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【短編小説】ターナーズ・リバティ(環礁2)
誰にも生涯忘れられない夏がある。そんなテーマの小説とか映画って、けっこうあるよな。例えば。ジョディ・フォスターの「君がいた夏」みたいな。
宿泊客を見送りながら、ジンはぼんやりと考えた。
「八丈島で潜った夏が忘れられない」
客の一人が、昨晩の夕食時にビールを片手に、いかにその夏が思い出深いかを語っていた。彼は、真夏の八丈島でのダイビングをきっかけに妻と出会い、結婚したということだった。
【短編小説】グウィネヴィア
厚い霧が湖面に立籠めていた。霧がすべての物音を吸い込んでいるかのように、静寂だけが広がっていた。微かに、櫂をとる水音だけが聞こえる。霧の奥深くから、小舟が岸辺に近づいているようだった。
汀には棺が一つ置かれていた。女が一人、寄り添うように立っていた。
静寂を乱して、馬蹄の音が響いた。一頭の馬が駆けてきた。締まった体躯に輝くような濃い茶色の鬣が靡いている。騎士が一人、跨っていた。革製の簡素な鎧