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【映画評】 MADE IN YAMATO 宮崎大祐『エリちゃんとクミちゃんの長く平凡な一日』…時間についてのいくつかの覚書
並奏する二のカノン。揺れ動き交錯する音響に浸る愉楽の体験。
タイムカプセルという未来、恐竜という過去、そして「今」という現在。
「今」は更新を前提とする持続する時間であることで、たちまち過去へと追いやられる曖昧さを持つ存在でもある。いまそこに在る(在った)という変貌する時間の曖昧さ。「今」を写真に撮れば、「それは=かつて=あった」というロラン・バルトに帰結する。
右目で見る世界、左目で見る世
【映画評】 カルロス・ベルトム『マジカル・ガール』
数週間前からカルロス・ベルトム『マジカル・ガール』がX(旧Twitter)上で話題にあがることが多くなった。『マジカル・ガール』は2014年製作だから、リバイバル上映されるのかと思ったらそうではなかった。監督カルロス・ベルトムの新作が今春、上映されるのだ。タイトルは『マンティコア 怪物(原題)Manticore』。
主人公は空想のモンスターを生み出すことが得意なゲームデザイナーのフリアン。彼は内
【音楽評】 渋谷慶一郎+岡田利規『THE END』(初音ミク・オペラ)
渋谷慶一郎+岡田利規の初音ミク・オペラ『THE END』
日本では2012年12月、山口情報芸術センター(YCAM)で初演、そして2013年5月、渋谷オーチャードホールで上演。わたしはYCAM初演時点では『THE END』の存在を知らず見る機会を逃してしまたったのだが、渋谷での上演は見逃してはなるまいと、オーチャードホールのオンラインチケットの会員になった。ところが新幹線往復交通費と宿泊費、それ
【映画評】 リチャード・リンクレイター監督『スラッカー』 スイッチングという戦略
人は絶えず何かにスイッチ「オン/オフ」し、それが意図的であろうとなかろうと、「オン/オフ」した対象により、その後の人生が決定される。人の運命とは、たかだかそんなものに違いない。リチャード・リンクレイターは運命論者であると言いたいのではない。彼が監督したインディペンデント映画の先駆的作品である『スラッカー』(1990)は、スイッチングの映画であると言いたいのだ。このことは、映画冒頭の若者を捉える一連
もっとみる【海外旅行】 はじめての海外旅行、それは《世界一周便》だった
いつもは映画のことを書いていますが、今回は海外旅行について。
わたしがはじめて海外に行ったのは遥か昔(?)のこと。
どのくらい昔かといえば、後述する、いまはなきアメリカの航空会社名から推定すればお分かりいただける……と思う。
10代の頃から海外への想いは強く、その中でも、文芸や映画の世界で触れるヨーロッパ、とりわけパリへの憧れは相当のものだった。パリの地に立ち、自分の眼で確かめてみたい。そんな
【映画評】 マチュー・アマルリック『彼女のいない部屋』 時間の創生へ向かうポラ写真
マチュー・アマルリック『彼女のいない部屋』(2021)
映画冒頭、クレジットの背景に木々の葉の隙間から漏れる黎明の鈍い光。それは走る車から上方に向けられた視線が捉える光、もしくは薄明の怪しげで幻惑的、夢想への誘いのような光でもある。車をひとり運転するクラリスの視線を暗示しているのだろう。続くショットは、ポラで撮られた家族写真をベッドに並べるクラリス。彼女はポラ写真を眺めながら、recommenc
【映画・音楽評】 リュック・フェラーリ……ほとんど何もない Presque rien
リュック・フェラーリLuc Ferrari(1929〜2005)
フランスの作曲家、映像作家。特に電子音楽で知られる。
映像作家としてのフェラーリ作品が上映される機会は、日本ではほとんどない。研究機関や特別な上映会においてのみである。
リュック・フェラーリ『ほとんど何もない、あるいは生きる欲望』
Presque rien ou le désir de vivre ドイツ(1972・73)
第一
【映画評】 ギョーム・ブラック『遭難者』 バカンスの最大の敵は遅延だ
ギョーム・ブラック『遭難者』(2009)Le naufragé
フランス北部の小さな港町オルト。
サイクリング中にパンクしたことで、「くそっ!」と草むらに自転車を投げ捨てるリュック(ジュリアン・リュカ)。
どこかゴダール的な諦念の罵声と行為も思えるのだが、こんなことで映画の始まりを見せるなんて、ギョーム・ブラックは尋常な監督ではないことが既に読み取れる。そしてよりによってか、どう控え目に見ても冴
【映画評】 チャン・ゴンジェ『ひと夏のファンタジア』
チャン・ゴンジェ『ひと夏のファンタジア』(2014)
作品解説に
「映画監督の夢の映画とは何か。トリュフォーの『アメリカの夜』など映画製作の舞台裏を描いた名作群に連なる、新たな傑作の誕生」
とあるが、トリュフォーと比較するまでもないほどに魅力的な作品である。
作品は2つの章からなる。
(第1章)
奈良県五條市にシナリオ・ハンティングにやってきた韓国の映画監督テフン(イム・ヒョングク)。
彼は