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灯火物語

この物語は、夜の闇に包まれた貴方の心の中に

灯火をつけるために作られたもの。

眠れない夜に一人でいる人たちが、

世界でたった一つの灯火をともす奇跡を。


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23時、断捨離




僕は今日一日を振り返る。

友達と話したこと、短くも長いこの一日の中で

僕から出た言葉はまだ生きているのだろうか。

一体誰に届いているだろうか。

多分、どこにもあてのない場所を彷徨い

漂っているのだろう。

一人きりで静寂な部屋で正解もないようなことを

かれこれ考えて頭がドロドロに溶けそうだ。

吐き出せなかった言葉は僕の胸を貫いて、

チクチクと痛む感覚がした。

聞こえるのは心を落とす音だけ。



24時、よふかし



やらなければいけないことに追われ

気づけば生き急いでいる時間に嫌気がさして、

僕は全てを放棄した。

いつもの青いジーパンと白のパーカーを着て

逃げるように外に飛び出した。

駅と反対側に歩くと閉店した古い書店がある。

僕はそこに忍び込んだ。

埃をかぶった本たちは読まれることを待ち侘びて

窓からさしこむ月明かりに照らされ、

より一層輝いているように見えた。

普段から読書は好きではないが、

その本に正解が書いてあるのではないかと思い、

なんとなく手に取った一冊の世界の扉を開く。



25時、灯火



本の文章には特別なことは書かれていなかった。

今までに聞いたことのあるような文章。

この小説家の言っていることは、

道理にかなっているが何か物足りない。

僕は少し俯いたまま思う。

そんなことはわかっている、ただの綺麗事だと。

わかっていても現実的に考えて矛盾している。

本当にそんなことが出来たら苦労しない。

僕の中で何かが変わったように揺れ動く心は、

次のページをめくった瞬間に泣いたようだ。

『小さな星だけど輝いている』

何故、こんなにも単純でありきたりな文章に

救われた気がしたのかはわからない。

ただ、ずっと流さなかった涙が、

そのとき初めて笑ったように溢れ落ちた。

月は雲に覆われてもう見えない。

まるで僕の心に灯火をつけた代わりに

そっと消えたようだった。




26時、ビビット



日付が変わってからもうだいぶ経った。

僕はゆっくりと来た道を戻る。

僕の大切な人の声で平和になる世界じゃない。

僕の過去や努力が報われるとは限らない。

この先、明るい未来があるかもわからない。

誰しもいつ死ぬかわからない。

それでも、見上げた暗闇の空に浮かぶ

あの名もなき一つの小さな星は、

今日も細く長く光り輝いている。

隣の大きな星よりもずっと遠くを照らすように。



アウトロ



家に着いて、部屋のベランダの窓を開け、

夜風を浴びてお気に入りの曲を流しながら、

いつしかルーズリーフの紙切れに書いた

僕のブルーノートを読み終えると、

いつのまにか朝が降っていた。

紫色に染まるロマンチックな朝焼けと雲を眺めて

明日は自分のために生きようと願う。





※ これはノンフィクションとフィクションを

掛け合わせた物語です。

登場人物は一切関係ありませんが、

一部、引用させていただいたフレーズや

情景描写があります。

最後まで読んで頂きありがとうございました。



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