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映画『レッド・ロケット』をみる。

『いつかの君にもわかること』以来のシネ・リーブル梅田。そういえば当方TCGメンバーズカード会員とあいなりました、遅すぎたくらいですけどね。この先怒涛の話題作ラッシュとあって少しでも予算削減→浮いたお金で予算捻出していきたい構え。果たしてこれは正のスパイラルなのか、それとも。テアトルシネマグループの魅力に取り憑かれ、本日も豪華2本立てです。

ショーン・ベイカーで笑い、ミカエル・アースで存分に泣かせてもらうぜ。対照的な2作ですが、共に「16mm映画」であるという共通項を持っている。当初、加・バンクーバーでの撮影が予定されていたラブストーリー作品はコロナ禍に伴う国境閉鎖により敢えなく頓挫。脚本も大幅修正され、舞台は南部テキサスシティへ移る。感染対策の為、僅か10名の撮影クルーで臨んだ。

『チワワは見ていた〜』(2012)の制作段階から既に、ポルノ俳優の主人公・マイキーのキャラクター像は浮かんでいたそう。演じたサイモン・レックスのみならずストロベリー役スザンナ・サンにもポルノ出演疑惑(?)があり、そんな彼女をアークライトシネマズで偶然見かけキャスティングしてしまうところも含め、酷くスキャンダラスでいかにもショーン・ベイカーらしい。

『バミリオン・プレジャー・ナイト』のマイキーこそ直立不動でしたがこのマイキー、よく喋る。とにかくよく喋ります。夢破れ、17年振りに転がり込んだ我が家で、救いようのないかといって同情できる部分も取り立ててないエピソードトークを展開。旧友とのドライブ中にも大演説。ご都合主義で、薄っぺらい。ただ底抜けにポジティブで、ファンタジックに未来を語る。

石油産業の中心地として名高いテキサス…から程近く。マリファナの密売で日銭を稼いでいたマイキーは、妻と義母を引き連れて向かったドーナツ屋で運命的な出会いを果たす。17歳。赤毛。低身長。そばかす。黄色いワンピースはララランド風刺か。出演本数2000本、ポルノ業界のオスカーであるAVNアワードに5度ノミネートされた迷優はどんどん彼女の魅力に溺れていく。

恋の相手ストロベリーもまたストロベリーでして…アンタ何言ってんのいい加減目を覚ましなさいとばかりに平手打ち一発食らわすぐらいの、10代とは思えぬ逞しさを見せて欲しいところでしたがまあそんなはずもなく。いや、正確には「違った意味の逞しさ」を彼女は持っていた。鬱屈とした毎日から抜け出せるなら''たとえマイキーを利用してでも自分の夢を実現する''。

傍目にも、まともなお付き合いをしているとは言い難い。それなのに2人がくっ付いて一向に離れる気配がないのは、似た者同士だから。究極的な部分でわかり合えてしまったから。130分の映画を観終わった結果マイキーは何ら人間的に成長しておらず、むしろ強烈なパートナーを携えてもう一度ポルノの世界へ堂々のカムバック。マジか、とほくそ笑んでしまう衝撃のラスト。

登場キャラクター、全員マリファナやってんスけど…超低予算映画の革命児は過去作同様、地元テキサス在住の演技未経験者を起用しています。統計によるとポルノ出演者の生まれに多いのはオハイオ、フロリダ、テキサスで、前作はフロリダで撮ったから今回はテキサスにした。だそうです。A24だからこそ配給できる映画ですし、ショーンだからこそ許されるトンデモ発想。

全員悪人、故に全員善人なのだという脅威の人間讃歌っぷりで謎の抜け感と幸福感を生み出す130分。16mmならではのザラザラとした質感とマイキーの時間軸を体現したかのようなスローシネマを味わえるだけでなく、主な移動手段が自転車or徒歩であるという驚愕の事実はさながらグランド・セフト・オートシリーズの世界に迷い込んだような錯覚を生み出す。とにかく圧巻。

『フロリダ・プロジェクト〜』(2017)では、サブプライム住宅ローン問題に揺れるアメリカ社会が描かれた。今作の舞台は2016年に設定され、劇中には大統領選挙やヒラリーの私的メール問題のニュース映像が登場する。今年クランクインしたばかりの新作は一転、富裕層の分断と衝突がテーマになっているとのことですから、こちらも公開を楽しみに待ちたいところですね。

(次回へ続く!!)

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