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医者。ときどき映画監督とか、落語とか。キーワード:対話、共感、コミュニティ。あと、学び…

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医者。ときどき映画監督とか、落語とか。キーワード:対話、共感、コミュニティ。あと、学び、アート、銭湯、つながり。単純に人が好き。でも、恥ずかしがり屋です。

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  • そんそんの教養文庫(今日の一冊)

    一日一冊、そんそん文庫から書籍をとりあげ、その中の印象的な言葉を紹介します。哲学、社会学、文学、物理学、美学・詩学、さまざまなジャンルの本をとりあげます。

記事一覧

「ウェルビーイング」を主体に考えるフィンランドの教育

2019年刊行の『フィンランドの教育はなぜ世界一なのか』からの引用。著者の岩竹美加子氏は、1955(昭和30)年、東京都生まれ。早稲田大学客員准教授、ヘルシンキ大学教授を…

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1日前
14

批評とは「表層」の体験である——蓮實重彦『表層批評宣言』を読む

蓮實重彥(はすみ しげひこ、1936 - )は、日本の文芸評論家・映画評論家・フランス文学者・小説家。専門はフローベール研究だが、ロラン・バルトやミシェル・フーコー、ジ…

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2日前
7

われ苦しむ、ゆえにわれ在り——ベケット『ゴドーを待ちながら』を読む

サミュエル・ベケット(Samuel Beckett, 1906 - 1989)は、アイルランド出身の劇作家、小説家、詩人。不条理演劇を代表する作家の一人であり、小説においても20世紀の重要…

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3日前
9

精神は自己に不安として関係する——キルケゴールの『不安の概念』を読む

セーレン・キルケゴール(Søren Aabye Kierkegaard、1813 - 1855)は、デンマークの哲学者、思想家。今日では一般に実存主義の創始者、ないしはその先駆けと評価されてい…

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4日前
13

愛しながらの争い——ヤスパースの「交わり」の哲学

カール・ヤスパース(Karl Theodor Jaspers、1883 - 1969)は、ドイツの哲学者、精神科医であり、実存主義哲学の代表的論者の一人である。現代思想(特に大陸哲学)、現代…

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5日前
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カントはなぜかくも難しいのか——中島義道氏の『カントの読み方』より

イマヌエル・カント(Immanuel Kant、1724 - 1804)は、プロイセン王国の哲学者であり、ケーニヒスベルク大学の哲学教授である。『純粋理性批判』、『実践理性批判』、『判…

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6日前
16

この意識は私に固有のものか?——廣松渉の「世界は共同主観的に存在する」論について

廣松 渉(ひろまつ わたる、1933 - 1994)は、日本の哲学者。東京大学名誉教授。廣松の思想はマルクス主義の立場に立脚し近代の構図から離れ新たな思想を組み立てようとす…

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7日前
16

社交とは「演じる」という形式の相互行為である——ジンメルの相互行為論より

社会学者の大澤真幸さんの本『社会学史』より、社会学者のゲオルク・ジンメル(Georg Simmel, 1858 - 1918)についての解説を抜粋。ジンメルは、デュルケームやヴェーバー…

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8日前
15

アイデンティティが人間の出発点ではない——M・ガブリエルの新実存主義と他者論

マルクス・ガブリエル(Markus Gabriel, 1980 - )はドイツの哲学者。史上最年少の29歳で、200年以上の伝統を誇るボン大学の正教授に就任。西洋哲学の伝統に根ざしつつ、「…

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9日前
13

ブルシット・ジョブを支える「経営管理主義イデオロギー」——グレーバーの提唱したBSJ理論

「ブルシット・ジョブ——クソどうでもいい仕事の理論(Bullshit Jobs:A Theory)」は、アメリカの人類学者デヴィッド・グレーバーによる2018年の著書で、無意味な仕事の…

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10日前
14

拒絶において受容する——外来の普遍思想に対する日本の「拒絶的受容」

社会学者の橋爪大三郎さんと社会学者の大澤真幸さんの対談による『げんきな日本論』。なぜ日本には天皇がいるのか、なぜ日本人は仏教を受け入れたのか、なぜ日本には院政が…

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11日前
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自由の本質とは「状態」ではなく「感度」である——アーレントによる自由の定義

本書『「自由」の危機 ――息苦しさの正体』は、2020年9月の政府による日本学術会議会員の任命拒否問題に端を発して組まれた特集である。筆者には、姜尚中、佐藤学、上野千…

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12日前
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怨みに報いるに怨みをもってすることをやめる——『ダンマパダ(法句経)』より

最古の仏典の一つである「ダンマパダ(Dhammapada)」からの一節である。「ダンマパダ」とは、パーリ語で「真理・法(ダンマ)」の「言葉(パダ)」という意味である。監訳…

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13日前
14

「死んだらどうなるのか?」を哲学的に考える——ヒュームの懐疑主義

現代思想の特集「ビッグ・クエスチョン——大いなる探究の現在地」より、哲学者の山内志朗氏の「人は死んだらどうなるのか?」という論考よりの引用である。 古来より「人…

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2週間前
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神話が語る「死の起源」——バナナ型と脱皮型の死の起源神話

南山大学人文学部教授・同大学人類学研究所所長の後藤明氏による「世界神話学」の入門書である。「世界神話学(world mythology)」とは、ハーバード大学のマイケル・ヴィ…

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2週間前
13

哲学者と「死」——ハイデガーとレヴィナスの違い

著者のサイモン・クリッチリー氏は、1960年生まれのイギリスの哲学者である。専門は現象学、大陸哲学、フランス現代思想。本書『哲学者190人の死に方(The Book of Dead Ph…

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2週間前
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「ウェルビーイング」を主体に考えるフィンランドの教育

「ウェルビーイング」を主体に考えるフィンランドの教育

2019年刊行の『フィンランドの教育はなぜ世界一なのか』からの引用。著者の岩竹美加子氏は、1955(昭和30)年、東京都生まれ。早稲田大学客員准教授、ヘルシンキ大学教授を経て2019年6月現在、同大学非常勤教授(Dosentti)。ペンシルベニア大学大学院民俗学部博士課程修了。著書に『PTAという国家装置』、編訳書に『民俗学の政治性』等。

人口約550万人、小国ながらもPISA(一五歳児童の学習

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批評とは「表層」の体験である——蓮實重彦『表層批評宣言』を読む

批評とは「表層」の体験である——蓮實重彦『表層批評宣言』を読む

蓮實重彥(はすみ しげひこ、1936 - )は、日本の文芸評論家・映画評論家・フランス文学者・小説家。専門はフローベール研究だが、ロラン・バルトやミシェル・フーコー、ジル・ドゥルーズなどフランス現代思想が1970年代から日本へ紹介されるさいに中心的役割を果たす一人となったほか、近現代文学・映画評論の分野でも数多くの批評を手がけている。1980年代以降は各国の映画製作者とも幅広く交流し、小津安二郎な

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われ苦しむ、ゆえにわれ在り——ベケット『ゴドーを待ちながら』を読む

われ苦しむ、ゆえにわれ在り——ベケット『ゴドーを待ちながら』を読む

サミュエル・ベケット(Samuel Beckett, 1906 - 1989)は、アイルランド出身の劇作家、小説家、詩人。不条理演劇を代表する作家の一人であり、小説においても20世紀の重要作家の一人とされる。1945年以降おもにフランス語で執筆した。ウジェーヌ・イヨネスコと同様に、20世紀フランスを代表する劇作家としても知られている。1969年にノーベル文学賞を受賞。

1952年、現代演劇に多大

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精神は自己に不安として関係する——キルケゴールの『不安の概念』を読む

精神は自己に不安として関係する——キルケゴールの『不安の概念』を読む

セーレン・キルケゴール(Søren Aabye Kierkegaard、1813 - 1855)は、デンマークの哲学者、思想家。今日では一般に実存主義の創始者、ないしはその先駆けと評価されている。キルケゴールは当時とても影響力が強かったヘーゲル学派の哲学、また(彼から見て)内容を伴わず形式ばかりにこだわる当時のデンマーク教会に対する痛烈な批判者であった。キルケゴールの哲学がそれまでの哲学者が求めて

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愛しながらの争い——ヤスパースの「交わり」の哲学

愛しながらの争い——ヤスパースの「交わり」の哲学

カール・ヤスパース(Karl Theodor Jaspers、1883 - 1969)は、ドイツの哲学者、精神科医であり、実存主義哲学の代表的論者の一人である。現代思想(特に大陸哲学)、現代神学、精神医学に強い影響を与えた。『精神病理学総論』(1913年)、『哲学』(1932年)などの著書が有名。ヤスパースは、その生涯の時期ともあい合わさって、3つの顔を持っている。精神病理学者として、哲学者(神学

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カントはなぜかくも難しいのか——中島義道氏の『カントの読み方』より

カントはなぜかくも難しいのか——中島義道氏の『カントの読み方』より

イマヌエル・カント(Immanuel Kant、1724 - 1804)は、プロイセン王国の哲学者であり、ケーニヒスベルク大学の哲学教授である。『純粋理性批判』、『実践理性批判』、『判断力批判』の三批判書を発表し、批判哲学を提唱して、認識論における、いわゆる「コペルニクス的転回」をもたらした。

カントは難解として知られる。それはカントの原書を読んだ人なら誰もが知っている。まさに「ちんぷんかんぷん

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この意識は私に固有のものか?——廣松渉の「世界は共同主観的に存在する」論について

この意識は私に固有のものか?——廣松渉の「世界は共同主観的に存在する」論について

廣松 渉(ひろまつ わたる、1933 - 1994)は、日本の哲学者。東京大学名誉教授。廣松の思想はマルクス主義の立場に立脚し近代の構図から離れ新たな思想を組み立てようとするところに特徴がある。廣松の主要概念は、①マルクス主義の疎外論から物象化論への展開、②世界の共同主観的存在構造、③近代の超克論などである。本書『世界の共同主観的存在構造』は、1972年に刊行された本格的な哲学論文である。

この

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社交とは「演じる」という形式の相互行為である——ジンメルの相互行為論より

社交とは「演じる」という形式の相互行為である——ジンメルの相互行為論より

社会学者の大澤真幸さんの本『社会学史』より、社会学者のゲオルク・ジンメル(Georg Simmel, 1858 - 1918)についての解説を抜粋。ジンメルは、デュルケームやヴェーバーに比べると「こういうことを言いました」という要点を取り出しにくい社会学者である。しかし、デュルケームと同様に、やはり「社会」を見出したのがジンメルであり、ジンメルの社会学のキーワードを取り出すならば「社会圏」や「相互

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アイデンティティが人間の出発点ではない——M・ガブリエルの新実存主義と他者論

アイデンティティが人間の出発点ではない——M・ガブリエルの新実存主義と他者論

マルクス・ガブリエル(Markus Gabriel, 1980 - )はドイツの哲学者。史上最年少の29歳で、200年以上の伝統を誇るボン大学の正教授に就任。西洋哲学の伝統に根ざしつつ、「新しい実在論」を提唱して世界的に注目される。著書『なぜ世界は存在しないのか』(講談社選書メチエ)は世界中でベストセラーとなった。さらに「新実存主義」「新しい啓蒙」と次々に新たな概念を語る。NHK Eテレ『欲望の時

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ブルシット・ジョブを支える「経営管理主義イデオロギー」——グレーバーの提唱したBSJ理論

ブルシット・ジョブを支える「経営管理主義イデオロギー」——グレーバーの提唱したBSJ理論

「ブルシット・ジョブ——クソどうでもいい仕事の理論(Bullshit Jobs:A Theory)」は、アメリカの人類学者デヴィッド・グレーバーによる2018年の著書で、無意味な仕事の存在と、その社会的有害性を分析している。彼は、社会的仕事の半分以上は無意味であり、仕事を自尊心と関連付ける労働倫理と一体となったときに心理的に破壊的になると主張している。「ブルシット(Bullshit)」は、原義は「

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拒絶において受容する——外来の普遍思想に対する日本の「拒絶的受容」

拒絶において受容する——外来の普遍思想に対する日本の「拒絶的受容」

社会学者の橋爪大三郎さんと社会学者の大澤真幸さんの対談による『げんきな日本論』。なぜ日本には天皇がいるのか、なぜ日本人は仏教を受け入れたのか、なぜ日本には院政が生まれたのか、なぜ秀吉は朝鮮に攻め込んだのかなど、日本史におけるさまざまな疑問を、社会学の方法で、日本の「いま」と関連させる仕方で掘り下げた本である。

引用したのは「なぜ日本人は仏教を受け入れたのか」というところから。仏教は単なる思想や宗

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自由の本質とは「状態」ではなく「感度」である——アーレントによる自由の定義

自由の本質とは「状態」ではなく「感度」である——アーレントによる自由の定義

本書『「自由」の危機 ――息苦しさの正体』は、2020年9月の政府による日本学術会議会員の任命拒否問題に端を発して組まれた特集である。筆者には、姜尚中、佐藤学、上野千鶴子、小熊英二、高橋哲哉、苫野一徳、内田樹などが名前を連ねる。「学問の自由」、ひいては私たちの生活における「自由」を守るために、さまざまな文筆家やジャーナリストが筆をとっている。

引用したのは哲学者・教育学者の苫野一徳氏の文章である

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怨みに報いるに怨みをもってすることをやめる——『ダンマパダ(法句経)』より

怨みに報いるに怨みをもってすることをやめる——『ダンマパダ(法句経)』より

最古の仏典の一つである「ダンマパダ(Dhammapada)」からの一節である。「ダンマパダ」とは、パーリ語で「真理・法(ダンマ)」の「言葉(パダ)」という意味である。監訳では「法句経」と言われる。パーリ語仏典の中では最もポピュラーな経典の一つである。「スッタニパータ」とならび現存経典のうち最古の経典といわれている。かなり古いテクストであるが、釈迦の時代からはかなり隔たった後代に編纂されたものと考え

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「死んだらどうなるのか?」を哲学的に考える——ヒュームの懐疑主義

「死んだらどうなるのか?」を哲学的に考える——ヒュームの懐疑主義

現代思想の特集「ビッグ・クエスチョン——大いなる探究の現在地」より、哲学者の山内志朗氏の「人は死んだらどうなるのか?」という論考よりの引用である。

古来より「人は死んだらどうなるのか?」は宗教とともに哲学における難問の一つとして論じられてきた。プラトン『パイドン』、フィチーノ『プラトン哲学——魂の不死』、ポンポナッツィ『魂不死論』、ヒューム『魂の不死』など、多数の哲学者がこの問題を扱っている。

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神話が語る「死の起源」——バナナ型と脱皮型の死の起源神話

神話が語る「死の起源」——バナナ型と脱皮型の死の起源神話

南山大学人文学部教授・同大学人類学研究所所長の後藤明氏による「世界神話学」の入門書である。「世界神話学(world mythology)」とは、ハーバード大学のマイケル・ヴィツェルの著書『世界神話の起源』による。ヴィツェルが近年唱えている世界神話学説は、古層ゴンドワナ型神話と新層ローラシア型神話と、世界の神話が大きく二つのグループに分けられるという仮説である。この神話学説は、遺伝学・言語学あるいは

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哲学者と「死」——ハイデガーとレヴィナスの違い

哲学者と「死」——ハイデガーとレヴィナスの違い

著者のサイモン・クリッチリー氏は、1960年生まれのイギリスの哲学者である。専門は現象学、大陸哲学、フランス現代思想。本書『哲学者190人の死に方(The Book of Dead Philosphers)』は古代から現代までの190人の哲学者について、死をどう捉えていてか、どのように最期を迎えたかについて、それぞれの哲学者の思想とともに紹介しているものである。しかし、ただ単に哲学者の死に方を面白

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