ありがとう
今日、失われていった命へ

＊

(コケコッコー)
朝一番に鶏が鳴く
朝引きされた鶏が
羽根をわさわさ毟られて
部位ごとに解体されてゆく

家畜を屠殺とさつする現場を
知らないひとびとが増えた
スーパーでは魚や肉が
清潔なトレイに入れられて並ぶ
魚の切り身が泳ぐ絵を
ある小学生が描いたそうだ

廻る、廻る、いのち、

金色の地球儀を片手で回したら
黄色いたまごがぱかっと割れた
いのちのオムライス
いのちのオムライスが誕生した

『いただきます』　
(合掌)
1日三回、手を合わす
命を頂きます、という思想
ふかく　ふかく　恵みに感謝する

卵三個分のいのちが踊っている
とろとろの溶岩みたいな流れに
スプーンで切れ目を入れて
ひとくちずつ平らげてゆく
親子を殺害したオムライスは
罪深いおいしさに満ちている

ケチャップの返り血が嗤わらいながら
オムライスを横断している
米一粒だって残すなよ、と
弾力のある鶏肉が歯を押し返す
毎日、毎日、たくさんのいのちを
消費しているんだと噛みしめる
小さなものから　大きなものまで
色んないのちを頂いて　
大地を歩いている　走っている

廻る、廻る、いのち、
食べて　食べられて
生かされていることを忘れるな
大量の残飯の底から　
声が聴こえてくる

清潔な切り身が降るわけではない
スーパーで売られている魚や肉以前の
それいぜんの命を想え
廻る、廻る、いのち、
響いているこえ
殺していった命に見つめられている
その眼を
その眼を決して忘れるな

photo:見出し画像(みんなのフォトギャラリーより、twsnmpさん)
photo2:フリー素材
design:未来の味蕾
word&poem:未来の味蕾

#シロクマ文芸部
#ありがとう