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シン・声幽ネットワーク論:ll ■親と子の鎮魂の物語-庵野秀明,安野モヨコ,宇多田ヒカル-さようなら、すべてのエヴァンゲリオン批評
光が世に来たのに、人々はその行いが悪いので、光よりも闇の方を好んだ。それが、もう裁きになっている。悪を行う者は皆、光を憎み、その行いが明るみに出されるのを恐れて、光の方に来ないからである。しかし、真理を行う者は光の方に来る。その行いが神に導かれてなされたということが、明らかになるために。(ヨハネの福音書)
シン・エヴァンゲリオンについての感想は主にふたつだ。天国だったと賞賛するもの。あるいは、そ
【読書感想】森見登美彦『シャーロック・ホームズの凱旋』-ふしぎを取り戻すための物語
いくつか森見登美彦作品を読んできたが,ここまで作品や創作についてのメタ物語ははじめて読んだ.色々インタビュー等も読んでいると,実際に作者である森見登美彦自身のスランプを,ホームズに投射しているようだ.
まず,この作品は【ヴィクトリア朝京都】というパワーワードが出てきた時点で誰しもがやられてしまう.普通にありえないのだが,なぜか不思議と想像してしまえるのは,ヴィクトリア朝と京都のイメージのデータベ
【読書感想】みんなが少しづつ「魔女」を殺した-フェルナンダ・メルチョール『ハリケーンの季節』
読書会で『ハリケーンの季節』を読んだ.結構個人的には好きな作品だった.以下感想.
とある村で<魔女>が死んだ.
なぜその魔女が死んだのか.5人の視点から語られる断片的な事実から徐々にその輪郭が浮かびあがってくるという手法は,ミステリのようでもあり,自分自身が警察官やジャーナリストで聞き取りをしているかのようだ.
はじめに目を引くのは文体だ.この小説にはほとんど段落というものがない.
読書会
誠実さと丁寧さについて-暇空茜&町山智浩対談の感想
暇空氏と町山氏の対談を見た。
誠実さとは何か4時間以上に渡る動画の内容はここでは詳しくは語らない。だが、話を聞きながら考えていたことを書いてみようと思う。
最近、ローカルな批評界隈で誠実というキーワードが流行ってる。誠実さは大事だ。とはいえ、誠実さとなんなのだろう。辞書にはこうある。
私は対談の間ずっとこの誠実さについて考えていた。
暇空氏と町山氏の対談は、非常に対照的だった。攻撃的な暇空
村上春樹の『街とその不確かな壁』は、「シンエヴァ」である-「ぼく」と「私」をめぐる冒険
※加筆修正 2023/06/07
今回、村上春樹の新作である『街とその不確かな壁』を読んで、友人の読書会に参加したときに話した陰謀論とそのあと考えたことを書いておく。
読書会の中で私は、この小説は、庵野秀明の「シンエヴァ」と構造的に似ていると語った。どういうことか。
大きく二つの点でそう言える。
まず一つに、運命的な「きみ」のことが忘れられない中年男性が、自閉症的な子どもによって、救われる
[小説]失われたデコトラを求めて
高速道路を車で走っていると、いまでも時々、デコトラに出くわすことがある。アンドンがたくさんついてるその姿を見ると、私は子ども時代に出会ったあるおっちゃんのことをいつも思い出す。
私がそのおっちゃんに出会ったのは、小学校5年の春休みだった。
その頃の私たちの遊び場といえば、近所の神社にある公園だった。そこには、ちょうど石の柱が二つゴールポストのように立っていて、そこをゴールに見立ててサッカーをす
東浩紀『クォンタム・ファミリーズ』読解-郵便、電話、不気味なもの
こんなツイートが流れてきたので、前に書いていた『クォンタム・ファミリーズ』論を書き直してみた。
これは、先日書き直した、「萌えは愛の上位概念とは何か?」と関連しているので、面白ければそちらも読んで欲しい。
アクロバティックな「私小説」『クォンタム・ファミリーズ』は、東浩紀によるSF小説である。小説としては、その前にも桜坂洋との合作の『キャラクターズ』があるが、その初の単著で彼は三島由紀夫賞を受
萌えは愛の上位概念(©︎東浩紀)とはなにか-あるいは確定記述と固有名と愛の関係④
カントのモノ自体からデータベース消費を考える③では、萌えと推しの違いを考えながら、最終的には、モエ自体という概念を生み出した。
このモエ自体は、前述したように、モノ自体から由来するので、そろそろカント大先生を召喚しなくてはいけないが、どうやら私のMPでは難しいようだ。だから少し別の人を召喚して手助けをしてもらうことにする。
それが、現代思想界のギルガメッシュこと千葉雅也である。
千葉雅也は、
萌えは愛の上位概念(©︎東浩紀)とはなにか-あるいは確定記述と固有名と愛の関係①
萌えは愛の上位概念という謎詳しい初出は私もわからないが、思想家の東浩紀は10年以上前に「萌えは愛の上位概念」という謎めいたワードを語っていた。
わたしは、自分が発起人でもある東浩紀同人誌『はじめてのあずまん』の本人インタビューの中で語られた時に知ったこのワードを10年以上考え続けている偏執的な読者である。少なくとも、このワードについては、世界の誰よりも深く考えてきたと自負をしている変人である。
【感想】すずめの戸締まり-Google的想像力からガジェット的想像力へ
昨日、すずめの戸締まり見てきたので、とりあえずの感想を書く。
点数で言えば、70点。良くも悪くも、新海誠の細部への無頓着さが目立った作品だったと思う。個人的には前作の『天気の子』の方が評価は高い。
まず、メインテーマとして、震災の問題を直接扱うことに関しては賛否両論あるが、私としては良かったと思う。『君の名は』で、隕石の衝突を描き、『天気の子』で、東京を海に沈めた新海誠が次に描くとすれば、この