マガジンのカバー画像

【SF短編集】沙月草子

7
自作の短編SF小説を集めました。 ショートショートやホラーも混じってます。 お気軽にお楽しみください。 😌
運営しているクリエイター

記事一覧

【SF短編小説】硝子の塔と世界の秘密

【SF短編小説】硝子の塔と世界の秘密

 僕の学校は硝子の塔だ。

 敵の攻撃を避けるため、特殊な硬質偏光ガラスでその姿を隠している。
 海辺に広がる僕の街では、ほとんどの建物が同様だった。

 戦争はもう何年も続いている。
 
 空襲は高性能の高射砲で防ぎ、艦砲射撃に対しては街自体の姿を隠して避けていた。

 だが、暮らしは普通に出来ている。
 全て国防軍のおかげだと先生は言った。
 クラスメートはみんな、その国防軍に入ることを夢見て

もっとみる
 【SFショートショート】シン・スペースインベーダー

【SFショートショート】シン・スペースインベーダー

 宇宙からの来訪は突然だった。
 世界中の都市の上空に巨大な宇宙船が現れ、人類はパニックに陥った。
 安定した生活を享受していた人々も、紛争地で明日をも知れぬ戦いに身を投じていた人々も、誰もが他の全てを忘れて空を見上げ、次の瞬間何が起こるのか固唾を飲んで待ち受けた。
 間も無く宇宙船の主たちは姿を現した。
 船を着陸させることなく、世界のあちこちに忽然と現れたのだ。その姿は、誰が想像したものとも違

もっとみる
【短編SF小説】Do AI know it’s Christmas

【短編SF小説】Do AI know it’s Christmas

 クリスマスイブの夜…

 少年の部屋にサンタクロースが現れた。
「メリークリスマス」
 サンタは静かに挨拶した。
「いいよ、そんなこと言わなくて」
 少年はベッドから半身を起こすと、闇の中でぼうっと暖色系の光を放つサンタの姿を見上げながら言った。
「あんたは、本当のサンタじゃないんだから」
「その通りだ。君は賢い子だね」
「別に…そんなの子供でもみんな知ってることさ」
 少年はどっと枕の上に頭を

もっとみる
【短編ホラー小説】キシャガキ

【短編ホラー小説】キシャガキ

 それはいつもの月曜日。
 いつもの憂鬱な気持ちで、私は新宿行きの通勤急行に乗り込んだ。本当は先頭の女性専用車両に乗りたいのだが、いつもギリギリで真ん中の車両に飛び込んでいる。
 午前7時6分のK王線通勤急行は、この郊外にあるN山駅からすでにすし詰め状態だ。人の動きに逆らわず、なんとか車内に体を押し込んで、私は反対側のドア近くに立った。
 ここから都内のオフィスに通い始めてもう4年。
 月曜日の朝

もっとみる
【短編SF小説】星竜王の河

【短編SF小説】星竜王の河

 千年戦争は突然再開した。

 銀河帝国の北東星域に位置する惑星〈星竜王〉。
 それを巡る二つの衛星、〈緑竜玉〉と〈紫竜玉〉は、太古の昔から有角族ギム・ガンの植民星であった。この二つの星が戦争状態に陥ってから、ちょうど一千年が経とうとしていた。
 発端は些細な貿易問題だったが、〈紫竜玉〉の都市で〈緑竜玉〉側の市民が暴行を受けたことから衝突に発展。〈緑竜玉〉軍の英雄的軍人ヴォントロウの救出作戦によっ

もっとみる
【短編SF小説】ニュー・シネマ・インフェルノ

【短編SF小説】ニュー・シネマ・インフェルノ

 多分僕は、映画をあまり愛していないのだと思う。
 学校では映画研究部に所属し、月に二、三本は必ずロードショーを観ていた。いや、そもそもそのペース自体、あまり熱心な映画ファンとは言えないだろう。部員仲間には、週に一本どころか、毎日のように映画館に通いつめる者もいた。一体、どこからそんな金を捻出していたのやら…
 そう、例え食うものを食わずとも、映画を観るための金は捻り出す。
 それが真のシネフィル

もっとみる
 【短編SF小説】ナオミの鳩

【短編SF小説】ナオミの鳩

 ついに勝利の日は来た。
 全ての人類が待ち望み、想像を絶する努力と犠牲の末に、勝ち取った勝利だった。
 何に対しての?と、問われればそれは人類自身に対する勝利としか言いようがない。その敵は、まさに人類の性である恐怖と猜疑、そして欺瞞が産んだものに他ならなかったからだ。
 核兵器。
 その、最後のひとつである弾頭が今日廃棄された。
 あまりにも永い戦いの末の、あまりにも遅い勝利ではあったが、それで

もっとみる