中村 木綿_Yuu Nakamura

都内で生息するCG屋。文章から、イラストから、その時々を残しています。 スキとかコメン…

中村 木綿_Yuu Nakamura

都内で生息するCG屋。文章から、イラストから、その時々を残しています。 スキとかコメントとかフォローして頂いたら、嬉しくて更新頻度が上がります、たぶん。

マガジン

  • 日々の切れ端〈エッセイ集※不定期連載〉

    日常を送る中で気づいたことや、バカ話など、一人のものにしておくのが勿体無いお話しをお裾分け的にご提供致します。

  • 真夜中の電話はいつも〈連続小説 ※毎週日曜日更新予定〉

    あらすじ:  CG制作プロダクションで働く僕の元に、忘れることのできない女性、槙村由佳から5年ぶりに電話が掛かる。  今やCGディレクターとして華々しく活躍する彼女との思い出を懐かしく思いながらも、流れる歳月が決定的に二人の関係を変えてしまっていることに僕は思い悩み、そして。

  • 愛すべき人々〈エッセイ集※不定期連載〉

    日々の生活の中で出会った愛すべき人たちとの出来事を綴ったエッセイ集。

  • 名前も知らない〈連続小説 ※不定期更新〉

  • 彼女の髪が肩まで伸びたなら〈連続小説 ※不定期更新〉

最近の記事

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【 自己紹介とお品書き 】

 こんにちは、もしくはこんばんは?いえいえ、おはようございますの方もいらっしゃるかも。  初めまして、中村木綿(なかむら ゆう)と申します。  変わった名前ですよね、自分でもそう思います。  名付け親いわく、『絹のような高級品ではなく、木綿のような普段使いを大切にした生活感を大事にする人になって欲しい』ということだそうです。  本業はCG制作会社勤めですので不定期更新にはなりますが、日常で感じたことや、頭の中にこびりついて離れない記憶を創作として昇華(成仏?)させてい

    • HA~HA 永遠が流れる時間

       自分の身体に比べれば、まだ不格好に見えるほど大きなランドセルを背負って、理由もなく笑い、理由もなくどこかへ走りまわっていた頃。  その日、暖かでとてもよく晴れた空の下にもかかわらず、僕は自分ではどうにもならない何かに傷ついて、小学校からの帰り道、終始俯いたままでいつもとは違う道を歩いていた。  気がつけば、周りの風景はいつも僕が見慣れた景色とは全く違った、ただ白い壁がどこまでも続いていくように思える住宅街の中で、電柱に貼られた金属製のプレートの住所は見たこともない町の名前

      • 【『ほとんど最後の欲望』〜日々の切れ端(四)〜】

         朝目覚めて、ベッドの中でうぃーって背伸びをしたら足がつって、そのまま起き上がる事も出来ずにじたばたと悶絶する事がある。  そしてそのまま朝から何も食べずに夕食の時間になって、仕事場近くの中華料理屋に入り、お腹が空いたテンションそのままに頼んだ大盛りのチャーハンの、おそらく大盛りにされた分の米が喉を通らずに、さらに添えられたスープに全く手をつける事も出来ずにレジへ向かってしまったりする。  どうやら自宅、職場、ご飯屋というトライアングルだけの毎日をあまりにも当たり前に過ごし

        • 【『どうせいつかは死ぬのなら』〜日々の切れ端(三)〜】

           先日、母から検査入院の経過報告の電話をもらい、その話の中で今年70歳の母ですら町内会では若手の部類に入ると聞いて、僕は不謹慎ながら笑ってしまった。  そして今までは敬老の日には会費を出し合って、60歳以上のお年寄りのいる家にプレゼントを送っていたそうなのだが、ほぼすべての家庭に送ることになってしまうので、今年から学童を持つ家庭に粗品を送るという形に切り替わったらしい。  もはや敬老の日とは言えないけど、お祝い事としては確かにそちらの方がいいようにも思う。大人には財力ってもの

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        【 自己紹介とお品書き 】

        マガジン

        • 日々の切れ端〈エッセイ集※不定期連載〉
          4本
        • 真夜中の電話はいつも〈連続小説 ※毎週日曜日更新予定〉
          7本
        • 名前も知らない〈連続小説 ※不定期更新〉
          1本
        • 愛すべき人々〈エッセイ集※不定期連載〉
          4本
        • 彼女の髪が肩まで伸びたなら〈連続小説 ※不定期更新〉
          3本

        記事

          【『カチカチ山について考えた』〜日々の切れ端(二)〜】

           この間、仕事帰りの飲み屋で弊社社長と『かちかち山』の話になり、おじいさんとおばあさんの敵討ちとは言え、直接的利害関係者でもないウサギが最後にはタヌキを殺すところまでいってしまう動機付けって何なのかという話になり、色々考えてみたらそれはそれで別の方向にいってしまったというお話。

          【『カチカチ山について考えた』〜日々の切れ端(二)〜】

          【『他人の神棚を笑うな』〜日々の切れ端(一)〜】

           自宅前の大通りを東に向かって少し歩くと、鉄筋コンクリートの建物が建ち並ぶ中に、老朽化が進み今にも傾きそうな黒塗りの木造の一戸建てがぽつんと残っていて、周りの建物が比較的最近になって建てられたものばかりなだけに、その黒塗りの建物は少し異様な空気を醸し出していた。  そしてその家にはいつも半パンにタンクトップ姿の初老の男性の住人がいて、僕がその家の前で男性とすれ違うたびに、「お前らうるせぇんだよ、いつもいつも」とこちらに顔を向けることなく聞こえよがしにぶつぶつと呟くのだ。  開

          【『他人の神棚を笑うな』〜日々の切れ端(一)〜】

          【『親孝行にも色々あってですね、』〜愛すべき人々(四)〜】

           春先から飲み始めたという薬の副作用で頬がまん丸に膨れた母の顔を見つめながら、僕は顔の膨らみと同時に細かいシワも程よく伸ばされた分だけ母は少し若返って見える、と思う事にした。  7月の中頃、年明けからずっと抱えていた大きめの仕事が終わり、勤め先のアニメーション制作会社からまとまった休みをもらうことになった僕は、生活の舞台である東京から関西の実家へと帰省をしていた。  窓を開け放った居間には、至る所から聞こえてくる蝉の鳴き声が響き、パタパタと団扇を仰ぐ半袖のシャツからから伸びた

          【『親孝行にも色々あってですね、』〜愛すべき人々(四)〜】

          【「真夜中の電話はいつも」(七) 】

           街ももう寝静まり始めた真夜中に、玄関の小さな明かりに照らされながら僕は吐瀉物にまみれた由佳のスニーカーをウェットティッシュで拭いていた。  液体ばかりのそれは、少なくともここ数日の由佳の私生活を物語っているようだった。  場所を移した先でも相変わらず強めのアルコールぐらいしか口に運べずにいた由佳は、夜の街をフラフラとおぼつかない足取りで歩きながら、 「私の方があの子より加瀬のことをもっと深く理解してあげられるし、私の方が加瀬の考えるイメージを形にしてあげられるし、私の方がっ

          【「真夜中の電話はいつも」(七) 】

          【「真夜中の電話はいつも」(六) 】

          「愛人でもいいって加瀬さんには伝えたんです、私」  由佳は俯向いたままそう言うと、グラスの氷を指先でくるりとかき混ぜた。  想像していたこととはいえ、由佳の口から直に聞く愛人という言葉の響きは、さらりとしたその言い回しに反して僕の後頭部にずしりとした重みを残した。 「学生の頃から加瀬さんの監督作品はよく見てましたから。すごく尊敬できる方だったし」  そう言って、由佳は加瀬との馴れ初めを話し始めた。  由佳がまだ学生だった頃、通っていたCGの専門学校に加瀬が特別講師として現れた

          【「真夜中の電話はいつも」(六) 】

          【「真夜中の電話はいつも」(五) 】

           平日の昼下がり、理科室を思い出させるような懐かしい造りの建物の中で、遠目にはまるでクラゲが浮かんでいるように見えたものは、イルカの胃を食い破った何百何千という線虫の塊だった。  真夜中の電話口、僕の誘いに 「あの、笑わないで頂けます?」  と前置きをしてから、由佳は行ってみたい場所として、 「この間、たまたまテレビで見たんですけど、寄生虫の博物館ってところがあるみたいで」と告げた。 「寄生虫、好きなんですか?」  僕にはあまり理解は出来なかったが、世の中には爬虫類や昆虫など

          【「真夜中の電話はいつも」(五) 】

          【「真夜中の電話はいつも」(四) 】

           試写会の翌日から僕は全身の怠さと上がることも下がることもないだらだらとした微熱を抱えたまま、三日ほど寝込んだ。  張り詰めた緊張の日々から解放された気の緩みのせいか、普段もプロジェクトが終わる度に熱を出すことが多い僕は年々その回復に時間が掛かるようになってきた自分の身体に、知らず知らずの間に衰えというものを現実として感じるようになってきていた。  日中は特に何もする気が起きず、ベッドの中で曲げる度に関節からギシギシときしむ音が聞こえてきそうな腕で手に取った読みかけの本をパラ

          【「真夜中の電話はいつも」(四) 】

          【「真夜中の電話はいつも」(三) 】

           ‘加瀬フミヒロ’というCGクリエイターがいる。  僕より歳が一回り上の加瀬は、20代の頃からすでにCGディレクターとして注目を浴びていて、仕事を通して彼と初めて出会った時には40歳を手前にして既に長短合わせるともう数えきれないほどの監督作品を務めていたような人間だった。  僕も学生の頃からその名前は耳にしていて、自分の所属する映像制作プロダクションが彼が新しく監督を務める短編CG制作を請け負うと聞いた時は不思議な気持ちになった。 「あんたがプロデューサーなんだ。若いね、よろ

          【「真夜中の電話はいつも」(三) 】

          【「真夜中の電話はいつも」(二) 】

           昨日のそれも今と似たような時間だった。 「元気?」  深夜の一時を過ぎた頃、もう遠くへ忘れたはずのイニシャルから唐突にメッセージが届いた時、僕は別に気づかなかったふりをしてもいいはずだった。  随分と思い悩んだような気もしたが、その時間はものの5分程度の間だった。  「どうしたの?」  返事を打ち返してすぐに僕は後悔をしたが、間を置かずに 「終電逃した」  というメッセージが送られてきた。     大通りを最寄駅に向かって歩きながら、吐く息が街灯に照らされてぼんやりと白く光

          【「真夜中の電話はいつも」(二) 】

          【「真夜中の電話はいつも」(一) 】

          「本当にもう、ダメなのか」  僕の言葉に電話口から聞こえる彼の声は 「ああ」という一言だけだった。  真夜中の電話はいつだって突然で、いつだって心惑わされる。  僕の数少ない友人の内の一人であるAは大学を卒業後、二年程した頃に彼の勤め先のデザイン会社の知人の紹介で知り合ったという二つ年上の女性と結婚をした。  都内のこじんまりとしたレストランを借り切っての披露宴は若い二人には慎ましくとも、とても華やかに見えて、思わず少し涙ぐむ僕にAは真っ白なドレスに身を包んだ彼の伴侶を

          【「真夜中の電話はいつも」(一) 】

          『アヒル口の酒の妖精』〜愛すべき人々(三)〜

           自宅近くの寿司屋のカウンターの隅に座っていたアヒル口の酒の妖精は、随分と久しぶりに出逢ってもやはり、相変わらずに美しい佇まいだった。  挨拶もそこそこに、空けて待ってくれていた右隣の椅子に座った瞬間、店内の男性客たちのまるで、ジロリという音が一斉に聞こえてくるような視線に思わずたじろいでしまった。  むべなるかな、女性客のひとり飲みの姿は美しい。  その立ち居振る舞いで、性格や男の趣味、生い立ちや、腕の中で聞こえる ため息の深さまで、あらぬ幻想をあれこれと抱いてしまうのが男

          『アヒル口の酒の妖精』〜愛すべき人々(三)〜

          『彼女の髪が肩まで伸びたなら(三)』

          「昨日は悪かったな」  携帯電話への友人からのメッセージの着信音で目覚めると、すでに部屋のカーテンからは朝の日差しが入り込んでいた。 「いや、全然。逆に楽しく過ごせたよ」  まだ少し寝ぼけた頭で返信を打ち、ベッドから起き上がった。 「なんだ?なんかうまいことやりやがったな」 「ご想像にお任せします」 「ちぇ~っ、人が仕事で忙しいのによぉ」  メッセージを見ながら、ふっ、ふっと笑い、目覚めのコーヒー用にポットでお湯を沸かしながら、あっという間に通り過ぎた昨晩の出来事を反芻した。

          『彼女の髪が肩まで伸びたなら(三)』