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「平成31年」雑感13 「無差別大量殺人」を忘れ去る国

▼きのうのつづき。

▼『教育激変』のなかで池上彰氏は、いくつかの大学で教えていて体験した、面白い話をしていた。

〈死刑執行後、講義を担当しているいくつかの大学で、オウム真理教について話をしたんですね。「選挙に候補者を立て、負けると自分たちの王国を建設しようとして過激な活動に走っていった」なんてことを言うと、学生たちは唖然(あぜん)、茫然(ぼうぜん)。要するに、なんにも知らないのです。〉

〈愛知学院大学で「死刑になった新実智光は、君たちの先輩で……」と話すと、愕然(がくぜん)となる。東京工業大学で「彼らが組織内に作った『科学技術省』のナンバー2の人物は、この大学で学んだ知識を使って、サリンの生成プラントを造ったのです」と言えば、やはり一様にびっくりするわけです。ほんの24年前の事件なのに、若い世代に何も伝えられることなく、「風化」しようとしています。〉(110頁)

▼日本は、人類の歴史で初めて、化学兵器(=大量破壊兵器)を使ったテロ=無差別大量殺人事件が起きた国なのである。その国の最高学府で、にわかには信じられないような猛烈な風化が進んでいることがわかる。

もしかしたら、ビートたけし氏も、とんねるずの二人も、自分が「麻原彰晃尊師」と共演したことを忘れているかもしれない。

▼オウム真理教は、日本が生み出した存在である。いわば、日本を映す「鏡」のような存在なのである。鏡を見なければ、自分の顔はわからないし、自画像を描くこともできない。

自分を忘れてしまうこともある。

▼殺された坂本弁護士の同僚だった、小島周一氏のコメントが、2018年7月11日付毎日新聞に載っていた。

〈人間はある状況に置かれた時、エリート意識などの病理を肥大化させてしまうことがある。異質な集団による異質な出来事ではないと感じました。

小島氏は13人への死刑執行を望んでいなかった。

〈彼らを許すとか、社会に戻ってもいいということじゃない。特に麻原は自分がしたことを直視し、苦しみ続けてほしかった。

それに、なぜオウムがあれほど広まったのか、彼が語らないと分からないことは多かった。執行は残念です。

彼らを抹殺して終わりではない。なぜモンスターのような集団が生まれたのか。しんどくても、考え続けなければいけないと思います。

▼この小島氏のコメントを否定できる人はいないと思う。日本は、自分を映す鏡の一枚を、自分で割ってしまったのである。

痛恨の極み、という言葉は、こういう時に使うべきだろう。

(2019年4月23日)

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