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トンガリH

初恋は『不思議の海のナディア』の(cv堀内賢雄)失恋は最終話。
 
学生時代、私は放送部に所属していた。所属理由は昼休みの校内放送で好きな音楽を流せるから。ディスクジョッキーへの憧れも少しあった。軽薄な性格で悦に入ると甲高い声で喋る事から部活内のあだ名は『トンガリ』ブタゴリラの横の人である。
 
『ブタゴリラ』担当高橋の初恋も(cv堀内賢雄)フルハウスのおいたんで、その声を抽出し収録したCDと毎夜眠りを共にする筋金女子だった。当然この事実はキテレツコンビ内々の秘密である。
 
初夏の学校で『堀内賢雄流出事件』が起きた。うら若き部員の手違いで、氏の色気溢るる声が2分間、昼休みの校内放送で流されたのである。自室を持たない高橋にとっては部室管理が一番安全と考えたのだろう…それが裏目に出た。
 
放課後、犯人探しの時間だ。
放送部は皆部室に集められた。顧問が声をあげる「この堀内賢雄は誰の?!」誰も手をあげない。当然だ、高橋にとってそれは本気の恋なのだ。不特定多数に知られていい事じゃない。茹だる暑さに蒸れた部屋。知らずに放送してしまった一年生はすすり泣いている。地獄絵図だった。
 
先輩がチラチラ私を見てるのに気付いた。先輩の疑いの眼差しは「白状しろよ」と物語っている。困った。ちらと高橋を見やると、彼女も先輩と同じように私をチラチラ見ていた。このブタゴリラ…。

 「先生、問題はCDの持ち主が誰かではなく、私達の音源管理や情報の伝達に不備があった、ということだと思います。大事なのは今後どう改善して行くかじゃないですか」
私は理路整然と発言した。先生は何かを察したように押し黙り、溜息と共に口を開いた。
「その通りですね、大事なのはこれからです。でも一つ言っておきますが、部室はあなたたちの私物じゃありません。学校からの借りものです。そこを間違えないようにね、トンガリさん」
 
と言って私に賢雄CDを渡した。その日から私のあだ名は『トンガリH(フルハウス)』になった。高橋は後日私に一枚のCDを渡した。堀内賢雄ボイスの謝罪選集である。ゆるさん。

次話

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