Kyoko Nitta

日英のノンフィクションの翻訳をしています。note では、カナダの文化&書籍情報、翻訳…

Kyoko Nitta

日英のノンフィクションの翻訳をしています。note では、カナダの文化&書籍情報、翻訳がらみの寸劇動画を紹介。翻訳実績だとか日々の忘備録は、kyokonitta.com に載せています。

マガジン

  • 書評講座 Vol. 6

    • 5本

    課題書:1)ハリケーンの季節(フェルナンダ・メルチョール著、宇野和美訳、早川書房)、2)自由選書

  • カナダの文化を紹介する

    • 17本
  • 書評講座 Vol. 5

    • 5本

    課題書:1)ものまね鳥を殺すのは:アラバマ物語(ハーパー・リー著、上岡伸雄訳、早川書房)、2)「神は俺たちの隣に」(ウィル・カーヴァー著、佐々木紀子訳、扶桑社ミステリー文庫)、3)自由課題

  • 書評講座 Vol. 4

    • 8本

    課題書:1)インヴェンション・オブ・サウンド(チャック・パラニューク著、池田真紀子訳、早川書房)、2)自由課題

  • 書評講座 Vol. 2

    • 6本

    課題書: 1)『掃除婦のための手引き書』- アメリカ、ルシア・ベルリン著、岸本佐知子訳、講談社、2)『ハムネット』- イギリス、マギー・オファーレル著、小竹由美子訳、新潮社

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カナダで起きた MeToo 事件 - Nothing But the Truth

アメリカの大物映画プロデューサー、ハーヴェイ・ワインシュタインに対し、何人もの女優たちが声を上げ、MeToo運動が起き、ワインシュタインは失墜し、罪に問われた。2017…

Kyoko Nitta
1年前
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<書評>『ハリケーンの季節』(フェルナンダ・メルチョール著 宇野和美訳 早川書房)

「翻訳者のための書評講座」の第6回目では、課題書『ハリケーンの季節』の書評に挑戦。今回、私が感じた小説の読みどころと関係してるんじゃないかと思った「情報」を800…

Kyoko Nitta
1か月前
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『インヴェンション・オブ・サウンド』書評

 この小説は音であふれている。犬の遠吠え、ワインをグラスに注ぐ音、錠剤を奥歯でかみ砕く音、真珠のネックレスをはずす音、録音テープのざらざらした再生音、サイレンや…

Kyoko Nitta
11か月前
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洗剤や消毒の匂いが漂う『掃除婦のための手引き書』

第2回目の書評講座は4月中旬だったのですが、ようやく書き直しをここに掲載することができました。「書き直し」、講評と合評で心に残ったコメントと意図、そして「修正前…

Kyoko Nitta
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St Lawrence Seaway

セントローレンス海路というのを皆さんはご存知ですか? カナダ東部の大西洋、ニューファンドランド島からセントローレンス川を通ってケベック、トロントなどを通過し、五…

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2年前
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妄想の中の『エルサレム』

 ポルトガルの小説家ゴンサロ・M・ダヴァレスが描いた小説『エルサレム』(木下真穂訳)はこんな話だ。  自称「統合失調症」を患うミリアは、患者として精神科医のテオ…

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カナダ総督―時代に合わせて多様性を配慮

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THE BREAK ―断ち切れない負のスパイラルの中で生きる

カナダの真ん中に広がる平原地帯にマニトバ州ウィニペグ市はある。その街には、先住民の一族、四世代の女たちがそれぞれに暮らしている。 一族の中に裕福な暮らしをしてい…

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カナダの建国――いつを起点に歴史を語るのか

カナダでは毎年6月は、カナダ先住民の「ヒストリー・マンス」(National Indigenous History Month)といって、先住民の歴史を振り返り理解を深める1カ月になっています…

Kyoko Nitta
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The Fan Brothers

カナダのトロントにファン兄弟(The Fan Brothers)という絵本作家がいます。どっちが兄で弟なのかは不明ですが、エリックとテリーの二人……だと思っていたら、デヴィンと…

Kyoko Nitta
2年前
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A Man of a Small Calibre

カナダではワクチン接種が進んで新型コロナウィルスの新規感染者が激減し、経済再開が進んでいます。しかし、デルタ株が増えてきている……。 そんなわけで、お店の中に入…

Kyoko Nitta
3年前
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This will go with me to my grave

誰にも言えない秘密を「自分の墓場まで持っていく」と言いたいときの英語です

Kyoko Nitta
3年前
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I was miles away

日本語で「あ、今、ぼうーっとしてた」と言うとき、比喩的に「あ、ちょっと今遠い世界に行ってた」と言うことがあります。英語だと「I was miles away」です。比喩的にでは…

Kyoko Nitta
3年前

My lips are sealed

英語でも「My lips are sealed.」と言いながら、指先でチャックを閉めるような仕草をする人もいます。その辺は、国境ないんでしょうか。他の言語だとどうなんでしょう? …

Kyoko Nitta
3年前

I took the rap for it

「rap」には「非難」という意味があります。「I took the rap for it. 」は「かばってあげた」「かばってやったんだよ」くらいの意味です。「I took」で始まるくらいですか…

Kyoko Nitta
3年前

I'm melting

私の住んでいる北国では、30度を超える日はそんなに多くはないですが、30度を超えようものなら、「暑い暑い!」と騒ぐ人が半分、長い冬のつらさを思い出して「夏を楽しめ!…

Kyoko Nitta
3年前
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カナダで起きた MeToo 事件 - Nothing But the Truth

カナダで起きた MeToo 事件 - Nothing But the Truth

アメリカの大物映画プロデューサー、ハーヴェイ・ワインシュタインに対し、何人もの女優たちが声を上げ、MeToo運動が起き、ワインシュタインは失墜し、罪に問われた。2017年のことだ。

それに先駆け、2014年、カナダではCBCの人気ラジオパーソナリティ、ジャン・ゴメシが3人の女性に性暴力で訴えられ、即時CBCから解雇され、社会的制裁を受けた。ただ、ワインシュタインの場合とは違い、ゴメシはすべての訴

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<書評>『ハリケーンの季節』(フェルナンダ・メルチョール著 宇野和美訳 早川書房)

<書評>『ハリケーンの季節』(フェルナンダ・メルチョール著 宇野和美訳 早川書房)

「翻訳者のための書評講座」の第6回目では、課題書『ハリケーンの季節』の書評に挑戦。今回、私が感じた小説の読みどころと関係してるんじゃないかと思った「情報」を800字の字数内に入れる挑戦をしてみました。

講評と合評では、「それより、小説の構造などの説明に字数を割いたほうがいい」との意見が圧倒的でした。一方で、「これを入れるならもっと小説とつなげる努力をしたほうがよい」という叱咤激励を頂戴しました。

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『インヴェンション・オブ・サウンド』書評

『インヴェンション・オブ・サウンド』書評

 この小説は音であふれている。犬の遠吠え、ワインをグラスに注ぐ音、錠剤を奥歯でかみ砕く音、真珠のネックレスをはずす音、録音テープのざらざらした再生音、サイレンやエンジンの音、電飾の電球がはじけ割れる音、建物が崩れ落ちる音、そして悲鳴。
 それもそのはず、主人公の一人、ミッツィ・アイブズはハリウッドで音響効果技師をやっていて、「悲鳴」作りにかけては定評がある。音源を売らずにライセンスを売って暮らす彼

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洗剤や消毒の匂いが漂う『掃除婦のための手引き書』

洗剤や消毒の匂いが漂う『掃除婦のための手引き書』

第2回目の書評講座は4月中旬だったのですが、ようやく書き直しをここに掲載することができました。「書き直し」、講評と合評で心に残ったコメントと意図、そして「修正前」の順番で載せます。

書き直しバージョン

 本書を手に取る人はきっと『掃除婦のための手引き書』という不思議な題に興味を惹かれるだろう。ところが、表紙の写真は掃除婦らしからぬ美しい女性。小粋に煙草を指に挟んだまま、微笑を浮かべて遠くを見つ

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St Lawrence Seaway

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セントローレンス海路というのを皆さんはご存知ですか? カナダ東部の大西洋、ニューファンドランド島からセントローレンス川を通ってケベック、トロントなどを通過し、五大湖をつなぐ長い海路のことです。「海路」といっても途中からは淡水になるのですが……

水位は五大湖のほうが高いので、スペリオル湖、ミシガン湖、ヒューロン湖、エリー湖の水が、ナイアガラの滝からオンタリオ湖に流れ落ち、セントローレンス川を流れて

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妄想の中の『エルサレム』

妄想の中の『エルサレム』

 ポルトガルの小説家ゴンサロ・M・ダヴァレスが描いた小説『エルサレム』(木下真穂訳)はこんな話だ。

 自称「統合失調症」を患うミリアは、患者として精神科医のテオドールと知り合い、結婚する。その後、病状が悪化して精神病院に長期入院するのだが、そこで患者のひとり、エルンストと知り合い、恋仲になる。病院では、何が重要で重要でないのかは精神科医によって決められ、患者たちは常に監視され、厳しく統制され、治

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カナダ総督―時代に合わせて多様性を配慮

カナダ総督―時代に合わせて多様性を配慮

カナダにはイギリス国王の代理を務める「カナダ総督」が今も存在します。「え?」っと驚かれる人もいるかもしれませんが、ま、それはさておき、2021年7月、第30代のカナダ総督が任命されました。新総督のメアリー・サイモンは、カナダ先住民イヌイットで、イヌイット語も話します。初の先住民出身のカナダ総督の誕生です。任命式では、英語とフランス語だけでなく、イヌイット語でも挨拶していました。歴代総督に比べると、

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THE BREAK ―断ち切れない負のスパイラルの中で生きる

THE BREAK ―断ち切れない負のスパイラルの中で生きる

カナダの真ん中に広がる平原地帯にマニトバ州ウィニペグ市はある。その街には、先住民の一族、四世代の女たちがそれぞれに暮らしている。

一族の中に裕福な暮らしをしている者は一人もいない。男たちは家庭をほったらかして風のように消えていき、残された女たちは子育てをしながら悶々としている。時に、彼女たちは自己を肯定できず、酒やドラッグの誘惑と背中合わせに暮らしている。彼女らの子供たちも、油断していると半グレ

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カナダの建国――いつを起点に歴史を語るのか

カナダの建国――いつを起点に歴史を語るのか

カナダでは毎年6月は、カナダ先住民の「ヒストリー・マンス」(National Indigenous History Month)といって、先住民の歴史を振り返り理解を深める1カ月になっています。ところが、今年2021年の5月、ブリティッシュコロンビア州のカムループスという町で、先住民の子どもたちの遺体が多数発見される事件が起き、先住民の苦渋の歴史が連日報道されました。日本でも報道されたので記憶に新

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The Fan Brothers

カナダのトロントにファン兄弟(The Fan Brothers)という絵本作家がいます。どっちが兄で弟なのかは不明ですが、エリックとテリーの二人……だと思っていたら、デヴィンという人もいて、三人兄弟であることが発覚しました(私が知らなかっただけですが)。兄と弟の区別をせずにはいられないわけではないのですが、日本語で書くときは知っておいたほうが便利。英語だと young か old の形容詞を付けな

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A Man of a Small Calibre

カナダではワクチン接種が進んで新型コロナウィルスの新規感染者が激減し、経済再開が進んでいます。しかし、デルタ株が増えてきている……。

そんなわけで、お店の中に入るにはまだまだ必ずマスクをしなくてはならないのですが、夏になってマスクで顔を覆うのがつらいのと経済再開の喜びから、マスク着用を嫌がる人もいます。先日、マスクをしていないおじさんが、スーパーマーケットへの入店を拒否され、店頭でごねていました
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I was miles away

日本語で「あ、今、ぼうーっとしてた」と言うとき、比喩的に「あ、ちょっと今遠い世界に行ってた」と言うことがあります。英語だと「I was miles away」です。比喩的にではなく、本当に「遠く離れたところにいた」の場合も、「I was miles away」ですが。

「mile」が使われているので、これはアメリカ英語ですね。イギリス英語だとどうなるんでしょう? Kilos away??? なん
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My lips are sealed

英語でも「My lips are sealed.」と言いながら、指先でチャックを閉めるような仕草をする人もいます。その辺は、国境ないんでしょうか。他の言語だとどうなんでしょう?

「絶対誰にも言わないでね」と言ったって、人のお口にチャックなどできません。秘密とは不思議なもの。誰かに秘密を打ち明けられると「信頼された」と思ってうれしくなる反面、それを誰かにばらして、信用を裏切ってしまうのです。

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I took the rap for it

「rap」には「非難」という意味があります。「I took the rap for it. 」は「かばってあげた」「かばってやったんだよ」くらいの意味です。「I took」で始まるくらいですから、積極的に罪をかぶってます。

無償奉仕という言葉がありますが、それはバランスがとれている場合にのみに通用するものだと私は思います(主従関係がはっきりしている関係とか、相手が「公共」「大義」「神様」のような
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I'm melting

私の住んでいる北国では、30度を超える日はそんなに多くはないですが、30度を超えようものなら、「暑い暑い!」と騒ぐ人が半分、長い冬のつらさを思い出して「夏を楽しめ!文句言うな!」とたしなめる人が半分、といった印象を受けます。しかし往々にして、「暑い」という言葉は繰り返されると、うっとおしいものです。

そこでもう少しポジティブに「I’m melting!」と言ってみることを提案。「溶けてしまいそう
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