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哲学者の紹介

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有名な哲学者の人物紹介を中心に、オススメの一冊を紹介していきます。
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記事一覧

ハイデガー:『「ヒューマニズム」について』

ハイデガー:『「ヒューマニズム」について』

 私の中で特定の条件を満たしたので大物ハイデガーを扱うことにします。ハイデガーについては様々な媒体で過剰なほど情報を得ることができるので、紹介記事としては目新しい内容は多くないと思いますが、ひとまずいつもの形式で書いていきます。

はじめに 「特定の条件」というのは、現代的水準に(よい意味での)偏らせつつ、ある程度の距離を持ってその哲学的意義を評価できること。およびそれを感じることのできる一冊を限

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番外編:イタリアのポストモダンにおける「共同体」についての3つのテクスト

番外編:イタリアのポストモダンにおける「共同体」についての3つのテクスト

 文字数が多いながらも言葉足らずのタイトルになりました。その説明もしますが、3つのテクストとは――ジャン=リュック・ナンシー「無為の共同体」(1983年)をキッカケにして数カ月後に書かれたモーリス・ブランショ『明かしえぬ共同体』、そしてアガンベンの「到来する共同体」(1990年)です。

記事の位置づけ「哲学者の紹介」における「番外編」

 これらのテクストは、イタリアン・セオリーの前史にあたる「

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ヴェイユ:「神への愛と不幸」

ヴェイユ:「神への愛と不幸」

 「哲学者の紹介」でヴェイユを扱えることを嬉しく思っています。ヴェイユについてはウィキペディアでも詳細に書かれています、事実関係についてはある程度の重複をお許しください。

時代背景 最近は大戦後の哲学者を紹介してきましたが、ヴェイユは二つの世界大戦の時代に生きた人です。私にとって性別はどうでもいいことではありますが、女性です。したがってアーレントが思い浮かぶわけですが、実は同時代人なんですね。だ

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ガタリ:『カオスモーズ』

ガタリ:『カオスモーズ』

 久しぶりの定形(に近い)形の「哲学者の紹介」記事です。年代順は既に不可能になっており、今回はネット上では情報に乏しいであろうガタリを紹介します。ただし、引用という手段を使うことをお許しください。

はじめに いきなり定形を崩して恐縮ですが、思い出話を導入にしたいと思います。
 みなさん、坊主バーって知っていますか? 長く東京・中野にあったBARで、現在はバラキ坊主バーと名前を変えて、千葉県市川市

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番外編:イタリアン・セオリー(アガンベンとネグリの間)

番外編:イタリアン・セオリー(アガンベンとネグリの間)

イタリアン・セオリーとは まずは文字通り、イタリアの諸理論のことです。もちろん哲学に限定されないんですが、私の記事では哲学にフォーカスすることになります。その哲学界隈(特に英語圏)で、いわゆるフランス現代思想ですね――「フレンチ・セオリー」に代わって「イタリアン・セオリー」が台頭してきた……といった使われ方をされてきた言葉です。文脈的にポスト構造主義「以後」の思想潮流という意味合いを持っているとい

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フーコー:【哲学の理論的移動】

フーコー:【哲学の理論的移動】

フーコーの人物紹介の記事です。

時代背景・どんな人物教授資格試験合格まで

 フランスでお医者さんの家系に生まれる。お姉ちゃん一人、弟一人。弟は後に外科医になる。
 中学生に上がったぐらいの年齢のとき、「歴史学の教授になる」と宣言。当然、お医者さんになってほしかったお父さんを驚かせる。
 ドイツのフランス侵攻や、それに伴う諸事情で中高等学校を変える(転校)。その学校の哲学教授が、レジスタンス活動

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ミシェル・フーコーの著作について

ミシェル・フーコーの著作について

フーコーは哲学者紹介のコンセプトと相性が悪い、と思っています。

はじめに フーコーの紹介記事はローティのように複数に分けます。とはいえ、成り行きにならないように「3つ」と決めておきましょう。
 この記事では、「哲学的側面について、主に著作(テキスト)の成立経緯」を扱い、2つ目は、可能な限りこれまでの哲学者紹介のやり方に沿った「人物紹介」を試みます。ただし、「読むならこれ!」は抜きです。最後に、私

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ローティのまとめと批判:ラトゥールをヒントにして

ローティのまとめと批判:ラトゥールをヒントにして

ローティではふざけ過ぎたので、今回は真面目に書きまーす……たぶん。

まとめ(というより書ききれなかったこと)ネオ・プラグマティズムとは

 ローティは、ネオ・プラグマティズムといわれます。ネオってのは、新型のってことです。
 プラグマティズムというと、ジェイムズやデューイが代表でしょうね。彼らとの違いは、わりと簡単で、デューイ達は科学的な方法について楽観的すぎました。科学で人類は進歩していくと素

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ローティ:『プラグマティズムの帰結』

ローティ:『プラグマティズムの帰結』

現代における哲学の頂点であるローティの紹介です。

はじめに哲学者紹介の記事では、取り上げる人物をしばしばアニメのキャラクターでたとえてきました。ローティの政治的側面の場合、それはアムロ・レイですが、哲学的側面の場合――ファントムブラッドのディオです。

時代背景・どんな人物哲学との出合い〜修士号

 両親ともアメリカ人で、いわゆるニューヨーク知識人(反スターリン主義左翼グループ)でした。ニューヨ

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ポストモダンの逆襲(リチャード・ローティ補遺):『連帯と自由の哲学』

ポストモダンの逆襲(リチャード・ローティ補遺):『連帯と自由の哲学』

ローティの「哲学でない」部分について、ポストモダンという言葉について、およびローティの現代的意義と、私なりの整理をします。その際には、若干の哲学的側面に触れることはご了承ください。

フライング記事です

 えー、ローティ本人の紹介の前に補遺を出すことになりました。今、哲学者紹介の記事のために、フーコーやローティ辺りの著作を読んでいるのですが、過去を含め、私の読書量という点では圧倒的にフーコーの文

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番外編:フランスの現象学受容(レヴィナス、リクール、デリダ)

番外編:フランスの現象学受容(レヴィナス、リクール、デリダ)

フランスの現代思想の端緒はフッサール現象学の受容からという側面があります。今回は、その代表者として3人の哲学者を紹介します。文章量が多くなってしまうのは申し訳ありませんが、一人ひとりを別々に扱わないことに意味があるのでゆるしてください。お忙しい方は「さいごに」だけでも、是非どうぞ。

レヴィナス:『存在の彼方へ』人物紹介と思想の要点、および私の薦める一冊について順に書いていきます。「フランスの現象

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哲学と自殺(実存主義/構造主義)

哲学と自殺(実存主義/構造主義)

今回は雑記に近いものとしてお読みください。さっそく雑談から始めましょう。

個人的な思い出

 私が大学で哲学を学ぶことを母親に伝えたときの反応が、記憶に残っています。人間の記憶とはかなり柔軟なもの(反芻されるうちに脚色されるもの)ですが、「自殺だけはせんといてよ!」と言われたとそれなりに鮮明に覚えています。一方で、それを言われた自分の反応は不鮮明です。ただ単純に、哲学と自殺がなぜ関係するのか分か

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アーレント:『精神の生活』

アーレント:『精神の生活』

比較的人気のある哲学者アーレントです。今回は、彼女の哲学(の内容)について、最新の研究成果をできるだけ踏まえながら紹介します。もちろん、中心は人物紹介になります。結果としていつもより文字数が多くなりましたが、興味があるところだけでもどうぞ。

はじめに 全く初めての人を念頭に紹介すると、ハンナ・アーレント、女性です。珍しいですね(小並感)。
 アーレントが人気である理由は、いくつかあると思います。

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ホルクハイマー:『批判的理論の論理学』

ホルクハイマー:『批判的理論の論理学』

フランクフルト学派の活動母体であった「フランクフルト社会研究所」所長をつとめたホルクハイマーの紹介です。

はじめにフランクフルト学派とは

 このように名付けられたのはホルクハイマーの70歳の祝賀会でした。またアドルノは(ポパーの)実証主義を批判する立場の総称として「いわゆるフランクフルト学派」と言っています。まぁ、明確な定義はないってことですね。活動母体であった社会研究所の設立主旨は、「政治や

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