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カナダで起きた MeToo 事件 - Nothing But the Truth
アメリカの大物映画プロデューサー、ハーヴェイ・ワインシュタインに対し、何人もの女優たちが声を上げ、MeToo運動が起き、ワインシュタインは失墜し、罪に問われた。2017年のことだ。
それに先駆け、2014年、カナダではCBCの人気ラジオパーソナリティ、ジャン・ゴメシが3人の女性に性暴力で訴えられ、即時CBCから解雇され、社会的制裁を受けた。ただ、ワインシュタインの場合とは違い、ゴメシはすべての訴
<書評>『ハリケーンの季節』(フェルナンダ・メルチョール著 宇野和美訳 早川書房)
「翻訳者のための書評講座」の第6回目では、課題書『ハリケーンの季節』の書評に挑戦。今回、私が感じた小説の読みどころと関係してるんじゃないかと思った「情報」を800字の字数内に入れる挑戦をしてみました。
講評と合評では、「それより、小説の構造などの説明に字数を割いたほうがいい」との意見が圧倒的でした。一方で、「これを入れるならもっと小説とつなげる努力をしたほうがよい」という叱咤激励を頂戴しました。
『インヴェンション・オブ・サウンド』書評
この小説は音であふれている。犬の遠吠え、ワインをグラスに注ぐ音、錠剤を奥歯でかみ砕く音、真珠のネックレスをはずす音、録音テープのざらざらした再生音、サイレンやエンジンの音、電飾の電球がはじけ割れる音、建物が崩れ落ちる音、そして悲鳴。
それもそのはず、主人公の一人、ミッツィ・アイブズはハリウッドで音響効果技師をやっていて、「悲鳴」作りにかけては定評がある。音源を売らずにライセンスを売って暮らす彼
洗剤や消毒の匂いが漂う『掃除婦のための手引き書』
第2回目の書評講座は4月中旬だったのですが、ようやく書き直しをここに掲載することができました。「書き直し」、講評と合評で心に残ったコメントと意図、そして「修正前」の順番で載せます。
書き直しバージョン
本書を手に取る人はきっと『掃除婦のための手引き書』という不思議な題に興味を惹かれるだろう。ところが、表紙の写真は掃除婦らしからぬ美しい女性。小粋に煙草を指に挟んだまま、微笑を浮かべて遠くを見つ
St Lawrence Seaway
セントローレンス海路というのを皆さんはご存知ですか? カナダ東部の大西洋、ニューファンドランド島からセントローレンス川を通ってケベック、トロントなどを通過し、五大湖をつなぐ長い海路のことです。「海路」といっても途中からは淡水になるのですが……
水位は五大湖のほうが高いので、スペリオル湖、ミシガン湖、ヒューロン湖、エリー湖の水が、ナイアガラの滝からオンタリオ湖に流れ落ち、セントローレンス川を流れて
妄想の中の『エルサレム』
ポルトガルの小説家ゴンサロ・M・ダヴァレスが描いた小説『エルサレム』(木下真穂訳)はこんな話だ。
自称「統合失調症」を患うミリアは、患者として精神科医のテオドールと知り合い、結婚する。その後、病状が悪化して精神病院に長期入院するのだが、そこで患者のひとり、エルンストと知り合い、恋仲になる。病院では、何が重要で重要でないのかは精神科医によって決められ、患者たちは常に監視され、厳しく統制され、治
カナダ総督―時代に合わせて多様性を配慮
カナダにはイギリス国王の代理を務める「カナダ総督」が今も存在します。「え?」っと驚かれる人もいるかもしれませんが、ま、それはさておき、2021年7月、第30代のカナダ総督が任命されました。新総督のメアリー・サイモンは、カナダ先住民イヌイットで、イヌイット語も話します。初の先住民出身のカナダ総督の誕生です。任命式では、英語とフランス語だけでなく、イヌイット語でも挨拶していました。歴代総督に比べると、
もっとみるTHE BREAK ―断ち切れない負のスパイラルの中で生きる
カナダの真ん中に広がる平原地帯にマニトバ州ウィニペグ市はある。その街には、先住民の一族、四世代の女たちがそれぞれに暮らしている。
一族の中に裕福な暮らしをしている者は一人もいない。男たちは家庭をほったらかして風のように消えていき、残された女たちは子育てをしながら悶々としている。時に、彼女たちは自己を肯定できず、酒やドラッグの誘惑と背中合わせに暮らしている。彼女らの子供たちも、油断していると半グレ
カナダの建国――いつを起点に歴史を語るのか
カナダでは毎年6月は、カナダ先住民の「ヒストリー・マンス」(National Indigenous History Month)といって、先住民の歴史を振り返り理解を深める1カ月になっています。ところが、今年2021年の5月、ブリティッシュコロンビア州のカムループスという町で、先住民の子どもたちの遺体が多数発見される事件が起き、先住民の苦渋の歴史が連日報道されました。日本でも報道されたので記憶に新
もっとみるA Man of a Small Calibre
カナダではワクチン接種が進んで新型コロナウィルスの新規感染者が激減し、経済再開が進んでいます。しかし、デルタ株が増えてきている……。
そんなわけで、お店の中に入るにはまだまだ必ずマスクをしなくてはならないのですが、夏になってマスクで顔を覆うのがつらいのと経済再開の喜びから、マスク着用を嫌がる人もいます。先日、マスクをしていないおじさんが、スーパーマーケットへの入店を拒否され、店頭でごねていました もっとみる
This will go with me to my grave
誰にも言えない秘密を「自分の墓場まで持っていく」と言いたいときの英語です
I'm melting
私の住んでいる北国では、30度を超える日はそんなに多くはないですが、30度を超えようものなら、「暑い暑い!」と騒ぐ人が半分、長い冬のつらさを思い出して「夏を楽しめ!文句言うな!」とたしなめる人が半分、といった印象を受けます。しかし往々にして、「暑い」という言葉は繰り返されると、うっとおしいものです。
そこでもう少しポジティブに「I’m melting!」と言ってみることを提案。「溶けてしまいそう もっとみる