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芸術新潮 2024年3月号 「わたしたちには安部公房が必要だ」
雑人、雑兵の僕には雑誌ぐらいがちょうどいい。
集中力を欠いていても、完食しなくていいのがいい。
つまみ食いならまかせておけ。
安部公房は、高校生の頃に出会って以来、ずっと精神的な父とも慕う作家だ。
もちろん不肖の息子であり、御本尊はいい迷惑だとは思うが。
安部公房の作品は、そのほとんどが今でもくっきりとイメージを刻んでいる。
『砂の女』、『燃えつきた地図』、『他人の顔』、『壁』、『棒になった男』等
須賀敦子『トリエステの坂道―須賀敦子コレクション』
悲しみを癒すために、また須賀さんの力を借りることにした。
須賀さんの文章を読むことは、いつも僕を深く癒してくれるから。
本書の登場人物の多くは、イタリアの陽光の下で、みな濃い影の部分を持っている。
知能指数がかなり低く、問題児で、何度も警察の厄介になっているトーニ。
父と兄、妹を早くに亡くし、自らも四十一歳で急死する須賀さんの夫、ペッピーノ。
大半が戦争や病気などで夫を亡くした鉄道員官舎の人々。
夏目漱石『坊っちゃん』
しばらく前から「坊ちゃん」が読みたかった。
だが、あいにく「坊ちゃん」は手元になかった。
そうこうしているうちに、時代劇専門チャンネルで「夏目漱石の妻」というドラマを観た。
英国留学帰りの漱石が神経衰弱の発作を起こす。その姿の痛々しいこと。
病を抱えつつ生きた漱石への親近感がにわかに増してくる。
そんなことで、kindle Unlimitedで「決定版 夏目漱石全集」をダウンロードした。160作品
夏目漱石『吾輩は猫である』
《さあさあお立会い!
御用とお急ぎでなかったら、ゆっくりと聞いておいで。
聞かざる時には、物の出方、善悪、黒白がトント分からない。》(筑波山ガマの油売り口上。https://gamaoil.jimdofree.comより。)
名もなき猫から文豪をつくるにはどういう風にするか?
涙が出ても心配はいらない。此の『猫』をば、しばし読みますれば、あな不思議、涙はピタリと止まり、ゲラゲラと笑いの生ずる魔法の
東浩紀『存在論的、郵便的―ジャック・デリダについて』
《25年後の『存在論的、郵便的』から『訂正可能性の哲学』へ──東浩紀氏とのディスカッション》のイベントに参加するため手に取った。
哲学書は足が速い。
何もすぐに古びてしまうなどと言っているのではなく、たちまちどこに置いたか分からなくなってしまうという意味だ。
とにかく、言えるのは、動かしすぎてはいけない、ということだ。
だから、やっと捕まえたと思ったら、よくよく見れば三度買いだったりもする。
額
ターハル・ベン=ジェルーン『火によって』
アラブ関連の文学を読むのは初めてだ。
どうしても、僕の目は、子供の頃から触れて来たアメリカや西欧の価値観に汚染されているだろう。
完全に中立な視点などどこにもないにせよ、これからの読書によって幾らかでも修正していけたらと思う。
読後、複雑な思いが残った。
「アラブの春」の発端となったチュニジアの一青年ムハンマドの焼身自殺を描いた物語。
たしかに、彼の焼身自殺がきっかけとなって、チュニジア市民の抗