すように」
わざとらしくこちらを見てくる彼を無視して、四条畷紗季はトントンと書類を整えた。
「本八幡君、ちょっといいかな?」
会議終了後、紗季は隣に座っていたグループメンバー、本八幡ハジメに声を掛けた。
「……はい」
トレードマークである大きな黒縁
【備忘録SS】それは「オトナの」調整会議。
「……はい⁈」
大事なことなので、四条畷紗季は2回訊き直した。
「……正確には、京田辺一登副支店長が本社で社内研修を担当していた頃の【教え子】に当たるのですよ」
「ああ、そういうことか」
祝園由香里の説明で、紗季はようやく合点がいった。
(だったら、問題無さそうね……)
「何ですか急に呼び出して、今日のお説教ですか?」
頬をぷうっと膨らませながら、市川春香は紗季に半分背中を向けた姿勢で、スツー
【備忘録SS】それは「静かな」挑戦状。
「ワタシ、四条畷課長のこと全然認めてませんから!」
彼女……市川春香はそう言うと、プイっと顔を背けてその場を立ち去って行った。
(あちゃーっ、もしかして選択肢を間違ったかなぁ)
某ギャルゲーの選択画面が頭に浮かんだ四条畷紗季は、とりあえず待たせていた広告代理店の女性担当者に頭を下げた。
「申し訳ございません、業務の引き継ぎが上手く行っていないばかりかお恥ずかしいところをお見せしてしまって……」
【備忘録SS】それは「素敵な」マチアルキ。
春から本社勤務となった四条畷紗季が新居に選んだのは、楽器店街と古書店街のちょうど中間に位置している築3年のマンションであった。
地下鉄の最寄駅から本社ビルがある駅までは乗り換え無しで10数分。都心でありながら落ち着いた雰囲気を、彼女はとても気に入っていた。
「さて、洗濯と掃除は終わりましたっと」
久しぶりに何も無い週末を迎えた紗季は、溜まっていた諸々の家事を片付けていた。
ある程度の目処が立った
【備忘録SS】それは「マホウの」3秒間。
「四条畷課長〜、総務部から内線でーす」
「あっはい、転送4407にお願いします」
まだ慣れていないIP電話を何とか操作して、四条畷紗季は受話器を取った。
「……お待たせしました、四条畷です」
「引っ越しは落ち着いた?四条畷さん」
書類の入ったクリアファイルを受け取りながら、マーケティング部副部長の寝屋川慎司が尋ねた。
「はい、段ボールは全て片付けましたが細かいところはこれからですね」
印鑑をペタ